ここだけマコト議長の神秘が仕事し過ぎている世界線   作:サルミアッキ

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 ……仕事し過ぎでは?


マコト議長の神秘の仕事内容

 小鳥遊ホシノは、真っ暗な部屋の中で蹲っていた。

 

(—————ユメ先輩。ごめんなさい。私は、ダメな後輩です。だってこうして……自分を犠牲にしていい理由を、生きなくていい理由を探していたんです。生きると言う罰を、更に尊い贖いで上書きすることに固執していたんです。大切な後輩を護るために自分の身を犠牲にすれば、自分を赦せるんじゃないかと、ずっと期待していたんです)

 

 その胸に渦巻いているのは、自罰の為の生きねばならない理由と自死を願う破滅願望。それを両立できる機会と、追い詰められた学校の末路を見せられてしまったホシノは、何も知らずにその餌へと飛びついた。いいや、心のどこかでは分かっていたのかもしれない。こうなることを……。

 

(……でも、赦せなかった。赦せるわけがない……。自分の命なんて、何の価値も無いって知っているから。あの頃の傷つけてしまった友達にも、怒り任せに暴力を振るってしまった先輩にも、合わせる顔が無くて、取り戻せないあの頃が辛くて、本当に眩しかったことがかえって哀しくて……)

 

 涙さえ枯れ果てた虹彩異色の瞳には、何も映っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 小鳥遊ホシノの身柄がカイザー、……いや、『カイザーの協力者』の手に渡ったか。

 

「アビドスの本格的な侵攻が始まったようだな……」

「あー……マコト先輩、ティーガーⅠ号(虎丸)の整備をしておいた方が良かったりします?」

「そうだな。だが……」

 

 戦力としては十分かと思うが、念には念を入れよ、だ。

 

「その前に一つ聞きたい。イロハ、『ロボット物のゲーム』はするか?」

「は?……まぁ、巨大ロボユニットでマスを移動させるヤツはやりますけど…」

 

 あー、スパロボのパチモンか……。もう朧気だが、かつての私はガンダム00とコードギアスが好きだったなぁ……。あとは、アーマードコア。

 

「ほう、それは良いな。—————、なら来い。お前に渡したいものがある」

「なら、ってどういう文脈なんですかね……」

 

 懐から取り出した『USB型のトランスポンダーキー』を指先でクルクル回し、イロハと共に倉庫へ移動する。

 

「ところでサツキたちにも定期的に聞いているのだが、イロハは初めてだったか。()()調()()はどうだ?」

「あー…あれでしたっけ。『()()()()()()()()』がどうとか……。はい、大丈夫ですよ。寧ろ、調子が良いくらいです……何か危ないものでも混ぜました?」

「私がそんなことをする人間に見えるか?」

「……まぁ、はい。ちょっと倫理観狂ってますよね」

「————む」

 

 それを言われると弱いな。実際、やっていることはナチ…いや、その系譜のショッカー紛いなことだし……。

 

「……ただ、それ以上に議長の命令には従っておくに越したことはありませんから」

「————それは信用、ということで良いのか?世辞でもうれしいことを言ってくれるな」

「……面倒でない方を選んだだけです。反抗しても疲れるだけでメリットありませんし」

 

 ……やはり、こいつらを万魔殿議員に選んで正解だったな。色んな意味で。ならその忠義に報いてやらねば、為政者としての面目が立たん。

 

「……開けろ」

「はっ」

 

 ゲヘナ学園の一角、万魔殿が所持する建築物。警備を担当する万魔殿所属生徒たちに指示して、扉の電子ロックとアナログな錠前を共に解除する。

 

「ブラックマーケットから取り寄せた掘り出し物でな。ゲヘナ戦車部隊に組み込めるなら使ってくれ」

「一体何をです?」

()()だ」

「—————。…なるほど、さっきのゲームの話題はそういう…」

 

 私から鍵を受け取ったイロハは眼前にあるタラップの手すりを掴み階段を上る。()()の内部をしげしげと眺め、そのコックピットに身体を滑り入れる。

 

「はぁ……()()系は過去一度使ったことはありますが、期待はしないでくださいね。きっとこの型式のものでは、スペックが足りないハズですので」

「キヒッ、心配事はそこか。安心しろ、外見だけだ。中身はとんでもないじゃじゃ馬らしいぞ」

「あー…そうですか。ま、とりあえず少し動かしてみます」

 

 ふ、これはイロハに任せれば大丈夫だろう。さて次は、S.C.H.A.L.Eとの繋がりを持った風紀委員会と、今アビドスにいる便利屋だな……。あと一押しとして、カイザー失脚を支持してもおかしくないヴィッテンベルク総合学習塾も動かすとしようか。

 

 

 

 

 

 

 未だ依頼の関係上アビドス学区に留まっているゲヘナ生……陸八魔アルはため息をつきながら、羽沼マコトから受け取ったなけなしの金で柴関ラーメンを啜っていた。

 

「はぁ……アビドス高等学校襲撃は失敗するし、風紀委員会とは戦闘になるし、最近散々じゃない……」

「くふふ♪トラブル続きで困っちゃうね、アルちゃん?」

「本当よ!全く…!」

 

 ムツキの言葉に渋面になるアル。さもありなん、風紀委員会に事務所を吹き飛ばされ、人のいなくなったマンションやら公園やらを転々とし、野宿をする日々である。お金があっても世知辛い。おまけに使えるかどう(マネーロンダリングがされている)かも分からない覆面水着団の金まで持って歩かなければならないので、気が休まることが無い。

 

「あの、アル様……万魔殿の議長から、通信が入っているようですが……」

「……?マコトからって……、嫌な予感しかしないね……」

「あら、何かしら……」

 

 アビドスとの戦闘時、羽沼マコトから貰ったイヤホンを手に取った時である。

 

「ッ!アルちゃん‼」

「社長‼」

「アル様伏せてくださいッ‼」

 

 三人の声が耳に届く前に、殺気を感じたアルは机をひっくり返し、傍にいた柴大将を抱えて身を屈めていた。

 

「うぉッ?な、なん—————」

 

 

 

 

 —————その後、轟く爆音と業炎。美味しく食べていたラーメンの丼は粉々に砕け、柴関ラーメンの店舗は、木端微塵に吹き飛んだ。

 

 

 

 

「—————な、にが…」

「ぅ、う…。すま、ねぇな嬢ちゃん…。服、汚しちまって…」

「っ。黙って、血を止めないと…!」

 

 瓦礫をどけて、額から血を流す犬の獣人を抱えて、曇天のアビドスの街に這い出す便利屋メンバー。周囲の店も同じように窓ガラスが割れ、既に商店としての様相を呈していない。

 

「うわー…カイザーコーポレーションが大暴れしてるねぇ…」

「だ、大丈夫ですかアル様…!?」

「……。この事態、もしかして、アビドスの廃校が決まったの…?」

 

 煤塗れになりながら互いの安否を確認するムツキたち。だが、陸八魔アルは、その眼を細めて愛銃を手に取っていた。

 目の前には、ロケットランチャーやアサルトライフルを持ったカイザーPMCの兵士達がいたのだから。

 

「ん?……何だ、ゲヘナの生徒か」

「……。そうだけど、それが何?」

「あーそうか、お前たちだな?うちの理事がアビドスを襲撃するよう依頼した……会社ゴッコをしていた生徒共ってのは」

 

 嘲笑うかのような、声だった。こちらを格下だと思い、舐め切っている大人の声だった。

 

「ほら、行った行った。お前たちは知らないようだから教えてやる。このアビドス自治区は今この瞬間からカイザーの所有地になった。ゲヘナ学園の問題になる前に消え失せろ」

 

 ぎり、とワインレッド・アドマイアーを握る手に力が入る。

 

「……なんで。なんであなた達は、柴関の大将さんのお店を吹き飛ばしたの」

「はぁ?そんなこと決まっている。そこの犬っころが我々に許可なく勝手に営業をしているからだ。何度も何度も立ち退きの通告をしたと言うのに」

 

 カヨコやムツキから応急処置の包帯を巻かれた柴大将が、カイザー兵士の発言に噛みついた。

 

「はっ……、金を積まれても、この場所に来てくれるアビドスの子たちがいるからな。店を畳むわけにはいかねえんだよ……」

 

 —————、陸八魔アルはうつむいたまま。目元は髪に隠れて見えず、何を考えているのか分からぬまま刹那の時間が過ぎていく。

 

「……」

「……アルちゃん?」

「……社長、ここは————」

「アル様、その————」

 

 —————ドォンッ‼……、ガチャン。

 

 銃声の音の後に、硬い金属のパーツが道路に倒れる音がした。

 

「……。は、ぇあ?」

 

 ロケットランチャーを持っていた兵士の脳天を、一発の弾丸が貫いていた。いつの間に構えたのだろうか。片手で銃口から煙が流れるライフル銃を持ったアルは、続く二射目を隣の兵士に放とうとする。

 

「な、お前らァ!?こんなことをしてどうなるか分かって……ひぃ!ま、待てぇ‼」

「—————無理ね」

 

 引き金が、引かれた。

 

 

 ………………………。

 

 …………………。

 

 ……………。

 

 ………。

 

 

「お、おいゲヘナの嬢ちゃんたち……」

「ムツキ、カヨコ、ハルカ。行くわよ。それと、これでちゃんと病院に行ってください。またラーメン食べに行きますから」

 

 柴大将に譲渡されたのは、羽沼マコトから分割払いで渡された大金だった。再び傭兵を雇うため確保してあったこれは、少なくとも、保険証が無くとも病院を受診できるぐらいには余裕があった。

 

「あ、おい!嬢ちゃんたち!—————っ、ああ!またラーメンサービスしてやるさ!」

 

 柴大将が見つめる先、便利屋68のメンバーらは、服やスカート、マントのように羽織るコートを翻して歩いて行った。

 

「…………」

 

 曲がり角を曲がり、柴大将から大分距離が離れた時……陸八魔アルは頭を抱えてしゃがみ込む。それはもう、見事に膝から崩れ落ちていた。

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁ……、やっちゃったぁぁぁぁぁっっっ!?ど、どどどどうしましょうコレェ!?」

「はぁ……社長。やっちゃったものは仕方ないでしょ」

「あれ?カヨコちゃんってば、意外と乗り気?まぁ……、私も似たようなものだけどねぇ!」

「つ、つまりカイザーの社員は全員皆殺しってことですよね…、分かりました、アル様、私行ってきます…!」

「あ、あなた達ちょっと落ち着いて……!?ってあ、そういえばマコト先輩から連絡来ているって言ってたわよね!?」

 

 血気盛んな部下たちを宥めつつ、彼女は白目をむきながら通信機のスイッチを押した。—————その応対が、さらに陸八魔アルに混迷を呼ぶことを知らずに。

 

「はい、こちら便利屋68で……は、はい?マコト先輩、え、それ本気で言って……—————、“カイザーを壊滅させる”?」

 

 

 

 

 

 

 さぁ、下準備は着々と完了している。残るは、我がゲヘナ学園内での諸々だな。万魔殿と風紀委員会、今回のアビドスの一件は互いに協力せざるを得ない事態だ。

 両手に、ブラックマーケットで拾った子犬を抱えて万魔殿執務室へと入室した。既にイロハを除く万魔殿議員と、風紀委員会からは空崎ヒナ、天雨アコ、それと招集してはいなかったが銀鏡イオリもいるな。反省文を出すようには言っていたが……。

 

「わぁワンちゃんだ!なでなでしたい!」

「ああ、知り合いにしばらく預かってくれと頼まれてな。触っていいぞ~イブキ」

「へぇー可愛いですね、マコト先輩!写真撮っていいですか?ところでこの子の名前は?」

 

 デジカメを構えてシャッターチャンスを狙うチアキ。ふむ、名前、ねぇ……。聞いていなかったな。だが呼び名が無いと言うのも不便だし……。あ、色々と思いついた。ではこの白い毛に一部茶色が混じっている子は————。

 

「イオリイヌ・アシナメスキー」

「んがっ…⁉」

 

 おや、どうも視界の端で褐色エルフ耳銀髪ツインテが、潰された蛙みたいな変な声出したな。

 

「……すまん間違えた。イオリーヌ・アシナメラレ…だったか?」

「~~~っっ!もう議長とか関係ない!ぶちのめしてやる!」

「イオリ、ステイ」

 

 キヒヒ、さっきまでの出来事は既に調査済みだ。マコト様の情報網を舐めるなよ。あ、足は舐めるなよ銀鏡イオリ。

 

「ちなみにこっちは……、えーっと、アコリーヌ・ヨコチチハミデヤンだ」

「えーっとッて言った!今考えましたね!?ヒナ委員長ッ、ふざけてますッこの狸ッ‼というか、何が『横乳はみ出やん』ですかッ‼これは実益を追求した計算ずくのファッションなんです‼」

「アコ、ステイ————え?その服そうだったの…?」

「え、ヒナ委員長…え?」

 

 ……え?どんな実益が?蒸れ防止とか?……更年期か?それならまあ……。

 

「だがその首輪はどう説明する?常々思っていたがカウベルだろう、それ。どんなファッションセンスしているんだ?せめて犬か牛かはっきりしろ」

「そっちにも下着が半分見えてる生乳ネクタイ議員がいるじゃないですか‼」

「あ、あら?マコトちゃん私に流れ弾来たのだけど?」

「安心しろサツキ、お前の服装は(キヴォトスでは)マシな部類だ」

 

 いや本当に。百鬼夜行とか山海経とか頭おかしいんじゃないかって格好の奴らが……。バニーガール強制のオデュッセイアのカジノもやべーな。

 

「はぁ……。マコト。煽るのやめて」

「面白いからイヤだ♪」

「良い笑顔しないで。そういうところでゲヘナ出すの本当やめて」

 

 フン。煽るのは中々に楽しいが、今のままでは少しも話が進まんな。

 

「—————さて。ふざけるのも大概にして」

 

 万魔殿と風紀委員会が会合するのは本当に必要最低限の時だけだ。私も空崎ヒナも、ここに公私混同は絶対にしない。さて、此度の案件は……。

 

「空崎ヒナ風紀委員長が私に課外活動許可を得るために来た理由は察しが付く。S.C.H.A.L.Eの先生だな。大方、アビドス高等学校の小鳥遊ホシノが『()()()()()』に攫われた—————と言ったところか」

「「……ゲマトリア?」」

「………」

 

 ヒナ以外の風紀委員らの眉間に、聞き慣れない言葉によってシワができた。

 

「……サツキ、チアキ。万魔殿親衛隊の『全て』を動かす準備をしておけ。既にイロハには通達を出している」

「はい、分かりました!」

「かしこまりました。マコトちゃん…いえ、議長」

「「‼」」

「……本気?」

 

 嗚呼、本気だとも。

 

「可笑しなことを聞くな。風紀委員長。私が定めたゲヘナの規則を忘れたか?学区外活動をする場合、万魔殿(我々)の許諾を得た親衛隊の同行を義務付けているのを」

「それが全軍というのが過剰戦力だと言っているのよ……。親衛隊はあなたの秘蔵部隊でしょう?他校の————トリニティ総合学園(正義実現委員会)ミレニアムサイエンススクール(Cleaning&Clearing)から何て言われているか知ってる?」

 

 ————。まぁ、噂程度なら。しかし、数度見せただけだが、やはり裏側の話題は広がりが速い。

 

「編成と連携、戦術や戦略、神秘の濃さと強さ、それらすべてが嚙み合い一つの生き物のように動く群体の嵐。それが羽沼マコト麾下の『破滅招く奈落の蝗軍(アバドン)』—————万魔殿親衛隊。そんな武力を、全部?」

「他校との外交問題に関しては心配するな。私が全て揉み消してやる」

「そうではなくて、カイザーと事を荒立てるつもりなの…?」

「—————キヒッ」

 

 そのことか。そのために前々から準備はしてきたのだ。

 

「我がゲヘナ地区のインフラ整備や経済、行政にカイザーの後ろ盾は既に必要なくてなぁ……」

 

 あのような連中に、これ以上ビタ一文の儲けをやるのは許し難い。ここはゲヘナだ。我々の自由と混沌が眠る地獄の園だ。金も、武器も、人も、全てが我らだけのもの。陳腐でどこにでも蔓延る安っぽい悪意を振るい、罪を犯したカイザー共を十のマーレボルジェに突き落としてやる。

 

「S.C.H.A.L.Eの要望ならば仕方ない。あー、超法規的組織の命令ならば本当に仕方がない。ついでにカイザーを潰せると言うのであれば、吝かでは無いしなァ。キッ、キハハハハァ‼—————兎も角、雷帝の遺産を悪用される芽は叩き潰しておくに越したことは無い」

「……そっちが本命ね」

 

 ま、頭を潰してもまた這い出て来るような連中だ。一時しのぎだろうが、時間ができるのは我々にとってプラスだな。今回はそれで良しとしよう。

 

「アビドス高等学校対策委員会救出作戦の決行まで時間は限られている。そら、お前たちも何を大人しくここにいる?今この部屋にいて良いのは校則違反者だけだぞ?」

「は?ですから、我々はその反省文をですね……」

 

 —————はて?

 

「…?だからいるだろう?ここに二匹————もとい二人とも。だからこの学園内以外に『銀鏡イオリ』や『天雨アコ』そっくりな生徒がいても、それはただ同じ顔と名前を持つだけの別人だ。————ほらイブキ、アコ先輩が遊んでくれるとさ」

「アコ先輩、お手!」

 

 おお。意外とナチュラルに煽るなイブキ。風紀委員会の腕輪を首に付けたヨコチチハミデヤン(犬)もちゃんとお手をして偉いぞ。犬用クッキーをやろう。

 

「……、感謝すればいいんですか?それとも『後で覚えててください』って言えば良いですか?」

「…?すまない、狸に犬の言葉は分からん。わんわん」

「■■■■■■■■■ッッッッ‼」

「結局ふざけてるわね…」

 

 だが、凄まじい校則違反をしたアコに対して寛容な態度では?そう思わんか、風紀委員長。

 

「……それじゃあ、私たちはアビドス砂漠へ行く準備をするわ」

「情報統制はやっておこう。お前たちがいないと知った連中がバカをやるのは防ぎたいしな……。

 

 

 

 

 

————。それと、『()()』」

「え—————?」

 

 ……これだけは言っておいてやるか。

 

「お前は真面目が過ぎる。回りくどいことを言わずこう口にすれば良いだろうに」

 

 —————お前と小鳥遊ホシノの関係は、昔はこうだっただろう。

 

「『()()を助けたい』、と」

「そ、れは……」

 

 そうだろうとも。理由はどうあれ、反転する惨事を防ぐためにああしたとはいえ、お前の青春を奪ったのは私だな。こう言う資格も無いやもしれん。無責任な発言かもしれん。

 —————お前たちも、分かっているのかも、知れないな。

 だが言っておく。今の私には、それしかできん。

 

「向こうはそんなこと思っていないのではないか、……とでも?その時はその時だろう。我々は自由と混沌を謳うゲヘナだぞ?自分勝手で何が悪い」

 

 過去の出来事は、暴力で解決できることではない。だが、分かり合うためにぶつかり合わなければならない時も、あるのではないか。

 

「昔の親友が間違った道に向かっているのなら—————友情を放り捨てて、街が壊れる銃撃戦(ケンカ)くらいしても良いのではないか?」

「いや、それは駄目よ……」

「—————フン、つまらんヤツ。やるなら『私はゲヘナ最強だ!』ぐらいの気概で、型破りに徹底的にやれば良いのにな。ま、お前には難しいことかもしれんが」

 

 だが、良いのかもしれないな、お前たちはそれで……。

 

「……、というか。私にこんな説教臭いことを言わせるな。私はこんなガラではないだろうが……。チッ、気持ちの悪いことを言った。忘れろ」

 

 

 

 

 

 

 万魔殿の執務室で私は窓辺に寄りかかり、地上の様子を伺っていた。続々と集結してくる親衛隊所属の航空部隊、戦車部隊、バイク部隊、エトセトラエトセトラ。

 その時だった。足元の影から闇が立ち込め、人型となって立ち上がる。それは、二年前からずっと私と共にいる、同じ顔の何者か(わたし)—————。

 彼女は笑い、口を開く。

 

『お前はただ空崎ヒナが最強であって欲しいだけだろう、ハッ!笑える』

「嗤いたくば嗤っていろ。ここで空崎ヒナが動かなければこちらの手が使えない。万全の状態で戦わせるためならこちらもメンタルケアくらいはするとも」

『そのメンタルヘルス案件なのが、アビドスに一人いたんだがな……。ヤツの精神状態が安定していたなら、そもそもがこんな事態にはなってなかったろう?』

「あれは私では無理だ。というか、一体誰が救ってやれる?かつての友人であるヒナか?アビドスの後輩たちか?それとも今頃来たS.C.H.A.L.Eの先生か?」

 

 —————断言しよう。そんな存在はいない。

 

『……あぁそうかそうか。まぁ良い。手駒は揃っているとはいえ、精々失敗しないようにな。そのための、()()()()だろう?』

「……ふん」

 

 何故、我が万魔殿の親衛隊らは各校から危険視されるほどの力を有しているのか。何故、元宮チアキや京極サツキ、棗イロハには普通ではありえない()()()()が宿っているのか。そして何故、私と瓜二つの『()()()』が幻影として揺らめいているのか。

 

 一言で言い表すのならば、これは私の神秘に由来する。そもそもこのキヴォトスの生徒たちの正体は、『名を忘れた神々』だ。それは私であっても例外でなかった。

 だが、私はキヴォトス外からの異物の混入によってか、本来の世界の知識と俯瞰視による自身の崇高の名を思い出した。

 

 私が有する神秘、その根源たる崇高はかの『魔王』。故に私は、この地獄(ゲヘナ)の長足りうる力を発現した。

 

「……」

 

 手を合わせ、掌の中に崇高……否、()()を込める。

 

「—————キヒッ」

 

 この感覚を習得するまでに苦労した。自らの中に存在する単一にして遍く全なる『その名』が形となり、結晶となる。この桃色の結晶体……『()()()()()()』とでも呼ぼうか、これに神秘を文字として刻み込む。

 この力があれば私は、私の崇高を削る代わりに配下に力を与え、それを共有することさえできる。そして、本来の生徒が持つ神秘を派生させ、新たな上位存在の神秘への変化も行えた。正しく悪魔合体、と言うやつだな。

 

「————『光掲げる明けの明星』、『世界惑わす年老いた赤蛇』、『焔より創られし絶望』、『人の身と世界を混沌より創りし叛逆者』、『深淵の蝗帝』……様々な名を持つ私の『魔王』の力、その一端を見せてやろうではないか」




 しかしこの世界線の万魔殿と風紀委員会、仲の良し悪しはおいておいて楽しそうだなおい。
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