ここだけマコト議長の神秘が仕事し過ぎている世界線 作:サルミアッキ
他のところでは書けないので、ここで言っておこうかと。
「……あら?ちょっと待って?」
『…どうかしましたか、風紀委員長。何と言うか、言わんとしてることは分かりますが……』
万魔殿と風紀委員会がアビドス学区の砂漠に向かっている時のことだった。風紀委員らの為に用意されたSd kfz 222やホルヒ108などが一団となって走っているのを視界の端に収めつつ、空崎ヒナは小首を傾げた。
「……マコトは?」
『……、あーやっぱり気付きますよねー…』
そう。陣頭指揮を執る予定だった、羽沼マコトがいないのだ。
『そのー…、S.C.H.A.L.Eのことを信用してないわけではないんですが、第三者の我々にもカイザーへの攻撃に正当な理由が必要じゃないですか…』
「…、待って。まさか」
『はい…、お察しの通りかと?』
通信機先の棗イロハもげんなり気味に声を落とした。その行為が様々な思惑や計画に裏打ちされたものであるというのは理解している。だが、あまりに思考がぶっ飛び過ぎていて、彼女も突然言われた時には空崎ヒナと同じリアクションをした。
『ちょうど先程、カイザーに人質の身売りという名の交渉をしに行きました…』
「—————は?」
空崎ヒナは、頭が真っ白になった。
■
元アビドス高等学校、本校を改造したカイザーPMCの前線基地。
「どういうことだコレは!?何故アビドスがこうも歯向かって来る‼しかも便利屋の増援まで……ッ、羽沼マコト‼お前がッ……、お前が何かしたのではないかッ!?」
「ほう?何のことだ?便利屋という猟犬に餌を与えず手を嚙まれたのはカイザーの落ち度だろう。それに今回のS.C.H.A.L.EのカイザーPMC襲撃は私のあずかり知らぬことだ。全く、耳が痛い話だ。手酷く扱えば仇で返される。利益を得ると言うのも考えものだな。組織運営に差し障りが出る……参考にさせてもらおう」
諸君、私だ。羽沼マコト様だ。砂漠を横切っている最中のゲヘナ学園には申し訳が無いが、計画を前倒して動いておいた。目の前では憤慨し身体中から細く煙を出しているカイザーの理事。
「—————ッそ、んな、そんな余裕な態度をしていて良いのか…!?我々と繋がりがある、そのことを理解できぬほどお前は愚かではないだろう…!動かぬ証拠を突き付けられて見ろ、我々は共倒れするしかない!協力しろ‼」
あー…大方そんなところだろうと思っていた。
「証拠?—————ふむ、そんなもの無いと思うがね、
「証拠がない……だと?バカな‼現にデータ上には……、ッ!?」
カイザーPMC理事は本当に都合が良かったな。こちらを学生、それも馬鹿校ゲヘナの生徒ということで心の中では取るに足らない子供だと下に見ていた。それゆえ、書面で残すような証拠を手元に置いておかなかった。ま、大方こちら側にも残されると
電子契約の原本は、既にサツキとチアキの手によって改変済み。『白兎様』、さまさまだ。ゴールデンフリース号まで遊びに行かせて二人ともリフレッシュできたらしいし、一石二鳥だな。
「残念だったな。お前がわざわざ証拠を消してコトを運んでくれた。その上、
「ぐッ……こ、のォ……!騙したのか‼」
おや。不思議なことを抜かす。
「騙したわけではない。言わなかっただけだ。こんなこと、お前たちの常套手段だろう?」
「……こ、の餓鬼ぃッ!」
「フン。いい年の大人なら、もう少し利口に立ち回るんだったな」
「分かっているのか…ッ⁉貴様は此処に囚われているといって過言ではない‼お前は既に我々の手の上なのだ‼」
「つまり、命乞いをしろと?はたまたゲヘナ学園にとっての人質だと?————キ、キヒッ」
嗚呼……本当に。本当に笑ってしまうな。
「キヒハハハハハハハ‼キハハハハハハハハハハハッッッ‼」
「な、なんだ…、何がおかしい‼」
全く、追い詰められただけじゃないか。私はこれほどの修羅場、過去に何度も越えて来た。ほら、この程度覆せずに何が大人なんだ?
それに、例え無事だからと言っても、何も成せていないのなら、それは生きていると本当に言えるのだろうか。尻尾を巻いて逃げるだけが、命の価値か?
「……私にその価値はない」
「は……?」
「ん?聞こえなかったか。命乞いなど私はしない。それで死ぬならそれまでだ」
……生き方は、二年前に決めた。価値を見つけた。
「それにゲヘナを甘く見るなよ。ゲヘナの唯一にして絶対の法は、自由と混沌」
自分の意思を貫く自由、己の矛盾を許容する混沌。これを両立させることができるなら、きっと私は……。
「自由と混沌の為になら、ゲヘナの生徒はどんな犠牲すら厭わない。……無論。その校則の前では、例え万魔殿議長の私であろうと、等しく塵のようなもの。そこに大人の理屈など存在しない。利益や損得など介在しない。生徒にとって快か不快か、其れのみだ」
—————ホシのように瞬くユメを見た。だが、私はソラから堕ちて、地に足を付けた。現実を見たのだ。だが、たまに世に疲れてソラを見上げる。数多くのホシが、まだソラに輝いている。
私にできることは、きっと……—————。
「ハ、ハッタリだ!」
「そうか…。ならハッタリかどうか、試してみるか?ちょうど学園内で万魔殿批判者が出ていてな……奴ら、弾道ミサイルやらクラスター爆弾を手に入れているぞ。きっかけさえあればクーデターでも起こすのではないか?それと話は変わるが、この場所……どのくらいの攻撃に耐えられる?ん?」
—————なあ、カイザーPMC理事殿。ゲヘナの魔王と踊ろうではないか。
「————ッッ」
(まあ、半分ハッタリで間違いないんだが。さて、こいつは伸るか反るか?)
……悩んでいるな。分かるぞ、その焦燥感。そして思い通りに行かない怒りと絶望感。カイザーPMC理事、さぁどうする?考えろ。考えて思考の坩堝に堕ちろ。冷静で愚かな判断を期待する。
(こいつが利口なら、もう遅いかもしれんが逃げ出すのが吉だ。既に詰んでいるのは間違いない。何より、ヴィッテンベルク総合学習塾の塾長がカイザー本社に送った
念には念を入れて、策は張り巡らせておく。さあ……風紀委員会と万魔殿の混合部隊がやってくるまで、あと三十分弱か。
では最後の一押しだ。
「しかし…、良いのか?こんなところで私なぞにかまけていて。そら、アビドスの生徒たちが来ているぞ」
「~~~~ッッ!クソォ‼こ、いつを…、見張っていろ‼」
(よし!これで勝利条件はクリアした!)
肩を大袈裟に揺らして地団駄を踏むように立ち去った理事。部屋にはまだ数名のPMC兵士たち。私の手元には愛銃『
「さて……、人質は人質らしく大人しくしていようか」
わざとらしく声を張り上げて席を立つ。咄嗟に銃を構える兵士たち。ふむ、優秀だな。だが言われたことしかできんのなら二流未満だ。
「貴様ッ…‼」
「ここティーバッグの紅茶しかないのか……ま、いいか。あ、諸君らにも淹れようか?ん?」
銃口を突き付けてくる連中に、少し睨んで見せる。
「「「……っ!?」」」
……良し。さて、お茶請けの菓子はどこにあるのかなー……、うぇ。カイザーグループの作ってるクッキーか。この種類、美味しくないんだよな。
「♪……—————お?」
紅茶の二杯目を飲みながら、気配を感じて壁際を見る。……これ、何か亜音速でカッ飛んで来ていないか?大きさ的には…フム、小学生くらいの大きさの小型の—————。
その正体に思い至り、咄嗟にソファの背もたれを盾にして蹲った。
その刹那の判断が、私とカイザー兵士たちの命運を分けた。
「「「うぉああああああッッッ!?」」」
私の頭上を通り過ぎていく紫の極太ビーム。それに触れただけで蒸発する機械兵士たちの肉体。
……さすがはゲヘナ最強。凄まじい神秘の力だ。逆光になっている外界、呆れるくらい青い空から、巨大な蝙蝠の翼を持つ人物が降り立った。
「おお。ヒナ、早かったな————ごぁッ!?」
頬に衝撃が走った。嗚呼ー…、まぁ勝手をした覚えはあるが……。
「殴らせてくれない?バカマコト」
「……殴ってから言うか、シロモップ?」
■
アビドス砂漠では、蹂躙が行われていた。カイザーの兵力が、たった一機のみ…それだけの存在に駆逐されていく。
「何故だ!何故このようなことになっている!?」
「なんだ、あのパワードモービルのスペックは!?」
「いいや、パイロットが異常だ!?我々は『ゴリアテ』をマシンインターフェースで直接操作できるというのに、何故ヤツはマニュアル操作でこの立体機動を!?」
「馬鹿な!ただの改造機のはずなのに‼」
その巨躯に、威容に怯むカイザーの兵士たち。一体、我々が対峙しているのは何者なのか?
両腕に備え付けられたビームガンとシールドで攻撃を繰り返すその巨人機。鈍重な見た目からは想像もできない機敏な肉弾戦と、正確無比なビームの一撃。次々と破壊されていく残存兵力はあっという間に半分を切っていた。
『面倒事は嫌いです……。長時間、万魔殿の業務に拘束されるのも嫌なので……手っ取り早く終わらせましょう。本気を出します』
備え付けられたスピーカーから、気怠そうな女子の声が漏れ出ていた。そして……。一瞬で爆炎に包まれ鉄屑と化すカイザーの兵力たち。
「あら~、もしかして便利屋68の増援ですかぁ?」
「な、ななな……なんなのよぉコレェ!?」
ノノミは首を傾げつつもほっと一息、一方セリカは素っ頓狂な叫びをあげた。それはそうだろう、突如としてアビドス高等学校の助力に、数百もの援軍がやって来たのだから。
「ふ、ふふ……そうね。やっぱりあなたはハードボイルドね……!」
「これ、借り作ったことになるね。あーぁ、面倒事にならないといいけど。……でも助かったのは確かだし」
「クフフ♪そっかぁ……すっごいことになってるね!」
「わ、わわ……風紀委員会と万魔殿の皆さんがお揃いです…、あ、アル様、どうしますアル様…!?」
そのやって来た生徒たちを見て、便利屋68の四人は安堵や憧憬、愉快や複雑そうな感情を露にした。
先生とシロコの前に停止する巨大な人型ロボット兵器。その背後には、戦車部隊やバイク部隊、航空部隊が続々と集結していく。
“な、何だコレ……カッコイイ……‼”
「ん、強い。この場に助っ人は一人でも欲しかった」
「あのパワードスーツは、先日カイザーPMC理事が使っていたものと似ています……ですが、あのロゴは……」
『はい。我々はゲヘナ学園から参りました』
そう言って、コックピットブロックのハッチが開いた。彼女……万魔殿議員、兼『騎兵隊長』棗イロハが搭乗するのは、人型機動兵器改修型—————ゴリアテ・パンデモニウムカスタム。
これこそマコトがブラックマーケットから調達したカイザー製超強化外骨格の改造機体。ボディはカイザーが使用するカーキ色ではなく、ゲヘナを象徴する黒と臙脂とゴールドというカラーリングで、万魔殿のロゴが取り付けられている。
ブラックマーケットの退学マッドサイエンティストたちが技術を出し合って作ったので凄まじくピーキーな機体らしく、キヴォトスの生徒でも移動時のGの負荷で操縦が困難である。
だが、『乗り物を使わせればキヴォトス最強のイロハ』ならば問題なく使用可能となっている、実質的な棗イロハ専用機なのである。
「あなたがS.C.H.A.L.Eの先生ですか……。えー、初めまして。私は万魔殿議員、兼、親衛隊騎兵隊隊長の棗イロハと申します。これよりゲヘナ学園万魔殿は、アビドス高等学校と共闘させていただきます。あー、…別に許諾とかは良いんで。こっちで勝手にさせていただく感じで全然良いんで…」
怠そうな様子でありつつも、周囲の様子を抜け目なく見渡す赤毛の生徒に、S.C.H.A.L.Eの先生は頭を下げた。
“それはありがとう。でも、どうしてゲヘナ学園の風紀委員会以外の部活がアビドスを助けてくれるのかな?”
「それはですね……あ、来ました」
カイザーの基地の一角が、紫の光と共に消し飛んだ。
「—————キヒッ、随分と騒いでいるな」
砂を踏みしめてやって来たのは、アビドス高等学校と一度戦闘になった風紀委員会、その長である空崎ヒナ。そして、軍服を思わせるゲヘナの制服をマントのように肩にかけた灰色髪の長身の生徒—————。
「出迎え、ご苦労」
威風堂々と言うに相応しい、魔王を思わせるカリスマに満ちる言葉。彼女の言葉に、ゲヘナ学園の生徒たちは首を垂れた。
“えぇっと、君は?”
敬礼をする万魔殿親衛隊の間を歩み、S.C.H.A.L.Eの先生の目の前に立つ四本角の生徒。その眉目秀麗な顔が冷静な笑みを浮かべると、何故だろうか……蛇に睨まれたような感覚になる。
嫌な感覚があった。砂狼シロコたちアビドス高等学校の生徒もS.C.H.A.L.Eの先生も、心のどこか、胸の内の手の届かない場所に毒牙を突き立てられたかのような……そんな感覚。
「初めましてだな。私は、羽沼マコト。そこにいる便利屋68や風紀委員会、それらを束ねる万魔殿の議長だ。噂はかねがね伺っているとも、S.C.H.A.L.Eの先生。我が校の生徒たちが世話になった。そして謝罪を。アビドス高等学校の面々にはご迷惑をおかけした」
軍帽を取り、彼女は深々とお辞儀をした。誠実な態度と慇懃無礼な口調に、少し毒気が抜かれるアビドス高等学校の面々。
“ああうん……、その、頬っぺたどうしたの?”
「これか?先ほど空崎ヒナに殴られてな」
“……ヒナ?”
「このバカマコト、ゲヘナのトップの癖にさっきまでカイザーに捕まっていたのよ……本当、面倒を増やさないで。あなたならもっと上手くやれたでしょ……」
「キキッ、それはすまない。だが、こうして早く行動できただろう?」
「あなた、分かってやってたでしょ……」
先程までの異様な雰囲気が霧散する。気安くゲヘナ最強の生徒と言葉を交わすゲヘナの長。その様子をほっこりとした目で見る万魔殿の議員たち。
だが……忘れてはいない。ここは戦場だということを。
「貴様らァ‼アビドスも、ゲヘナの連中も、S.C.H.A.L.Eの先生もォ……‼全力を以って叩き潰してやる‼」
—————頭上から、黒いゴリアテが落下して来た。即座に散開したアビドス対策委員会メンバーと風紀委員会、そして万魔殿親衛隊員は即座に攻撃姿勢を取り、銃を構える。
だが、その巨人に一歩も引かず、臆することも無い二人がいた。
「ほぉ?恐れ多くもこの羽沼マコトに向かって来るか、既にカイザーPMC理事の肩書すらない只人が?良かろう!ゲヘナの生徒を統べる、万魔殿議長であるこの私の力を見せ、———だぁッ!?」
一歩踏み出そうとした羽沼マコト……だったのだが。それよりも早く空崎ヒナが足払いによってすっ転ばす。結果、先ほどまでのカリスマは何のその。顔面から砂に塗れていた。
「……貴女まで戦線に出たら戦闘部隊の命令系統が崩れる。ちゃんと仕事をして」
「ヒ、ヒナ貴様ァ…今度は私を足蹴にしたな!?」
「それじゃあ先生。……ホシノちゃんのことをお願いね」
言うが早いか、空崎ヒナは蝙蝠の翼を広げて天高く飛び上がる。そして、透き通るような青空から—————紫のビームの雨が降り濯ぐ。再びカイザーPMCの蹂躙が始まった。
「おい話を聞かんかこの弾道ミサイルめ!~~~っ、致し方ないッ!イロハ、あれを持ってこい!」
『…そう仰ると思って、ご用意してます。面倒なのは嫌なので』
マコトの傍に一台のホルヒが停車した。それには、様々な管制システムが組み込まれた装置が中に置かれている。射撃統制、味方位置の特定まで可能な優れものなレーダーや、ハッキング対策も万全な通信機を組み合わせ、万魔殿親衛隊員たちが各種情報を取得しつつ羽沼マコトに伝達できる情報処理に特化した車両だった。
車内にあったマイクを引っ掴み、マコトは叫ぶ。戦場に彼女の声が響き渡る。
「これより戦場にいるゲヘナ学園生徒総員は、万魔殿の戦闘指揮下に入れ!私が貴様らに自由を齎す、混沌の力を存分に振るわせてやる!さぁ征けアビドス高等学校‼小鳥遊ホシノを救って見せろ‼」
ゲヘナ学園からの激励に廃校対策委員会の顔が引き締まり、目に火が燈る。
“!……皆、行くよ‼”
「ん、ありがとう」
「お礼は後程いたします~」
「た、助かったわ‼」
「それでは失礼します!」
五人は、ホシノの元へと駆けだした。
「行かせる、ものかァァァッッッ‼」
行く手を阻まんとするカイザー理事。その重量級のパワードスーツが、S.C.H.A.L.Eの先生を踏み潰さんと跳躍した。
—————だが。
「がッ……、何ィ!?」
カイザー理事の視界が歪む。脇から食らった強烈な砲撃。一体何事かと、アビドスの生徒たちも振り返る。
そこには、—————まだ、仲間がいた。アビドスの手助けをしてくれる、心強い仲間が。
「アハハ…どうも。
紙袋を顔に被った謎の生徒が、幾人もの女子を引き連れて砂漠に立っていた。
「ヒャーハハハハハハハァ‼御大層なお題目並べて戦場を作ってくれるなンて最高だなぁオイ!おらァ大義名分の為に死ねェッ‼こちとらゲヘナ様アビドス様S.C.H.A.L.E様だぜェ‼死ねよ‼テメェら全員まとめて虐殺だゴラァッッッ‼」
「実験したいもの、山ほどある。次の兵器、これ。はい撃って、撃って、はい撃って」
「はぁぁ、本当に得になるのでしょうかぁ?毒薬の試験運用もやりたかったのですけどぉ……でも前に作った爆薬の性能は良いみたいですねぇ?」
この小鳥遊ホシノ救出作戦に、ブラックマーケットの最大勢力……『ヴィッテンベルク総合学習塾』の塾生たちまでもが介入した。
宙を飛ぶ空崎ヒナは、その様子を確かな観察眼で見据えていく。
「サードドッグの遊軍ね……。混乱を防ぐために風紀委員会も万魔殿の指揮下に入るわ。アコ、指揮系統の擦り合わせはお願いね」
『はい。お任せください』
—————混沌とした戦場に、羽沼マコトは辣腕を振るう。
「便利屋68、十一時の方向のPMC兵士を迎撃。万魔殿親衛隊の戦車部隊は六時の方向へ後退、七秒後にバイク部隊が通過するのを視認後、主砲発射。銀鏡イオリの指揮下の風紀委員部隊は九時方向の万魔殿棗イロハ指揮下の戦車部隊と合流し、対デカグラマトン部隊と交戦せよ」
一糸乱れぬ万魔殿親衛隊のバイク部隊。高機動な空中サーカスを行う航空部隊。隊列を乱すことなく邁進する戦車部隊。そして一機、鉄塊を叩きつけるが如き肉弾戦で、次々とカイザーのゴリアテを破壊していくゴリアテ・パンデモニウムカスタム。
「す、すごい…」
「これが、万魔殿議長羽沼マコトの、戦闘指揮…」
「イオリとチナツ…あなたたちは初めてかしら。マコトは普段あんなのでも、戦闘指揮や盤外戦略はキヴォトス一よ。それこそ、『シャーレの先生』くらいには、ね」
「流石、マコト先輩ね……。どんなアウトローも真似できないわ」
空崎ヒナと、陸八魔アルの放った弾丸が、紫電と赤雷を纏い空間を震わせ、直線状にいた兵士たちを破壊する。
「便利屋68のハルカ。今だ、スイッチを押せ」
「は、はいぃ…!」
ビルが狙いすましたかのように倒壊し、上から降って来た瓦礫に潰されるカイザーPMC。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
土地を、地盤を、果ては人間心理すら逆手に取って戦場を易々と操っていく。既にカイザーPMCは、彼女の掌の上で踊らされる人形だった。
「アレでも腐ってもゲヘナの長。人間性は結構ダメだけど、問題だらけな性格だけど……ええ。私が従う上司だもの」
その言葉には、かつてから積み重ねて来た信頼があった。
『———それに、ヒナ委員長が情報部にいた時……』
「アコ。———余計なことは言わなくていいの」
『あ、……ハイ』
—————。そして、勝敗は決した。便利屋68も、ゲヘナ学園風紀委員会も、ブラックマーケットのヴィッテンベルク総合学習塾も、万魔殿親衛隊も、全てを用いて戦況を支配したひとりの生徒に道を譲る。
「こんな、子供に…‼」
「ふん。大人も子供も関係ない」
もはや戦う手段を奪われ、膝をついて屈するしかないカイザーPMC理事。それでも、恨めし気にそのカメラアイを、敗北の原因となった生徒へ向けていた。
だが、羽沼マコトはただただ涼し気に、飄々とした口調で真実を告げる。
「お前たちが我々に負けたのは、ただ—————あらゆることが私たちよりも劣っていた。それだけだ」
「ふぅん。不可解な存在だね」
「羽沼マコトだったっけ?デカグラマトンの対立者足りうる存在……邪悪の樹の管理者かぁ、今の段階でも計画に支障を来たしそう!」
「自分たちは未だ出る幕ではないと思っていたのですが、事情が変わったようですね」
—————白い肌の三人の幼女だった。人間らしくない、ツクリモノのような外見をした三人だった。黄色の瞳をゲヘナの悪魔へと向けて、ニヤリと笑う。
「じゃあ使おっか、
「そうだね。暴れさせちゃおう!砂漠の用事も済ませちゃおっか!」
「『お姉様』完成の邪魔になるのなら、やむなしですね」
砂塵から、『理解』の蛇が現れんとしていた。
カイザーのゴリアテとイロハのゴリアテ、ティエレンとガンダムヴァーチェぐらい差がある。