怪物という肩書が常に付きまとっていた。
自分は所詮普通のウマ娘なのに。
海外から留学してきてまずトラブルになったのはクラシックレースに参加できないという所だった。急にURAで導入された規制により、マルゼンスキーは出走権を失った。
それでも勝ち続け、怪物と言われ、社会問題にまでなった。
「私はただ走りたかっただけなんだけどね」
メジロ家などの名家のように何か使命があるわけではない。
ルドルフのように未来のウマ娘のためにという理想があるわけでもない。
自分は後輩にマルゼンさんと慕われて、撫でていれば満足する程度のウマ娘に過ぎない。
「ふにゅ~」
膝を枕にしているライスシャワーが可愛い鳴き声を上げた。
意味は分からないがとにかくかわいい。頭を撫でて髪を指で梳かすとくすぐったそうに耳がぴくぴく動いた。
仲の良い後輩は何人もいる。
そういった子たちとじゃれて、時々悩みを聞いて、時に手助けをする。
その程度で自分は満足なのだが……
「マルゼンスキー、URAとの折衝に付き合ってくれ」
「おっけーよ」
シンボリルドルフからの無茶ぶりが入る。
エアグルーヴかトウカイテイオーあたりを連れて行けばいいのに、と思うが過保護なのかルドルフは彼女らではなく自分を同行者に求めることが多い。
断ることも必要かとも思うが、ルドルフの過労ぶりを考えるとあまり無碍にして潰れてもらっても困るし…… 等と思ってしまい、毎回断れなかった。
そうしてまた、魑魅魍魎蠢くような化かしあいの場に参加する羽目になる。
「ルドルフもよく頑張るわね」
ヘロヘロになりながら出てきたマルゼンスキーはぼやく。
すべてのウマ娘、なる抽象的なもののために頑張れる彼女に何が見えているのか、マルゼンスキーは疑問に思っている。とはいえ、頑張る彼女自身は好きなので手助けは嫌ではないのだが……
「でも、わかんないなぁ……」
なぜあそこまで頑張るのか。
もっと普通の生活を目指すべきなのではない。
そう考えるのもまた怪物の怪物たる所以なのか。
「つまんねえこと考えてるんだな、怪物」
銀髪の鬼があのときそう言ったのだけがいまだに耳に残っている。
誰も並んでくれなくて、寂しくて、普通を望んだ
コンコン
「はぁい、どなたかしら」
「マルゼンさん、ご飯行きましょうよ」
「おっけーよ♪」
意識が今に引き戻される。
ドアの向こうからスペシャルウィークの声が聞こえたのに二つ返事で答える。
普通はいいものだと思うんだけどな。