現代超能力バトル世界に転生した俺の寿命はあと一日   作:テムテムLvMAX

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死にそうでしかないヤツ

早朝、太陽すらおねんねしている時間帯に二人の男が土煙を巻き上げ走っていた。かたや青年、かたやオッサン、見る人が見れば通報案件だが見る人がいないので刑法的にもオールオッケーな前時代的な特訓風景がそこにはあった

 

 

「ぐへ……死ぬ」

 

「この程度で音を上げたら碧蘭に受からねーぞ、マジ」

 

「そんな〜」

 

「気合い入れてもう一周! 走れっ!」

 

「サーイエッサー!」

 

「ふざける余裕あるじゃないか、もう三周!」

 

 

 ぎゃーしまったーっ! こんなことなら真面目に走ればよかったーっ!  

クソッ!竹刀をもって追い立てるのが許されていたのは昭和までだぞ!しかも赤いジャージ着てるから尚更昭和の香りがするわ!

少なくとも原作で主人公たち鍛えるときにはそんなことしてなかったろうが!なんでモブの俺には厳しいんだよぉ!

 

 

「チンタラ走るなッ! 死ぬ気でやれッ!」

 

「アォーン!」

 

「邪念を抱えて走るなッ!てぇ!」

 

「イッテーッ!?」

 

 

 と、近所のアリーナの屋外グラウンドでしこたま絞られたのが俺です。

 頼んだのはこっちなんだが体がぶっ壊れるペースで走らされている現状に文句いいたくなるが文句には頭皮の焼き討ちで対応すると言われこれが恐怖政治か……と戦々恐々しながら走るだけの毎日だ。

 

 

「よーし、そこまで」

 

「ゲホッ……オエッ……あ~~~」

 

「水飲め水、ゆっくりな」

 

 

 生き返る〜三度目の感覚〜体に染みる〜

 

 

「明日はもう一周増やすぞ」

 

「うげ……」

 

「んな顔するな、俺の超理論的指導に間違いはない、大丈夫だ」

 

「どこが超理論的……?」

 

「もう一周お望みか?」

 

「勘弁して下さい……!」

 

「ま、冗談ってやつだ。簡単に説明してやるから聞いてきな」

 

 

 説明? ただ走るだけの特訓にそんな深い意味合いあるかな……俺の知ってるサイキックグラフィティ本編で明かされた超能力の設定は、以前病院で診察を受けた時とほとんど変わらない説明になるが、超能力は脳を核に発動する物理現象、だから世界の理たる物理法則を完全に無視することができない、超能力と言えど全てを超えるわけでは無いのだと。

 

 

「良いか? お前の病気は一応聞いてるし、その上でこのメニューを組んだ、その理由ってのは脳を鍛えることだ」

 

「脳を鍛える……?」

 

「そうだ、運動することで脳に良い刺激を与え活性化させる事で能力使用の負担を減らす、そしてお前の能力は攻撃力を持たないからタフネスを伸ばすことで対応する、減速しか使えないから粘り強く相手のスタミナを奪う事をメインの戦い方にするだろうからな」

 

 

 なるほど……一応理屈は分かる。

 

 木谷さんはまだあるぞ、と続けて説明をしていく。

 人差し指を立てて腰に手を当てその指先からボッと火が出る、木谷さんの能力からすれば一見すればおかしなことが起きているが……まずは彼の話を聞こう。

 

 

「良いか、俺の能力は職務上明かせないが特別に見せておく、これからする説明が分かりやすいようにな。俺の能力は空間干渉系能力レベル3『有実無在』、その能力はその存在をあるなしを操るものだ。あ、口外禁止だからな」

 

「はい! 誰にも言いません!」

 

 

 まあ知ってた、前世から知ってますその極悪能力。実質殺せない人間の1人でしょ、寿命を待つのが一番の対抗策と言われる無法の能力、敵幹部が涙目になりながら命乞いするシーンは涙なしには語れない……! 敵が可哀想で可哀想で……! 

 

 

「それでよし、でだ、この能力、存在のあるなしを操る事でどこにでも現れる事もその場から逃げることも簡単だと思うだろう? それに相手に能力を使えばその存在から無かったことにできるなんて考えつく訳だな」

 

「まぁそうですね、そう言う能力だと思います」

 

「だけどな、そんな簡単な話で終わらないんだこれが。

 俺の能力を調べた偉い学者が言うにはこの宇宙には超能力を除くあらゆる方法で観測できないあらゆる可能性の詰まった裏の空間があり、その空間を能力によって観測すると裏の空間と表の空間の同じ座標の物と状態が重なり入れ替わる形で実体化している、と言うことだ。つまり能力で俺が今と別の場所にいると嘘を観測すればそれが現実に反映される、俺の手に火があると嘘の観測をすれば火が出る……んだとよ、正直理屈で分かってない部分のほうが多い、わかってても出来ないこともある」

 

 

 あーなるほど分かった分かった(分かってない)

 

 ここ前世でも頭いたかった所だから雰囲気で頷いて木谷さんの話を聞いていた。

 

 

「こっから本題な。そこでお前の能力だが……本当に時間干渉系の超能力で、減速だと思うか? いやな、俺の体感じゃあ減速ってもんでもないと思ってるんだよ」

 

「え……? 能力が減速じゃない……? そんなまさか」

 

 

 今こうして生きているのは減速能力のお陰だ、仮にも違うなんてことはないと思うが……

 

 

「俺もちゃんと能力を把握出来たのは最近だ、あの説明聞いたら自分で把握するのも限度があると分かるだろ? それに、やろうと思ったことがなんとなく出来てたからよく知ろうともしなかった、だから超能力を扱う人間の大半は自分の能力を誤解している、あるいは知らない領域があるはずだ。生まれ持った能力に取説なんてないから仕方ねぇがな……これをちゃんと知るのが超能力者への第一歩だと俺は思うね」

 

「そうですね……ちゃんと知る……」

 

「まぁ当分は減速で良いと思うがね」

 

「え……? その話の流れだと調べたほうがいいんじゃ」

 

「あくまで理想の話だ、今の現状で調べてもどうにもならねぇぜ、時間を遅らせて病気をくい止めてるんだろ、成長速度だって人より遅いどころか無いに等しい……あれふと思ったが減速しててよく俺の言葉が分かるな? 普通は反応までに遅らせた分のラグがあると思うんだが」

 

 

 ……あ、確かに。やったときは深く考えなかったなぁ、超能力だから都合良くなってるもんだとばかり……あぁよく考えたらおかしいな、病気だけ時間を遅らせるなんて出来る訳無い……減速が本当の能力じゃないかも知れない可能性がある……? 

 

 

「そうですよ! もしかしたら……減速じゃないかも」

 

「となると……時間干渉系レベル1って診断は誤りかもな、でもちゃんと調べるのはお預けだ。能力を十全に使おうとすれば病気の進行が早まってくるし下手をすれば周りを巻き込む事故にもなりかねん、特に時間干渉系の暴走はエグいぜ、正常な時間の流れから外れて原始時代の生き物が大暴れしたり宇宙空間と繋がって街が吸い込まれたり……まぁ気をつけるこった」

 

「はい……!」

 

「うし、長々話し込んですまねぇな、じゃあ今日はこの辺でお開きだ! 仕事行くんでまた明日ー!」

 

「また明日!」

 

 

 俺は手を振って木谷さんを見送った。

 残されたのは俺一人、ちょうど日の出が見れる時間帯だったのでアリーナの野外ベンチに座り自販機で買ったスポーツドリンクを一気飲みして、朝日を見ていくとしよう。

 

かなり興味深い話が聞けたなぁ、まず木谷さんの能力の詳細、これは俺の知る限り作中では明瞭に解説されたことはない、これは読者に叩かれないように煩雑な説明は避けたい制作側の都合もあったかも知れない、丁度連載誌が炎上したときと重なるから、まぁ仕方ない。

 

それとこの世界には裏の世界があるということだ、空間干渉系能力のキャラがタイムスリップする技を持っているのだが、その間滞在する空間があると言っていたので、恐らくこの裏の世界がそうなのだろう。そのキャラと木谷さんの言い分が違うことを鑑みるに能力ごとにこの世界へのアプローチが違うのだろう、この病の治療もその裏の世界をうまく使えばやれるんじゃないかと考えている、何故ならあそこが一番謎の空間だから。

 

よし、考えるのやめ、眠いまま特訓したからまた眠気が襲ってきた……ふわ……あくびが止まんねぇ

 

 

「なかなかいい線行ってるね、君。ほら喉が渇いたろう、スポーツドリンクだ」

 

「あ、頂きます……所でどなた?」

 

「隣失礼するよ、ねぇヨハン・キール・フラメスでそうなった者たちは自らの能力に押しつぶされ死に絶えるのが普通なんだよ、しかし君はそうはならず、逆にその症状を抑え込こんだ……もしリスクを消せた場合、その病は他者に追随を許さない圧倒的な能力の持ち主である証明なのではないかな?アルビノを超える超越者の資格、そう思わないかい?」

 

 

 黒いパーカーで、黒い髪の青年が俺の隣に座っていた。ベンチの背もたれに背を預け両手を背もたれの上に乗せている、態度が大きいという印象こそあるがその目に秘められたものは哀愁……この気配ただの人間じゃない、それこそ物語に関わる人間のはず

 

 呆然とした俺を横目に止まらない彼の言葉は俺の耳に次々なだれ込んでくる

 

 

「だとしたらその力は神の与えた死の試練を乗り越えた先のの祝福、選ばれた人にのみもたらされた祝福なんだよ、決して病だと思わないでくれ、それは“神の領域へ至る鍵”……これは言い過ぎたかな『忘れてくれ』」

 

 

 ……ああ、そうだな、忘れよう。それがいい。

 

 

「僕はアンソン、また会おう。君が僕らの道と交わらんことを」

 

「あぁ……またな……」

 

 

 おかしなやつだった……初対面にあれだけ話しかけてるのは大阪のオバチャンくらいなものだ、関西圏なら割とどこでもそうか……さーて木谷さんにもあったし帰るとするか、忘れ物はないか、よし

 

 朝日を浴びて俺は家に帰っていった。

 

 さっきの青年のことなど一切忘れて。

 

 

 

 

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