ホムンクルス、ついに買われる!~爆乳専門店の元・売れ残り~   作:ツインテスキー

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3章 変わりゆく関係
3-1 勇気の薬


「それでケフェッチさん、話というのは一体何でしょうか?」

 

「……それがね」

 

 ある日、ケフェッチに二人きりで話がしたいと声を掛けられたクロースルは倉庫でその話を聞くことになった。

 

「いや、それなんだけど……クロースルくん。君、デレーヌの恋人になってみる気はないかな?」

 

「……はい?」

 

 クロースルはいつも通り髪関連の話だろうと高をくくっていたが、ケフェッチの予想外の言葉に真顔になった。

 

「……駄目かな? クロースルくんならデレーヌとの付き合いも長いし、仲もいい方だと思ったんだけど」

 

 クロースルの反応を拒否と解釈したケフェッチだったが、それでも話を続けた。

 

「いや、そういう意味ではなくて……色々と衝撃だったもので。確かにデレーヌさんとの付き合いは長いですし、仲は悪くはないですけど……どうして急にそんな話が出てきたんですか?」

 

 クロースルは困惑を抑えて会話が出来る程度に持ち直し、ケフェッチに事の経緯を尋ねた。

 

「だってデレーヌもいい歳だろう。だからそろそろ恋人を作って出来ればそのまま結婚してほしいと思ったんだ」

 

「……それはまあ、確かに」

 

 ケフェッチの言う通りデレーヌの年齢は結婚していてもおかしくない、人や場所によっては行き遅れ扱いされる年齢ではあった。ここで問題なのは、当のデレーヌの好きな相手がケフェッチだということだった。

 

「もう一つ質問してもいいですか?」

 

「何かな?」

 

「ケフェッチさんがデレーヌさんと付き合うって選択肢はないんですか?」

 

 デレーヌからフェッチへの想いを散々聞かされているクロースルは、その選択肢をケフェッチへと提示した。

 

「え、僕がデレーヌと?」

 

「はい」

 

 クロースルの提案にケフェッチはきょとんとした顔をした。

 

「いや、確かに僕もデレーヌの付き合いは長いけど腐れ縁みたいなものだし、恋愛に発展するのは無理だよ。現に僕は一回振られているからね」

 

「それ何年も前の話でしょう? 今だったらいけるかもしれませんよ?」

 

「確かに僕はデレーヌの髪が今でも一番好きだし、僕みたいな変人にも構ってくれるところとか、ああ見えて周りへの面倒見がいいところとか、白い透き通った髪のこととか好きだよ。でもさ、デレーヌは自分の髪のことも、その髪が好きな僕のことも嫌っているだろうから僕が彼女と付き合うなんていうのは土台無理な話なんだ」

 

 ケフェッチ自身のデレーヌへの好感度は高かったが、以前に振られたことと普段のデレーヌの態度からケフェッチ本人は嫌われていると勘違いをしていた。

 

「……そうですか。とりあえず今は自分も夢を優先したいので、デレーヌさんに限らず誰かと付き合う余裕はありませんよ」

 

「ああ、その辺りは分かっているよ。ただ今のうち考えておいてほしいと思っただけだから」

 

「そうですか。まあ、頭にはいれておきますね」

 

 クロースルは先延ばしにする風を装い、ケフェッチとの話を打ち切った。

 

「ありがとう。それじゃあ、これ、今回の相談料に……」

 

 ケフェッチは話を終えると懐から財布を取り出した。

 

「いや、今回は話を聞いただけですからお金はもらえませんよ」

 

「そうかい。時間を取らせてすまなかったね。色々忙しいだろうし僕は失礼するね」

 

「いえ、こちらこそ力になれずにすみません」

 

 ケフェッチは最後に頭を下げると倉庫から出て行った。その後、クロースルはデレーヌを探しに向かった。

 

____________________

 

 

「……というのが今日の出来事です」

 

 深夜、クロースルは昼間のケフェッチとのやりとりをデレーヌに包み隠さず伝えた。

 

「……」

 

「デレーヌさん?」

 

「……あいつも私のことが好き……あいつも私のことが好き……」

 

 デレーヌはクロースルへの恋人依頼の下りではカンカンに怒っていた。しかし、途中からは違う意味で顔が真っ赤になり、同じ言葉を繰り返す壊れた機械のようになっていた。

 

「……駄目だこりゃ」

 

「……クロースルさん、今の話は他言してもよかったのですか?」

 

 クロースルがデレーヌに匙を投げる中、仕事終わりに半ば強引にデレーヌに連れて来られた3号はクロースルに声を掛けた。

 

「前々からデレーヌさんにこういうことがあったら連絡するように言われていたからね。あくまで先約優先だよ」

 

「そうでしたか」

 

 クロースルの説明に3号は渋々納得した。なおケフェッチから金を受け取らなかったのもデレーヌに伝えるつもりだったからだった。

 

「それでこれからどうするのですか?」

 

「とりあえずデレーヌさんを元に戻さないといけないね」

 

「……戻せるのですか?」

 

「……ケフェッチ~♡」

 

 3号がデレーヌに視線を戻すと、デレーヌは未だに妄想に浸っていた。

 

「……なんとかしよう」

 

 クロースルは意を決するとデレーヌの前へと移動した。

 

「デレーヌさん、デレーヌさん」

 

「ん~、うへへ~♡」

 

 クロースルがデレーヌに呼び掛けた。しかし、舞い上がっているデレーヌには効果がなく、その緩んだ顔からは涎が垂れていた。

 

「……お互い両思いで何年も経ってきたんですからこのままじゃ後何年経っても変わりませんよ」

 

「……そ、そんな」

 

 クロースルの言葉にデレーヌは一気に現実へと引き戻され、そのまま床に膝をついた。

 

「……それじゃあ私は、私は、どうしたらいいんだ!」

 

 立ち上がったデレーヌは鬼気迫る顔でクロースルに詰め寄った。

 

「告白すればいいのでは?」

 

「それが出来たらこうなってない!」

 

 クロースルの正論にデレーヌは胸倉を掴みながら叫んだ。

 

「……ですねえ」

 

「デレーヌさん」

 

 クロースルと3号はデレーヌの悲痛な叫びをただ聞くことしか出来なかった。

 

「儂にいい考えがある」

 

 そんな惨状の中へゴーツがいつものように突然現れた。

 

「ゴーツさん!」

 

「いつから聞いていたんですか?」

 

「最初からじゃよ。三人だけで話が解決するならそれでよかったのじゃが難航しておるようじゃからな」

 

「……方法がある、のか?」

 

 普段であればゴーツの盗み聞きに対して悪態の一つはついたであろうデレーヌだったが、焦りから素直にゴーツへと考えを尋ねた。

 

「結論からすればある。しかし、これは中々骨が折れる。とりあえず聞いてみるかの?」

 

「……分かった」

 

ゴーツの問いに藁にもすがる思いのデレーヌはゆっくりと頷いた。

 

「プラセボという薬があっての。それを飲むと勇気がでる」

 

 ゴーツの出した案は薬の力で告白するというものだった。

 

「勇気?」

 

「告白する勇気ですか?」

 

「……」

 

 勇気というなんともあやふやな概念にクロースルと3号は疑問を浮かべていた。一方で当事者のデレーヌは真剣にその話を聞いていた。

 

「それでその薬は手に入るのか?」

 

「そこが骨の折れる話でな。材料のほとんどは手元にあるが一番重要なプラシー、別名勇気の花が手元にないのじゃ」

 

 デレーヌが薬について尋ねると、ゴーツは魔法によって一輪の青白い花を造り出した。

 

「それがプラシーか?」

 

「ああ、昔はともかく今では相当珍しい植物じゃからな。気候が変わった今ではほとんど絶滅したといっていいが、外部からの影響が少ない結界内ならまだ残っておるかもしれん」

 

 デレーヌの質問にゴーツは頷き、プラシーの説明を続けた。

 

「……見たことないな」

 

「……自分もないですね」

 

 デレーヌとクロースルは造られたプラシーの模造品を見ながら自身の記憶を探ったがその花を見た記憶はなかった。

 

「もしかすると結界内でも絶滅しておる可能性もある。なので下手に探すよりも独力で告白するか、他の計画を考えた方がいいかもしれん。どうするかはデレーヌ、お主次第じゃ」

 

「……この薬は本当に効き目があるのか?」

 

「ああ、最後は本人の意思次第とはいえその助けになることは保障しよう」

 

 薬の効能に疑問を持ったデレーヌに対してゴーツは自信満々に答えた。

 

「……クロースル。報酬は出すから明日からしばらく一緒に探してくれないか?」

 

 しばしの逡巡の末、デレーヌはクロースルにプラシーの探索を持ち掛けた。

 

「もちろんです」

 

「私も、時間がある時にはお付き合いします」

 

 デレーヌの誘いにクロースルは頷き、更に3号も手伝うと声を上げた。

 

「……二人とも、ありがとう」

 

 デレーヌは探索に付き合ってくれる二人に対して、深々と頭を下げた。

 

「ふむ、そういうことならしばらく3号はそちらに専念ということでいいかの」

 

「よろしいのですか?」

 

「ああ、酒場にしろ、大浴場にしろ人手は足りておるからな。そういうことならそちらを優先させるといい」

 

 状況を見守っていたゴーツは3号をデレーヌの手伝いに専念させることに決めた。

 

「ゴーツさん、ありがとうございます」

 

「そう簡単には見つからんと思うが頑張るのじゃぞ」

 

「「「はい」」」

 

 こうしてデレーヌ、クロースル、3号によるプラシー探索隊が結成された。そして三人のプラシーを探す日々が始まった。

 

____________________

 

 

「二人とも今日も見つかりはしなかったけど付き合ってくれてありがとう」

 

「いえ、やっぱり中々見つかりませんね」

 

「まあ、まだ3日だからね」

 

 夕方、酒場にて朝からプラシーの探索を続けていた3人はその労を労っていた。しかし、探索開始から3日が経過したがプラシーは未発見だった。

 

「それからすみません。明日は商品の在庫の補充に休ませてもらっても構わないでしょうか?」

 

「ああ、無理を言っているのはこっちだからな。3号も休みたければ休んで大丈夫だぞ」

 

「いえ、私は大丈夫です。デレーヌさんこそ無理はしないでくださいね」

 

「もちろんだ」

 

 こうしてプラシー探索4日目はクロースルが抜け、デレーヌと3号の二人で行われることになった。

 

____________________

 

 

「クロースルくん、今大丈夫かい?」

 

 プラシー探索4日目。デレーヌと3号がプラシー探索を行っている最中、クロースルは倉庫でポーションの作成をしていた。そんな時、倉庫の扉をケフェッチが叩いた。

 

「ケフェッチさんですか? 大丈夫ですよ」

 

「またちょっと話があるから中に入れてもらってもいいかな?」

 

「どうぞ」

 

 クロースルは話がしたいという快くケフェッチを中へと招き入れた。

 

「単刀直入に聞くけど、今デレーヌがクロースルくんや3号くんと一緒に何かしているのはなんなんだい?」

 

ケフェッチの話というのはデレーヌたちの行動、プラシー探索についてだった。

 

「自分の口からは言いづらいので本人に直接聞いてみたらどうでしょうか?」

 

「クロースルくん、多分分かっていると思うけどデレーヌに直接聞いて駄目だったから君に聞きに来たんだよ」

 

「ですよね」

 

 ケフェッチの返答にクロースルは苦笑いを浮かべた。

 

「まあ、口止めされてるとは思っていたけどね。……はあ、たまには僕にも頼って欲しいなあ」

 

 ケフェッチは大きなため息をついた。事情が事情とはいえ除け者に近い扱いのケフェッチは落ち込んでいた。

 

「まあ、適材適所ってやつですよ」

 

「じゃあ聞くけど僕の適材って何だと思う?」

 

「なんだかんだでデレーヌさんに一番信頼されているのはケフェッチさんだと思いますよ」

 

 ケフェッチに適材について尋ねられたクロースルは迷わず答えた。

 

「……そうかなあ」

 

 しかし、クロースルの返答に、日頃からデレーヌにツンな対応をされているケフェッチはあまり納得していなかった。

 

「寝ているデレーヌさんに触れる人が何人いると思っているんですか?」

 

「それだったらクロースルくんだって。触れるでしょ?」

 

「最初から触れたのはケフェッチさんじゃないですか」

 

 二人の言う通り、寝ているデレーヌという見えている地雷を安全に処理できるのはこの町でも数人しかいなかった。特にデレーヌがこの町へ来たばかりの頃は今以上に周囲に対して過敏で寝触れて大丈夫な人間はケフェッチだけだった。

 

「……髪を触ろうとしたら起きちゃうけどね」

 

「それはケフェッチさんが悪いと思います」

 

「はは、そうだね。まあ、話したら少しは楽になったよ。ありがとう。時間も取らせたら悪いし、今日はこの辺でお暇させてもらうね」

 

 話をして多少は気が楽になったケフェッチは、から笑いをしながら立ち上がると踵を返した。

 

「なんだかんだデレーヌさんはあの境遇から助けてくれたケフェッチさんことかなり感謝していますよ」

 

「そうかなあ。助けたのだって大体はエローナさんとゴーツさんのおかげでしょ?」

 

「それは、まあ……」

 

 クロースルは立ち上がるケフェッチにデレーヌがよくここで零している本心をぼかして伝えたが、ケフェッチにはあまり伝わらなかった。

 

「……ごめん、ごめん。せっかくクロースル君がフォローしてくれているのに話の腰を折るようなことをしちゃってごめんね。それじゃあ、また」

 

 クロースルとの話を打ち切ったケフェッチは足早に去っていった。

 

「……デレーヌはデレーヌで問題じゃが、ケフェッチも大概じゃのう」

 

 ケフェッチが去るとほぼ同時にゴーツがクロースルのすぐ隣に現れた。

 

「まあ、それは確かに。で、何か用ですか?」

 

 そんなゴーツに対してクロースルは一瞥することもなく話を続けた。

 

「そういえばお主にプラセボの調合法を教えていなかったことを思い出してな」

 

「何も言わないからゴーツさんが調合するのかと思っていましたよ」

 

「ほれ、これじゃ」

 

 そういうとゴーツは調合レシピの書かれた紙をいつものように魔法陣から取り出してクロースルへと手渡した。

 

「……これ、本当にプラセボのレシピで合ってますか?」

 

 プラセボのレシピを受け取ったクロースルはその内容を見てゴーツに尋ねた。

 

「ああ、それで合っておるよ。それとそれを見れば儂がすぐに調合法を教えなかった理由が分かるじゃろう?」

 

「……ええ、まあ確かに。……いや、本当よくやりますね」

 

 ゴーツの思惑を知ったクロースルは、ゴーツに呆れるような視線を返した。

 

____________________

 

 

「……本当に見つかるのか?」

 

 プラシー探索から5日目、今回はクロースルも復帰して三人でプラシーの探索が行われていたが相変わらずプラシーは発見されていなかった。そして3号と共に朝から夕方まで5日間連続でプラシー探索を続けているデレーヌの心には焦りと諦めの感情が浮かび始めていた。

 

「ありました!」

 

「……⁉」

 

 そんな時、少し離れた場所からクロースルの声が響いた。

 

「本当か!?」

 

「……デレーヌさん、これを」

 

 デレーヌが大急ぎでクロースルの声のした方へ向かうとそこにはデレーヌより先に到着していた3号と以前にゴーツが見せた見本そっくりのプラシーを手にしたクロースルの姿があった。

 

「よかったですね。デレーヌさん!」

 

「……」

 

 3号がデレーヌに声を掛けたがデレーヌは無言だった。

 

「……デレーヌさん?」

 

「…………よかった、本当によかった~!」

 

 感極まったデレーヌは思わず叫んだ。そしてすぐさまプラシーを原料にした勇気の薬プラセボの生成が始まった。

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