ホムンクルス、ついに買われる!~爆乳専門店の元・売れ残り~   作:ツインテスキー

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3-8 ホムンクルス、ついに買われる!!(完)

「3号よ。改めて聞いておくがクロースルとホムホム、そのどちらに買い取られたいかの答えは出たかの?」

 

「……すみません、決められませんでした」

 

 朝、メモリアの広場に集まった観衆の中心にはゴーツ、クロースル、ホムホム、そして3号の四人がいた。

 そしてゴーツが3号に対して昨日と同じ質問をしたが、3号の答えは昨日と同じだった。彼女は一晩中そのことについて悩んだが、結局答えを出すことは出来なかった。

 

「まあ、事が事じゃからな。仕方があるまい。そしてこういう時のためにこの町には決闘があるのじゃから」

 

 答えを出すことの出来なかった3号にフォローを入れたゴーツは、クロースルとホムホムへと向き直った。

 

「さて、3号の意思確認は済んだが両者決闘の前に何かしたいことはあるかの?」

 

「……すみません。決闘の前に少しだけ3号さんと話をしてもいいですか?」

 

 ゴーツが決闘前にしておきたいことを尋ねるとクロースルは、3号との話を要求した。

 

「昨日は3号がホムホムとところへ行ったきりじゃったからな。儂はいいぞ。ホムホムと3号はよいかの?」

 

「はい」

 

「いいですわよ」

 

 昨日からまともに話も出来ていなかったため、クロースルの要求をその場の全員が呑み込んだ。

 

「ただ、決闘までの時間が惜しいので、なるべく短めで頼むぞ」

 

 ゴーツが指を弾くと、クロースルと3号の周囲を黒い結界が取り囲み、外からでは中の様子は分からなくなった。

 

「……3号さん」

 

「クロースルさん、すみません! あなたは私のためにこれまでずっと大変な思いをされていたのに私はあなたのことをすっかり忘れていました」

 

 言葉を言い淀んだクロースルが次の言葉を続けるよりも早く、3号は昔会ったことを忘れていたことを謝罪した。

 

「いや、いいんだ。あの時の事は自分ながらに無茶を言ったと思うし、会ったのもあれきりだった。だから覚えていなくても仕方ないし、見た目も全然違うから気づかなくたって仕方ないよ」

 

 謝られることにクロースルはひとまず3号をなだめた。

 

「……自分はあの時、君をかわいいと思ったし、君が欲しいと思った。その気持ちは今になっても変わらない」

 

「クロースルさん、私……」

 

「……と、悪いがそろそろ決闘を開始したいのじゃがよいじゃろうか?」

 

「……」

 

「……分かりました」

 

 3号が何かを言いかけたが、そこで決闘前の二人きりの会話は中断されることになった。

 

「…………さて、それでは時間も丁度良いので決闘を始めようとしよう。クロースルVSホムホム。決闘開始!!」

 

 話し合いの結界を解除したゴーツは早々に決闘空間の準備を開始した。そして準備を終えるとすぐさまクロースルとホムホムを決闘空間へと転送した。

 

____________________

 

 

「……ここが決闘空間ですか。思っていたより違和感がありませんのね」

 

「ああ、元の空間に干渉しないのと戻る時には何もかも元に戻る以外は現実と変わらない」

 

「そうですか」

 

 決闘空間内の感覚を確かめるホムホムとそれに補足するクロースル。二人は言葉を交わしながらも戦闘態勢を崩さなかった。

 

「始める前に少しだけお話をしてもよろしいでしょうか?」

 

「別に構わない」

 

「ではお言葉に甘えて頂きます」

 

 クロースルの返答にホムホムは、スカートの裾を摘まみながら丁寧にお辞儀をした。

 

「8年前、お姉様を買ってくださるといっていただきありがとうございました。忘れられていましたが、一時とはいえあなたの言葉がお姉様の救いになったのは確かです」

 

 ホムホムの言う通り、クロースルの言葉がなければ3号の精神はもっと早くに限界に達していた。そのためホムホムはクロースルに対してとても感謝をしていた。

 

「それに加えてあなたやこの町の皆さまのおかげでお姉様は変わられました。その事にも大変感謝をしております」

 

「そうか。それは良かった」

 

 ホムホムの続く言葉にクロースルは静かに頷いた。

 

「ですが、お姉様を一番に想っているのは私です。お姉様が欲しいというのならば、私を倒していきなさいませ!」

 

 そう言うとホムホムは一転、戦闘態勢を取った。

 

「……もちろんだ」

 

 そしてそれに合わせてクロースルの道具の持つ手にも力が入った。

 

「いくぞ!!」

 

「ええ!!」

 

 そしてついに3号を巡る二人の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「くらえっ!」

 

 先手を打ったのはクロースルの方だった。ホムホムが接近するよりもクロースルの爆弾が早く、そのままクロースルは絶え間なく爆弾を投げ続けた。

 

「……どうだ?」

 

 爆弾を息切れするほど投げ続けたクロースルは、爆弾による黒煙をじっと見つめていた。クロースルが投擲した爆弾の総量は下手な建造物であれば跡形もなく消し飛ばせる程の火力だった

 

「……もう終わりでしょうか?」

 

「……!?」

 

 しかし、煙が晴れるとそこには少しメイド服が汚れた程度でほとんど無傷のホムホムが立っていた。それは決着がつかないまでも、多少のダメージは与えたと思っていたクロースルにとって予想外のことだった。

 

「すみませんが私も色々と使わさせていただきました」

 

 ホムホムがクロースルの絨毯爆撃を防ぐのに使った道具は、ゴーツに喧嘩を売る可能性から持ち込まれた代物で、本来は対個人で使うようなものではなかった。しかし、クロースルの過剰な物量攻撃には少々足りないくらいだった。

 

「それでは今度はこちらから行きますわよ!」

 

 その直後、ホムホムは全速力でクロースルに詰め寄った。

 

「はあ!」

 

「……くっ!」

 

 ホムホムの障壁を纏った拳がクロースルに迫り、クロースルはそれをいつもの近接用の鉄棒で受け止めた。しかし、ホムホムの圧倒的な膂力の前に鉄棒は弾き飛ばされてしまった。

 

「さあ、さあ、受けるだけで精一杯ですか?」

 

「……ぐっ!」

 

 そのままホムホムは素手になってしまったクロースルに、体格差を活かした上からの絶え間ない攻撃を浴びせ続けた。クロースルの肉体は決闘前に服用していた肉体強化のポーションで強化されていたものの、防戦一方になるしかなかった。

 

「いい加減終わらせて差し上げますわ」

 

 ダメージをくらいながらも耐え続けるクロースル相手にホムホムは止めを刺そうと拳を大きく振りかぶった。

 

「これでお終い……⁉」

 

 渾身の右ストレートを繰り出そうとしたホムホムだったが、その途中で突如バランスを崩した。

 

「くらえっ!」

 

「……ごはっ⁉」

 

 ホムホムがバランスを崩したところにクロースルは渾身のカウンターを叩き込んだ。ホムホムはそれを障壁による防御も間に合わず、まともにくらってしまった。

 

「……いきなりどうして」

 

 ダメージを受けたホムホムは体勢を戻すためにクロースルから一旦距離を取ったが、ダメージ以上に体に違和感があった。

 

「……ようやく効きてきたみたいだな」

 

「あなた、まさか毒を……」

 

 一方でクロースルは息を整えながらホムホムの様子を見て笑っていた。それによってホムホムは先ほどの爆弾投擲の中に毒が紛れていたことに気がついた。

 

「ああ、解毒剤が効くギリギリまで使ったのにホムンクルスには効果がないのかと焦ったよ」

 

 クロースルが使った毒は人間では一分もせず倒れる程度には強力なものだった。しかし、ホムンクルスであるホムホムには効きが悪く、多少ふらつく程度のものだった。

 

「……やってくれましたわね」

 

「軽蔑したかな」

 

「いいえ、お姉様のためだというのであれば仕方ありませんわ。ですがそのボロボロの体でどこまで戦えますかね!」

 

「やってやるさ!」

 

 状況確認を終えたホムホムは改めて攻撃を再開した。

 

「……くっ⁉」

 

「……がっ⁉」

 

二人の二度目の激突は両者痛み分けだった。

ホムホムは毒の影響に加え、先ほどのクロースルの一撃のダメージを引きづっていた。しかし、対するクロースルもホムホムの連続攻撃によって疲弊していた。

 

「このっ!!」

 

「まだまだ!!」

 

 ダメージを受けた二人だったが、お互い臆することなく戦闘を続けた。

最初は攻撃を受ける、躱すなどの選択肢をある程度取れていた二人だったが、次第に疲弊からほとんどノーガードの殴り合いへと変わっていった。

 

____________________

 

 

「二人ともよく立っていられるな」

 

「勝ってくれよ、ホムホムちゃん」

 

「勝ってくれよ、クロースル」

 

「この状況で賭けの心配するってどうなのよ」

 

「らしいといえばらしいけどな」

 

「女神の抱擁は如何に……」

 

「ホムホムといったか。素晴らしい肉体だがあれ以上鍛えることが出来ないとは嘆かわしい」

 

「ホム……」

 

「お二人とも凄い剣幕ですね」

 

「ああ、二人ともよくやるぜ」

 

 ホムホムとクロースルが泥臭い戦いを繰り広げる中、現実空間にいる観客達はそれを様々な思いで見つめていた。

 

「ねえ、デレーヌ。クロースルくんは勝てると思う?」

 

 そんな中、ケフェッチは隣にいるデレーヌに勝敗予想を尋ねた。

 

「……どうだろうな。お互いダメージが大きいし、どっちもいつ倒れてもおかしくない」

 

 デレーヌの察しの通り、二人の肉体は限界寸前でほとんど根性だけで立っているようなものだった。

 

「……そう。クロースルくんには勝ってほしいけど、なんていうかあのホムホムって子にも負けて欲しくはないんだよね」

 

 ケフェッチは付き合いの長さからクロースルの方を応援していたが、ホムホムの事情と戦っている姿からどちらにも負けて欲しくないという感情を抱いていた。

 

「……お前らしいな」

 

 相変わらず優しくて甘すぎるケフェッチにデレーヌは顔を緩めた。

 

「っと、ちゃんと見届けてやらないと……ん?」

 

 デレーヌが緩んだ顔を直すため、仕切り直しに顔を軽く振るとそこには戦う二人を見てハラハラした表情をしている3号の姿があった。

 

「3号、二人が戦っている姿を見るのはつらいか?」

 

 3号の様子が気になったデレーヌはそのまま3号へと話しかけた。

 

「……デレーヌさん。確かにそれもあるんですけど……私、まだ悩んでいて……クロースルさんもホムホムも私のために頑張ってくれて……そのどちらかを選ぶ。いえ、どちらかを切り捨てることなんて出来なくて……」

 

 デレーヌの言葉に3号はたどたどしく心境を吐露した。3号にとってクロースルもホムホムも大事な相手で、そのどちらかの思いを無下にすることは出来なかった。

 

「……3号。お前は優しすぎる」

 

 3号の言葉を聞いたデレーヌは小さなため息をついた。

 

「どういうことですか?」

 

「お前が二人を傷つけたくないいと思う優しさはお前のいいところだ。だけどたまには自分の気持ちに素直になってみろ」

 

「……自分の気持ちに素直に、ですか?」

 

 3号はデレーヌの言葉を復唱した。

 

「ああ、そうだ。お前が一緒にいたいと思ったのはどっちだ?」

 

「……一緒にいたい、ですか」

 

「ああ、恐いかもしれないけど一歩前へ踏み出してみろ。……まあ、薬に頼った私にこんなことを言う資格はないかもしれないけどな」

 

「いえ、そんなことありません」

 

 続くデレーヌの助言には薬に頼った自虐が混じっていた。しかし、それが薬の力ではないと知る3号はそれを強く否定した。

 

「そうか? まあ、それは良いとして3号。改めて考えてみろ。クロースルとホムホム、そのどちらと一緒にいたいか。そうすれば答えは出るはずだ」

 

「……はい!」

 

 デレーヌの言葉に3号は改めて考え始めた。

 

____________________

 

 

「……はあ、はぁ。いい加減限界じゃありませんこと?」

 

「……なんの、3号さんのためならまだまだ」

 

 3号が答えを出そうと思案する中、決闘空間では十数分も殴り合ったホムホムとクロースルはお互い満身創痍だった。

 

「「……3号(お姉様)は俺(私)の物だー(です)!!」」

 

 二人は3号への想いを叫びながら、残っていた全身全霊の拳を繰り出した。

 

「がっ……」

 

「ぐっ……」

 

 激突の結果は相打ちで、力を使い果たした二人ともその場に倒れこんだ。

 

「……まだだ、まだ」

 

「……お姉様」

 

 二人は立ち上がろうとしたが、なかなか立ちあがることが出来ずにいた。

 

『クロースルさん!』

 

 そんな時、本来聞こえないはずの3号の声が決闘空間内へと届いた。3号が悩みぬいた末に選んだのはクロースルだった。

 

もっともこれはクロースルが3号を想う気持ちがホムホムと遜色のないほど強く、ここまで粘ったからに他ならなかった。

 

「……3号!」

 

「……お姉様」

 

 その声にクロースルはなんとか気力を振り絞って立ち上がり、ホムホムは完全に力を失い地に伏せた。

 

「決着―! 勝者はクロースル!」

 

「うおおおお!」

 

「しゃあ!」

 

「……良かった」

 

「ホム!」

 

「うむ、両者いいおっぱいであった!」

 

 決闘の決着と同時に現実空間に戻って来た二人に観客達は大きな声援を浴びせた。

 

____________________

 

 

「ホム、大丈夫?」

 

 決闘終了後、傷は治ったものの精神的に満身創痍で倒れたままになっているホムホムの元へと3号は駆けつけた。

 

「ああ、お姉様。お見苦しいところを見せてしまってすみません」

 

 3号に謝りながら、ホムホムはゆっくりと起き上がった。

 

「……謝るのは私の方よ。どっちにも負けて欲しくなかったけど、最後にクロースルさんの方を応援しちゃったの」

 

「ああ、それでしたら知っていますよ。その声は私たちにも聞こえていましたから」

 

「え!? そうなの。それじゃあホムが倒れたのは……」

 

「……まあ、あれが決め手といえばそうですけど、実際に私の体は限界でした。だからわざと負けたわけではありません」

 

「……そう」

 

 ホムホムは詳細を語ったが、それでも3号にはまだ後ろめたい気持ちがあった。

 

「それより私に構う時間があるならあちらにも声を掛けに行ってくださいな。せっかく現れたご主人でしょう?」

 

「……ホム。ありがとう」

 

 ホムホムの言葉に3号は頭を下げると、人だかりに囲まれたクロースルの元へと向かった。

 

「……やれやれですわ」

 

「なあ、ホムほんまにこれでよかったんか? まだやろうと思えば色々とやれるで」

 

 3号が離れたのを見計らって、ミナミがホムホムに声を掛けた。

 

「いいですわよ。お姉様が私を選んで下さらなかったことについては残念ですけど、お姉様が長年待ち望んだご主人様ですのよ。邪魔をしてはいけませんわ」

 

「……そうか」

 

 ホムホムの寂しさと嬉しさが同居した表情を見たミナミは一つの考えを決意した。

 

「よし、そうと決まればサブ……いや、ゴーツはんに……」

 

「儂に何か用かの?」

 

 ミナミがゴーツを探しに行こうとした途端、ミナミ達の隣にゴーツがするりと現れた。

 

「うわ、でた」

 

「人のことを化け物のような扱いは感心せぬぞ」

 

「いや、ゴーツはん。その言動で嫌われへん方が無理あるで」

 

「まあのう。それより話があるならこんなところでなく屋内でせぬか?」

 

 ゴーツは役場の方を指さした。

 

「……本当にいけ好かんなあ。まあ、ええわ。ホムも疲れてるところ悪いけど一緒に来てや」

 

「付いていくのはいいですけど、どういうことですの?」

 

「何、行けば分かる」 

 

 そういってゴーツが指を弾くと転移の魔法陣が現れ、3人はその場から姿を消した。

 

____________________

 

 

「やったな。クロースル」

 

「よくやったぞ。クロースル。信じてたぜ」

 

「ホムホムちゃんが勝つと思ったんだけどなあ。くそ~……」

 

「……お前ら、賭けの話はよそでやれよ」

 

「やったじゃねえか!」

 

「クロちゃん、おめでとう~。これからはクロちゃんと3号ちゃんと三人でしましょう~♡」

 

「おい待て」

 

 少し時間が戻り、決闘直後。決闘に勝利したクロースルの周囲には人だかりが出来ていた。

 

「ところで3号さんは?」

 

「クロースルさん!」

 

 クロースルが3号を探しているとちょうど、ホムホムのところから3号がクロースルのところまで駆けつけた。

 

「……3号さん」

 

「クロースルさん、ホムから聞いたんですけど最後に私の声が聞こえたというのは本当ですか?」

 

「聞こえたよ。やっぱり幻聴じゃなかったんだね」

 

 3号の質問にクロースルはゆっくりと頷いた。

 

「……ふむ、3号の声が届いたとは仕様上それはないはずなのじゃがこれも二人の気持ちのなせる技じゃな」

 

「いや、絶対そこだけ通るように細工したでしょ」

 

「そこは分かっていても黙っておくところじゃろう」

 

 話を聞いたゴーツが一人呟いたが、がそこへエローナが茶々を入れた。実際、3号の声が届いたのはゴーツの仕込みだった。

 

「……まあ、そんな気はしていました。あれ、自分だから素通ししたんですか?」

 

「いや、3号がお主かホムホムどちらかを選んだ場合に通るようにしておった。流石にそこまで不正を働く気はない」

 

「そうですか」

 

 ゴーツにとって今回は3号が自分の意志を出せるようになって欲しかったのが本題で、選ぶ相手自体はどちらでも構わなかった。

 

「それよりこれで晴れて3号はお主のものじゃ。好きにするがよい」

 

「「……はい!」」

 

 ゴーツの言葉にクロースルと3号は笑顔で応えた。こうして3号はゴーツの手からクロースルの手へと移ることとなった。それからメモリアではクロースルの勝利を祝う……というよりそれに便乗する形で大々的な宴が行われた。

 

____________________

 

 

「……ふう、ようやく片付いた」

 

「大分スッキリしましたね」

 

 決闘の次の日、クロースルと3号はクロースルの倉庫の片づけを行い、クロースルの道具作成に使う材料と器具と作られた道具で溢れていた空間は大分すっきりした。

 

「ごめんね、3号さん。片づけを手伝ってもらって」

 

「いえ、今日から私も住むので当然のことです」

 

 3号に感謝を述べるクロースルに3号は笑顔で返した。昨日から主従関係であり恋人関係になった二人は、今日から早速同棲を始めることになった。

 

「「……」」

 

 しかし、片づけを終え、そのことを改めて意識した二人はこれからのことを想像し、お互いに顔を赤くし無言になった。

 

「……あ、あの!」

 

「な、なに? 3号さん」

 

 先に沈黙を破ったのは3号の方だった。その3号らしくない口ぶりにクロースルは焦りながら聞き返した。

 

「名前。番号の3号でなく名前で呼んでくださいませんか?」

 

「どうしてそのことを……いや、絶対にゴーツさんだな」

 

 3号の望みは改めて新しい名前をつけて欲しいということだった。そして長年、3号に付ける名前を考えていたクロースルは焦りながらゴーツの顔を思い浮かべた。実際、その予想は当たっており、3号に名前のことを漏らしたのはゴーツの仕業だった。

 

「……まだまとまっていなかったでしょうか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 

 3号の言葉にクロースルは言葉を濁した。クロースルは3号に名付けたい名前を何年も前から決めていた。

 

「……嫌だったら正直に嫌と言ってほしいんだ」

 

「了解しました」

 

 かしこまるクロースルに3号は小さく頷いた。

 

「……ロウリィ、小さな女の子って意味なんだけどやっぱり嫌だよね?」

 

 クロースルは何年も温めていた3号への名前を伝えた。その由来からクロースルは、他の名前に変えた方がいいか迷ったものの結局他の名前が思いつかなかった。

 

「ああ、そういうことだったんですね」

 

 名前を聞いてクロースルの内心を理解した3号はほっと一息ついた。

 

「大丈夫ですよ、クロースルさん。クロースルさんに悪気がないことは分かっていますし、ここで暮らしていてこの体も悪くないと思えてきたので」

 

 ここ数日で自身への自虐心の消えた3号は、自身の小さな体のことも受け入れられるようになっていた。

 

「3号さ……」

 

「ロウリィ、ですよね?」

 

3号は喋るクロースルの口を人差し指を当てて黙らせると、名前の呼び直しを要求した。

 

「……うん、改めてよろしく。ロウリィ」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします。クロースルさん」

 

 クロースルの言葉に3号、改めロウリィは満面の笑みで返した。そしてその直後、倉庫の扉が思い切り開かれた。

 

「「……⁉」」

 

「お姉様、お義兄様、おめでとうございますわ~!」

 

 ロウリィとクロースルが驚く間もなく、突撃してきたホムホムによって二人はまとめて抱き着かれた。

 

「へ、ホム? あなた、ミナミ様と帰ったんじゃ?」

 

「お義兄様⁉」

 

 ロウリィはミナミと一緒に実家に帰ったと思っていたホムホムがいたことに驚き、クロースルはそれに加えてお義兄様と呼ばれたことに驚いた。

 

「色々と交渉してこの町との交易ルートを確保しましたの♪  それでその調整を兼ねてミナミは一旦実家に戻りましたが、その間私はここで休暇をいただくことになりました~♪」

 

 抱き着いたままホムホムは二人に事情を説明した。ホムホムが二人に伝えた通り、決闘後に行われたゴーツを交えた交渉によってミナミがこの町での交易をすることとなり、その調整が終わるまでの間ホムホムはメモリアで過ごすことになった。

 

「なるほど」

 

「はい! これでロウリィお姉様としばらく一緒にいられますし、それが終わった後でも月に数回はこちらに顔を出せますわ」

 

「……あれ、ホム。その名前どこで」

 

 喜ぶホムホムに対し、ロウリィはいつの間にか自分の新しい名前が知られていることに気がついた。

 

「……あっ、そこ! そんなところで何をしてるんですか?」

 

 そして次の瞬間、クロースルが倉庫の外で中の様子を見ている者の存在に気がついた。

 

「いや~、見つかってしまったか」

 

「みんなで一緒にここから中の様子を見てたの。クロちゃん、ニーナちゃん。おめでとう!」

 

「本人がいいならこれ以上は言わないけど私としてはその名前どうかと思うぞ、クロースル」

 

 存在が露見したゴーツはいつもの魔法の玉を掲げ、エローナは二人を祝福し、デレーヌはクロースルへの本音をぶつけた。

 

「……そういうことでしたか」

 

「エローナさん達は分かりますけどデレーヌさんまでですか?」

 

 クロースルとロウリィは覗きに対して呆れたため息をついた。

 

「お前達だって私とケフェッチとのを見たからお相子だ」

 

「……ゴーツさんに聞いたんですね。まあ、そう言われると何も言えませんね」

 

 デレーヌの反論に返せなくなったクロースルは素直に降参した。

 

「お姉様~、大好きです~♪」

 

「ちょっ、ホム。圧し掛かるのはやめてってば⁉」

 

 そして一方では、ホムホムがニーナにじゃれついていた。

 

「これにて一件落着ね」

 

「ああ、丸く収まって何よりじゃ」

 

 少し離れた場所で、エローナとゴーツがその光景をほほえましく見守っていた。

 

 こうして売れ残りのホムンクルスだった3号、改めロウリィは長年のコンプレックスを乗り越え、クロースルや周囲と共に暮らしていくことになった。

 

 この後、ハーゲンがファンの実家に挨拶に行ったり、デレーヌとケフェッチの間に双子が生まれたり、クロースルがチモックに弟子入りして次世代型ホムンクルスの発展に貢献したりするのだがそれはまた別の話。

 




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