ホムンクルス、ついに買われる!~爆乳専門店の元・売れ残り~   作:ツインテスキー

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1-5 大浴場

「……というのがダッツ帝国事変のあらましでこれを機にハーゲン様の名前は一躍有名になりました。続いて……っと、もうこんな時間ですか。すみません、つい語り過ぎてしまいました」

 

 ファンによる傭兵ハーゲンの武勇伝は数時間続いても勢いは全く衰えていなかった。しかし、現在の時刻に気づいたファンは話を切り上げた。

 

「いえ、ファンさんのことを知れてよかったです」

 

 頭を下げるファンに3号は純粋に感謝を述べた。3号にとって傭兵という未知の世界はとても興味深く、その内容も洗練されていた。

 

「それならよかったです。また一人ハーゲン様のことを知る人が増えました」

 

「ファンさんはハーゲンさんのことが大好きなんですね」

 

 ファンのハーゲンを語る様子から3号は彼女が傭兵ハーゲンのことを心から好きなことが理解できた。

 

「ええ、それはもう。私はハーゲン様のお嫁さんですから」

 

「……どういうことですか?」

 

 しかし、ファンから出た予想外の言葉に3号は思考が停止しかけた。

 

「言葉通りの意味です。今から9年と45日前、一人で森に入って熊に襲われた私を通りすがりのハーゲン様が助けて下さったんです。それから私はハーゲン様のお嫁様になると約束したんです!」

 

 3号の質問にファンは当時のことを思い浮かべながら熱く語った。その表情はまるで純粋無垢な少女ようだった。

 

「そ、そうですか。あの、失礼かもしれないですけどファンさんはおいくつでしたか?」

 

「私ですか? 私は16歳です」

 

 3号がファンに年齢を聞くと、それがどうかしましたかといった調子でファンは自らの年齢を答えた。

 

「ちなみに当時のハーゲンの年齢は28歳じゃから今だと37歳になるな」

 

 更にそれに補足する形でゴーツが話に加わって来た。

 

「……今、ハーゲンさんはどうしていらっしゃるんですか?」

 

 3号は止まりそうな思考をなんとか堪えながらハーゲンの現状について尋ねた。

 

「それがハーゲン様は8年と128日前に消息を絶たれていらっしゃるんです」

 

「えっ、それじゃあ……」

 

「はい、世間ではその時に亡くなられた扱いになっています。ですが私は確信しています。ハーゲン様は生きていらっしゃると、そして成長した私と結婚してくださると!」

 

 ファンはハーゲンの生存と婚約を確信し、希望に満ちた声で語った。

 

 ちなみに一時的にこの町にハーゲンがいるという噂が流れたらしく、ファンはそれを聞いてこの町にやって来たのじゃ。まあ、噂は噂じゃったようじゃがな」

 

「……あの時はハーゲン様と再会できると思っていたのですが残念でした」

 

 更にゴーツはファンがこの町に来た理由を補足した。結局、ハーゲンはこの町にいなかったが半ば家出同然で実家を出た彼女はそのまま町に居ついていた。

 

「そうでしたか。ハーゲンさんに会えるといいですね」

 

「はい! ありがとうございます」

 

 同情する3号の手をファンは強く握りしめた。

 

「それじゃあいよいよお風呂ね!」

 

 話が一段落したところを見計らい、ファンと3号の後ろにあった机の裏からユウリが現れた。

 

「ユウリさん、こんな時間までいらっしゃったんですか」

 

「当たり前よ。3号ちゃんとお風呂が一緒できるならいつまでだって待つわ。それにハーゲン語りをしているファンちゃんもかわいいしね」

 

 ユウリが机の裏に潜伏していたのは3号と一緒に浴場に行こうと考えてのものだった。

 

「見世物ではありませんし、私はハーゲン様だけのものですよ」

 

 基本的におおらかな性格のファンも性欲全開のユウリに対してはあたりがきつめだった。

 

「そうなのよね。本当にこんなかわいい子ほっぽり出して一体どこで何してるんだか?」

 

「とりあえずいい加減酒場を閉めてよいか?」

 

「そうですね。長い間すみませんでした」

 

ファンはユウリの話を無視して、ゴーツへと長時間酒場で語っていたことの謝罪をした。

 

「よいよい。儂もお主のハーゲン語りの顔には癒されておるからの」

 

「それならいいんですけど」

 

「……ひどい差別を感じる」

 

「日頃の行いの差じゃ。それじゃあ今日はもう閉店。皆、大浴場へ行ってゆっくりと休むといい」

 

 ユウリの愚痴を軽くあしらうとゴーツは閉店の宣言をした。そのためゴーツ含む四人は役場の外へと出た。

 

「ではまたな」

 

 四人全員が役場の外に出るとゴーツは指を弾いた。すると役場の扉が閉じ、灯りも消え、ゴーツ本人も煙のように姿を消した。

 

「おやすみなさいませ。ゴーツさん」

 

 3号は役場に向かって丁寧に頭を下げた。

 

「それじゃあ3号ちゃん行くわよ」

 

「あれが大浴場ですか?」

 

「そうよ。中々立派でしょ」

 

「はい、思っていたよりも大きいですね」

 

 3号がユウリの向いた方へ振り向くと、そこには夜だというのに灯りのついた巨大な建物が建っていた。それこそが今から3号たちが向かう大浴場だった。

 

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「さあさあ、早く入りましょう。入りましょう」

 

「ユウリさん。あまり変なことはなさらないでくださいね」

 

「大丈夫、大丈夫。追い出されない程度には抑えるから」

 

「はあ……3号さん、もう遅いですし早く入りましょう」

 

 酒場から歩いて数分、3号とファンの二人はユウリに押される形で大浴場の中へと入った。大浴場に入ってすぐは開けた作りになっており、そこから先は暖簾のかかった3つの行き先に別れていた。

 

「あっ、いらっしゃい。こんな時間までお疲れさ……」

 

 大浴場入り口直ぐで番頭をしていた細身の金髪の男性が3人に気づき声をかけて来た。しかし、その直後男性は血相を変えて3号の前まで駆け出した。

 

「もしかしなくても君が今日来たっていうホム……なんだっけ? の女の子かい?」

 

「はい。ホムンクルスの3号と言います。これからよろしくお願いします」

 

 興奮気味の金髪の男性に3号は物怖じせず丁寧に挨拶した。

 

「……」

 

「……どうかされましたか?」

 

 金髪の男性は、ただ無言に3号のことを食い入るように凝視していた。

 

「大丈夫。割といつものことよ」

 

「3号さんの髪は綺麗ですからね」

 

「髪、ですか?」

 

 3号が不安になってユウリとファンの方を向くと二人からはそこまで心配しなくていいという風の返事が返って来た。そしてその言葉が気になった3号は何気なく自分の髪へと触れた。

 

「そう、髪! 人工的に作られたホムンクルス? の髪と聞いてどんなものかと思っていたけどこれは凄い。想像以上だ! 僕はあまり魔法とか錬金術については詳しくないけどこの髪には並々ならぬ情熱を感じる」

 

 3号が自らの髪に触れた瞬間、金髪の男性は興奮気味に彼女へと話しかけてきた。

 

「そ、そうですか」

 

 3号は金髪の男性の勢いに押され気味であったが、自分の髪が褒められたことは自身の制作者であるチモックが褒められたということでもあるため内心喜んでいた。

 

「うんうん。出来れば直接触らせてもらっても……」

 

「はい、そこまで」

 

 金髪の男性は震える手で3号の髪に触れようとしたが間にユウリが割り込んだ。

 

「あんまりやるとデレーヌさんに言いつけるわよ」

 

「……そうだね。さっきも釘を刺されたところだし……ユウリくん、止めてくれてありがとう」

 

「本当しょうがないわねえ」

 

 金髪の男性はユウリに止められたことで落ち着き、ユウリへと頭を下げた。

 

「3号くんもごめんね。君の髪があんまり綺麗だったからつい気になってしまって、気持ち悪かったでしょ?」

 

「いえ、特に気にはしていないので大丈夫です。それに、触りたいのであれば私は構いませんけど」

 

「本当かい!」

 

 3号の言葉に再び興奮状態になった金髪の男性は3号の両肩を掴んだ。

 

「だから止めなさいって」

 

「あいたっ」

 

 懲りない金髪の男性の背中をユウリは思い切り叩いた。それにより男性は情けない声を上げた。

 

「本人がいいっていってるのに駄目なのかい?」

 

「3号ちゃんがいいならいいけどがっつきすぎなのよ。髪もだけど本人にも優しくしなきゃ」

 

「……ああ、確かにそうだ。何度もごめんね。3号くん」

 

 ユウリの正論に金髪の男性は3号に対して、再び頭を下げた。

 

「いえ、確かに少しびっくりはしましたけどそんなに気にせず大丈夫ですよ。なのでどうぞ」

 

 金髪の男性の真摯な様子から3号は改めて髪に触ることへの許可を出した。

 

「それじゃあお言葉に甘えて……」

 

 金髪の男性がチラリとユウリの方を向くとユウリはため息をついた。

 

「分かったわよ。でも次、変なことやったら今度は本気でいくわよ」

 

「……気をつけます」

 

 金髪の男性はユウリの言葉に気を引き締め、ゆっくりと3号の髪に触れた。

 

「……ふむ、見た目も凄いけどこの肌触り……人形とかに使われるようなものとは全然違う。限りなく本物に近い……」

 

 3号の髪に触れた金髪の男性は、真剣な表情で3号の髪について評価を始めた。

 

「ユウリさん、よく許しましたね」

 

「だって今止めちゃうと私が3号ちゃんの髪に気安く触れなくなっちゃうでしょ」

 

「……そういうことですか」

 

 その最中、ユウリの下心ある思惑にファンはため息をついた。

 

「……あの、ファンさん、ユウリさん。今更なのですが一つお聞ききしてもいいでしょうか?」

 

「どうしましたか?」

 

「どうしたの、3号ちゃん?」

 

「この方は一体どういった方なのでしょうか?」

 

 3号は今も自らの髪を堪能している金髪の男性について尋ねた。

 

「……髪好きな変わった人ですね」

 

「変わったというか変態でいいと思うのよね。ああ、名前はケフェッチっていってこの大浴場の番頭の一人よ」

 

「……ん~、最高♪」

 

 勝手に紹介された金髪の男性、ケフェッチだったが3号の髪を触って満足しているその姿は紹介内容通りという他なかった。

 

「ケフェッチさん、ですか。番頭の一人ということは他の方もいらっしゃるんですか?」

 

「はい。大体はゴーツさんかケフェッチさんですけど」

 

「そうですか」

 

「……ふう。ありがとう。とてもよかったよ。あっ、このことはデレーヌには内緒にしておいてもらえるかな」

 

 3号の髪を存分に堪能したケフェッチは、3号たちに口止めを申し込んできた。

 

「いいわよ」

 

「まあ、それぐらいなら」

 

「すみません。私、デレーヌさんという方をまだ知らないのですがどんな方でしょうか?」

 

 口止めに対してユウリとファンはいつものことなので了承した。しかし、3号はデレーヌのことを知らなかったため申し訳なさそうにデレーヌのことを尋ねた。

 

「デレーヌさんは白い髪の女性ですから見ればすぐに分かると思います」

 

「白い髪ですね。了解しました」

 

 ファンはデレーヌの最大の特徴である白い髪に伝えると3号はゆっくりと頷いた。

 

「いいよね。デレーヌの白い髪」

 

「……また始まった」

 

 一方でまた髪の話をしようとするケフェッチにユウリは呆れていた。

 

「とにかく私もデレーヌさんには先ほどのことが伝わらないよう気を付けますね」

 

「ありがとう。3号くん。それにユウリくんにファンくんも」

 

 口止めを了承してくれた三人へとケフェッチは頭を下げた。

 

「デレーヌさん怒ると怖いしね」

 

「そうなんだよね。怒ると髪に悪いのに」

 

「いや、悪いのはあんたでしょ」

 

「……うん、そうだね」

 

 ユウリの正論にケフェッチは苦笑いを浮かべた。

 

「長くなっちゃったけど入りましょう」

 

「そうですね」

 

「あっ、待って。3号くんは初めてだから最低限の説明はしておくね。ここは男湯と女湯と個室に別れていて、男湯女湯は一日一回無料で二回目以降は200G、個室は一回1000Gになっているんだ」

 

 ケフェッチは女湯に向かう三人を引き留めて大浴場に関する説明を始めた。ケフェッチの説明通りこの先の三つに分かれた通路の左右はそれぞれ男湯と女湯、そして中央の個室に続いていた。

 

「男湯女湯は分かりますけど、個室もあるんですか?」

 

「うん。この町には色々と事情がある人たちもいるからね。そういう人たちのために個室が作られたんだ」

 

「それじゃあ私と3号ちゃんで個室をつかってもいいかしら?」

 

「え、ユウリさん。それはどういう?」

 

「ユウリさん。ゴーツさんに無断で手を出したらこの町から追い出されかねないですよ」

 

 ユウリの思惑に気づいたファンは呆れながらユウリへと釘を刺した。

 

「冗談よ。冗談。今日は女湯に一緒に入れるだけでよしとするわ。行くわよ。3号ちゃん」

 

「は、はい」

 

「二人とも待って下さ……」

 

 風呂場へと先行するユウリと3号に続こうとしたファンだったが途中で足を止めた。

 

「どうかしたのかい?」

 

「もし何かあったら叫ぶのでゴーツさんを呼んでください」

 

 ファンが立ち止ったのはユウリが何かやらかした時の保険の話だった。

 

「ああ、そういう。でも今日は大丈夫だと思うよ」

 

「どういうことですか?」

 

「今日は個室が埋まっていたから女湯にはデレーヌが入ってるんだ」

 

「それなら安心ですね。それでは一風呂いただきます」

 

「どうぞ、ごゆっくり~」

 

 ファンはケフェッチに一礼すると足早に脱衣場に向かい、ケフェッチはそれをにこやかに見送った。

 

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「脱衣所も広いですね」

 

 女湯の暖簾をくぐった先の脱衣所は広く、衣類を入れる籠やタオル等が数十は設置されていた。

 

「3号ちゃん、脱いだ服はここにいれておいてね」

 

「はい。……この魔法陣はなんですか?」

 

 3号がユウリの指示した籠を覗くと籠の底には小さな魔法陣が描かれていた。

 

「それは浄化の魔法陣ね。お風呂に入っている間に服の汚れを取ってくれるわ」

 

「そういうことでしたか。ありがとうございます」

 

 既に脱いでいる途中のユウリに続いて、3号も服を脱ぎ始めた。

 

「すみません。遅くなりました」

 

 3号が服を脱ぎ始めてすぐ、ファンが脱衣所へと入ってきた。

 

「ファンちゃん、遅かったけどどうかしたの?」

 

 そんなファンを出迎えるユウリは既に全裸で豊満な胸部と筋肉質な肉体を隠すことなく堂々としていた。

 

「いえ、特には。それより服を脱ぐの早すぎませんか?」

 

「待ちに待った。お風呂の時間だしね! さあ、ファンちゃんも脱いで、脱いで!」

 

ユウリは鼻息を荒くしながらファンに早く脱ぐよう促した。

 

「そんなに急がなくてもいいじゃありませんか……」

 

 ため息交じりにファンも服を脱ぎ始めた。すると身長のせいかユウリ以上に大きい双丘が露わになった。

 

「ファンちゃん、前より大きくなってない?」

 

「確かに大きくはなっていますがいやらしい目で見るのはやめて頂けませんか? ……3号さんどうしましたか?」

 

 ファンが3号の方に目をやると3号は胸を手で覆って申し訳なさそうにしていた。

 

「いえ、お二人ともご立派なものをお持ちだなと思って」

 

 3号は申し訳なさそうに胸を覆っていた手を離した。そこにあった膨らみは完全にないというわけでもなかったが二人と見比べるとあまりにも小さかった。

 

「大丈夫よ。3号ちゃん。私、女の子は胸が小さくても、大きくても好きだから」

 

 ユウリはそう言うと胸を押さえる3号の手を力強く手を握った。

 

「そ、そうですか? ありがとうございます」

 

「それより3号ちゃん。近くで改めてみるとお肌すべすべで羨ましいわ。特に……あいた!」

 

 ユウリは3号の頬に触れるとゆっくりと下の方へと添わせていった。しかし、乳房に到達する寸前でファンがユウリの背中を叩いた。

 

「ゴーツさんを呼びますよ」

 

「はいはい、これ以上はやりませんよ」

 

 ファンがゴーツの名を出すとユウリは渋々3号から離れた。

 

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「お風呂も大きいですね」

 

「多い時は30人ぐらい一緒になりますからね」

 

 服を脱いだ3号、ファン、ユウリの三人は大浴場の浴室へと移動した。この大浴場は町の衛生環境維持のために予算をかけて建設されていたためかなり設備が整っていた。

 

「流石にこんな時間じゃ誰も……あれ、デレーヌさんがいる。珍し~」

 

 浴室内を見渡したユウリは一人で体を洗っているデレーヌを発見した。すると彼女は脇目も振らずにデレーヌに向かって走り出した。

 

「あっ、ユウリさん!」

 

「ちょっと待っ……」

 

 ユウリの突然の行動に3号とファンは声をかけるぐらいしか出来なかった。

 

「デレーヌさ~ん」

 

「げっ、ユウリ⁉」

 

 声でユウリの存在に気づいたデレーヌはユウリの抱きつきを自らの体を回転させて回避。そのままユウリの背後へと回ると無防備な背中に肘打ちを叩き込んだ。

 

「ぐえっ!」

 

 肘打ちを入れられたユウリはそのまま風呂場の床に体を打ち付けられ、潰れた蛙のような声を漏らした。

 

「ユウリさん!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 一連の光景を見ていることしかできなかった3号とファンがユウリの元へと駆け寄った。

 

「どうして避けるの?」

 

「お前の目と手がいやらしいからだ」

 

「だってデレーヌさんがこっちにいるの珍しかったんだもの!」

 

 床に打ち付けられたばかりのユウリだったがデレーヌと軽口をかわせる程度には元気だった。

 

「ユウリさん、大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫よ。とっさに強化したし、デレーヌさんも手加減してくれたから」

 

ユウリは立ち上がるとデレーヌの肘打ちを受けた背中をさすった。

 

「手加減だったんですか、あれで」

 

「ユウリさん的には十分手加減よ。あれは」

 

「そうでしたか」

 

「壊したら弁償が面倒だからな」

 

 デレーヌが手加減した理由はユウリの体よりも浴室の床のことを心配してのものだった。

 

「……それはそれとしてお前、3号だったな」

 

「はい。3号です。改めてよろしくお願いします」

 

「ああ、こちらこそよろしく。デレーヌだ」

 

 ユウリの話を打ち切ったデレーヌは3号と自己紹介をかわした。しかし、その後もデレーヌは3号のことを見据えたままだった。

 

「どうかされましたか?」

 

「……その、あれだ。3号、お前はその体から成長しないっていうのは本当なのか?」

 

 3号の質問にデレーヌは言い淀みながら答えた。

 

「はい。私たちホムンクルスは体が固定されているので成長も老いもしません」

 

「そうか。……お前はそのことについて不満はないのか?」

 

「不満ですか?」

 

「そうだ。その、体のまま成長しないことに不満はないのか?」

 

「いえ、私の体はチモック様によって作られたものなので不満なんて……すみません、あります。私の体が他の姉妹たちぐらい大きかったらよかったと数えきれないぐらいは思いました」

 

 最初はチモックへの尊敬もあり不満はないと答えようとした3号だったが、デレーヌの真剣な眼差しに3号は本音を零した。

 

「そうか。3号、お前も同じだったんだな」

 

「同じ? デレーヌさんは普通の人間ですよね?」

 

 3号はデレーヌの言葉に疑問符を浮かべた。

 

「……3号。多分、お前は勘違いをしている。私はこう見えても成人済みでそこにいるユウリよりもずっと年上だ」

 

「え!?」

 

 デレーヌの言葉に3号は驚きの声を上げた。3号の言う通りデレーヌは髪や眼、肌の色を除けば普通の人間だったが年齢は27歳ととっくに成長期は終えていたためデレーヌの十台前半程度に見える体格は成長のしようがなかった。

 

「小さい時に色々あってな」

 

「……すみません」

 

「何、勘違いされるのはいつものことだ。馬鹿にしてるような感じもないしな」

 

 3号はすぐさま誤解を謝ったが、勘違いされてばかりのデレーヌはそれを流した。

 

「そんなわけで3号。これからよろしくな」

 

「もちろんです!」

 

 この時、成長しないという共通点を持つ二人は改めて熱い握手を交わした。

 

「……あっ、そういえばもう一つ忘れていた。3号、お前髪馬鹿に何か変なことされてないか?」

 

 一時の間をおいてデレーヌは再び3号に尋ねた。

 

「髪馬鹿?」

 

「ああ、金髪の番頭がいただろう。そいつに変なことされてないか?」

 

「ケフェッチさんのことでしたか。いえ、特には何もなかったですよ」

 

 3号は金髪の番頭という言葉で髪馬鹿がケフェッチのことだと気づいた。そのため3号はケフェッチとの約束の通り先ほどの髪のやり取りのことはなかったことにした。

 

「……いや、嘘はつかなくていいぞ。あの髪馬鹿がこんな綺麗な髪に反応しないわけがないからな」

 

「まあ、そうなるわよね」

 

「ですよね」

 

「ユウリさん! ファンさん!」

 

 問い詰めるデレーヌに、ユウリとファンはあっさりと白状した。

 

「こうなることは分かってたしね」

 

「こういってはなんですけど毎回ケフェッチさんに新人の髪に反応しないよういっても無意味がなんじゃないでしょうか?」

 

「確かに意味はないだろうけど言わないわけにもいかないだろう」

 

 ケフェッチの髪好きを止めるのはデレーヌ自身も不可能だと分かっていた。しかし、何も言わずに放置しておくことは出来なかった。

 

「それはまあ」

 

「確かにそうですけど」

 

「……あの、ケフェッチさんはいつもあのような感じなのですか?」

 

 3号の質問に三人はそれぞれ考えた。

 

「大体そうね」

 

「特に綺麗な髪の新人が来た時は」

 

「だから髪馬鹿なんて呼ばれてるわけだしな」

 

「そうですか」

 

 あんまりな言われようだったが先ほどのケフェッチの行動を考えると3号も納得せざるを得なかった。なおケフェッチのことを髪馬鹿と思っている人間は数多いが、実際に口に出すのはデレーヌを含めてそれほど多くなかった。

 

「まあ、あの髪馬鹿もそれ以外は悪い奴じゃないからそういうやつだと思ってくれ」

 

「了解しました」

 

「3号は素直だな。……それはそれとして3号、私から見てもその髪は綺麗だと思うけど何かそのための秘訣はあるのか?」

 

「秘訣、ですか?」

 

「ああ、よかったら聞いておきたい」

 

「そうね。せっかくだから私も」

 

「私もいいですか?」

 

 話はケフェッチのことから3号の髪のことへと変わり、ユウリとファンも乗っかってきた。

 

「申し訳ないのですが秘訣というか私たちホムンクルスの体は成長しない代わりに高い再生能力が備わっているので、髪が痛んでも少し経てば元に戻るようになっているんです」

 

「……なんだと?」

 

「……羨ましい」

 

「……それってもしかして肌荒れとか太ったりもないってことですか?」

 

「「……⁉」」

 

 3号の答えに衝撃を受けたデレーヌとユウリだったが、ファンの言葉によって更なる衝撃を受けることになった。

 

「はい。そうですね」

 

「「「……!?」」」

 

 そしてそれに対する3号の答えは三人を驚愕させた。

 

「……う、羨ましすぎる」

 

「そ、そうですか?」

 

「そりゃあそうよ」

 

「そうですよ」

 

「そうだぞ。私なんてこの髪の維持にどれだけ金と手間をかけてるか」

 

 三人の答えは満場一致だった。特にデレーヌは毎月整髪用品を中心に美容にかなりの金と時間をかけているためその想いも強かった。

 

「……なんというか、すみません」

 

「いや、別にお前が謝ることじゃないから気にするな」

 

「そうよ、そうよ。羨ましいのは確かだけど3号ちゃんが謝ることじゃないわ」

 

「そうですよ。羨ましいのは本当ですけど」

 

 最初はどうなるかと思われた四人だったがなんだかんだ丸く収まり、女四人で姦しく話題が尽きることはなかった。

 

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「本当に綺麗になっていますね」

 

 3号たちが浴場から上がり、脱衣所へ戻ると籠に入れていた服が綺麗になっていた。

 

「私も初めて使った時には驚きました」

 

「これがあれば洗濯いらずですね」

 

「そうですね。ただこれは魔力を多く消費するそうなのでこの町のような魔力資源に優れた場所でないと難しいらしいです」

 

「そうでしたか」

 

 この魔法陣を含め、この町にはゴーツが開発した新技術や新設備が多かった。しかし、それは魔結晶で魔力を補え、開発者であるゴーツのお膝元であるこの町だから出来ることだった。

 

「ねえ、デレーヌさん。また一緒に入りましょうよ~」

 

「3号やファンならまだいいけどお前とはごめんだ」

 

 3号とファンが話している一方で、デレーヌはユウリの執拗なボディタッチを的確に捌いていた。

 

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「あっ、デレーヌ。……それにみんなもいるからこれで全員だね」

 

「変わった取り合わせだな」

 

「ですね」

 

 3号たちが脱衣所から出るとそこにはケフェッチ、クロースルに加えてもう一人茶髪の男性の姿があった。茶髪の男はケフェッチに近い年齢層なものの、細身なケフェッチと違ってガッチリとした体格をしていた。そして3号もこの男には見覚えがあり、酒場での紹介の時にユウリと一緒にいたということを覚えていた。

 

「お前たちのせい……ゴホッ、お前たちもな」

 

「「?」」

 

「……」

 

 二人の姿を見たデレーヌは何かを言いかけたが途中で咳払いをして言い直した。それによって3号とファンにクロースルの夜の仕事の隠蔽が成功したが、一度話の流れを折ったせいでなんともいえない沈黙が訪れた。

 

「……あっ、そうだ。3号ちゃんにこいつのこと紹介しておかなきゃね」

 

 場の沈黙を破るため、ユウリは茶髪の男性の紹介を始めた。

 

「はい。お願いします」

 

「こいつは私とパーティーを組んでるイバラって男よ。……以上、終わり!」

 

 茶髪の男性、イバラの紹介を始めたユウリだったがその紹介はとても雑だった。

 

「おいおい、それだけかよ。流石に酷くないか?」

 

 そのあまりに雑過ぎる紹介にイバラ本人は異議を申し立てた。

 

「だってあんた、女子には興味ないでしょ」

 

「まあ、それはそうだけどな」

 ユウリの言い分にイバラも渋々頷いた。

 

「……あのユウリさん、一つお聞きしてもいいですか?」

 

「何、3号ちゃん! 何でも聞いて!?」

 

 質問しようとする3号にユウリは必要以上に近づいた。

 

「ユウリさんは女性がお好きなんですよね?」

 

「そうよ。もちろん性的な意味で」

 

 ユウリは自信満々に3号の質問に答えた。そのあまりの堂々とした姿に周りは呆れて口出す気にもなれなかった。

 

「それなのに男性のイバラさんと組んでらっしゃるんですか?」

 

「ああ、それね。私としても出来たら女の子と組みたがったんだけどある程度戦える女の子で私と組んでくれる子がいないのよ」

 

「そりゃいつ襲われるか分からないしな」

 

 ユウリの言葉にデレーヌが強めの口調で続けた。

 

「いや、そんなことしたらここを追い出されかねないからそんなことはしないわよ。でもキャッキャウフフぐらいならしたいわね」

 

「……そうですか」

 

 ユウリの悪びれない言葉に3号も若干呆れていた。

 

「ってわけで女の子と組めないから仕方なく組んでるのがこのイバラってわけ。他の男よりもお互いがお互いに必要以上に興味がないから気が楽なのよ」

 

「なるほど……?」

 

 ユウリの筋が通っているような通っていないような回答に3号は困惑していた。しかし、同性愛者ではあるが異性が嫌いというほどではユウリとイバラのコンビは意外なほどうまくはまっていた。

 

「あっ、そういえばイバラ。ちゃんとクロースルに明日の事頼んでおいてくれた?」

 

「ああ、それなら大丈夫だ。なあ、クロースル」

 

「ええ、明日三人で最深部ですね」

 

 ユウリの確認に、イバラとクロースルは答えた。

 

「クロースルさんはユウリさんもイバラさんも大丈夫なんですか?」

 

「え? まあ、クロースルは長い付き合いだし、私のことを色目で見るようなこともないしね」

 

「俺からしたら問題ないというか大歓迎だしな」

 

「こちらからしても一人よりも効率がいいからね」

 

 3号の質問に三者は三様の答えを述べた。

 

「クロースルさんは誰かと組んだりしないのですか?」

 

「うん、自分の場合は魔物狩りよりも薬草採取やポーションの作成の方がメインだから基本的には一人で、依頼があれば臨時で参加しているんだ」

 

「そうでしたか。大変ですね」

 

「……まあ、自分が好きでやっていることだからね」

 

 目的が3号のことであるクロースルは3号から目を逸らしながらそう答えた。

 

「ともかくクロースルの夢のためにも、3号ちゃんのためにも明日は頑張らなくちゃね!」

 

「私のため、ですか?」

 

「そうよ。私、3号ちゃんを買うためにも頑張るわ」

 

 一方でユウリが3号を買う宣言始めた。

 

「それは3号のためじゃなくてお前のためじゃないのか?」

 

「というか3000万本気で貯める気なんですか?」

 

「もちろんよ」

 

 周囲からツッコミが続いたがユウリは自信満々だった。

 

「ぶっちゃけ俺は無理だと思ってるけど誰か成功に賭けるやついるか?」

 

「いや、誰も賭けないだろ」

 

「そもそも時間の指定でもしないと有耶無耶になりますよ。自分も賭けるなら無理に掛けますけど」

 

「……酷くない?」

 

 しかし、誰も成功に賭ける者が出なかったのにはユウリも少しいじけた。

 

「参考までにお聞きますけど今のユウリさんの貯金ってどれくらいありますか?」

 

 クロースルにとってライバル出現は由々しき事態だった。彼もユウリ相手では万が一もないと考えていたがそれでも念を入れてライバルの現状に探りを入れた。

 

「今日はお店を我慢したから6万はあるわよ」

 

「私も無理で」

 

「僕も無理で」

 

 ユウリの無謀さにファンやケフェッチまでもが無理に賭けだした。普段こういった賭けに乗らない二人までが乗るというのはよっぽどのことだった。

 

「ファンちゃんたちまで……3号ちゃん、3号ちゃんは?」

 

「すみません、ユウリさん。私の所持金はゴーツさんから頂いた大切なものなので無駄使いをするわけにはいかないのです」

 

 ユウリはまだ意見を出していない3号に縋ったが、彼女も丁重にお断りした。

 

「そんな~」

 

 結果としてその場にいた全員に否定されたユウリは流石に落ち込んでしまった。しかし、当然の流れでもあった。

 

「……3000万。確かに3号さんの髪は魅力的だけど流石に手が届かないなあ」

 

「辞めておけ。ゴーツさんの話が本当なら何年も金策をしているクロースルでも届いていない金額だ」

 

「そうだね」

 

 3号、というかホムンクルスの髪に憧れるケフェッチもホムンクルス購入について考えたがその無謀さからすぐに諦めた。この後も少し会話が続いたが時刻も遅いため、各自解散することになった。

 

____________________

 

 

「それじゃあ自分はここで。二人とも、おやすみ」

 

 大浴場からの帰り道、ユウリたちと別れた3号、クロースル、ファンの三人は役所裏の宿舎前まで移動した。

 

「クロースルさんはここじゃなかったのですか?」

 

「うん、自分は薬の材料とか機材でスペースがいるから向こうの倉庫の一つを使わさせてもらっているんだ」

 

 クロースルはそういって宿舎の先に並んでいる倉庫の一つを指さした。宿舎が出来る前からこの町にいるクロースルは倉庫の一つを自宅として使用していた。

 

「そうでしたか」

 

「それじゃあまた」

 

「はい。おやすみなさいませ」

 

「おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

 改めて別れの挨拶をすますと、クロースルは一人倉庫が立ち並ぶ方へと歩いていった。

 

「それじゃあ私たちも入りましょうか」

 

「はい」

 

 クロースルを見送った3号とファンは宿舎へと入っていった。

 

「二人ともおかえり。思っておったより遅かったのう」

 

 二人が宿舎に入ると入ってすぐゴーツが出迎えた。

 

「すみません。遅くなりました」

 

「お待たせしてしまいましたか?」

 

 3号とファンは、出迎えたゴーツに申し訳なさそうに答えた。

 

「いや、別に責めるつもりはない。これだけ遅くなったということは話が弾んだか、何かトラブルに巻き込まれたかのどちらかじゃろうが顔色を見る限り前者のようじゃからな。こちらとしては早くこの町に馴染んでくれるに越したことはない」

 

「そうですか。それならよかったです」

 

「……ふぅ」

 

 3号とファンはほっと安堵した。

 

「まあ、なんじゃ。詳細や感想にも興味はあるが今日はもう遅い。明日からは本格的に働いてもらうから今日のところはしっかり休むがよい」

 

「了解しました。……ファンさん、明日は7時でしたよね?」

 

「そういえばファン。明日3号は何時頃に食堂へ行けばよいかの?」

 

「時間ですか。……そうですね。最初に軽い説明もしたいですから7時には食堂へ来ていただきたいですね。3号さん、それで大丈夫ですか?」

 

「はい、了解しました!」

 

 明日の仕事の打ち合わせに3号はファンに元気よく答えた。

 

「……」

 

「どうかしましたか?」

 

 3号が返事をした後、ファンは何か考えながら3号の方を見ていた。その事に気づいた3号はファンへと尋ねた。

 

「ああ、いえ。ゴーツさん、そういえば3号さんに合う丈の給仕服ってありましたか?」

 

「ああ、そういうことでしたか」

 

 ファンが気になっていたのは3号の背丈に合った制服があるかだった。

 

「確かに今ある服じゃとちと大きいのう。……まあ、3号のその服でも別に構わんじゃろう」

 

 ゴーツは制服のことをしばし考えると3号のメイド服自体が給仕をしても違和感のない服なのでそのまま通すことにした。

 

「分かりました」

 

「それで大丈夫なのですか?」

 

 ゴーツの決定にファンはそのまま了承したが、3号はそれでいいのかと気にかかっていた。

 

「この町は色々変わった者が多いからのう。何事も臨機応変じゃ」

 

「そういうことです」

 

「……そうですか」

 

 ゴーツの言葉に3号は今までこの町で見たことをしばし思い浮かべた。そして確かに一癖も二癖もある人間が多かったと納得した。

 

「それでは3号さん、明日から改めてよろしくお願いしますね」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

「では失礼します。おやすみなさい」

 

「はい。おやすみなさいませ」

 

 最後にそれぞれ挨拶を返すと3号とファンは自室へと戻っていった。

 

「……ふぅ、3号の購入も滞りなく終わったことじゃし今のところは順当じゃな」

 

 二人が去った後、ゴーツは一人今日のことを振り返った。

 

「この生がいつまで続くかは分らんが、いい思い出を期待しておるぞ」

 

 ゴーツは物心ついてからの記憶を何一つ忘れず持っていた。その能力こそがゴーツは英雄、あるいは大天才と呼ばれるようになったきっかけだった。

 しかし、それ故にゴーツは過去の失敗や惨事を全て記憶していた。そのため、ゴーツはいい思い出を作るために画策するのだった。




【キャラ情報】

名前:ゴーツ・ゴーマン 
種別:元人間 
年齢:110(うち封印期間約40年)歳
身長:167㎝


名前:イバラ 
種別:人間♂ 
年齢:24歳
身長:174㎝


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