ホムンクルス、ついに買われる!~爆乳専門店の元・売れ残り~ 作:ツインテスキー
2-1 酒場の日常Ⅰ
『それでも俺は君を買ってみせる!』
「……今のは錬金素材の買いに行った時の……どうして今頃」
早朝、ホムンクルスの3号は昔懐かしい少年の声で目を覚ました。
「あの子、今何をしているんだろう。……でも私の事なんてとっくに忘れてるよね」
少年の存在は3号にとって一時的な気休めにはなっていたものの売れ残る日々の中で朧げなものになっていた。あの日から少年、もとい成長し青年になったクロースルが金を貯め続けていることを彼女はまだ知らない。
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「これでよし。今日も一日頑張りましょう」
自室の鏡の前で身支度を終えた大柄な少女、ファン。女給として働いている彼女は今日が初仕事である3号の指導のためにいつもより早めに役場へと向かった。
「……鍵が空いている?」
役場の裏口に着いたファンだったが、裏口の鍵が開いていることに気がついた。
「鍵のかけ忘れ? それとも……3号さん!?」
ファンが有事に備えて慎重に裏口を開けるとそこには掃除をしている3号の姿があった。
「あっ、ファンさんおはようございます。お早いですね」
「おはようございます。3号さんこそ、こんな早くから……それに鍵はどうしたんですか?」
「お屋敷にいた時もこれぐらいの時間から起きていたのでつい体が動いてしまって。それから鍵はゴーツさんに開けて頂きました」
「そうですか」
「なので叱るなら勝手に開けた儂を叱ってくれ」
「「ゴーツさん!?」」
二人の会話の最中、メモリアの町長であるゴーツが背後に出現し会話に割って入った。そのため二人は驚きながらゴーツの方へと振り返った。
「それは別に大丈夫です。どちらかというといつも唐突に現れるのをどうにかしてほしいです」
「それは難しいのう」
「そうですか」
「でしょうね」
ゴーツの突然の登場に慣れていない3号は驚いていたが、慣れたファンは呆れた顔をしていた。
「……そういえば3号さん、今日は昨日とは違うリボンなんですね」
ファンは髪を二つ結びにしているリボンが昨日と変わっていることに気がついた。
「はい。これも昨日のも妹がくれたリボンなんです。他にもいくつかありますけど、それを日替わりでつけているんです」
ファンの質問に3号はリボンに触れながら、それらが妹からの贈り物であること、それらを日替わりでつけていることを明かした。
「……妹。4号さんや5号さんということでしょうか?」
「はい。これはちょうど4号がくれたものなんです」
3号はファンの言葉に嬉しそうに答えた。
「そうでしたか。……っと、それはそうと3号さん、私もお掃除お手伝いますね」
「いえ、もう一通り終わったので大丈夫です」
リボンについての疑問が解けたファンは、3号へ掃除の手伝いを申し出た。しかし、3号はそれを断り、掃除の片づけを始めた。
「お待たせしました」
「いえ、むしろここまで綺麗に掃除をしてもらってありがとうございます」
ファンが役場内を改めて見渡すと、役場内は塵一つ残っていないほどきれいに掃除されていた。
「いえ、このぐらいでよければ毎日でも大丈夫です」
「毎日……ゴーツさん、3号さんも私たちと同じぐらいの仕事の間隔でいいんですよね?」
3号の言葉が引っかかったファンは、ゴーツへと話を振った。
「ああ、3号はやる気のようじゃが週に2,3日ほどは休んでもらおうと思っておる」
「ゴーツさん、私は毎日でも働けます!」
3号はゴーツの言葉に語気を強くした。
「いやいや、いくらホムンクルスとはいえ非人道的な扱いをするのは気が引ける。それに今は人手も余裕があるし無理に働くこともない」
「……そうですか」
3号はゴーツの言葉に頷いたがその表情はどこか不満げだった。
「不服か?」
「いえ、そういうわけでは……」
「ならこう言おう。これはお前の所有者としての命令じゃ。儂が休みの日といったら休み。以上」
「りょ、了解しました」
ゴーツは渋る3号に命令という形で指示を出した。その言葉にゴーツの所有物である3号は立場上従わざるを得なかった。
「というわけじゃファン。後は任せてもいいかの?」
「はい。分かりました」
多少、強引な形ではあるが話をつけたゴーツは話の主導をファンへと戻した。
「それでは3号さん。今から酒場での仕事の説明をしていきますね」
「はい、よろしくお願いします」
こうしてファンは3号へと酒場での仕事のレクチャーを開始した。その間に他の店員もやって来始め、その度3号の手によって綺麗になった酒場に驚きの声を上げた。
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「ようやくか。待ってたぜ。」
「あ~、腹が減った」
「お前、今日は何にする?」
「とりあえずいつものかな」
時間が流れ開店時間になると、入り口の前で待っていた二十名ほどの空腹の客たちが一斉に入って来た。小規模なこの町には飲食店はほとんどなく、そうなるのはいつものことだった。
「「「いらっしゃいませ~」」」
「やっぱり3号ちゃんかわいいな」
「そうか。あれが噂のホムンクルスか。確かにかわいいな」
「エロい意味じゃないかわいさがあるな」
「かわいさでも可憐さでもカレンに敵うものはいない」
「まあ、ロマン様ってば♡」
「はい、こらそこ抱き着いてないで。早く進んで」
「それより注文。早く、早く~」
客の多くは新しく入った3号が気になる様子で食堂はいつも以上に騒がしかった。
「誰か注文~!」
「はい。ご注文ですね」
早速、注文のために手が上げられたテーブルへと3号が駆けつけた。
「おっ、3号ちゃん。頑張ってるね」
「はい。頑張らさせていただいています」
「それじゃあ注文するね。黒パン2つとベーコンエッグとホットコーヒー」
「はい。黒パン2つ、ベーコンエッグ、ホットコーヒー。以上の3点ですね」
「うん。合ってるよ」
「はい。それではしばしお待ちください」
3号は注文を受けるとその場を離れ、厨房へと向かった。
「5番テーブル。ベーコンエッグ、黒パン2つ、ホットコーヒーお願いします」
「あいよ。ベーコンエッグだな。ちょっと待っててくれ」
「はい。お願いします」
厨房のまとめ役である大男、ズラに注文を伝えた3号はその間にパンと飲み物の用意を進めた。
「あいよ。5番のベーコンエッグ一つお待ち」
「はい。ありがとうございます」
そうこうしているうちにベーコンエッグが出来上がり、3号はそれらを持って客の元へと向かった。
「お待たせしました。黒パン2つ、ベーコンエッグ、ホットコーヒーです」
「ありがとう。頑張ってね」
3号は客のテーブルに注文の品を運んだ。そしてその働きぶりに客は感謝の言葉を掛けた。
「誰か注文を」
「はい。今、参ります」
その後も3号は酒場内をあくせく働いた。その動きはとてもスムーズでとても初日とは思えない働きぶりだった。
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「お疲れ様です。3号さん。忙しい時間は過ぎましたから今から昼近くまではゆっくりできますよ」
「そうですか」
開店から一時間ほど経ち、客のラッシュも落ち着いてきていた。
「なので一旦休憩でも……」
仕事に余裕が出来たためファンは3号に休憩を促そうとしたが、そんな時ちょうど新しい客が酒場へと飛び込むように入って来た。
「あっ、いらっしゃ……」
「3号ちゃ~ん」
「ユウリさん!」
酒場に入って来たのは同性好きの女性、ユウリだった。彼女は3号の姿を確認すると更に勢いを増して3号へと抱き着いた。またその背後には彼女の相棒である同性好きの男性、イバラとクロースルの姿もあった。
「だからユウリさん、こういうことはやめてくださいって」
「朝っぱらから飛ばし過ぎだぞ」
「3号さんに迷惑ですよ」
「ああ、大丈夫です。こういうことは妹で慣れているので」
ファン、イバラ、クロースルの三人がユウリのことを咎める中、抱き着かれた3号本人はそれほど気にしていなかった。
「妹? そういえば3号ちゃんって姉妹がいるんだっけ?」
そして3号に抱き着いた張本人であるユウリは3号の“妹”という単語に食いついた。
「はい、ホムンクルスなので血は繋がっていないのですが今のところ55号まで造られています。特に4号のホムホムはスキンシップが激しいんです」
「3号ちゃんが55人。より取り見取りね」
「ホムホム……」
「安直すぎるな」
「さっきの4号さんってそんな名前なんですね」
ユウリは3号の姉妹たちに興味津々だったが、クロースル、イバラ、ファンは4号の名前の方に興味が向いていた。
「いえ、私は失敗作なので他の皆はユウリさんよりも大きいぐらいですよ」
ユウリのより取り見取りという発言に、3号は自分のようなものはいないと訂正を加えた。その発言にユウリは目を丸くした。
「大きいって身長が? それとも胸?」
「身長も胸囲もですね。特に胸はユウリさんより2周りは大きいです」
「……二周りだと!?」
「ユウリより二周り?」
「流石に誇張が入ってない?」
胸の話になった途端に周囲の声もざわめきだした。ユウリの胸のサイズは一般的に巨乳と呼ばれる部類である。しかし、トップバスト100cmが最低ラインのチモック製ホムンクルスが相手では分が悪かった。
「実際そんなもんじゃぞ。チモック製ホムンクルスは3号を除き、これぐらいの大きさをしておる」
3号の発言に周囲が戸惑う中、いつの間にか酒場にいたゴーツがユウリよりも背丈も胸部も大きい女性の模型を造り出した。それは昨日、3号と一緒にいた47号のものだった。
「……でかい」
「いや、でかすぎるだろ」
「……埋もれてみてぇ」
「……流石にこれはちょっと引く」
「常人ではほとんどありえない大きさの胸。100万点!」
チモック製ホムンクルス特有の規格外の胸に対する評価は賛否両論だった。そのため生産数や値段もあるがチモックが業界最大手になれないのも致し方なかった。
「……ありね」
どちらかというと否よりの意見が多い中、ユウリは規格外の巨乳を受け入れた。
「ありなのか」
「だって私より大きい胸の相手って中々いないから、たまにはそういうのを味わってみたいわけよ」
「分かるような、分からないような……」
「とりあえずやる気は出てきたわ。こうなったらもう一人、二人買う勢いで行くわよ~」
ホムンクルスの新情報を得てユウリはますますやる気に満ちていた。
「もう一人、二人って一人分でも大変なのに……」
「だよなあ。まずこいつの場合、一生かかっても一人買えるか怪しいけど」
一方でクロースルとイバラはそれを冷ややかに見ていた。特に一体買うだけで苦労しているクロースルの声にはかなり実感がこもっていた。
「それよりそろそろこんなところで立ち話はやめて頂けると助かります」
酒場の真ん中で長々と話している一行についにファンの注意が入った。
「確かにそうね。早く食べてとっとと稼ぎに行くわよ」
「そもそも寝坊したのは誰だよ」
「昨日は3号ちゃんのこと考えてたら中々眠れなかったの」
「本人の前では言わなくていいぞ」
「とりあえず席にどうぞ」
ファンに注意を受けた一行は早々と朝食を済まし、昼食を買い込むと速やかに封魔の大地へと向かった。
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「いらっしゃいませ~」
「あっ、3号くん、おはよう。今日もいい髪だね」
「そういえば今日からここで働くんだったな」
クロースルたちが出て行ってしばらくするとまた新しい客が入って来た。それは大浴場の番頭、ケフェッチと金髪碧眼の小柄な女性だった。
「おはようございます。ケフェッチさんに……デレーヌさんですよね?」
3号は恐る恐る金髪の女性に名を尋ねた。背丈や顔つきから彼女をデレーヌだと思ったが、髪も瞳の色も違い、服装もあちこちに装飾の施された平服だったためその判断に自信が持てなかった。
「ああ、これから他の街まで買い物に行くんだけどそのままじゃ目立って仕方ないからな。こういう時はこのペンダントを使っているんだ」
不安が顔に出ている3号に対して、デレーヌは首にかけたペンダントを手に取った。そのペンダントには彼女が言った通り、周囲に髪と瞳の色を誤認識させる効果があった。なお製作者はクロースルであり、ゴーツ監修のもと作成されていた。
「なるほど、そうでしたか。これから街へ……昨日から思っていたのですけどお二人はお付き合いをされているのですか?」
3号の何気ない質問に、酒場全体の周囲が凍り付いた。もっとも若い男女が二人きりで他所の街へ、しかも片方は明らかに気合の入った服装となるとそう考える方が自然だった。
「……い、いや違うぞ。こいつはただの荷物持ちだ。だ、誰がこんな髪好きの変態と付き合うっていうんだ!」
3号の質問を強く否定するデレーヌだったが、その声は上ずり、顔も赤くなっていた。端的にいうととても分かりやすかった。
「デレーヌの言う通りだよ。僕らはただの腐れ縁さ」
一方のケフェッチはというとデレーヌとは対称的に申し訳なさそうにデレーヌの言葉を肯定した。
「……~!!」
ケフェッチの言葉を聞いたデレーヌは俯き、声にならない声を上げた。
「お、おぅ」
「……これはひどい」
「予定調和」
更に三人のやり取りを静かに静観していた周囲は当人たちには聞こえない程度の小声で呟いた。
「それじゃあ3号さん、そういうわけだから」
「……えっ、あっ、はい」
ケフェッチは何事もなかったかのように酒場の席へと着いた。その後、粛々と食事を済ませた二人は定期便の馬車に乗って他所の街へと向かった。
「……行ったか」
「健闘を祈りたいけど今回も駄目だろうな」
「デレーヌさんだからな」
「ケフェッチのやつが鈍感なのもあるけどデレーヌさんがあれじゃなあ」
二人が去ると静かにしていた酒場の面々が口を開き出した。
「……えっとファンさん、よければ詳しい事情をお聞きしてもよろしいですか?」
今までの流れから訳ありだと確信した3号は近くにいたファンに二人の事情を尋ねた。
「そうですね。私も詳しいことを知っているわけではないんですけど一度ケフェッチさんからデレーヌさんに告白したことがあったそうなんです。ですがその時はデレーヌさんが思いきりケフェッチさんのことを振ってしまったそうで……その時のことが負い目になっていてデレーヌさん側から告白出来ずにいると聞きました」
「概ねその通りじゃな。デレーヌは昔、あの髪や瞳、肌の色で大変苦労してな。そんな時、ケフェッチがデレーヌの髪が綺麗だからと告白したのじゃ。ケフェッチからすれば純然な褒め言葉じゃったが長年あの髪で苦労したデレーヌはそうとは思えんかった。じゃから当時のデレーヌはケフェッチのことを振ったのじゃ」
ファンがデレーヌとケフェッチの関係について説明すると、補足する形でゴーツが会話に加わってきた。
「そんなわけがあったんですね。デレーヌさんの白い髪や赤い瞳はアルビノでよかったですよね?」
「詳しいのう」
「18号、27号、33号がそうでしたから」
「なるほど」
デレーヌの白い髪や赤い瞳は体の色素異常からくるものだった。3号はそれをアルビノを模したチモック製ホムンクルスが数体いたので知っていた。
「そういえばゴーツさん、いつからいらっしゃいましたか?」
「ちょっと前からじゃよ」
「……そうですか」
ゴーツの神出鬼没ぶりには未だに慣れない3号だった。
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「「よし、やるか」」
酒場にあった時計が11時を指した。するとそれを見た二人の男性が立ち上がった。その二人は髪を左分けにしているか右分けにしているかの違いはあったが全く同じ顔立ちをしていた。つまりは一卵性双生児の双子だった。
「おっ、もうそんな時間か」
「昨日勝ったのはライの方だっけ?」
「でも通算だとまだレフの方が勝ってるからな」
そんな二人の様子を見て周囲がざわつき出した。そしてそうしている間にゴーツが二人の前へと現れた。
「それでは決闘を始めるとしようかの。お互い異論はないか?」
「「もちろんだ」」
ゴーツの問いに双子は同時に頷き、腰にかけていた双剣に手を掛けた。
「け、決闘ですか!?」
「さあ、どっちが勝つかね」
「この二人は本当に半々だからなあ」
「どっちが勝とうが盛り上がればいいんだよ!」
3号は突然の決闘という物騒な言葉に声を上げたが、周囲は決闘に盛り上がりを見せていた。
「ああ、そういえばまだその説明はしていなかったですね」
「大丈夫なんですか?」
「はい、物騒といえば物騒ですけど……実際に見た方が早いと思います」
困惑している3号にファンは慌てることはないと状況を見守るように説明した。
「ではいつも通り賭けを始めるとしよう。現在二人の戦績はレフ652勝ライ650勝158引き分け。一口1000G。レフが勝つと思うものは左手を、ライが勝つと思うものは右手を、引き分けだと思うものは両手をあげるのじゃ」
「よし、今日はレフに賭けるぜ」
「今日は流石にライが勝ちそうだな」
「引き分け来い!」
ゴーツの言葉に酒場の面々の多くが指輪を掲げた。
「……ふむ、レフ13人、ライ16人、引き分け4人か。……もう手を降ろしていいぞ。それでは始めるとしようかの」
魔法陣を描き、集計と集金を終えたゴーツは各人の手を降ろさせた。
「ああ、早くしてくれ」
「ふん、弱い奴ほどよく吼える」
「なんだと!」
「こらこら、まだ早い」
一方の双子は今にも斬り合いを始めそうな一触即発の雰囲気だった。
「では始めるぞ。……3,……2,……1,……転送!」
ゴーツがカウントダウンを終えると双子の姿がその場から消した。そして双子の消えた場所には巨大な画面が登場し、そこには双剣で斬り合う双子の姿が映しだされた。
「やれー!!」
「いけっ、そこだー!」
「やっちまえー!」
「……えっ、ええ?」
その双子の真剣勝負を見ながら酒場の面々は歓声を上げた。そのところどころ過激な言葉も混じるその光景に3号は困惑するしかなかった。
「大丈夫ですよ。3号さん。あのお二人は戦いが終われば転送前の状態に戻るので安心です」
困惑する3号にファンは決闘が終われば元に戻ることを説明した。二人が消えて転送されたのはゴーツが造り出した特殊な空間で、ファンが説明した効果があった。
「そうでしたか」
ファンの説明に3号は安堵した。
「はい。私も初めて見た時は驚きましたけどもうすっかり慣れてしまいました」
「慣れるものなんですね」
「はい。特にあのお二人、ライさんとレフさんはほとんど毎日のように戦っていらっしゃるので」
ファンはそう言いながら改めて双子、ライとレフの方を見た。
「毎日、ですか? どうしてそんなに」
「あのお二人は見ての通り双子なんですけどどちらが兄かを決めるためらしいです」
「……そんな理由でですか?」
二人の戦う理由を尋ねた3号は返ってきた“兄を決めるため”という理由に理解が出来なかった。
「あのお二人にとっては切実な問題のようで昔から喧嘩が絶えなかったそうです。そのせいで怪我もよくあったそうでそれをどうにかしようとゴーツさんがこの決闘のルールを作られたそうです」
「そんなにですか」
双子の兄弟ライ・トコースとレフ・トコース。通称トコース兄弟。二人の父親の家系では先に産まれたレフの方が兄で、母親の家系では後に産まれたライの方が兄という扱いだったためどちらが兄かという話がややこしくなっていた。そのためどちらが兄かを子供の頃から争っていた。
「ついでにいうと他の話し合いでは中々解決できない問題の処理や数少ない娯楽にもなっておるのじゃ」
「「ゴーツさん」」
ファンによる説明が終わったのを見計らって、ゴーツが補足のために現れた。メモリアは魔結晶のお陰で資源には苦労していないが、辺境ゆえに娯楽が少なかった。そのため決闘や決闘の賭けは数少ない娯楽の一つだった。
「娯楽は皆さんも楽しんでいらっしゃるので分かりますが、問題の解決策には少し乱暴ではないでしょうか?」
「あの二人はいつものことじゃから省いておるが、流石に問題の解決策とする場合には検討を重ねた上両者の合意や助っ人の参戦を認めておるよ」
「そうでしたか。すみません、思慮不足でした」
「何、完璧な方法でないことは分かっておるし意見はあるに越したことはない。これからもドシドシいってくれればよい」
「了解しました」
ゴーツの言葉に3号は小さく頷いた。
「俺が兄貴だ~!」
「ぐっ、明日こそは……」
「やったぜ!」
「くそ~、外した」
「流石に引き分けはないか」
3号たちが話しているその裏でレフに勝利したライは勝利の雄たけびを上げた。そして賭けの勝者と敗者の声も酒場に響いた。
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「う~ん、3号ちゃんの真心がこもったパンは美味しいわ」
「いや、3号ちゃんは袋に詰めただけだろ」
一方その頃、クロースル、ユウリ、イバラの3人は封魔の大地最深部の結界にて休息をとっていた。
「3号ちゃんが頑張ってくださいねって渡してくれたんだもん!」
「どう考えても営業用の言葉だろ、それ」
「ところでマナポーションいります?」
イバラは律儀にユウリに突っ込んだが、クロースルはユウリの言葉を無視して魔力回復用のポーションの購入を勧めた。
「あっ、じゃあ俺オレンジ一つ」
「酷い~。私はブドウ一つ」
「100Gです」
「はいはい。100Gね」
「ほい」
「確かに。はい、どうぞ」
二人から小銭でお代を受け取ったクロースルは、それぞれ橙色の液体と紫色の液体が入ったガラス瓶をそれぞれ手渡した。
「はあ、生き返る~♪」
「やっぱりクロースル特製のマナポーションはうまいな」
瓶を受け取った二人は早々と瓶の蓋を開けると、それを一気に飲み干した。クロースルが二人に手渡したポーションは魔力の回復効果に加えて果物の味付けがされたクロースル手製の品だった。個人作業で数が作れないのと日持ちしない欠点はあったが格安で質も味もいいため、クロースルの販売する商品の中でも売れ筋の一つだった。
「それほどでも」
クロースルはイバラに軽く頭を下げると、自分用にリンゴ味のマナポーションの入った瓶を口にした。
「でもやっぱりこっちは大変ね」
「そうだな。強さはともかく量が段違いだ」
「お二人とも、十分余裕そうに見えますけどね」
ユウリとイバラは普段は最深部から少し離れた地点で少し弱めの魔物を狩っていた。そのため二人とも、最深部に来たのは久しぶりだったがそれでも余裕があった。
「今日一日戦うだけだったらなんとでもなるけど、連日となると毎日お店にいく体力はなさそうなのよね」
「それはそうだな」
この二人が効率のいい最深部でも狩れる実力者であるのにそれをしない理由は、夜に使う体力がなくなるという性欲まみれな理由だった。
「……お金を貯めるんでしたよね?」
「今日はいかないわよ。今日は。でもそれが何日も続かないじゃない」
「……そうですか」
「そうよ」
元よりクロースルはユウリが3号を巡るライバルにはならないと考えていた。その自信がユウリの言葉によって更に強固になった。
「俺はそもそも関係ないしな」
「そうですね」
一方で特に目的のないイバラは暢気に構えていた。しかし、関係ないといいつつもユウリに付き合って最深部まで来るあたりコンビとしての相性は本当よかった。
「ねえ、それはそれとしてクロースル。物は相談なんだけど……」
「お金なら貸しませんよ」
話題を変えようとしたユウリだったが、内容を先読みしたクロースルに遮られてしまった。
「よく分かったわね」
「そりゃあ、まあ」
「いや、分かるだろ。普通」
思考を先読みされて驚くユウリだったが、クロースルに加えてイバラも頷いた。
「……それじゃあ2万でいいから買って」
「遠慮しておきます」
ユウリはそう言いながらクロースルに迫ったが、きっぱりと断わられた。
「どうしても?」
「はい」
ユウリは念押ししたが、クロースルの答えは変わらなかった。
「1万……いや、5000Gでいいから」
「いえ、わざわざお金を払ってまで人を抱く気にはなれないので」
値下げ交渉に入るユウリだったが、クロースルは断固として首を縦には振らなかった。
「ケチ~!」
「はは、相手が悪かったな。そもそもクロースルは金を払ってでも相手してもらった方がいいレベルだぞ」
イバラはうなだれるユウリの肩を軽く叩きながら励ました。
「ん~、確かにエローナさんの自慢の息子だからテクは凄いんだろうけどやっぱり男とする気は起きないのよね」
「なら仕方ないな。俺もエローナさんとは全くする気起きないし……なあ、クロースル。本当にもう辞めちゃうのか?」
イバラは声のトーンを落とすと話す相手をユウリからクロースルへと切り替えた。
「ええ、流石にすぐというわけではないですけどもう他の方との兼ね合いを考えると多くて2、3回ですね」
「……そうか」
クロースルの言葉を聞いたイバラはがっくりと気を落とした。
「え、何の話?」
そして二人の会話についていけないユウリは、不思議な顔をして二人へ尋ねた。
「もう少しで目標金額に届きそうなのでそろそろ売りはやめにするって話ですよ」
「ああ、そういうこと」
クロースルの言葉を聞いたユウリは納得した。今では道具作成や戦闘で稼げるようになったクロースルだが、まだこの町に来た当初はどちらも未熟で体を売る方がメインの稼ぎになっていた。それが今でもダラダラと続いていたが、目標金額に達しそうなので近いうちに辞めることをクロースルは昨日の夜にイバラに伝えていた。
「まあ、金が十分に貯まったら体を売る必要がないのは分かるけど寂しいことには変わらないさ」
「うん、確かにそれはショックよね。私もお気にの子に突然辞めるなんて言われたらショックだし」
「……一応聞いておきますけど店通いを辞めて一人の人と付き合うとかはないんですか?」
「それじゃあクロースル、俺と付き合うか?」
「ないです。仕事だからやっているだけで自分にその気はありません」
イバラの解答にクロースルはすぐさま首を横に振った。
「私はそうねえ、一人の女の子に決めるのも悪くないけどもうちょっと遊びたいのよね」
「俺もそっちだな。クロースルがいなくなると相手が3人になるからきついんだけど」
「ほんと変なところで似てますよね」
「はは、そうね」
「そうだな」
ユウリとイバラは互いの顔を見て笑いあった。性的嗜好は正反対の二人だが本当に似た者同士だった。
「それじゃあそろそろ行きますか」
「だな」
「いきましょう」
休憩を終えた三人は軽く体を解すと、魔物狩りを再開した。
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「なあ二人ともちょっといいか」
「ズラさん、どうかしましたか?」
昼時が過ぎ、酒場の混雑が収まりかけていた。そんな時、3号とファンへと声をかけてきた。
「ちょっと食料品を取りに行こうと思うんだが、3号ちゃんも一緒にどうだ?」
ズラの話は食料品の運搬ついでに3号に倉庫の案内をするという誘いだった。
「そうですね。今なら余裕もありそうですし……3号さん、今から食品の補充に行くので一緒に来てもらえますか?」
「はい。了解しました」
ファンと3号はズラの提案に乗り、ズラと共に食料倉庫へと向かった。
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「酒場で使う食料品が置かれているのはこの第1倉庫になります」
「それから中は冷気の魔法陣のおかげでちょっと寒いから気をつけてな」
「はい。了解しました」
ズラが簡単な説明をした後、食料倉庫の鍵を開けると冷えた空気が外に漏れ出た。倉庫の中には様々な食材が安置されていたが、その光景に3号は違和感を覚えた。
「……見た目よりも広くありませんか?」
「ああ、ここの倉庫には空間拡張の魔法も掛けられているから外見よりも広くなっているんだ」
この世界には空間拡張の魔法が存在し、実際の容量よりも多くの容量を入れることが可能になっていた。
「そういうことでしたか。ありがとうございます」
「なに、俺もこれには驚いたよ。袋サイズならよく見るけどここまで大規模なものは初めてだったからな」
「そうですね。私も初めてです」
しかし、空間拡張の魔法は規模が大きくなる程、術式の難易度や魔力の消費が大きく倉庫程の規模となると滅多に見かけないものだった。それが出来るのはゴーツの技術力と魔結晶という高魔力資源という二つがあってこそだった。
「話はそれぐらいにしてさっさと取り出そう。あんまり開けっ放しにすると食材が悪くなっちまう」
「確かにそうですね」
「それじゃあ俺は肉を持っていくから二人は粉の方を頼む」
「はい。了解しました」
ズラは倉庫へ入ると吊られた肉の塊を袋に詰めて担ぎあげた。
「それじゃあ3号さん、私と一緒にこっちの小麦粉の入った袋を持って行ってくれますか?」
続いてファンも倉庫へ入り、小麦粉の詰まった袋が並んでいる一角へと移動した。
「了解しました」
「結構重いので無理だったら言ってくださいね」
「これぐらいなら大丈夫です」
小麦粉の袋は大きくそれ相応の重さで体の大きいファンでもそれなりに力を入れる必要があった。しかし、3号はそれを片手で軽々と持ち上げた。その光景にファンは目を丸くし、離れた場所にいたズラも動きを止めた
「3号さんって力持ちなんですね」
「はい。私はホムンクルスですから力はそれなりにあるつもりです」
3号たち、チモック製のホムンクルスは護衛も出来るよう調整されていた。そのためその力は一般成人男性を優に超えるものだった。
「普通に会話や仕事が出来て、力も人並み以上で見た目もいい。そりゃあ値段が高いのも納得だな」
「確かにそうかもしれないですね」
朝から3号の働きぶりを見ていたズラとファンは改めて3号の値段について納得し頷いた。
「はい。チモック様はホムンクルス一体一体をこだわって作っておられるので他のホムンクルス製造者の方々と比べて値段も高めですがその分品質は高くなっています」
二人にホムンクルスとしてのスペックを褒められた3号は笑みを浮かべた。
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「3号ちゃん、ただいま~」
「ユウリさん、お疲れ様です」
「……本当にこの人は」
「やっぱり一回絞めておいた方がいいんじゃないか?」
夕方、朝方と同じく仕事中の3号にユウリが抱き着き、その姿にクロースルとイバラが呆れていた。
「とっとと換金に行くぞ」
「二人に任せるわ」
イバラはユウリに3号から離れるように言ったが、ユウリは全く離れる気がなかった。
「……よし、クロースル。今日の分は二人で山分けしようぜ」
「いいですね。そうしましょう」
3号から離れようとしないユウリに、イバラとクロースルは強硬手段を取った。
「ちょっ、待った。待ちなさいよ。3号ちゃん、またすぐ戻って来るからね~」
ユウリも報酬を取られるわけにはいかなかったので、慌てて3号から身を離すと男二人を追いかけた。
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「おいし~」
「なんだかんだ何年も料理人をやってるだけのことはあるなあ」
「どうだ、お前ら。これが俺の本気だ」
酒場の閉店後、昨日の3号の賄いに対抗して本気を出したズラの賄いは中々に好評だった。
「美味しいけどちょっと大人気ない気がする」
「確かに」
味が良かっただけにズラの本気を出した理由に酒場の一同は少し残念な気持ちになった。もっとも、料理の経験年数でいえば3号とズラの間にそこまでの差はなかった。
「まあまあ、美味しいならいいじゃないですか」
「確かに」
「それはそう」
「当たりの賄いが増えるのはいいことだ」
ファンのフォローで場の雰囲気は元に戻り、和気あいあいと賄いを楽しんだ。
「それで3号さん、どうでしたか?」
そんな中でファンは3号に初日の感想を尋ねた。
「あっ、はい。私なりになんとか精いっぱいやれたつもりではあります。ただ何か出来ていないことがあれば皆さん、おっしゃっていただければすぐに直しますのでおっしゃってください」
ファンの質問に3号は自信がなく答えた。
「それなら大丈夫ですよ。基本的な仕事は問題なく出来ていましたし、何か分からないことがあってもすぐに聞きに来てくれましたから」
「ああ、厨房から見ているだけだったけど初日からあれだけ動けりゃ上出来だ」
「確かに3号ちゃんいい意味で初日って動きじゃなかったしね」
ファンの言葉に周囲も賛同し、3号の働きぶりを褒めたたえた。
「ところで私、明日はお休みで3号さんの指導を誰かに頼もうかと思っていたんですけどどうしましょうか?」
3号の評価が終わると、ファンは自分が明日休みの予定であることを切り出した。
「……なら明日は俺が担当しよう。といっても今日の3号ちゃんの動きを見る限りそんなに教えることはなさそうだけどな」
皆が迷う中、ズラが3号の指導役に名乗りを上げた。基本的に厨房のズラが給仕の指導をすることはなかった。しかし、3号が初日から十分働けており、指導に付きっきりにならなくてもよさそうなためズラは指導役を引き受けた。
「それは確かにそうですね。すみません、お願いします」
「何、慣れない指導係は疲れるだろ。休みの日はゆっくり休んでくれ」
ファンが指導を引き受けたズラへと頭を下げると、ズラはファンの労をねぎらった。
「というわけで3号さん。明日はズラさんが私の代わりに指導担当になりますので何かあったらズラさんに相談してください」
「はい。了解しました」
こうして3号の酒場初日は大きな問題もなく終わりを告げた。
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「あ~、へやがひとつしかあいてないとかついてないな~」
3号たちが賄いを食べている頃、メモリアから離れた街の宿屋の一室でデレーヌはわざとらしく声を上げた。
「そうだね。僕は床で寝るからデレーヌはベッドを使ってくれたらいいよ」
メモリアに帰る前に街で一泊する予定だったデレーヌとケフェッチだったが、宿屋の部屋に空きがなく一つの部屋で泊まることになった。しかし、実際はデレーヌが宿屋に先回りして口裏を合わせていたからだった。
「いや、ここのベッドは広いしお前もベッドで寝て構わないぞ」
「そう? ならお言葉に甘えてそうさせてもらおうかな」
(……よし!)
二人で一つのダブルベッドに寝ることになったデレーヌは心の中でガッツポーズを取った。
「それじゃあ悪いけど僕はもう寝るね。久々の馬車は結構疲れるね」
「……えっ、あっ、そうか。なら早く休めよ」
「それじゃあお休み。また明日」
そういって横になったケフェッチからはすぐに寝息が聞こえてきた。
「……いっそやるか?」
デレーヌは無防備なケフェッチ相手に強引に既成事実を作ろうかと考えた。しかし、結局考えるだけで何も出来ず悶々としたまま朝を迎えることになった。
【キャラ情報】
名前:ライ・トコース & レフ・トコース
種別:人間♂
年齢:19歳
身長:170㎝