ホムンクルス、ついに買われる!~爆乳専門店の元・売れ残り~ 作:ツインテスキー
「3号ちゃ~ん♪」
3号のメモリア生活三日目。二日目同様酒場で働いている3号へとユウリがまた抱き着いた。
「おはようございます。ユウリさん」
「おはよう、3号ちゃん。今日も可愛いわね♪」
「ありがとうございます」
ユウリに抱き着いた3号はそのままユウリへと挨拶を返した。抱き着きも三回目ともなると完全に慣れていた。
「いや、3号ちゃん。そこはちゃんと言っておかないとどんどん過激になって来るぞ」
二人のやり取りを見ていたイバラが3号へ指摘を入れた。
「そ、そうでしたか?」
「ないない。そんなことないから」
「いや、あるだろ」
イバラの言葉にユウリは3号から離れ、手を大振りに振って否定をした。その弁明にイバラは大きくため息をついた。
「今日はお二人なのでしょうか?」
「ああ、クロースルは今日休みだ。三日連続最深部はきついっていうのと道具の補充もしないといけないっていっていたからな。……寂しいぜ」
そんな中、3号はクロースルがいないことに気づき、そのことを尋ねるとイバラは寂しげな表情を浮かべながらクロースルの不在の理由を答えた。
「そうでしたか」
「というかクロースルはそっちの方がメインだしね」
「お忙しいんですね」
「この町じゃゴーツさんの次ぐらいには忙しそうだからな」
「道具の方は私も世話になっているから倒れない程度に頑張ってほしいわね」
「それから……」
「お前たち、いい加減3号ちゃんを解放してやれ」
更に話を続けようとするユウリの言葉を本日の3号の指導係であるズラが遮った。
「確かに邪魔しちゃ悪いな。ほら、行くぞ。ユウリ」
「嫌だ~。もっと3号ちゃんと話したい~」
イバラは駄々をこねるユウリを酒場の席まで引きずっていった。
「ズラさん、すみません」
ユウリから解放された3号はズラの元まで移動すると頭を下げた。
「何、あいつ相手なら仕方ない。あと、こういう時は『すみません』より『ありがとう』の方がいいぞ」
「すみま……ありがとうございます」
「いいってことよ」
慌てて言葉を言い直した3号にズラは兜越しの笑顔で返した。その後、ユウリたちが会計を終えて酒場から出る時にも多少のトラブルはあったもののそれからは特にこれといったこともなく時間が流れていった。
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「ふむ、それでは両者合意とみてよろしいかの?」
時間は流れ、昼下がりの酒場では本日3回目の決闘が始まろうとしていた。
「ええ! 今こそ吾輩の鍛錬の成果を見せる時!!」
ゴーツの決闘の確認に筋肉隆々の半裸の大男が己の筋肉を見せつけるようなポーズを取りながら頷いた。その手足は丸太のような太さで、ポーズを取るだけで周囲の空気が震えていた。
「……ふふ、威勢がいいですわね。ですがそのご自慢の肉体も私たちの愛の前では無力です! ねえ、ロマン様♡」
そんな大男に対するは煌びやかな装飾が施されたドレスを着た女性だった。ドレスの女性は大男の人間離れした筋肉に全く臆することなく、勝利宣言をすると隣にいた美男へと強く抱きついた。
「ああ、勿論だよ」
「ロマン様~♡」
ドレスの女性に抱き着かれた美男は身じろぎすることなく彼女を受け止め、優しい言葉とハグを返した。すると女性は感極まった声を上げながら更に強く美男へと抱きついた。
「……よろしい。ではこれよりバルク対ラブの決闘を開始する。賭けに参加する者は挙手をせよ」
決闘の確認を終えたゴーツは改めて決闘の開始を宣言し、賭けの参加者を募り始めた。
「おっ、三強同士の対決か」
「この間はバルクさんが勝ったんだっけ?」
「……難しいな」
「賭けはしないけど見ごたえがあっていいわよね」
「ふむ、あの鍛え抜かれた100万点の胸筋はいつ見ても素晴らしい」
「悔しいけどそこは同意せざるをえない」
「男からしてもあの筋肉はほれぼれするからな」
決闘の開始に周囲が騒がしくなり始めたが、それはトコース兄弟の決闘よりも激しい盛り上がりだった。
「それでは決闘を開始する!」
ゴーツは賭けの集計を完了し、決闘の術式を発動した。すると大男、ドレスの女性、美男の三人が全員まとめて決闘空間へと転送された。
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「さあ、かかってきなさい!」
「望むところさ!』
「ロマン様頑張ってください♡」
決闘空間に転送された大男、バルクはその筋肉を見せつけるようにポージングし、美男、ロマンは腰に携えていた剣を抜いた。そしてドレスの女性、ラブは美男の背後で声高らかにロマンの応援を始めた。
「いくよっ!」
「ふん!」
ロマンがバルクに向かって剣を振るった。しかし、それはバルクの左腕によって弾き返されてしまった。
「さすがだね」
「次はこちらから行きますぞ!」
弾かれた衝撃を利用して後ろに下がったロマンに対して、バルクは距離を詰めると両腕によるラッシュを繰り出した。それは一撃一撃が必殺の威力だったがロマンは涼しい顔をしながら的確に避け、あるいは受け止めた。
「ぐぬぬ……」
「ロマン様カッコいいです~♡!!」
全力のラッシュをやり過ごされたバルクは唸り声を上げ、後方でロマンの剣捌きを見ていたラブは黄色い歓声を上げた。
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「やっぱりあの二人は凄いな」
「勝てる気がしない」
「相変わらず両方とも人間じゃねえ……ロマンの方は元から人間じゃないけど」
「しゃー! ロマン、そこだー! いけー!」
「負けるな、バルクさん!」
お互いに音声は聞こえていないものの、バルクとロマンの白熱した決闘の様子を酒場の面々は興味深く、あるいは熱狂的に見つめていた。
「……すみません。ゴーツさん。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ふむ、なんじゃ?」
周囲が戦いの行方を固唾を飲んで見守る中、3号がゴーツへと近づき小さく声をかけた。
「三強というのはあの方々がこの町で一番お強いということでしょうか?」
3号は三強という言葉の意味を知らず、場の盛り上がりに馴染めなかったためゴーツに三強の意味を尋ねた。
「うむ。概ねその解釈で間違いない。儂という人間を辞めた例外を除けばあやつらがこの町で最上位の強さを持っておる。もっともそれは単純な一対一の真っ向勝負での話じゃから条件次第では勝てる者もおるがな」
「そうでしたか。ありがとうございます」
三強の説明を受けた3号は丁寧に頭を下げた。
「別に気にせんでよい。ついでじゃから紹介をしておこう。まずは筋肉隆々の大男の方、バルク。まあ、あやつの強さは見ての通りその筋肉じゃ。鍛え上げられたあやつの肉体は強化魔法なしで武器と真っ向から渡り合える」
「……え? あれは強化魔法を使ったりはしていないのですか?」
ゴーツの追加の説明に3号は目を丸くした。なぜならバルクのように素手で金属製武器と正面から戦うには通常であれば魔力による肉体強化が必須だったからだ。
「ああ、バルクは代々魔法使いの家系として生まれたものの魔力に乏しく、魔法への才能もなかったからのう。そのためにあやつは家を飛び出し、筋肉を極めるに至った。儂も長年、色々な人間を見てきたがあれを超える筋肉には出会ったことがない」
「そうでしたか」
3号は続くゴーツの説明にバルクの筋肉の異常さについて納得した。
「総評として三強の中で一番強靭な肉体をしておる。しかし欠点として筋肉に自信があるせいで回避行動を取ろうとしない点や搦め手に弱いのが玉に瑕じゃな」
「……確かに攻撃を避けたりせずに受け止めてばかりされていますね」
3号が横目で決闘中のバルクの方を見ると明らかに回避が間に合いそうな場面でも、ロマンの長剣の一撃を受け止めていた。また疲労のせいか動きも悪くなってきており、自慢の筋肉にもいくつかの傷があった。一方で彼と対峙しているロマンには一切の傷がなく、攻撃のペースも落ちていなかった。
「それでは続いてもう一人の三強について紹介しておこう。それがあの後ろにいる女子ラブじゃ」
ゴーツが戦っている二人の後方にいるラブへと目をやると、3号は首を傾げた。
「……女子? バルクさんと戦っている方が三強ではなかったのですか?」
「ああ、あの細身の男、ロマンはラブが造り出した使い魔じゃからな。ロマンの強さこそがラブの強さといえる」
「あの男性の方が使い魔ですか? 私、使い魔はもっと小さい小動物だと思っていました」
使い魔とは術者に従う僕である。そして一般的な使い魔は3号の言う通り、小動物を魔力で調教や改造したり、物質に疑似生命機能を付加したものだった。
「使い魔を作ること自体は魔力さえあれば出来る。しかし、素体がないと外見から内部の機構まで全てを自分で作らねばならない。じゃから大抵の使い魔は小動物や物を改造して作るのじゃ」
「……確かにそれは大変そうですね」
ホムンクルスである3号は製造主であるチモックが理想のホムンクルスを作るのにどれだけ苦労をしたのかを知っていた。そのため使い魔作成の難易度のよく分かった。
「人型の使い魔を作ろうとする者は多いが、その複雑さからほとんどのものが投げ出してしまう。しかし、幼いころに読んだ物語の王子に憧れたラブは理想の王子様を作り上げたのじゃ」
「理想の王子様、ですか?」
「そうじゃ。見た目も性格も強さも何もかも完璧な、ラブにとって理想の男性像。それがロマンじゃ。まあ、その分魔力の消費が激しく、戦闘となればラブ本人はまともに動けなくなるのが欠点じゃな」
「だから後ろの方で応援されているのですね」
3号はゴーツの説明にラブの方へ見た。一見すると後ろでただ応援しているだけの彼女だったが、よく見ると体はふらつき大量の汗を流していた。
「ロマンはどれだけ傷つこうとラブの魔力によって回復するがラブ本人は消耗する一方じゃからな。ラブのあの様子からしてそろそろ終わりそうじゃ」
「え? あっ、ラブさんが倒れました」
ゴーツの言葉の直後、ラブはその場に倒れ伏した。そしてその瞬間、ロマンの姿が霧散してしまった。
「……というわけでこの決闘。バルクの勝利じゃ」
「よっしゃー!!」
「……マジかよ」
「外したけどいい勝負だった」
決闘の決着により周囲は一気に沸き立った。肉体と精神、それぞれ人間離れした強さを持つ者同士の力は均衡しており、その戦いは周囲に尊敬と畏怖を与えた。
「……ふぅ、今回はなんとか勝利出来ましたが……まだまだ鍛錬を積まねばなりませんね」
決闘空間から現実空間へと戻されたバルクは大急ぎで会計を済ますと酒場から出て行った。
「すみません。ロマン様。私の愛が足りないばっかりに……」
「いや、むしろここまで戦えたのはラブのお陰だ。だから気を落とさないでほしい」
「ロマン様♡」
一方の回復したラブと復活したロマンはそのまま酒場に居座り、いつものようにイチャイチャし始めた。
「そういえばゴーツさん。三強ということはもうお一人いらっしゃるんですよね?」
「ああ、じゃがもう一人は3号。お主もそれなりに知っておる。デレーヌじゃ」
「えっ、デレーヌさんがですか!?」
もう一人の三強の正体を聞かされた3号は驚きの声を上げた。
「以外か?」
「いえ、でもまさかそれほどとは」
3号もデレーヌの今までの立ち振る舞いから一定以上の強者だとは考えていたがそこまでとは思っていなかった。
「まあ、デレーヌは他二人のような分かりやすい強さではないからな」
「それはどういう?」
「デレーヌの強みはあらゆる状況への対応能力じゃからな」
「対応能力ですか?」
「端的に言うと勘が凄くいい」
「……勘、ですか?」
「ああ、勘じゃ。じゃが勘と言えどあやつの勘は一味違う」
ゴーツの説明に3号はいまいちピンと来ていなかった。しかし、デレーヌの強さは実際に見ないと分かりづらいものであるため、彼女の反応も仕方なかった。
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「……zzz」
メモリアへ向かう馬車の中、昨晩思い悩んだ末に一睡も出来なかったデレーヌは寝息を立てて眠っていた。
「……ふふふ、かわいい妹さんね」
「いや、デレーヌは……うわっ!」
馬車に同乗していた老夫婦がケフェッチとデレーヌのことを兄妹と勘違いして声をかけてきた。そのためケフェッチはそれを訂正しようとしたが、突然馬車が急停止し車体が大きく揺れた。
「おらおら! 端っこに寄って金目のものを出しやがれ。そうすれば命までは取らねえよ」
「あ~、なんだ。若い女いねえのかよ。つまんねえな」
その直後、馬車の中に武器を持った二人組の男が乗り込んできた。
「ご、強盗……」
「婆さんや、ここは言う通りにしておこう」
「こんな時に」
「……zzz」
突然現れた強盗に老夫婦とケフェッチは慌てていたが、デレーヌは未だに夢の中にいた。
「おい、ガキ。お前も移動しやがれ」
「危ない!」
「おい、じっとしてろ」
強盗の一人が寝たままのデレーヌに掴みかかろうとしたため、ケフェッチは間に割って入ろうとした。しかし、それはもう一人の強盗に止められてしまった。
「ぐえっ⁉」
そしてその直後、デレーヌに掴みかかろうとした強盗がうめき声と共に馬車の外まで飛んでいった。
「な、なんだ!?」
「……だから危ないっていったのに」
「……zzz」
残された強盗が突然の事態に驚く一方で、ケフェッチはため息をついた。その二人の視線の先、先ほどまでもう一人の強盗がいた場所にはデレーヌが寝たままの状態で立っていた。
「ガキだからって容赦は……ぶえっ!」
激昂した強盗がデレーヌに殴りかかるが、デレーヌは寝たままそれを華麗にかわし、カウンターの裏拳を叩き込んだ。そしてカウンターをもろにくらった強盗は先ほどの強盗と同じく馬車の外へ飛ばされていった。
「……zzz」
「……すごい」
「あれは本当に寝たままなのか?」
「はい。デレーヌは昔色々あって寝たままでも戦えるんです。ただあの状態だと敵味方の区別とかはつかないので絶対に近寄らないでくださいね」
怯える老夫婦の質問にケフェッチは答えた。極限まで研ぎ澄まされた勘のおかげでデレーヌは常に相手の攻撃を見切り、相手に会心の一撃を叩き込むことができた。そしてそれは寝た状態でも変わりなかった。
「……分かったわ」
「了解した」
老夫婦は先ほどの強盗たちの惨状を思い浮かべ、ケフェッチの言葉通りしばらくじっとするよう心得た。
「ん、どうしたお前ら。まさかやられたのか」
「ちょっと痛い目をみてもらう必要があるみたいだな」
そうこうしているうちに騒動に気づいた強盗の仲間たちが馬車の前へと集まってきた。しかし、それを察知したデレーヌによって一分も立たずに全滅してしまった。
「……zzz」
強盗たちを返り討ちにしたデレーヌはその場の地面にそのまま横になっていた。
「……デレーヌってば。そんなところで寝たら髪が痛むよ」
ケフェッチは地面に寝ているデレーヌを見かねてお姫様抱っこの状態で持ち上げた。
「……君、触って大丈夫なのかい?」
デレーヌに接触したケフェッチを見た老夫婦の夫が恐る恐る声を掛けた。
「ああ、僕は長い付き合いなので大丈夫ですよ」
「そうか。というか君たち、兄妹じゃなくて恋人だったんだな」
「恋人? 違いますよ。僕は一回振られた身。ただの友人です」
老夫婦の言葉にデレーヌに振られたケフェッチは首を横に振った。
「とてもそうは見えないがね。なあ、お前もそう思うだろう?」
「ええ。彼女、あなたの腕に抱かれてとても気持ちよさそうに眠っていますよ」
老夫婦の言う通りデレーヌはケフェッチの腕の中ですやすやと安眠していた。
「そうですかね?」
「……これは難儀しそうじゃな」
「そうですねえ」
長年の経験から二人の関係を概ね察しした老夫婦は二人の関係がよくなることを願った。そして馬車は気絶している強盗たちを縛って最寄りの街の衛兵に引き渡すと終点であるメモリアへと向かった。
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「ズラ、今から少し3号を借りてもいいじゃろうか?」
夕方前の酒場の客もまばらな頃、ゴーツがズラへと声をかけた。
「今なら余裕があるけどどうしたんだ?」
「今のうちにクロースルの家でも紹介しておこうと思ってな」
ゴーツの提案は3号のクロースルの自宅へ案内することだった。一見、仕事中にするようなことでもないがクロースルは厨房で使う消耗品なども作っていたのでそれを取りに行くことは度々あった。
「ああ、なるほど。それならホワイトオイルがもう少しで切れそうだから貰ってきてもらえないか?」
ズラはゴーツの提案を了承し、ついでに食用油を持ってきてほしいと頼んだ。
「ふむ、それぐらいじゃったらお安い御用じゃ。ゆくぞ、3号」
ズラの許可を得たゴーツは、早速3号を呼びつけた。
「クロースルさんの倉庫へですか?」
「ああ。あやつは一度無理をして倒れたことがあってのう。度々様子を見に行くようにしておるのじゃ」
ゴーツがクロースルの自宅へ向かう理由は3号への案内もあったが、一人でいるクロースルの安否確認という理由もあった。
「そんなことがあったのですね」
「もう何年も前の話じゃがな」
そんなことを話しつつ、ゴーツと3号はクロースルの自宅となっている倉庫へと向かった。
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「クロースル、生きておるか?」
「……生きてますよ~」
ゴーツと3号は数分歩いて、クロースルの自宅である倉庫の前に着いた。そしてゴーツがクロースルの名前を呼びながら倉庫の扉を軽く叩くと返事が返ってきた。
「ゴーツさんがちゃんとドアを叩くなんて珍しいですね」
返事からまもなくクロースルが倉庫の扉を開けた。彼はいつも勝手に中へ入って来るゴーツがわざわざ扉を叩いたことを不思議に思っていた。
「今日は連れがおるからのう」
「連れ……?」
「3号じゃ」
「クロースルさん、お邪魔します」
事前にゴーツから後ろに隠れるように指示を出されていた3号はゴーツの言葉によって前へ出た。
「3号さん!? ……少し部屋の整理をする時間をください!」
3号の姿を見たゴーツは慌てて扉を閉めた。
「片づけなら私もお手伝いします」
「いや、すぐに済むから待っていてほしい」
部屋の整理と聞いた3号は自分も手伝おうと申し出たが、クロースルはそれを強く断った。
「お邪魔でしたでしょうか?」
「なに、一人暮らしの男には隠したいものの一つや二つあるものじゃ」
「……ああ」
「単純に作業中の器具が散らかってるだけです!!」
断られて気を落とす3号にゴーツがフォローを入れたが、その直後クロースルから怒号が飛んできた。
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「……お待たせしました」
倉庫の片づけを始めてからおおよそ十分後、片づけを終えたクロースルは再び扉を開けた。
「中々早かったのう」
「失礼します」
改めて中へと招かれたゴーツと3号は倉庫の中へと入って行った。
「……色々な道具がありますね」
倉庫の中は食料倉庫と同じ広さだったが、様々な色の液体が入ったガラスの器具や大量の巻物、細々とした小物や布きれなどが所狭しと置かれていた。
「以前にも言ったがクロースルはこの街の薬品やら小物系の作成を一手に担っておる。じゃからこうなるのも致し方ない」
片付けは完璧とまではいかないものの、突然の訪問から最低限の足の踏み場を確保したクロースルに対してゴーツはフォローの一言を添えた。
「ところで今日はどうしたんですか?」
「ふむ。お主の生存確認、3号への場所の紹介、それと厨房用にホワイトオイルの調達じゃ」
「いつも心配しすぎな気がしますけどね。……それからホワイトオイル。厨房用なら1本で充分ですよね?」
ゴーツの言葉にクロースルは近くにあった透明な液体の入ったボトルをゴーツへと差し出した。
「何事も何かあった後では遅いからのう。受け取れ」
ゴーツはクロースルからボトルを受け取ると、空いている片方の手で小銭をクロースルに向かって弾いた。
「……確かに」
クロースルは弾かれた小銭を掴むとポケットへとしまった。
「というわけで用事は終いじゃ。3号、帰るとしよう」
「はい、了解しました」
用事を済ましたゴーツは3号に帰ることを伝え、そのまま二人は酒場へと戻って行った。
「……ふう、相変わらずあの人は心臓に悪いな」
一方でクロースルはゴーツたちを見送った後、倉庫の鍵を閉めながら大きなため息をついた。
「そうじゃ、一つ言い忘れておった」
「のわっ!」
クロースルが顔を上げた瞬間、目の前に再入室したゴーツが立っていた。
「……だから鍵を無視して入って来るのやめてくれませんかね?」
「すまん、すまん」
ゴーツの無法振りにクロースルは文句をつけたが、ゴーツは空返事をするだけだった。
「それで何の用ですか? 自分、まだやることが多くて忙しんですけど?」
ゴーツの悪びれない態度にクロースルは追及を諦め、本題を促した。
「それは分かっておる。じゃがもう少しでデレーヌが帰って来ると思うからあまり根を詰めすぎないようにな」
「……確かにそうですね。忠告感謝します」
ゴーツからの話はデレーヌの帰着についてだった。その内容が内容だけにクロースルは素直にゴーツへ感謝した。
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「あっ、デレーヌさん、ケフェッチさんお帰りなさいませ」
時間は流れ、夕刻。日に二本しかしかない馬車の定期便と共にデレーヌとケフェッチはメモリアへと戻って来た。
「……ああ」
しかし、帰ってきたデレーヌはまるで人生を賭けた勝負に大敗したかのような落ち込みようだった。
「デレーヌさん、どこか悪いんですか?」
デレーヌのそのあまりの顔色の悪さに3号は急いで駆け寄った。
「……いや、大丈夫だ」
デレーヌは大丈夫だと答えたが、その顔は誰が見ても大丈夫といえる表情ではなかった。
「……本当に大丈夫ですか?」
「ごめんね。3号さん。デレーヌってば遠出の後はいつもこんな感じなんだ。だから大丈夫、心配しないで」
3号は改めてデレーヌに体調のことを尋ねたがケフェッチが割って入ってきた。そしてケフェッチは3号に対していつものことだから心配しなくて大丈夫だと説明した。
「……そうなのですか?」
「……」
ケフェッチの言葉をデレーヌは無言のまま頷いて肯定した。
「デレーヌ。宿まで送ろうか?」
「……いい。一人にしてくれ」
デレーヌは街で買って来た荷物を持つと、一人でとぼとぼと自分の下宿先へと帰っていった。
「街にいく前やいる時はいつも楽しそうなんだけど、帰りはいつもあんな感じなんだよね。一体どうしたらいいんだろう?」
「……さあ、どうすればいいんでしょうか」
新参者である3号にもデレーヌの落ち込む理由がなんとなく分かったが、状況上とぼけるしかなかった。
(((((ああ、やっぱり今回も駄目だったか)))))
そしてその他酒場にいた面々は心の中で皆同じ考えを浮かべた。
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「クロースルさん、起きてらっしゃいますかー?」
更に時間は流れ、深夜。3号はゴーツのお使いでクロースルの倉庫へとやってきた。倉庫の中からは明かりが漏れていたため、彼女は扉をノックしたが返事は返ってこなかった。
「寝てらっしゃるのかな。……あれ、開いている」
クロースルが寝落ちしているのではないかと疑った3号だったが、念のため扉に触れると鍵がかかっていなかった。
「……クロースルさん、失礼します」
不用心だと思った3号は倉庫の扉をゆっくりと開けた。
「おい、クロースル……。ちゃんと聞いてるのか~」
「はいはい、聞いてますよ」
「クロースルさんにデレーヌさん!?」
倉庫の中では顔を赤くした下着姿のデレーヌがクロースルにしな垂れかかっていた。
「さ、3号さん!?」
「……ん~、3号か。ちょうどいい。お前もこ~い♪」
「へ?」
「へ?」
3号の声で彼女の存在に気づいたクロースルは驚きの声を上げた。そしてその声で3号の存在に気づいたデレーヌは彼女を手招きした。
「……え、えっと? そっちへ行けばいいのでしょうか?」
3号は突然の状況にどうしていいか分からなくなっていた。
「……デレーヌさん。いいんですか?」
状況に迷っていたのはクロースルも同じだった。そのため彼はデレーヌへ再確認を行った。
「3号なら他人にばらしたりはしないしいいだろう。だから3号もこっちにこ~い♪」
「なら3号さん、こっちへ。説明もこっちでするよ」
クロースルはデレーヌの返答によって彼女に同調することに決め、3号のことを手招きした。
「……了解しました」
迷っていた3号もクロースルの行動にデレーヌの誘いに乗ることに決めた。
「よし、3号ここに座れ」
「はい。……デレーヌさん、お酒臭いですけど大丈夫ですか?」
デレーヌは周囲に散らばった空き瓶をどけると3号にそこへ座るよう促した。そのため3号は指定された場所へと座ったが、そこは高濃度の酒気が漂っていた。
「たまにはこれぐらい飲まないとやってられない。……ぷはー! クロースル、次だ!」
デレーヌは手に持っていた小瓶の残りを一気に飲み干すと、クロースルへ次の酒を要求した。
「はい、どうぞ」
「よし!」
デレーヌの要求通り、クロースルは酒の入った小瓶を渡した。するとデレーヌはすぐさま口をつけた。
「それでお二人は何をしていらっしゃったんですか?」
「……反省会かな」
酒を飲むデレーヌの傍らで3号とクロースルは状況説明を始めた。
「今回の外出の件ですか?」
「そうだね。デレーヌさん的には頑張ったみたいだけど駄目だったみたいだ」
デレーヌのやけ酒の理由は3号の予想通り今回のデートの失敗だった。
「クロースルさんはよく聞いていらっしゃるんですか?」
「うん、デレーヌさんが荒れている時はね。報酬はもらっているから問題ないよ」
「そうでしたか」
「その方が後腐れないからね」
「なるほど」
クロースルとデレーヌは長い付き合いだったが、親しい関係だからこそ金銭関係は大事にしていた。
「……ふぅ。……クロースル、次だ」
「はい、どうぞ」
会話の途切れとほぼ同じタイミングでデレーヌが先ほど開けたばかりの小瓶を飲み干し、次の酒をクロースルに催促した。
「……ここの小瓶は全てデレーヌさんが飲まれたんですか?」
「自分も付き合いで2本は飲んだけど後はデレーヌさんだね」
「……そうですか」
改めて3号はその場に十数本転がった空き瓶を見て言葉を詰まらせた。
「……あ~、やっぱりクローセル特製ブレンドの酒は効くなあ」
「ありがとうございます」
デレーヌが飲んでいる酒は既製品の酒にクロースルが自家製の味付き疲労回復ポーションを混ぜたものだった。そのため度数は低めだが、ポーションの効果によってかなりの高揚感が得られた。もっともいくら度数が低いといっても十数本も飲めば関係なく、デレーヌはかなり酔いが回っていた。
「……ひっく、……そうだ。3号、せっかくだからお前にも私とあいつとの馴れ初めを話してやろう」
小瓶を一気に半分ほど飲み干したデレーヌが3号へと話しかけてきた。しかし、その目は酔いによって虚ろで焦点が定まっていなかった。
「ケフェッチさんとのですか?」
「ああ、そうだ」
3号の質問にデレーヌは頷いたが、その動きは緩慢で大振りだった。
「私が聞いても大丈夫でしょうか?」
「……私が許す」
「了解しました」
3号も二人の出会いには興味があったので大人しく聞くことにした。もっとも今のデレーヌの場合、例え断ったとしても語ったであろうことは想像に難くなかった。
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「……これが私たちの馴れ初めだ」
「……そんなことがあったんですね」
語られたデレーヌとケフェッチの馴れ初め及びデレーヌの過去は3号が想像していた以上に過酷なものだった。そのあまりの内容に3号は何度か確認したが全て偽りのない真実だった。
「まあ、最初だとそう思うよね」
3号が衝撃を受けている一方で3号と共にデレーヌの過去語りを聞いていたクロースルは至って平静だった。
「クロースルさんは何度か聞いていらっしゃるんですか?」
「正確には数えてないけど毎回一回はこの話があるし、多い時は三回ぐらいあるしね。まあ、50は超えていると思うよ」
「……50回ですか?」
3号はクロースルの『50回』という言葉に目を丸くした。クロースルも最初の方はデレーヌの過去話に真剣に耳を傾けていた。しかし、何十回と聞かされているうちに聞き飽きてしまってしまっていた。
「そうでしたか」
「そういえば3号さんはこんな時間に一体どうしたんだい?」
「……そうでした。これ、ゴーツさんからの届け物です」
クロースルの言葉にここに来た理由を思い出した3号はくゴーツからのお使いの品を取り出した。
「ゴーツさんからの? ……嫌な予感がするな」
クロースルはそれを怪訝な顔をしながら受け取った。そしてその予感は当たっていた。
「……そういうことか。3号さん、これ」
「え、これは……」
「今回もゴーツさんの手の平だったってことさ」
ゴーツからの届け物の中身を確認したクロースルは、しばしの沈黙の後、3号にもそれを見せた。それは「明日は休みでいいぞ」と書かれた紙だった。
これによりゴーツがこの状況を予見していたと察した3号はこのまま揃ってデレーヌの愚痴に付き合うことにした。そしてデレーヌの馴れ初め話は過去最高記録を更新した。
【キャラ情報】
名前:バルク
種別:人間♂
年齢27歳
身長:190㎝
名前:ラブ
種別:人間♀
年齢:21歳
身長155㎝
胸囲:Cカップ
名前:ロマン
種別:使い魔♂
稼働年月:6年
身長:177㎝