ラブライブ!~金色のステージへ~   作:青空野郎

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STAGE.13 星に願いを

月日が経つのは早いもので暦は5月。

さらに言えば新入生歓迎会、つまりµ'sの初ライブ前日となっていた。

今日までの約一ヶ月の間は西木野さんのおかげで歌やダンスの練習にも取り掛かることができたことが一番大きな進歩だった。

自前のデジカメでの撮影を繰り返し、慎重な打ち合わせと修正を重ねてきたおかげでどうにか完成にまで至ることができた。

もちろん基礎体力のトレーニングも怠ることはなく、特に穂乃果とことりの体力は当初とは比べ物にならない域に達している。

初ライブに関しては正式な部活動として認可されていないため歓迎会でのお披露目こそはできないが、講堂の使用の申請はすでに通っている。

ライブは歓迎会終了後の放課後に行う予定だ。

だが、ようやく練習の成果が芽を出し始めてきたと思った矢先の出来事だった。

 

「やっぱり無理です……」

 

海未が屋上の一角でふさぎ込んでしまっていた。

丁度、日陰の辺りで膝を抱えるせいかどんよりとした凹み具合が一層際立ってしまっている。

新入生歓迎会を前日に控え、生徒会の仕事を終えた後で様子を見に来てみればご覧の有様だったというわけだ。

 

「どうしたの?海未ちゃんならできるよ!」

 

「できます……」

 

「え?」

 

どうにかして元気づけようとする穂乃果に覇気のない声音が返る。

わずかにあげた顔から覗く双眸にはいつもの凛々しさが欠落していた。

 

「歌もダンスもこれだけ練習してきましたし……でも、人前で歌うのを想像すると………」

 

「緊張しちゃう?」

 

ことりの問いに海未は無言でうなずいた。

なるほど、どうやら本番直前という土壇場のタイミングで気持ちがナーバスになってししまったということか。

 

「そうだ!そういう時はお客さんを野菜だと思えってお母さんが言ってたよ?」

 

「野菜……?」

 

ひらめいたように説得を試みる穂乃果の言葉に海未は怪訝そうな面持ちでしばし思索に耽る。

そして――――

 

「私にひとりで歌えと!?」

 

「そこ?」

 

結果、どうやらデタラメな答えにたどり着いてしまったようだ。

一体何を想像したのか、怯えた悲鳴は穂乃果でさえあ然とさせていた。

 

「でも、海未ちゃんがつらいんだったら何か考えないと……」

 

「人前じゃなければ大丈夫だと思うんです!人前じゃなければ……!」

 

さすがのことりも危機感を露わにしているが、当の本人は元も子もない泣き言を零して耳を塞いでしまう始末だ。

今にも泣きだしてしまいそうなその姿は見ているこっちまでもいたたまれなくなってしまう。

まさか本番前のプレッシャーがここまで海未を追い詰めてしまっているとは………これは思った以上に重傷だな。

一応、海未には精神面のトレーニングに重きを置かせていたおかげですでにプレッシャーに対する耐性は身についているのだが、本人が自覚してないんじゃ意味がない。

練習の時はそんな素振りは見せていなかったから完全に油断していた。

気持ちが沈んだ海未に励ます言葉をかけようとしたその時、穂乃果が動いた。

 

「いろいろ考えるより、慣れちゃったほうが早いよ」

 

業を煮やした様相で海未の腕を掴んで強引に立ち上がらせると、困惑する彼女に言う。

 

「じゃあ、行こう!」

 

それはいつもと変わらない爛漫な笑みだった。

 

                    ☆

 

「じゃーん!ここでライブのチラシを配ろう!」

 

放課後、穂乃果に連れられて俺たちがやって来たのは日本最大の電気街、秋葉原だ。

俺は初めて訪れたわけだが、たった数分電車を乗り継いだだけで様変わりする景色に、本当に隣町なのかと疑ってしまうほど、鳴り止まぬ喧騒や人の往来は地元の比ではなかった。

 

「ひ、人がたくさん………」

 

海未も目の当たりにする規模のでかさに圧倒されてしまっていた。

 

「当たり前でしょ?そういうところを選んだんだから。ここで配ればライブの宣伝にもなるし、大きな声出してればそのうち慣れてくると思うよ?」

 

確かに穂乃果の言うことには一理ある。

一見して単純な考えかもしれないが、今の海未には多少荒療治の方が効き目はあるかもしれない。

 

「穂乃果にしては考えたな」

 

「でしょでしょ?どうかな?」

 

「俺は大丈夫だぜ」

 

「私も平気よ。でも、海未ちゃんが……」

 

そう言ってことりが苦笑を浮かべた視線を向けた先には―――

 

「あ、レアなの出たみたいです…………」

 

煌々と光を焚く街のど真ん中で見るも虚しくガチャポンの前にひとり暗い影を落とす海未がいた。

 

「う、海未ちゃん!?」

 

慌てふためく穂乃果の隣で俺は海未のぶっ壊れ様に俺は言葉を失った。

今までのわずか数秒でいったい何があったかはわからないが、恥ずかしがり屋も限界超えるとこうなっちまうんだな………。

こうして、穂乃果の作戦は始まる前から出鼻を挫かれてしまうのだった。

 

「ほら、見てください。野菜ですよ?野菜ひとりぃ、野菜がふたりぃ………ウフフフフ」

 

とりあえず海未、はやく戻ってこい!

 

                    ☆

 

秋葉原はさすがにハードルが高すぎたようで、俺たちは学校でチラシ配りを再開させることにした。

つーか最初からここでやればよかったんじゃないかと思ったが、今さら気にしても仕方ないか。

 

「ここなら平気でしょ?」

 

「まあ、ここなら……」

 

慣れ親しんだ場所であるためか海未はある程度の落ち着きを取り戻していたが、やはりまだ不安を完全に拭えていない様子だった。

 

「じゃあ、始めるよ!」

 

そんな彼女に構うことなく、さっそくチラシ配りを始める穂乃果は持前の前向きな性格のおかげか、先輩相手でも積極的に声をかけていく。

さて、俺も穂乃果に倣って始めるとしよう。

お願いします!明日µ'sファーストライブを行います!ぜひ見に来てください!ありがとうございます!明日ライブをやります!……………

チラシ配りを始めて数分、下校中の生徒に片っ端から声をかけてはチラシを配って回れば、生徒たちは物珍しそうに受け取ってくれている。

順調な出だしに心なしか安堵を覚えつつ、さて、海未はどうだろうか。

 

「………ぅ……………ぁ…………」

 

見れば、言葉にすらならないほど微小な声音を漏らすだけでただその場で立ち尽くす海未がいた。

 

「お、お願いします!」

 

それでもいざ意気込んで前を通りすがる女子生徒にチラシを差し出そうものなら、

 

「………いらない」

 

冷たい視線で一瞥しただけで素っ気なく一蹴されてしまうのだった。

今のはキツイな……。

 

「ダメだよそんなんじゃ!」

 

すぐに穂乃果が気落ちする海未の元に駆け寄り活を入れるが、それで彼女の戸惑いが消えることはない。

 

「穂乃果はお店の手伝いで慣れてるかもしれませんが、私は……」

 

「ことりちゃんだってちゃんとやってるよ?」

 

穂乃果の言うとおり、愛想のよい笑顔でチラシを配ることりの姿は堂に入っていた。

物怖じしないというよりは、かなり手馴れていると言った方が正確かもしれない。

 

「ほら、海未ちゃんも。それ配り終えるまでやめちゃダメだからね!」

 

「む、無理です!」

 

尚も暗い面持ちで弱音を吐く海未だが、穂乃果は挑戦的な視線を向けて、ニヤリと口角を上げた。

 

「海未ちゃん、私が階段5往復できないって言った時なんて言ったっけ?」

 

すると、穂乃果の煽るような目つきと含みのある物言いが癇に障ったのか、途端に海未が眉根を寄せた。

 

「………わかりました。やりましょう!」

 

言うや否や、海未は表情を引き締めて機敏な動きでチラシを配り始めた。

臆することのないその姿はさっきまでの弱腰を微塵も感じさせないほどだ。

 

「さすが幼馴染。上手いこと発破かけたな」

 

「えへへ~、イエイ!」

 

海未を促した前向きな変化に感心すれば、穂乃果は得意げにブイサインを掲げる。

幼馴染として相手のことを熟知している点では穂乃果も同じってことだな。

 

「あの……」

 

その時、鈴を転がしたような声音が俺の耳朶を叩いた。

振り向けば、眼鏡をかけたおとなし目な印象の少女が立っていた。

青色のリボンということは西木野さんと同じ1年生だ。

 

「ライブ……見に、行きます……」

 

気を抜けば聞き漏らしてしまうほどの小さな声だったが、少女はとても真摯な眼差しでそう言ってくれた。

 

「本当?」

 

「来てくれるの?」

 

「では、1枚2枚と言わずこれを全部――――」

 

「おいコラ」

 

パスン、と穂乃果とことりの顔が綻ぶどさくさに紛れて暴挙に及ぼうとした海未にはさすがの俺もハリセンを振り下ろせざるを得なかった。

 

「海未ちゃん………」

 

「わ、わかってます……」

 

これには呆れ果てた穂乃果の白い目に海未は肩をすぼめてしまう。

しかし、例え自分じゃなくても、こうして間近でファンがいることを実感するとうれしいものがあるな。

それがわかっただけでも今日の宣伝は有意義なものだったと言えよう。

 

                    ☆

 

 

新入生歓迎会と初ライブを明日に備え、部屋で寛いでいた夜のことだった。

 

『清麿くん!すぐに神社に来て!すぐだからね!』

 

穂乃果の言う神社言えば心当たりはひとつしかない。

突然の一方的な連絡を受けて俺たちは再び神田明神に集合していた。

どうやら穂乃果たちの間で、明日のライブの成功を願って願掛けを行おうという話になっていたらしい。

何事かと思い自転車をとばして来てみれば……人騒がせな奴らだよ、まったく。

 

「どうか、ライブが成功しますように……いや、大成功しますように!」

 

「緊張しませんように……」

 

「みんなが楽しんでくれますように……」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

手を合わせ、海未もことりもそれぞれの祈りを呟き、最後に穂乃果が締める。

いつかのように境内の前に並ぶ穂乃果たちから一歩下がった位置で俺も静かに瞑想を解いた。

 

「明日か……。楽しみだな」

 

3人が想いを重ねるように手を繋ぐ姿に微笑ましさを覚え、彼女たちと夜空を見上げれば宝石を散りばめたような満点の星空が広がる。

そういえば、こうして星空を意識するのは何年振りだろうか。

たまには神頼みではなく、星に願うのも悪くないかもしれないな。

願わくば、彼女たちの願いが叶いますように………。

もう一度、俺は噛みしめるように心の中で呟いた。




今になってラブライブとクロスさせるならファイズかドライブ辺りかな?と思う青空野郎です。
それに加えてこの作品を書いていると最近、清麿1年生時代から書き始めた方がよかったんじゃね?と考えつつ、ただ、今さら書き直すのも違う気がして………番外編とかで新しく作るか?

それはさておき、予告通りにこと花陽が出せました。
名前出てないけど……(笑)

とにかく、次回はようやくファーストライブだ!
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