ラブライブ!~金色のステージへ~   作:青空野郎

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STAGE.15 一夜明けて

さて、いきなりだがみんなはアルパカという動物を知っているだろうか。

南アメリカ大陸の、主にペルー南部に生息するラクダ科、ラマ属に属する動物である。

約2メートル程の全身から極めて良質な体毛を具えており、衣類を始めとする生活用品の加工利用の一役を買っている家畜の一種でもある。

と、とりあえず文学的な説明をしてみたわけだが、では今度はなぜアルパカの話題になるのかという疑問が浮上してくる。

これは音ノ木坂学院スクールアイドル『μ's』のファーストライブから一夜明けた昼休みの出来事なのだが、安心してくれ、別に現実逃避でもないし、その答え事態も至極簡単だ。

なぜなら――――

 

 

フェエエ~~

 

 

いかにも長閑を感じさせる鳴き声が耳朶を打つ。

そう、今、俺の目の前にそのアルパカがいるからだ。

正確には、音ノ木坂学院には白い毛並みのアルパカと茶色の毛並みのアルパカの計2頭が飼育されているのだ。

いかに世の中広しと言えど、アルパカを飼っている学校はおそらくここだけのものだろう。

そもそもなぜこの学校でアルパカが飼われているのか………誰もが抱く当然の疑問だが、その真相は依然謎のままだったりする。

そしてここにアルパカに魅了された少女がひとり。

 

「ふわぁ~~……ほえぇ~ん………」

 

もっさもっさとエサを頬張る白アルパカをことりがうっとりとした声音を漏らしていた。

 

「ことりちゃん最近毎日来るよね?」

 

「急にハマったみたいです」

 

そして俺は穂乃果と海未と並んで恍惚な表情でアルパカを見つめることりをただただ眺めていた。

 

「ねえ、チラシ配りに行くよー」

 

「あとちょっと~」

 

穂乃果がことりに呼びかけるが、当の本人は適当な生返事を返すだけでその場を動こうとはしない。

傍から見てもすごい執着ぶりだ。

 

「5人にして部として認めてもらわなくては、ちゃんとした部活はできないのですよ?」

 

確かに、µ'sがこれから本格的に活動するためには相応の場所が必要になる。

そこで行き着いたのがアイドル部の設立だ。

部活動ならば今後の活動の申請も通りやすいし、資金面も部費で補うことだってできる。

だが新しく部活を設立させるためには、まずは最低条件である5人以上の部員を集めなければならない。

現在µ’sは穂乃果、海未、ことりの3人、最悪俺も部員の頭数に入れるとしても4人。

当然、部活設立の条件をクリアするまでには至らない。

 

「うーん。そうだよね~」

 

これからのことを考えると一刻も早く部員を確保しなければならないわけなのだが、ご覧のとおり、アルパカに心を奪われたことりが忘我の世界に旅立ってしまっているため動くに動けないでいるのだった。

 

「かわいい……かな?」

 

「まあ、人それぞれじゃなないか?」

 

「えー?かわいいと思うけどなぁ~。首のあたりとかフサフサしてるしぃ」

 

穂乃果とともに訝しげな疑問を抱くが、そんな俺たちを尻目にことりは柵から身を乗り出してアルパカの首元に手を伸ばしていた。

 

「はあぁ~、幸せぇ~……」

 

フエエ~、と声を鳴らすアルパカをとろけきった面持ちで撫で回す姿はまんざらでもないご様子だ。

 

「ことりちゃんダメだよ!」

 

「危ないですよ?」

 

「大丈夫だよ――――ヒャウッ!?」

 

しかし穂乃果と海未が警告した束の間、ことりか小さな悲鳴を上げた。

白いアルパカがペロリとことりの顔を舐めたのだ。

そして不意のことではあったのだが、ことり以上に動揺を露わにする人物が約2名。

 

「ことりちゃん!?」

 

「あぅ……ど、どうすれば………!ここはひとつ弓で!」

 

「ダメだよ!」

 

 

グルウゥー!

 

 

なにやら物騒な発言をする海未と窘める穂乃果のやり取りを察したのか、唸るような鳴き声を上げて前に出てきた。

 

「ほら、変なこと言うから!」

 

獣特有の威圧感にさらにビクつく穂乃果と海未だが、お前らテンパりすぎだって……。

別にそこまで取り乱すこともないだろ?

 

「落ち着けって2人とも。たかが動物のしたことじゃないか」

 

ひとなつっこいやつだなー、と俺もアルパカに手を伸ばそうとした時だった。

 

 

ペッ

 

 

「「「あ……」」」

 

突如頬に不快な感覚を覚えたと同時、3人がいかにも苦々しい声を発する。

前に本で読んだことがある。

アルパカは身の危険を感じると威嚇、防衛のために唾を吐きかける習性があるらしい。

俺に唾を吐きかけたのはことりと戯れていた白いアルパカではなく、茶色のアルパカだ。

まあ、それはいいとしよう。

だが……俺、お前に嫌われるようなことを何かしたかな?

 

「あの、清麿くん?」

 

「………大丈夫だ。問題ない」

 

恐る恐る声をかける海未に俺はとても晴れ晴れとした笑みで応じる。

そうだ、落ち着けって俺、たかが動物のしたことじゃないか。

そっと唾を拭き取る……………ハハハ、くせえや。

ん?どうした3人とも、何をそんなに怯えた表情で俺を見てるのかな?

 

「ハハハハ。少し照れてただけなんだよなー?」

 

こみ上げる溜飲を下げるようにやさしく語りかける―――――

 

 

ブフーーーーー!

 

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ!!!

 

 

「こんの毛ダルマがあああああああっ!」

 

わざとらしく鼻息を吹き出しながら浮かべる嘲笑に俺の怒りは臨界点を突破した。

 

「上等だコラ!表出やがれコンチクショー!」

 

「落ち着いてきーくん!相手はアルパカさんだよ!?」

 

ことりが庇うように両手を広げて立ち塞がり、拳を振り上げ怒りに任せて跳び掛かろうとする俺を穂乃果と海未が取り押さえてくる。

 

「そうです!それにさっきと言ってたことがメチャクチャですよ!?」

 

「うおおおおおおおおーーーーー!やかましい!」

 

見ろよ!あの野郎これでもかと口角を上げてニヤついてやがんだぞ!

あんな態度見せつけられて冷静でいられるわけねえだろーがあああああああああ!

 

「離しやがれ!あいつの毛、全部毟り取って八つ裂きにして燃やしてやらあああっ!」

 

「いけません清麿くん!動物虐待ですよ!?」

 

海未、お前さっき弓で仕留めようとしてただろ!?

 

「そうだよ!それにアルパカだよ?高級品だよ?燃やすなんてもったいないってば!」

 

「ツッコむところはそこですか穂乃果!?」

 

アルパカの飼育小屋の前で周囲の迷惑などお構いなしに騒ぐµ’s+俺。

気付けば事態が変な方向に進んでいるような気もする状況の中、ひとりの少女が俺たちの横を通りすぎた。

 

「よーしよし」

 

体操着にジャージ姿の彼女はまっすぐアルパカに近づくと、臆することなく茶色の野郎を撫でた。

奴も安心しきっているのか、彼女に身を委ねている。

 

「大丈夫、ことりちゃん?」

 

「うん………嫌われちゃったかな?」

 

「平気です。楽しくて遊んでただけだと思うから」

 

彼女には悪いが違うと思う。

ことりは驚いた拍子に尻餅をついただけで俺たちに外傷はない。

だが少なくとも、同じ遊ぶでも俺とことりとでその意味合いは全く異なっていると断言してもいい。

俺の憤りなど知る由もなく少女は慣れた手つきで水の容器を取り換えている。

 

「あれ、キミってたしか……」

 

「おー!ライブに来てくれた花陽ちゃんじゃない!」

 

「駆けつけてくれた1年生の!」

 

穂乃果とことりが笑顔を咲かせ、海未も合点が行った面持ちを浮かべた。

こうして顔を合わせるのは昨日ぶりになるか。

 

「ねえあなた!」

 

「は、はい……」

 

突然何を思ったのか、穂乃果が花陽ちゃんの肩を掴んだ。

そして、しどろもどろになる彼女に言う。

 

「アイドルやりませんか?」

 

直球だな、オイ。

 

「穂乃果ちゃん、いきなりすぎ……」

 

だが苦笑を浮かべる俺たちに構わずさらに詰め寄っていく。

 

「キミは光っている!大丈夫!悪いようにはしないから!」

 

「なんか、すごい悪人に見えますね……」

 

唖然とする海未の隣で俺も同意する。

鏡持ってきてやろうかと思うほど、花陽ちゃんを覗き込む穂乃果の顔には濃い陰りが生まれている。

 

「でも、少しぐらい強引に頑張らないと……」

 

………まあ、間違っちゃいないわな。

ここで正論持ち出されると返す言葉もない。

 

「あ、あの……」

 

すると、おずおずとした様子で花陽ちゃんが口を開いた。

 

「に、西木野さんがいいと、思います。すごく、歌、上手なんです……」

 

「そうだよね!私も大好きなんだ、あの子の歌声!」

 

西木野さんか……。

穂乃果の言う通り、µ'sの曲というのもあるが、彼女の作ってくれた『START:DASH!!』は俺の心にも強く印象に残っている。

彼女がメンバーに加わってくれれば力強い仲間になってくれることを確信している。

確信しているのだが………

 

「だったらスカウトに行けばいいじゃないですか」

 

「行ったよー?でも絶対イヤだって」

 

ということらしい。

 

「あ、スミマセン。私、余計なことを……」

 

途端に花陽ちゃんが自身の発言にバツが悪そうに戸惑う。

 

「ううん、ありがとう」

 

しかし落ち着かせるように彼女の手をやさしく掴んで穂乃果が返したのは屈託のない笑顔だった。

 

「かーよちーん」

 

と、校舎の方向から聞こえてくる第三者の声。

 

「早くしないと体育遅れちゃうよー!」

 

声のする方を向けばこちらに向かって大きく手を振る少女がいた。

彼女も体操着姿ってことは花陽ちゃんの知り合いか…………そうだ、確か花陽ちゃんと一緒にライブを見に来てくれた子だ!

 

「失礼します……」

 

花陽ちゃんも彼女の姿を認めると丁寧なお辞儀をして、少女の元へ向かっていく。

その子も軽くこちらに一礼すると花陽ちゃんと一緒に走って行った。

もう少しで昼休みが終わる、この場所にもう用はない。

 

「俺たちも授業が始まってしまう前に早く戻ろうぜ」

 

「はい」

 

「そうだね」

 

「うん………」

 

潔く昼休みの勧誘をあきらめてこの場を後にする俺たちだったが、穂乃果だけは花陽ちゃんたちが走り去っていった場所を見つめていた。




清麿が花陽のことを『花陽ちゃん』と呼称していたのはそれしか彼女の呼び名を知らないからです。
決して高校生になってチャラくなったわけではありません。

アルパカとのやり取りはウマゴンとのやり取りを想像していただければ相違ありません。
てか、そこをイメージしてみました(笑)

次回は再び真姫ちゃんと邂逅するお話です。

最後に感想、意見、リクエストなどなど、心からお待ちしております!
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