ラブライブ!~金色のステージへ~   作:青空野郎

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STAGE.23 アイドル研究部

「アイドル研究部?」

 

「そう。すでにこの学校にはアイドル研究部というアイドルに関する部が存在します」

 

矢澤何某の襲来があった次の日の放課後、部活設立の申請のために再び生徒会室を訪れ俺と穂乃果、海未、ことりの4人はいつかのような冷たい眼差しを向ける絵里の説明に眉根を寄せていた。

 

「まあ、部員はひとりやけど」

 

「え、でもこの前部活には5人以上って……」

 

戸惑い気味に確認する穂乃果に、絵里の隣に座る希が答えてくれる。

 

「設立する時は5人必要やけど、その後は何人になってもいい決まりやから」

 

「生徒の数が限られている中、いたずらに部を増やすことはしたくないんです。アイドル研究部がある以上、あなたたちの申請を受けるわけにはいきません」

 

「そんな……」

 

「これで話は終わり―――」

 

「に、なりたくなければ、アイドル研究部とちゃんと話をつけてくることやな」

 

「希……!」

 

険しい面持ちのまま話を打ち切ろうとしたところを遮った希に絵里が初めて困惑を見せた。

 

「ふたつの部がひとつになるなら、問題はないやろ?部室に行ってみれば?」

 

柔らかに笑みながら動揺する絵里を諭すように言う希に促されて、さっそく穂乃果たちは生徒会室を去っていく。

俺も後に続こうとしたが、その前にどうしても聞かずにはいられなかった。

 

「なんでアイドル研究部があることを最初に言わなかったんだ?」

 

先に説明したとおり、音ノ木坂学院の部活は部員がひとりになったとしても存続はできる。

しかし、4名以下の部活は同好会扱いとして部費は降りない決まりとなっている。

逆を言えば、部費を持たない部活動は生徒会の予算会議に出席する必要はない。

これが、俺がアイドル研究部の存在を認知していなかった理由だ。

しかし、自分の落ち度を棚に上げるつもりはないが、今回の絵里のやり方には納得できないでいた。

最初は人数不足で、そして今回はアイドル研究部の存在を告げて。

ことごとく申請を撥ね除けようとする手札の切り方に明らかな意図を感じていた。

 

「別に大した理由なんてないわ。生徒会長として校則に則って判断した、それだけよ」

 

静かな怒りをぶつける俺に絵里は淡々と冷たく言い放つ。

 

「なら、現実を突きつけるために動画を投稿したのも、生徒会長としてか?」

 

「ーーーッ。………さあ、なんのことかしら?」

 

誤魔化すように視線を逸らす絵里だったが、一瞬だけ双眸を見開いたのを見逃さなかった。

なるほどーーーやはり(・・・)そういうことだったのか(・・・・・・・・・・・)

お互いの思惑をぶつけ合う光景を希は微笑みながら見守っている。

生徒会室には窓を叩く雨音だけが響いていた。

 

「……そうか。邪魔したな」

 

短く息を吐いて、俺は早々に切り上げることにした。

カマをかけたつもりだったが、もう充分だ。

ほんの僅かな仕草で至った確信を追及するよりも、今は少しでも早くこの場を離れたいという思いに駆られて俺は2人に背を向ける。

 

「………バカ」

 

最後に扉を閉める時、絵里の絞り出すような声が聞こえた気がした。

 

                   ☆

 

足早に文化部の部室が集まる校内を進んでいくと小さな人だかりを見つけた。

といっても、その後ろ姿は穂乃果たちのものだ。

 

「じゃあ、もしかして……あなたがアイドル研究部の部長!?」

 

声をかけようとした時、突然穂乃果が驚きの声を上げた。

何事かと思いながら近づくと、穂乃果たちと相対する人物に俺は目を見開いた。

そこにいたのは、当然だが音ノ木坂の制服に身を包み、黒髪を両サイドに束ねた小柄な身長の女子生徒。

まさかこんないも早く再会の場が訪れるとはな………。

目の前の少女―――矢澤にこの姿を捉えて、俺の中で一度静まっていた怒りがぶり返してきた。

向こうも俺に気付くや否や、その行動は早かった。

 

「ふやあああああああああ!」

 

「わあっ?!」

 

乱暴に腕を振り回して牽制し、穂乃果が仰け反ったその隙に矢澤は俊敏な動きで部室に駆け込み、ガチャッ、と鍵をかけた。

 

「部長さん、開けてください!部長さん!」

 

咄嗟に穂乃果が扉をたたく音に混じって、中から重いものを積み重ねる音が耳朶を打つ。

おそらくバリケードを築いているのだろう。

 

「外から行くにゃあ!」

 

溌剌とした星空の声が向こう側から聞こえた(・・・・・・・・・・)

それは中に立て籠もっていた矢澤にこも同じだったようで、何かを蹴り倒す音とともに慌ただしい足音がこちらに近づいてくる。

そして締め切られたカーテンと窓を開け放った(・・・・・・・・・・・・)のが奴の間違いだった。

雨雲に覆われているとはいえ、今は日の入り前。

しかし部室に入り込むべき日の光がひとつの陰によって遮られてしまっていた。

なぜならば………

 

「やぁざぁわぁぁ、にぃこぉおおお………」

 

「ひぃっ!?」

 

すでに部室の窓側で待ち構えていた(・・・・・・・・・・・・・)俺が矢澤にこを見下していたからだ。

今の俺がどんな顔をしているかは想像にお任せする。

 

「あ……ぁあっ………」

 

青ざめた表情でへたり込む矢澤にこに悪魔の翼が広がったような気もしないでもない影が覆い被さる。

さあ、覚悟しろ………!

 

「ジェヤアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」

 

俺の咆哮が平穏な学院を揺るがした。

 

                   ☆

 

とりあえず矢澤さんにザケルの制裁をくらわせた後、俺たちはアイドル研究部の部室に足を踏み入れていた。

 

「A-RISEのポスター!」

 

「あっちは福岡のスクールアイドルね」

 

そこで俺たちの目に飛び込んできたのは部屋中に所狭しと並べられたグッズの数々だった。

CDにDVD、ポスターやタペストリー、天井から吊るされたぬいぐるみの数々。

もしかして、ここにあるものすべてアイドル関係のものなのか?

 

「校内にこんなところがあったなんて……」

 

「まさか、これ全部あんたが集めたのか……?」

 

その光景はまさに圧巻の一言。

他のみんなも感嘆の息を溢しながら部室を眺めていた。

 

「勝手に見ないでくれる?」

 

額に絆創膏を貼りつけた矢澤さんが不貞腐れたように言うが、心なしか照れているのかその頬は少しばかり赤らんでいた。

しっかし、何度見てもホントすげえや。

これだけ集めるのにいったいどれほどの時間と労力がかかってんだろ……?

再び感嘆しながら改めて見渡していると見慣れた名前を見つけた。

『大海恵』……なるほど、この列は恵さん関連の商品が占めているようだ。

こうして見ると友人の身として内心うれしいものがあるな。

だが、なんだろうか。

この部屋に入ってから俺の中で言い知れない違和感が渦巻いていた。

 

「こ、こここ……これは……!伝説のアイドル伝説DVD全巻ボックス!持ってる人に初めて会いました!」

 

丁度その時、部室の一角で小泉が手にしたものを見ながら肩を震わせていたかと思えば、かつてないぐらい瞳をキラキラさせた笑顔で矢澤さんに詰め寄っていた。

え、小泉?

 

「そ、そう?」

 

「すごいです!」

 

即答する小泉の羨望の眼差しに矢澤さんもご満悦の様子だった。

 

「へー、そんなにすごいんだ」

 

「知らないんですか!?」

 

次に穂乃果が呆けたような反応を見せれば、途端に声を荒げて弾丸のごとき速度で部室のパソコンを陣取った。

え、なにがあった?

 

「伝説のアイドル伝説とは各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に歩み寄り、古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVDボックスで、その希少性から伝説の伝説の伝説、略して伝伝伝と言われるアイドル好きならだれもが知ってるDVDボックスです!」

 

え、誰……?

 

「は、花陽ちゃんキャラ変わってない?」

 

戸惑いを見せる穂乃果の隣で俺も開いた口がふさがらない心境だった。

アイドル好きだとは知っていたが、まさかここまでとは………。

今までの引っ込み思案な印象を覆し、饒舌に語る小泉に誰もが唖然としていた。

 

「通販、店頭ともに瞬殺だったそれを2セットも持っているなんて………尊、敬……!」

 

「家にもう1セットあるけどね」

 

それって必要あるのか?

 

「ホントですか!?」

 

「じゃあ、みんなで見ようよ」

 

「ダメよ。それは保存用」

 

スマン、もう1度言わせてくれ………それって必要あるのか?

単に金の無駄だと思うんだが………。

 

「くあぁぁぁっ、伝伝伝……!」

 

穂乃果の提案が却下され、キーボードの上に沈んで小泉は涙を流していた。

スマナイ、俺はもう付いていけそうにない。

 

「かよちんがいつになく落ち込んでいる!」

 

小泉の変貌に珍しく星空も動揺していた。

ふと思ったことだが、今ここで俺が恵さんの友達であることを明かしたらどうなるんだろうか?

…………イヤ、やめた。なんか怖くなってきた。

その時、視界の端で立ち尽くすことりの姿をとらえた。

何かを見上げているようだが、彼女の視線を追うと、その先にはサインが書かれた1枚の色紙があった。

 

「ああ、気づいたの?秋葉のカリスマメイド、ミナリンスキーさんのサインよ」

 

秋葉のメイドって、メイド喫茶のメイドのことだよな?

はあぁ、その手の店には言ったことがないからわからんが、まさか一般人のサインも通販に出回る時代になってたんだな………。

ここに来て俺は日本のアイドル文化の片鱗を再確認させられていた。

 

「ことり、知ってるのですか?」

 

「あ、いや……」

 

「ま、ネットで手に入れたものだから本人の姿は見たことないけどね」

 

矢澤さんの言葉になぜかことりは安堵の息を吐いていた。

 

「と、とにかくこの人すごい……」

 

「それで、何しに来たの?」

 

ことりの様子に疑問を抱きつつも、俺たちの視線は再び矢澤さんに向けられる。

先輩の問いをきっかけに、それぞれが席に着くとまず最初に穂乃果が口火を切った。

 

「アイドル研究部さん」

 

「……にこよ」

 

「にこ先輩、実は私たちスクールアイドルをやっておりまして」

 

「知ってる。どうせ希に部にしたいなら話しつけてこいとか言われたんでしょ?」

 

なるほど、すでに希が話を通してくれていたみたいだ。

 

「おお、話が早い!」

 

「ま、いずれそうなるんじゃないかと思ってたからね」

 

「なら―――」

 

「お断りよ」

 

思わぬ兆しに穂乃果が笑顔を咲かせるが、返ってきたのは拒絶の一言だった。

 

「お断りって言ってるの」

 

半眼で念押しする矢澤さんに穂乃果は完全に言葉を失ってしまっていた。

 

「私たちはµ’sとして活動できる場所が必要なだけです。なので、ここを廃部にしてほしいとか言うのではなく……」

 

「言ったでしょ?あんたたちはアイドルを穢しているの」

 

今度は海未が代わって説得を試みるが、矢澤さんの顔色は依然として変わらない。

 

「でも、ずっと練習してきたから歌もダンスも」

 

「そういうことじゃない」

 

それでも食い下がる穂乃果を静かな声音で一蹴する矢澤さんに誰もが怪訝に思う中、厳しい面持ちで言った。

 

「あんたたち…………ちゃんとキャラづくりしてるの?」

 

…………………は?

 

「………………は?」

 

しばしの沈黙の末、心と言葉が一致してしまった。

 

「きゃら?」

 

狙ったようなタメから放たれた言葉にポカンとする俺たちに、矢澤さんは立ち上がり熱弁する。

 

「そう!お客さんがアイドルに求めるものは楽しい夢のような時間でしょ?だったらそれにふさわしいキャラってものがあるの。ったくしょうがないわね………」

 

いい?たとえば、と言って矢澤さんが一度俺たちに背を向ける。

そして………

 

「にっこにっこにぃ♪あなたのハートににこにこにい♪笑顔とどける矢澤にこにこ♪にこにーって覚えてらぶにこ♪」

 

「「「「「「「……………」」」」」」」

 

わけのわからんフレーズが部室によく響いたこと。

妙に説得力があるなと思えばコレかよ......。

時間が止まったような感覚とは正に今のことを言うのだろう。

両の親指と人差し指と小指を立てて、これでもかと言うぐらいのアイドルスマイルに俺たちはただ困惑していた……。

おそらく、これが矢澤にこという人物が描くアイドル像なのだろう。

彼女の価値観を否定するつもりはないが、少なくとも恵さんはこんなあらかさまなキャラ作りはしていない。

それに最初に素を知っていた分、笑顔に隠されたあざとさが半端なかった。

一瞬で世界が静まり返ったぞ、おい。

その脱力感はフォルゴレの『チチをもげ』やビッグ・ボインの『ボイン・チョップ』に匹敵していた。

なんなら、キースの『第九もどき』まである。

 

「どお?」

 

いや………どおと聞かれても、むしろこの惨事をどうしてくれるんだ?

みんな返すべき言葉を探していた。

 

「うぁ……」

 

穂乃果は笑みを引き攣らせ、

 

「これは……」

 

海未は戦慄を露わにし、

 

「キャラというか……」

 

ことりは唖然とし、

 

「あたし無理……」

 

西木野はすこし引き気味で、

 

「ちょっと寒くないかにゃー?」

 

星空は思ったことをそのまま口にする。

 

「ふむふむ……」

 

一方、小泉はひとり真面目にメモを取っていた。

そして俺は………

 

「きーくん!ハリセン、ハリセン!」

 

ことりの呼びかけで俺はいつの間にかハリセンを取り出していたことに気付いた。

いかん、無意識の内に俺の行動は本能に支配されていたようだ。

湧き上がってくるこの形容しがたい感情が何なのかはわからないが、ひとつだけ確かなことがある。

もしこいつが男で、今この場にガッシュがいたら俺は間違いなく電撃(ザケル)をぶちかましていた。

 

「そこのあんた、今寒いって……?」

 

星空の感想に、矢澤さんの瞳に陰りが宿った。

あ、これはヤバイ。

 

「あ、いや……すっごいかわいかったです!サイコーです!」

 

「あ、でもこれいいかも!」

 

「そうですね、お客様を楽しませるための努力はだいじです!」

 

「素晴らしい!さすがにこ先輩!」

 

最後の小泉はおそらく本心だとしても、危機感を感じて咄嗟に誤魔化そうとする星空に続いてことりと海未がフォローを入れるが、それは単に火に油を注ぐ行為だった。

 

「よし!そのくらい私だ」

 

「出てって」

 

最後に場を丸く収めようとした穂乃果だったが、それは怒気を孕んだ矢澤さんの一言にさえぎられてしまった。

 

「とにかく話は終わりよ!とっとと出てって!」

 

結局、俺たちは矢澤さんにすさまじい剣幕に押されるように部室を追い出されてしまうのだった。

 

「………」

 

ものの見事に交渉は決裂し、項垂れるµ’sの面々。

しかしその中で、閉ざされた扉を見つめながら俺はようやく違和感の正体に気づくことができた。

そう、あの部屋は………

 

「やっぱり追い出されたみたいやね」

 

「……希?」

 

突如かけられた声に振り返ると、そこにいたのは俺たちにこの部屋に来るように仕向けた張本人だった。

 

 




前半は絵里との衝突、からの鬼麿ならぬ悪麿登場、からのアイドル研究部訪問の23話目です。
本当は今回でにこ襲来編を終わらせる予定だったんですが、キリがいいのでここで分割させていただきました。
次回はそこまで長くはならないと思うので近日中には更新できると思います。
…………できるように頑張ります、ハイ。

どうも、ご無沙汰しています。
以前投稿した21話、22話でお気に入り登録者数が100人を超え、お気に入り件数が500件を突破したという奇跡に驚きを禁じ得ないと同時に、これからの執筆に相応のプレッシャーを感じている青空野郎です。
いや、ホントびっくりですよ。
いったい何が起きたとうれしさ通り越して軽く戦慄しましたからね。

さて、今後の方針といたしましては………

24話:にこ加入

25話:リーダー編………かと思いきや清麿は生徒会に舞台を移します。

26話:絵里との過去編

………的な感じで行く予定です。

これからもみなさまの期待を裏切らないように更新していくので、どうぞよろしくお願いいたします!
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