週明けの月曜日の全校集会で理事長を通して全校生徒に廃校の旨が伝えられた。
その場に集まる誰もが信じられないという顔をしている。
当然だ、新学期早々自分の通う学校が廃校になるなんて聞かされれば誰だってそうなるさ。
特に新入生にとってしてみればその衝撃は計り知れないだろう。
そしてここにもまた廃校の知らせに茫然自失としている者がいる。
「う、嘘ぉ……」
俺の目の前で穂乃果、ことり、海未の3人が掲示板に張り出されたプリントを顔を寄せあった姿勢で凝視している。
「廃校って……」
「つまり、学校がなくなるってことですね……」
ことりに続き、さすがの海未も動揺を隠せないでいる。
正直、彼女たちの心境は計り知れない。
なんて言葉をかけたらいいものか悩んでいると不意に穂乃果の身体が背中から倒れてきた。
「穂乃果!?」
咄嗟に踏み出したおかげでどうにか床に激突する寸前に穂乃果を受け止めることができた。
だが、穂乃果は視点の定まらない瞳でただただ虚空を見つめている。
「穂乃果!」
「穂乃果ちゃん!?」
一瞬遅れて事態を察知した海未とことりも慌てて駆け寄ってくる。
「私の、私の輝かしい高校生活がぁ……」
とうとう限界が来たのか、目に涙を浮かべながらそれだけ言い残し、穂乃果はそのまま意識を失ってしまった。
おいおい、さすがにこれはシャレにならんぞ……。
☆
「清麿くんは廃校のこと知ってたんですか?」
とりあえず穂乃果を保健室に運んだあとの教室で海未が問うてきた。
「ああ。始業式のあった日に、生徒会の会議で、な」
別に隠すことでもないため俺は素直に頷いた。
「どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか!?」
周りにかまわず声を荒げて詰め寄ってくる海未。
海未がここまでとりみだすなんて、よほど廃校の現実がこたえているみたいだな。
「そのことについてはすまないと思ってる。ただ、簡単に話していい内容でもなかったから、つい……」
「それは、そうですが……でも!」
「まあまあ、きーくんが悪いわけじゃないんだしさ、少し落ち着こうよ海未ちゃん」
自分もまだ気持ちの整理がついていないだろうに、海未を止めてくれることり。
ことりに諭され、海未もある程度の冷静を取り戻したようだ。
こんな時のさりげないフォローは本当にありがたい。
安堵とともに吐息をこぼすと、教室の扉が開かれた。
保健室から帰ってきた穂乃果がトボトボと重い足取りで俺の後ろの席に座る。
「ほ、穂乃果ちゃん、大丈夫?」
「うん………」
ことりが尋ねるが、頷く割には明らかに覇気がない上、表情も暗い。
気絶してしまうほどだ、想像以上に廃校の2文字が重くのしかかっていたのだろう。
しかし、ここまで沈んだ穂乃果は初めて見たぞ。
「学校がなくなる。学校が、なくなる。うぅぅ………」
終いには両手で顔を覆いながら涙を流す始末だ。
傍目から見てもかなり重症だな。
「穂乃果ちゃん、すごく落ち込んでる。そんなに学校が好きだったなんて……」
「違います。あれは勘違いしてるんです」
穂乃果の姿に心を痛めていることりだが、海未はひとり冷めた表情で否定した。
「勘違い?」
俺もことりも海未の言葉の意味が分からず首をかしげる。
「どうしよう!全然勉強してないよぉおお!」
「え?」
「はい?」
予想外の穂乃果の言葉に思わず間の抜けた声をもらしてしまった。
穂乃果、お前もしかして……。
「だって学校なくなったら別の高校行かなきゃいけないんでしょ!?受験勉強とか、編入試験とか!」
「やはり………」
額を抑える海未の隣で俺は何とも言えない脱力感に襲われた。
ことりも苦々しい笑顔を取り繕ってしまっているじゃないか。
そういうことかい。
要するに穂乃果の廃校よりも編入試験のことで頭がいっぱいになっているということだ。
納得と同時に心配して軽く損したぞ、おい。
とりあえず俺の同情を返せ。
「穂乃果ちゃん落ちつい―――」
「ことりちゃんと海未ちゃんはいいよ!そこそこ成績いいし!清麿くんにいたっては学年主席だし!でも私はぁ……!」
なんとかなだめようとすることりだが、穂乃果は頭を抱えたまま聞く耳を持たない。
だが、この様子からしてまだ知らないみたいだな。
「穂乃果、とりあえず話を―――」
「うぇええええええええん!」
穂乃果、完全に泥沼にはまってやがる。
仕方ない………アレを使うか。
「落ち着けい!」
スパン!
鋭い音ともに小さな衝撃が穂乃果の頭に走った。
「ふにゃんっ!」
かわいらしい呻き声とともに、穂乃果は大きく蹲る。
大げさなだな、そこまで強く叩いてはいないぞ?
ため息をつきながら俺は手に持つソレを肩に担ぐ。
「久しぶりに見ましたね、ソレ」
苦笑いを浮かべる海未の視線の先にあるのは、蛇腹に折りたたんだ紙の片側を扇子状に開いた小道具―――ハリセンである。
しかも表面に『ザケル!』と書いた自慢の一品だ。
え?どこから取り出したかって?
ハハハハハ、それは秘密だ。
「痛いよ!ひどいよ!清麿くん!」
「やかましい」
涙目の抗議を冷めた眼差しで一蹴してやる。
こうでもしなきゃこいつは止まらないからな。
「とりあえずお前は最後まで人の話を聞け」
「話を聞くって、この学校が廃校になっちゃうってことでしょ!」
「ああ、3年後にな」
「ほら、やっぱり3年後に廃校に………え?3年後?」
俺の言葉に呆けた表情を浮かべる穂乃果。
ふむ、ようやく気付いたか。
ならば、ここでさらに一発で現状を理解できる結果論を教えてやるとしよう。
「つまり、俺たちが卒業するまで学校はなくならないってことだ」
☆
「よかった~。いやぁ、今日もパンがうまい!」
場所を移し、中庭に設けられた木陰のベンチで穂乃果はパンを頬張る。
リスのように頬を膨らませる能天気な姿からは先ほどまでの落ち込んでいた様子がウソのように思えてしまう。
正式に廃校が決定したとても今いる生徒が全員卒業した後のこと。
その旨を伝えた結果がこの有様だ。
「太りますよ?」
呆れている海未の警告も今の穂乃果にはどこ行く風だ。
「ほんと、現金な奴だよな」
「えへへ~」
俺の皮肉も笑顔で返されてしまった。
いや、別に褒めてないからな?
だが、この立ち直りの早さが穂乃果の長所でもあるのもまた事実だ。
「でも、正式に決まったら次から1年生が入ってこなくなって、来年は2年と3年だけ……」
「今の一年生は後輩がずっといないことになるのですね」
穂乃果が元気になったと思ったら、今度はことりと海未が表情を陰らせた。
「そっか……」
2人の言葉に再び肩を落としてしまった穂乃果。
気持ちはわからないでもない。
2人が指摘した事もまた廃校問題の核心のひとつだ。
廃校が決定すればこの学校に新入生が入ってくることはない。
後輩のいない学校生活とはどんなものなのだろうか?
きっと想像する以上に虚しい青春時代になってしまうのかもしれない。
3人と同じで俺自身も未だに整理がついていない状態だ。
だが、まだ1年しか通っていないが紛れもなく俺はこの学校の生徒なんだ。
このまま流されるままでいるつもりなど毛頭ない。
悲しい気持ちのまま終わらせてたまるか。
廃校が決定されるまでに時間はあるんだ。
残された時間で必ず探してだして見せるさ、俺たちの学び舎を救う方法を。
「ねえ、ちょっといい?」
秘かに新たな決意を胸に抱いたとき、聞きなれた声が耳朶を打った。
振り返ると、案の定俺たちの目の前にいたのは絵里だった。
彼女から一歩引いたところに希の姿もある。
突然の生徒会トップ2人の登場に3人が慌てて立ち上がる。
何か生徒会の用事でもあるかと思ったが、絵里はことりに視線を向けていた。
「南さん」
「はい」
「あなた確か、理事長の娘よね?」
「あ、はい」
絵里の問いに恐々と返答することり。
うーむ、完全に気圧されてしまってるな。
「理事長、何か言ってなかった?」
「いえ、私も今日知ったので……」
「そう、ありがとう」
たった数秒のことりとのやり取りは単なるの確認。
抑揚のない声音から恐らく、絵里はそこまで期待してはなかったのだろう。
ほな、と希が踵を返す絵里とともにこの場を立ち去ろうとした時、穂乃果が2人を呼び止めた。
「あの、本当に学校なくなっちゃうんですか?」
穂乃果の言葉に視線だけ向けて、絵里は一言だけ言い残す。
「あなたたちの気にすることじゃないわ」
俺たちを一瞥する絵里の眼差しは冷たい刃のようだった。
ようやくアニメ第1話突入。
3話目にして早くも挫折しかけている自分に気づいた今日この頃。
自分の未熟さを棚に上げるつもりはありませんが、清麿、ガッシュがいないとすげぇ使いづらい……(笑)
なんとなくこの作品でもザケルっぽいことがやりたくて考えたザケルハリセン。
これからもちょくちょく使っていきたいと思っているんですが果たして、これが吉と出るか凶と出るか……。
とりあえず、アニメは全話見終えて今一度構想を練り直しているんですが、果たしてどのような結末になってしまうのやら。
試行錯誤を繰り返しながら、とりあえず今の目標としてはミューズメンバー全員登場させたいなと思っています。