ラブライブ!~金色のステージへ~   作:青空野郎

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STAGE.34 受け継がれたもの

「大変申し訳ありません!」

 

「ません!」

 

部室に戻るなり、穂乃果と星空が机に指を立てて頭を下げていた。

スクールアイドルの祭典『ラブライブ』への出場を目指すこととなったアイドル研究部、もといµ’s。

そのために理事長が出した条件は『次の期末試験で赤点を取らない』こと。

しかし、そんな真っ当な条件に危機感を感じている連中が、今、ここに、目の前にいた。

……ああ、わかってたよ。

どうせこうなるだろうと思ってたさ。

 

「小学校のころから知ってはいましたが……穂乃果」

 

「数学だけだよ!ほら、小学校のころから算数苦手だったでしょ?」

 

「7×4?」

 

「………にじゅう、ろく?」

 

「冗談だろ?」

 

指まで使った挙句に答えを間違える体たらくに思わずツッコミを入れてしまった。

 

「かなりの重傷ですね……」

 

もうすでに怒りすら通り越して脱力する海未。

さすがの俺もみんなとそろってただただ途方に暮れてしまっていた。

できれば冗談であってほしかったが、単純な九九でこの様だ。

このまま試験に臨めばどうなるか………結果は容易に想像できた。

 

「凛ちゃんは?」

 

「英語!凛は英語だけはどうしても肌には合わなくて……」

 

「た、確かに難しいよね?」

 

「そうだよ!だいたい凛たちは日本人なのにどうして外国の言葉を勉強しなくちゃいけないの?」

 

「屁理屈はいいの!」

 

続いて星空は気落ちした様子で英語が苦手であることを主張する。

あわよくば、同情する小泉に便乗しようとしていたが、そうは問屋が卸さない。

英語を苦手とする者ならば一度は使うであろう決まり文句で開き直ったところを、すかさず西木野が机を叩いて一喝した。

 

「真姫ちゃん怖いにゃぁ……」

 

「これでテストが悪くてエントリーできなかったら恥ずかしすぎるわよ!」

 

「そうだよねー……」

 

目くじらを立てて鼻先が触れる距離まで迫る西木野の迫力に気圧されて、星空はしゅんと肩を落とすのだった。

 

「やっと生徒会長を突破したっていうのに……」

 

「ま……まったくそのとおりよ」

 

呆れ気味に溜め息をこぼす西木野に、震える声音が同意する。

危うく忘れるところだった。

そう言や、この部室にはもうひとり問題児がいたんだったな。

 

「あ、赤点なんか絶対取っちゃダメよ!」

 

全員がどこか冷めた視線の先で、俺たちに背中を向ける矢澤さんの声は明らかに震えていた。

教科書を逆さに持っているのはわざとなのか、それとも………。

 

「にこ先輩……成績は……?」

 

「ににに……にこ?」

 

ことりに問われて不自然なレベルで狼狽えたかと思えば、おもむろに立ち上がる。

 

「にに……にっこにっこに~が赤点なんてとと……取るわけないでしょ~」

 

「……動揺しすぎです」

 

「うぅ……」

 

結局、お得意のにこにーも冷静に海未に図星を突かれて空振りに終わる。

説得力の欠片もない引きつらせた笑みが、なんだか見ていられなくなってしまうのだった。

 

「とにかく、試験まで私とことりは穂乃果の、花陽と真姫は凛の勉強を見て、弱点教科をなんとか底上げしていくことにします」

 

「まあ、それはそうだけど……にこ先輩は?」

 

このままではラブライブ出場は到底不可能であると言わざるを得ない状況だが、幸いにも試験までにはまだ時間はある。

試験期間も含めて、今日から練習時間を勉強に充てれば挽回の余地は十分見込めるだろう。

気持ちを切り替えて海未が役割を分担していくが、必然的に矢澤さんがひとり余ってしまうことを西木野が指摘する。

仕方ない、ここはひとつ矢澤さんには先輩としてのプライドは捨ててもらうことにしようと思い立ち、俺がやる―――と口を開こうとした時だった。

 

「だから言ってるでしょ?にこは――――」

 

「それはウチが担当するわ」

 

矢澤さんの難色を示す言葉が、新たに割って入ってきた声によって遮られた。

 

「希……いいのか?」

 

「もちろん。テスト期間中は生徒会の仕事もないから結構時間があるんよ」

 

「い、言ってるでしょ?にこは赤点の心配なんてな――――」

 

突然の希の登場に注目が集まる中、なおも強がりを見せる矢澤さんに彼女は目の色を変えた。

両手を掲げて狙いを定めるあの構えは………

 

「ウソつくとわしわしするよ~?」

 

「わかりました教えてください……」

 

「はい、よろしい」

 

そのまま一瞬で距離を詰めたかと思えば、矢澤さんの背後から慎ましい胸をわし掴みにして抵抗する暇すら与えないまま降す手際の良さったらそれは見事なものだった。

まんざらでもない笑みを浮かべる希によってなす術もなくおとなしくなる矢澤さんが憐れに思えてしまったが気にしないでおこう。

 

「よーし、これで準備はできたね。明日から頑張ろー!」

 

「おー!」

 

「今日からです」

 

「「あぅぅ……」」

 

やる気を見せたかと思えば、さりげなく先延ばしにしようとする穂乃果と星空だったが、その程度の浅知恵を海未が見逃すはずがない。

目論みが呆気なく打ち破られて項垂れる2人の姿を見て、頭を抱えそうになるのをこらえるのだった。

 

                      ☆

 

勉強を始めて早一時間、結論から言うと、さっそく雲行きが怪しくなり始めていた。

さっそく試験勉強を始めたはいいが、穂乃果、星空、矢澤さんの3バカはとにかくあの手この手で時間を稼ごうとしやがる。

どうやら思ってる以上に長丁場になりそうなため、現在、俺は一度クールダウンがてら飲み物でも買おうと部室を出ている。

やや重い足取りで自販機のある方に足を向けると、そこで先客がいることに気付いた。

 

「理事長……」

 

「あら、高嶺くん。こんにちは」

 

どうも、と言って会釈を返して入れ替わるように自販機の前に立つが、その実、ついさっきぶりの再会もあってか自然と背筋が伸びていた。

 

「あれからあの子たちの様子はどう?」

 

「さっそく試験に向けて取り掛かってますよ。あまり順調とは言えませんが……」

 

近くの椅子に腰かけて柔和な笑みで問いかける理事長に、少しばかりの緊張も忘れてしまうぐらいに苦々しく答える。

おそらくこうしている間にも、文句を垂れながら問題を解いていることだろう。

 

「それはなかなか大変そうね。彼女たちも、あなたも」

 

「少しはゆっくりできると思ったんですけどね……まあ、それでも自分で決めたことですからね。どっちにしてもやれるところまでやるだけですよ」

 

今度はあくまで前向きな考えを巡らせながら応じる。

期末試験やラブライブのこともそうだが、その他にもオープンスクールや今後のµ'sの活動、そしてµ’sと絵里の確執など課題が山積みの上、廃校の足音は確実に近付いている。

先が思いやられる現状に悩みは尽きないが、決して救いがないわけではない。

少なくとも期末試験に関しては、あくまで赤点回避が条件であることを考えればまだ望みはある。

 

「本当なら、廃校のことなんて気にせずただ純粋に楽しんでほしかった……」

 

購入した缶コーヒーを自販機から取り出そうと腰を落とした時、理事長の沈んだ声音の呟きが耳朶を叩いた。

 

「ずっと以前からこうなることは分かってたのに、何も変えられなかった……。それどころかあなたたちに私たちの重荷を背負わせることになってしまった」

 

振り向くと乾いた笑みを浮かべた理事長が淡々と言葉を紡いでいく。

吹けば飛ぶような、なんて表現が当てはまる。

それほどまでに小さく肩を落とす理事長から嗜虐的な感情が窺えた。

 

「たとえ今回は運よく免れたとしても、廃校の波はまたいつか押し寄せてくる。このまま同じ過ちを繰り返すくらいならいっそのこと――――」

 

「それ以上はダメですよ、理事長」

 

だからこそ、後悔を伺わせる言葉を、静かに、されど強く遮った。

 

「あなたがその先を言っちゃいけない」

 

空虚を見つめていた理事長の瞳が俺に向けられたことを確認して、もう一度強く言う。

 

「俺も最初は理事長と同じことを考えていました」

 

理事長の言うように、俺たちのやってることは、結局はその場しのぎに過ぎないことかもしれない。

もしかしたらこのまま終わらせることが正しいことなのかもしれない。

……それでも、そう簡単に納得することはできなかった。

 

「どんなに願ってもいつか必ず失う時は来てしまうんです。……それでも、最後まで一緒にいたい。一緒に笑っていたい、そんな仲間たちと出会えた居場所がなくなるなんてことは、やっぱりイヤなんです」

 

昔の俺なら、たかがひとつの学校がいつ廃校になってもおかしくない状況に追い込まれていたことが分かれば当然だと割り切り、気にも留めなかっただろう。

それが今では注目を集めるためとは言え、アイドルなんてものに存続を掛ける自分がいる。

それどころか、共に過ごす一時が楽しくて仕方がないと思うほどの体たらくだ。

本当、世の中どう転ぶかなんてわかったもんじゃないよな。

 

「この学校を守りたいと思うくらい、みんな、この学校が好きなんですよ。そして、俺たちにそう思わせてくれたのは、他でもない、理事長なんです」

 

所詮は歴史や伝統なんて過去の産物に時代の流れを押し返す力なんてない。

それでも、現にこの学校は存続している。

 

「何も変えられなかったなんてことはありません。今まで理事長が守ってきてくれたからこそ、俺たちはようやく希望を見出すことができたんです。なのに、これからって時に理事長であるあなたが堂々としてなくちゃどうするんですか」

 

それはまだ、未来を照らすには頼りない小さな灯火のような光なんかもしれない。

だけど俺は、たとえどれだけ小さな光でも、集まれば大きな輝きになることを知っている。

『1+1』が、時には常識だって超えてしまう奇跡を生み出すことを知っている。

だからこそ、ひとりひとりに眠っている無限の可能性を信じて、最初の一歩を踏み出すことができた。

何より、繋がった未来を歩むことができるのも、理事長の頑張りがあったからこそだ。

誰よりも踏ん張ってきてくれたからこそ、あきらめてほしくなかったから……。

 

「理事長がやってきたことは決して過ちなんかじゃありませんし、そもそも、誰も重荷だなんて思っちゃいませんよ。みんな、やりたいようにやってるだけです」

 

片手でコーヒーを弄びながらでも、容易に思い浮かべることができる。

どいつもこいつも我が強すぎて、自由気ままで、騒がしくて仕方ない、大切な友たち。

ですから、と続けと続けていまだ戸惑いの様子を見せる理事長に笑って見せた。

 

「あいつらの思いを受け止めてくれて、ありがとうございます」

 

いつかみんなで心の底から笑いあえる未来を思い浮かべながら頭を下げた。

みんなと出会えた場所を守ってくれたことへの、精一杯の感謝を込めて。

 

「……やっぱり清太郎さんの息子さんね。そういう変に飾らないところなんて、よく似てるわ」

 

そろそろ部室に引き返そうと思い立ったその時、とても穏やかな声音で理事長が親父の名前を口にした。

そういえば、親父も音ノ木坂の卒業生だと前におふくろが言ってたっけ。

学生時代のことはあまり知りえないが、親父はここでどんな青春を過ごしたのだろうか。

理事長との意外な接点を新鮮に感じながら…………

……………………は?

 

「理事長は親父をご存じなんですか!?」

 

ようやく理事長の言葉に理解がいたった瞬間、思わず素っ頓狂な声で反応してしまった。

危うくスルーしてしまうところだったが、予想だにしなかった事実に唖然とする俺に、理事長は僅かに口角を上げて口を開いた。

 

「ええ。清太郎さんは音ノ木坂が共学化してから最初の男子生徒だったの。私はその次の年入学したからからちょうど先輩に当たるわね」

 

理事長もかつては音ノ木坂の生徒だったと前にことりから聞いたことがあるが、まさか出身が同じどころか、本当に顔見知りでもあっただなんて……。

矢継ぎ早に明かされたまさかの新事実に、まさに開いた口がふさがらないほどの衝撃を受けて立ちつくす俺の反応に理事長は実に楽しそうに語っていた。

 

「そのまま彼に続いて生徒会に入ったのが運の尽き。学校を盛り上げるためと言って周りを巻き込もうとおかまいなし。さんざん無茶に付き合わされたものだわ」

 

「心中お察しします……!」

 

誘拐された身でありながら平気で授業を開くほどのずぶとさ持ち合わせたあの自由人のやることだ。

疲れたようなため息をこぼす理事長を見れば、相当振り回されたであろうことは容易に想像できた。

申し訳なさと気恥ずかしさからあのクソ親父に代わって身内の粗相を謝る。

そんな内心穏やかでいられない俺に理事長から予想を大きく反した反応が返ってきた。

 

「でも、みんなと過ごした日々を後悔したことは1度だってなかったわ。気苦労が絶えない毎日の中で、気付けば誰もがいろいろなことに夢中になっていた。立場の違いですれ違うこともあったけれど、その度に本音でぶつかりあって、そして最後にはみんなが心から笑ってこの学校を卒業できたから……」

 

そう語る理事長はいつかの日を懐かしむように目を細めながらクスリと笑みを浮かべていた。

 

「だから、絢瀬さんももっと肩の力を抜いてくれればいいと思うのはきっと私の傲慢なのでしょうね」

 

そして、数瞬躊躇った後に続けた言葉が、どこかもの寂しく感じたのはきっと気のせいではないはずだ。

 

「絢瀬さんには悪いことをしたと思ってるわ。あなたにとっても気分のいい話ではないかもしれない。……けれど、理事長であると同時に、先輩として今の彼女のやり方を認めるわけにはいかないから」

 

理事長の言葉を聞いて、数日前、生徒会室で心の叫びをあげた絵里の悲痛な顔が過った。

絵里が抱く学校を守りたいという思いは、義務感、使命感よりも、どちらかというとある種の強迫観念によって突き動かされているように思えてならないのは、果たして俺の驕りなのだろうか。

今でこそ、決裂しかけていた絵里との溝も幾分か埋まってきてはいるが、そもそも絵里があそこまで自分を追い詰めてしまうまでの過程がわからない現状だ。

 

「きっとあなたのことだから、私がなぜ生徒会の活動を許可しないのかもうわかってるんでしょう?」

 

「………そうですね。気付けば実に簡単なことなんですけどね」

 

どこか複雑そうな面持ちを浮かべる理事長に、素直に首肯する。

今のあいつは大切なことを見失っている。

昔の俺なら決して気付くことはなかった。

気付くことができたとしても、簡単に切り捨てていた。

それは人として当たり前でありながら、されど気付くまでが大変なこと。

だからこそ、こればかりは自分で気付かなければ意味がないこと。

挫折や困難が立ちはだかる道で一歩を踏み出すための、とても、とても大切なことだから。

 

「でもまあ、別に心配はいらないと思いますよ?あれくらいでへこたれるほどヤワじゃありませんし、それに自分の弱さを受け入れることができたあいつなら気付けると信じていますから」

 

あの日、恐怖を乗り越える強さを見せたあいつなら必ず見つけられる確信を持って清々しく言ってみせた。

そんな俺の自信を察したのか、理事長は柔らかく口元を綻ばせた。

 

「そう……。なら、私もあなたの言う希望を信じてみようかしら。けれど、彼女のことももちろんだけど、その前にあなたたちも油断はしないようにね。期末試験、期待してるわ。後悔のないように頑張ってね」

 

「はい、もちろんです」

 

その時の理事長には先のような自嘲的な色はなかった。

それを最後に理事長は校舎の奥へと戻っていった。

さて、これでますます学校を廃校させるわけにはいかなくなったわけだ。

親父たちが積み上げてきたものを終わらせてしまうなんて、格好がつかないもんな。

理事長も前向きになってくれたことだし、気持ちを切り替えるように俺はコーヒーを一気に飲み干した。

 

                      ☆

 

「うー、これが毎日続くのかにゃぁ……」

 

「当たり前でしょ」

 

「うぅー……あ、白いごはんにゃあ!」

 

「引っ掛かると思ってる?」

 

「どこ?ごはん炊きたてなのか……」

 

「……………」

 

何はともあれ、まずは今度の期末試験だ。

これからの活動に大きく影響を与えるからには手を抜いてはいられない。

理事長のエールに元気付けられたことだし、意気込みを新たに部室の扉を開いた俺をまず待っていたのは、気をそらせようと試みる星空に手刀をおろす西木野、そして星空の戯言を真に受けてありもしない白米を探すまさかの小泉。

 

「ことりちゃん」

 

「何?あと一問よ。頑張って!」

 

「おやすみ」

 

「うわっ、穂乃果ちゃん!穂乃果ちゃ~ん!」

 

「まったく……。ことり、後は頼みます。私は弓道部の方に行かなければならないので」

 

「わかった!起きて~!寝たら死んじゃうよ!」

 

今度はことりの応援もむなしく、机に突っ伏して不貞寝を決め込む穂乃果の姿。

丁度弓道部に参加するために席を立ち上がった海未がおかえりなさい、と声をかけてくれたが、俺はただ呆然とした返事しか返せなかった。

そしてお次は……

 

「わかった、わかったから!」

 

「フッフッフッフ……。じゃあ、次の問題の答えは?」

 

「え、えぇと……。に……にっこにっこに~?」

 

「ヘッヘッヘッヘ……」

 

「やめて!やめて……いやあああ!胸はもうやめてえええ!」

 

「次ふざけたらわしわしMAXやよ!」

 

こちらも限界が近いのか、にこにーで誤魔化そうとする矢澤さんを悪い笑顔で威圧する希。

間もなく両手を構えて凄む希に恐れ戦く矢澤さんが部室の隅に追い込まれていくが、もう何も言うまい。

少し離れただけでこの惨状か……。

なんとなく予想はできてたんだがなあ……。

 

「あれで身についているんでしょうか?」

 

「言うな。虚しくなる」

 

格好つけたばかりでまことに恥ずかしい限りなのですが、理事長。

これは冗談抜きでマズイかもしれません………。

思わず天井を仰ぎ見るその時、視界の端で床に落ちた1冊のノートを見つけた。

恐らく希から逃れる際に矢澤さんが落としてしまったのだろう。

 

「こんなので本当に大丈夫かしら?」

 

「んー、問題はないと思うよ。なんせ、ここには勉強のエキスパートもいることやし、ね?」

 

辟易とする西木野の不安に答えるような希の視線を適当に受け流し、俺は矢澤さんのノートを拾い上げた。

なんとなくノートの中に目を通してみたが、案の定溜め息を吐いてしまった。

 

「ちょっと清麿!人のノート見て溜め息吐いてんじゃないわよ!言っとくけど、あんたもアイドル研究部の一員なんだから余裕ぶっこいて赤点なんてとったら承知しないわよ!」

 

部室の隅で小柄な体を震わせながら何か喚く矢澤さんだが、俺は冷静に手にしたノートを見せ付けた。

 

「矢澤さん……こことここの問題の答え間違ってますよ」

 

「……え?」

 

しばしの沈黙。

 

「あ、あんた、何言ってんのよ?これは3年生の内容なのよ?2年のあんたに解けるわけが――――」

 

「あ、ほんまやね」

 

「でえぇええ!?」

 

どうにか動揺を悟られまいと振舞う矢澤さんだったが、希の言葉を聞くなり絶叫を上げてノートをひったくった。

 

「いや、それよりなんでわかったのよ!?これ3年生の問題よ!?」

 

未だ俺に指摘されたことが信じられないのか、矢澤さんはノートと俺を交互に見ながら慌てふためいている。

これには1年生組も目を丸くして呆然と頷いていた。

 

「うーん、というよりキヨちゃんは3年の範囲くらいなら軽く押さえてるんやないかな?」

 

「まあ、そもそも清麿くんは学年トップでもありますからありえない話ではないですね」

 

「「「「へ……?」」」」

 

そんな疑問に答えた希と海未の言葉に1年生組と矢澤さんが今度は揃って間の抜けた声を漏らした。

 

「今までのテストでも90点台が数回あるかないかで、後はすべて100点をとっているところしか見たことありませんから心配は要らないと思いますよ」

 

補足を入れてくれる海未の言うように、俺だって伊達に天才を名乗ったことはないからな。

正直、高校の範囲ぐらいなら『答えを出すもの』なしでも余裕でカバーできる。

 

「な、7469×4835は!?」

 

唐突に矢澤さんが問題を投げかけてきた。

 

「ハン、学年トップがなんぼのもんよ!答えられるもんなら答えて――――」

 

「36112615だ」

 

「…………………」

 

何を思ったのかはわからないが、妙に強気な態度が癇に障ったからしれっと答えてやった。

まさか即答されるとは思わなかったのだろう。

矢澤さんはものの見事にフリーズしていた。

 

「も、もう一度言ってみなさい!適当に言ったところで同じ答えを2度も出せるわけが――――」

 

「36112615だ答えは変わらん」

 

カウンターの要領で再び即答。

 

「…………………」

 

「どうした?自分から振っておいて正解なのか計算できんか?」

 

何故かはわからないがその光景に既視感を覚え、もう少し追い詰めてみることにした。

 

「さあ、何とか言ってみろ矢澤さん。さあ。さあ!さあっ!」

 

「ご、ごめんなさい。私が悪かったです………」

 

結果、涙目であっさりと崩れ落ちるその様がちょっと面白かったのは、彼女の名誉のために心の内にしまっておこう。

 

「さ、さすがですね……」

 

一部始終を見ていた海未の言うさすがが何を指しているかはこの際気にしないことにする。

 

「きーくんって計算とか得意だもんね」

 

「まあ、単純な計算なら6ケタは余裕だな」

 

「6ケタって……」

 

唖然とする西木野を珍しく思いながらも、人に言われるとやはり少し照れくさいものがあった。

 

「うんうん。おかげで生徒会の仕事も捗るから大助かりなんよ」

 

「その分どこかの誰かの仕事が回されてくるのは一体どうしてなんだろうな?」

 

「さ、時間も限られてることやし早く続きを始めよか!」

 

さりげなく職務の怠慢を認めた希に説明を求めると明らさまにはぐらかされてしまったが、これ以上下手につついて今度はみんなの前でどんな爆弾発言を投下されるのかわかったもんじゃない。

悔しいが、ここはおとなしく引き下がろう。

 

「まあ、俺は状況を見てフォローに回るよ。ほら、そうと決まったらさっさと始めるぞ。穂乃果もいい加減起きろ」

 

スパン、といつものように穂乃果の頭部にハリセンの軽快な音が響いた。

 

                      ☆

 

そんなこんなで本日の勉強会を終えた放課後。

靴に履き替え、校門を目指す俺の足取りはどことなく重かった。

やはりというかなんと言うか、それぞれがハリセン、威圧、わしわしのお仕置きを食らいながらも、どうにか今日のノルマは達成したといったところだ。

だが、とりあえず3人の苦手とする問題の傾向はおおよそ把握することができただけでも前進だ。

なに、どこかの人間できてない性悪教師のような鬼畜極まりない内容でなければ問題はない。

……いや、さすがにこの学校でそんなことをする教師はいないだろう。

なんてかつてのトラウマを片隅に追いやっていると、校門の前で海未を見つけた。

傍目からでも困っている様子が窺えるが、もしかして出待ちの子と遭遇したのだろうか。

西木野といい、μ’sも人気が出ているんだとしみじみと実感する。

こうして彼女たちを応援してくれる人がいるということはやはりうれしく思う。

そんな風に感慨深く思っていると、海未の瞳が俺の姿を捉えた。

すぐさま視線で助けを求めてきたのがわかったが、正直どうしたらいいものか。

相手の姿は丁度校門の陰に隠れて見えないが、あまりにしつこいようならその時で対処の仕方を考えればいいだろう。

そう結論付け、まずは無難なあいさつで声をかけてみた。

 

「よ、海未。お疲れ」

 

「お疲れさまです、清麿くん」

 

俺の登場に安堵の表情を浮かべる海未からどんな子が出待ちをしているのだろうかと視線を巡らせると、そこには俺にとって予想外の少女が立っていた。

 

「……あれ、亜里沙?」

 

「お兄さん!」

 

向こうも俺に気付いた途端、少し身体がよろめく程度の衝撃を受けた。

淡い亜麻色の髪をなびかせ、透き通るような青い瞳が輝く整った顔立ちには年相応のあどけなさを感じさせる。

そして、雪穂と同じ中学の制服に身を包んだ少女に、俺は抱きつかれていたのだ。

名前は、絢瀬亜里沙。

名字から察せるとおり絵里の実の妹で、去年の夏祭りの一件以来、俺のことを「お兄さん」と呼んで慕ってくれている。

 

「お久しぶりです。元気そうで亜里沙、安心しました!」

 

今も思わず保護欲をそそらせるような人懐っこい笑みの上目遣いで見上げてくるのも、彼女なりのスキンシップで他意はないのだろうが、今回ばかりはタイミングがまずかった。

 

「へえ……清麿くんにはそんな趣味があったんですね?」

 

「……海未?」

 

突如、全身に悪寒が走った。

恐る恐る声のした方を向くと…………海未が笑っていた。

先ほどまでの不安気な様相から一転して、それはもう素敵な笑顔で。

しかしとても素敵な笑顔にもかかわらず、こっちはまったく笑えない。

 

「いえいえ、気にすることはありませんよ?人の好みはそれぞれですから。……しかし、さすがに中学生に手を出すのはいかがなものかと。………ウフフフ」

 

咄嗟に言葉を発そうとしたが、不気味なほどに穏やかな声音に遮られてしまう。

やさしさもあたたかさも感じられない微笑みに戦慄しながらも、それでも俺はどうにか弁解を試みた。

 

「ちょっと待て、海未。誤解だ。お前は勘違いをしている」

 

「勘違い、ですか?」

 

必死な俺の様子に訝しむように半目で睨まれてしまうが、話は聞いてくれるようだ。

変な勘繰りをされる前にも、とりあえず亜里沙に自己紹介するように促した。

 

「初めまして。私、絢瀬亜里沙って言います!µ'sの大ファンです。よろしくお願いします!」

 

「絢瀬……。ということはもしかして生徒会長の?」

 

「ああ、絵里の妹だよ」

 

ついでに言うと雪歩の親友でもあり、今までに何度か一緒に勉強を見たことがある旨を伝える。

俺の説明に海未はどこか不貞腐れるような面持ちを浮かべるが、どうやら納得はしてくれたようでひとまず安堵の息を吐いた。

 

「それにしても珍しいな、わざわざこんなところまで来るなんて。もしかして出待ちでもしてたのか?」

 

「いえ、今日はお姉ちゃんと一緒に帰ろうと思って待ち合わせしてたんです」

 

ふとした俺の疑問に答えてくれた亜里沙になるほど、と相槌を打つ、丁度その時だった。

 

「なにをしてるの、清麿?」

 

背後から名前を呼ばれて振り向くと、少しむくれた絵里の姿があった。

 

「おう、絵里」

 

「お姉ちゃん!」

 

「生徒会長……」

 

「あなた……」

 

三者三様の声音に対し、特に俺と海未を見るや絵里は一層不機嫌を露にしていた。

 




原作『ラブライブ!』×『金色のガッシュ!!』


「ガッシュとの思い出は、俺の心に残す」


――――すべては、突然の出会いから始まった


「財産はもう…俺の心に……」


――――それは、出会いと別れの記憶


「また会おう、ガッシュ」


――――そして、やさしい王様を目指して過酷な運命に立ち向かった少年たちの物語だった……






新章:『ラブライブ!~金色のステージへ~』





「ウソ……だろ……」

母校を廃校から救った9人の女神『µ’s』と高嶺清麿

「まさか……ここは……」

新たな目標に向かって歩き出した彼らの前に突如発生した時空の乱れ――――

彼らが迷い込んだその場所は――――




「―――魔界」




「あなたたち、もしかして人間なの?」

「イミワカンナイ」

「いっくにゃー!」

「ハラショー!」

「ダレカタスケテェエエエエ!」

「メルメルメ~」


しかし、見たことのない世界との触れ合いはほんの序章に過ぎない


「今こそ、我が理想郷をこの手に……」


突如清麿たちの前に現れた謎の魔物



「貴様がいなくても世界は回る。だから……安心して消えていけ」

「……悪い。みんなとは、ここでお別れだ」

「いやよ……こんな未来………私たちは望んでないッ!」




『神の試練』の真実が解き明かされる時、封印された禁断の魔本が目覚める


「あれが、『神の魔本』……!」


そして少女たちは、真実を知る


「王を決める、戦い……?」

「あんなにつらい思いをしてまで王様って決めなくちゃいけないものなのかな?」

「こんなの……あんまりだよ……ッ!」

「あれが、清麿の仲間……」

「本当に……本当に、来てくれました……!」

「私たちは、あの背中に守られていたのね……」


そして人間界と魔界を分かつ扉が開かれる時、ふたつの世界の存亡をかけた戦いが幕を開ける!


「もう、お前たち守れるものなどありはしない!無様に足掻くがいい!脆弱なる者たちよ!」

「あきらめるにはまだ早すぎるんじゃないか?」

「信じるんだ!清麿は必ず来る!」

「今までだって、彼はどんなに傷ついても何度でも立ち上がってきました!」

「そうよ。いつだって清麿くんは……」

「「「「私たちの希望だ(だから)(なのです)!!」」」」

神の如き力を前に再び集うかつての仲間たち

「ガッシュ……」

「いくぞ、清麿。今度は私が清麿を助ける番なのだ!」

そして、約束に導かれ――――想いは時空を超える


♪イメージソング:カサブタ♪


「我はこの力で王を超え、神へと至るッ!」

「こんな俺でも、守れるものなら、まだあるさ……」

「歌おう!みんなで!」

「みんなと出会えたことを素晴らしいことだと思いたいから!」

「私たちの未来は……私たちの手で掴んで見せます!」

果たして、清麿の運命は?

そして迷いの果てに辿り着いた女神たちの『答え』とは?

「いくぞ、ガッシュ!必ず守り抜く!ここからは、俺たちのステージだ!!」

「ウヌ!」

「バオウ・ザケルガーーーーーーー!!」



『ラブライブ!~金色のステージへ~:School idol memories』



「µ’s!」



いつか、未来で……



「「「「「「「「「ミュージック、スタート!!」」」」」」」」」













…………という、ウソ予告でした(笑)

期待させてしまった人、大変申し訳ございません…………!
以前感想のほうで、穂乃果たちが魔界に行くエピソードはないんですか?的なコメントをいただいてふと考えついてそれっぽく組み上げてみた新章(嘘)なんですが、第1期終了後か、2期の間のどこか、はたまた劇場版前後か、それとも本編関係なしのオリジナルでいくかぐらいの目処しか立っていない段階なので、ぶっちゃけ新章と言っておきながら制作するよていはまったくございません。


そして…………長らくお待たせしてホント、すんまっせんしたアアアアアアアアアア!!!
いや、投稿する度に謝ってますけど、今回ばかりは特に申し訳ありませんでした。

と言うのも、私今年から社会人となったわけなんですが、なんかもうね、おっっっそろしいほど時間が取れなかったんです。
いざ書こうとしても気づけば寝オチしていたなんてことが何回あったことやら……。
いや、嘘予告書いてる暇あんなら早く投稿しろよと言われたとしても言い訳の仕様がありません。
ですが、何があったとしても絶対にエタったりはしないので、これからも応援していただけると幸いです。

と、言うわけで半年以上かけてようやく投稿できた第34話。
今回は皆さんご存知の勉強会、理事長登場、そして亜里沙初登場の3部構成でお送りいたします。
特に今回の主軸である理事長との邂逅部分は、以前に清麿の父親も音ノ木坂の出身であると言う設定をぶっこんでしまったので、ここいらで回収しておいたほうがいいかということでまとめてみました。
次回は、清麿たちがいよいよ絵里の過去を知る『エリーチカ』です。
お楽しみに!


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