「入学希望者が定員を下回った場合廃校にせざるを得ないって発表にはあったよね?てことは、入学希望者が集まれば廃校にはならないってことでしょ?つまりこの学校のいいところをアピールして生徒を集めればいいんだよ!」
穂乃果の言うとおり、それが廃校を回避する単純明快な解決方法だ。
しかし、解決のためのプロセスはそう単純ではない。
何も廃校の話は今年急に決まったわけではない。
入学希望者の減少が顕著になり始めた頃から、つまり俺たちが入学する以前からすでに検討されていたことだ。
数年も前から見積もられていた事案を1年という短期間で巻き返すことは至難の業である。
とりあえず俺たちは昼休みを使って廃校回避のヒントを探すために校内を探索することにした。
図書室、中庭、武道場、室内プール、校庭、陸上競技場、講堂などなど。
改めて校内を回ってみると、この学校もかなり充実した設備が整っているんだな。
ひいき目を抜きにしても、廃校にするには本当に惜しい学校だと思う。
だが結局のところ、これといった収穫が得られないまま放課後、誰もいなくなった教室で俺たちは机を囲んでいた。
「いいところって、例えばどこです?」
「えっと……歴史がある!」
海未の問いに穂乃果が答える。
アバウトすぎるが、まあ今はいいだろう。
「ほお、なら他には?」
「他に?……えっと、伝統がある!」
「それは同じです」
「え?じゃあ、じゃあ―――ことりちゃん!」
こいつ、早速投げやがったよ。
「う~ん、しいて言えば古くからあるってことかな?」
「ことり、話聞いてましたか?」
「振出しに戻っちまったな」
「あ、でもさっき調べて部活動では少しいいとこ見つけたよ」
「本当!?」
このままでは堂々巡りのままで終わってしまうと思ったが、さすがはことりだ。
確かに、部活からの切り口は妥当の案だ。
だが、確かうちの高校の部活で最近一番目立った活動といえば何があったかな?。
俺が思案しているうちに、ことりがあらかじめ用意した資料の内容を読み上げていく。
「まずは珠算関東大会6位」
「うわぁ、微妙すぎ……」
「合唱部地区予選奨励賞」
「もうひと越え欲しいですね」
「最後は、ロボット部書類審査で失格」
「どうやら部活面でも期待できそうにないな」
「だめだ~」
「考えてみれば目立つところがあるなら生徒ももう少し集まっているはずですよね」
「そうだね」
海未の言うことも最もだ。
完全に出鼻をくじかれてしまったな。
一日やそこらで状況を打開できるとは思っていなかったが、やはりそううまく事は運ばないか。
よくよく考えれば音ノ木坂学院数十年前に共学になって尚、廃校の危機に瀕しているんだ。
ふむ、思ったよりハードルは高そうだ。
「家に戻ったら、お母さんに聞いてもう少し調べてみるよ」
そうだな、ここはことりの報告を待ったほうがいいのかもしれない。
「俺も生徒会の方で別の方法を探してみるさ」
まだ動き始めたばかりだ、焦るにはまだ早い。
「私、この学校好きなんだけどな……」
今にも消え入りそうなほどの穂乃果の呟きが教室に木霊する。
約1年の付き合いが長いか短いかは置いておくとして、自分のことのように心から悲しんでいるのは見ているだけでわかる。
本当にいい奴だよ、お前は。
「私も好きだよ」
「私も」
「俺もだ」
そう、みんな気持ちは同じなんだ。
それが確認できただけでホッとする俺がいた。
☆
自宅に帰った後、適当なところで授業の予習復習を終わらせた俺はベッドに身を投げていた。
理由はもちろん廃校回避、正確には入学希望者を増やすための企画を思案していたからだ。
署名活動、近隣の中学生を対象とした説明会、学園祭の早期開催、制服デザインの変更。
出来る限りさまざま案をたたき出してみたはいいものの、どれも一朝一夕で結果が出せるとは到底思えない。
どうしても決定打に欠けてしまう。
やはり改めて明日にでも絵里と一度話し合う必要がある。
しかし、ひとりで悩んでいても仕方ないとわかってはいるのだがどうしても考えてしまう。
廃校を回避するためにはどうすればいいのか?
今ここで俺の『能力』を発動させたとして、出てくる答えはさほど変わらないだろう。
ただ、例え答えを出したとしてもそれを実行できるかどうかはまた別の問題だ。
企画、実行自体は可能かもしれないが、限られた時間の中で即効性と実現性を両立させなければならない。
それがどれだけ難しいか、まして、そんな案が簡単に思いつけば苦労はしない。
『今まで』ならば倒すべき敵を倒せば自ずと解決へと進んでいたが、今回は倒すべき敵は存在しない。
解決策があっても、それは敵を倒すことではないのだ。
「ええーい、くそ!」
とうとう出口の見えない無限ループを振り払うように俺は上体を起こし、頭を掻き乱す。
「清麿ー、晩ごはんできたわよ。早く下りてらっしゃい」
まだ何も始めてもいないのにも関わらず立ち往生している自分にいい加減嫌気が差してきた時、お袋が俺を呼ぶ。
仕方がない、考えることをやめて俺はキッチンへと足を運んだ。
☆
「だいじょうぶ清麿?」
席に腰掛けるなりお袋が俺に声をかけてきた。
「顔色、少し悪いわよ?」
「……いや、なんでもないよ」
心配そうに顔を覗き込んでくるお袋に俺はできる限りの愛想笑いで答える。
だがお袋のことだ、俺が平静を装っていることはすでにお見通しなんだろうな。
それでも余計な心配はかけたくない。
向かいに座るお袋と一緒にいただきますと箸を手に取った。
夕食のひと時はよくお袋が話しかけてくる。
会話といっても友達と仲良くやっているかとか、ちゃんと授業についていけているかとか主に俺の学校生活についてがほとんどなんだがな。
いろいろ根掘り葉掘り聞かれるのは正直参るのだが、こんな他愛もないやり取りは嫌いじゃない。
「そういえば音ノ木坂、なくなっちゃうんだってね?」
だからだろうか、突然のおふくろの言葉に箸を動かす手が止まってしまった。
「そう……」
その反応だけで悟ったのか、小さく息をこぼすお袋。
俺の知らない内に、もう噂が広がってたんだな。
いま一度、事態の深刻さを思い知らされた気分だ。
「もし本当に廃校になんてなったらお父さんも悲しむわね」
「ああ、そうだな」
口に運んだご飯がなんだか味気ない。
「時代の流れには逆らえないっていうけど、私も卒業生だからやりきれないわ」
「ああ、そうだな」
俺だけじゃなくお袋の母校でもあるんだよな。
……………………。
…………………。
……………ん?
「はあっ!?」
お袋が音ノ木坂の卒業生だと!?
思わず立ち上がった俺にお袋が行儀悪いわよと非難を飛ばしてくるがそれどころじゃねだろ!
「お袋も音ノ木坂出身なのか!?」
「あら、言ってなかったかしら?」
「聞いてねえよ!」
初耳だぞ!
「そうだったかしら?あ、ならお父さんも音ノ木坂の卒業生だってことも話してないわよね?」
「はああッ!?」
まさかの暴露に本日2度目の衝撃が俺を襲った。
今お袋は何て言った?
お袋どころか親父も音ノ木坂の生徒!?
「ほら、音ノ木坂って元々は女子高だったけど30年くらい前に共学になったでしょ?お父さんは共学になって初めての男子生徒だったのよ」
ちなみに、親父との出会いも実は音ノ木坂だったとか。
し、知らなかった。
まさか親子揃って同じ高校に通っていたなんて……。
前に穂乃果たちは親子三代で音ノ木坂の出身だと聞いたことがあるが、まさかうちも同じだったなんて……。
「そっか、そうだったんだ……」
吃驚と同時に、自然と破顔が浮かんできた。
俺の表情の変化にお袋がどうしたのと聞いてきた。
「いや、なんでもないよ」
先ほどと同じ受け答えで返したが、その時のお袋は安堵の表情を浮かべていたような気がした。
また学校を守る理由がひとつ増えちまったな。
同時に、俺の決意はより一層確固たるものになった。
☆
そして次の日の昼休み、さっそく俺は再度状況を確認しようと生徒会室に赴いたのだが、残念ながら室内には誰もいなかった。
うーむ、事前に約束を取り付けていなかったとはいえ絵里や希ならいると践んだんだが、見事に当てが外れてしまったな。
いずれ現れると思いその場に留まることにしたが、やはり誰も生徒会室を訪れることがないまま放課後になった。
手持ち無沙汰のまま再び生徒会室の扉をくぐると、今度は絵里と希の姿があった。
「…………ああ、いらっしゃい清麿」
俺を確認するなり絵里のいつか見た冷たい刃のような視線で出迎えられた。
おぉう、いてくれたはいいがなんだこの重苦しい空気は……。
絵里の奴、どう見ても不機嫌だよな。
声をかけることすら憚られてしまうほど、彼女を取り巻く空気は始業式の比ではないぞ。
それとなく希に聞いてみると、どうやら今日の昼休みは理事長室に出向いていたとか。
生徒会を代表して学校存続に向けて独自での活動を行う許可を求めるために理事長と交渉していたらしいが、結果は今の絵里の様子を見れば容易に想像できた。
理事長を説得できなかった不甲斐なさが焦燥となって表れているのだろうか、今の彼女になんて声をかければいいか考えていると、不意に扉が叩かれた。
失礼します、という声ともに現れたのは意外にも穂乃果、海未、ことりの3人だった。
3人そろって生徒会室を訪れるなんて俺の知る限り初めてのことじゃないか?
さらには海未やことりはともかく、あの穂乃果までもが真剣な表情を作っている。
珍しいなんてものじゃない、一体何事だ?
内心穏やかでない俺をに目もくれず、穂乃果は1枚のプリントを絵里に差し出していた。
しばしプリントに視線を移していた絵里の目つきがさらに鋭くなった。
「これは?」
ようやく静寂を破った絵里の第一声はどことなく苛立ちを孕んでいたように思えた。
だが、絵里の様子に臆することなく穂乃果が答える。
「アイドル部、設立の申請書です」
…………はい?
今、あいつは何と言った?
アイドル部?設立?なぜに?Why?
絵里がこちらに視線を向けてきたが言いたいことはわかるぞ。
だが俺も寝耳に水なんだ。
腕を振る仕草でまったく存じ上げませんと訴えると、絵里は再度穂乃果たちと向き直った。
「それは見ればわかります」
「では、認めていただけますね?」
「いいえ」
そりゃそうだ、突然の申請が二つ返事で了承されるわけがない。
お前のその自信は一体どこから出てくるんだ?
「部活は同好会でも最低5人は必要なの」
「ですが、校内には部員が5人以下のところもたくさんあるって聞いてます」
確かに、海未の言うとおりこの学校には部員が5人以下にもかかわらず部として機能している部活がある。
ただ、何れも設立した当初には5人以上の部員が在籍していたはずだ。
事実絵里もその趣旨を説明している。
「あと2人やね」
「あと2人。……わかりました、行こう」
希の言葉に頷くや否や、生徒会室を後にしようと踵を返そうとした穂乃果を絵里が咄嗟に呼び止めた。
「まちなさい。どうしてこの時期にアイドル部を始めるの?あなたたち2年生でしょ?」
そして絵里の問いに穂乃果が答えた。
「廃校を何とか阻止したくて!スクールアイドルって今すごい人気があるんですよ!だから……」
スクールアイドル、だと?
スクールアイドルってあのスクールアイドルだよな?
「だったら、たとえ5人集めてきても認めるわけにはいかないわね」
しかし絵里の反応は至極冷たい。
驚愕する3人に、絵里はさらに容赦のない正論を浴びせる。
「部活は生徒を集めるためにやるものじゃない。思いつきで行動したところで状況は変えられないわ。変なこと考えてないで残り2年自分のために何をするべきかよく考えるべきよ」
結局、部活設立の申請書を突き返す絵里に反論することはなく、今度こそ生徒会室を後にする穂乃果たちを俺はただただ見送っていた。
「あの子たち、キヨちゃんのクラスメイトやろ?」
「あ、あぁ……」
一連の出来事を静観していた希に尋ねられたが、俺は曖昧な返事しか返せなかった。
俺の頭はちょっとしたパニックを起こしてるんだ。
とりあえず、まずはあいつらの真意を知りたい。
「スマン、今日は帰る。また明日な!」
「あ、清麿!」
申し訳ないが絵里の呼び止める声を振り切り、俺は生徒会室を飛び出した。
はい、とりあえず第四話投稿&本編第一話終了!
早く話を進めることに尽力していますが、本編以外にも過去編とかオリジナルとかいろいろ妄想しちゃうんですよね。
いまの楽しみは少しでも早くその辺を投稿できたらいいなと思っていることです。
ただ、そろそろほかの作品も進めなければと危機感を感じています。
頑張りますんでこれからも応援、感想、批評の方どうぞお願いします。
以上、ヒロイン枠誰にしたろかと本気で考えている青空野郎でした、さよなら!ノシノシ