隕石落とすやついるなら触手出しても大丈夫でしょ 作:五足歩行
何位であれランキングに掲載されるのは嬉しいですね。
ありがとうございます。
忙しなく過ぎる日々を首の皮一枚どうにかこなし、気づけば珍しく先生のカレンダーに四日連続でぽっかりと未記入の日ができた。
"あれ、何度見直しても何も予定が無い。"
遂に連日の激務による都合のいい幻覚かと隈をこしらえた目を擦る。本当に何も無く、先生は数ヶ月ぶりの休日を手に入れたのであった。
"しまった、かえって何も無いとどうすればいいか分からない…"*1
あれがしたい、あそこに行ってみたい、など考えている暇もなかった為、今の所ノープラン。休日を有意義に過ごしてそうな生徒に連絡を取ろうにも返ってきたのは「やりたいことをやれば?」と先生からしたら業腹ものの返事が来るばかり。湿度高めな子も軒並み予定が入ってるようだ。助かったね。*2
最後の頼みとしてデスクに置いていた小さな鐘を鳴らす。
…敵は何処だ?
現れたのは戦意MAXの狩人。
"あ、いや、敵とかそういうのじゃないんだけど、ちょっと相談というか…"
バキン、と獣肉断ちを床に打ち付けて畳み、少し残念そうに武器をしまう。床のタイルにヒビが入った。
"普段狩人って予定とかが何も無い日はどうしてる?"
…マラソン。
聞く人を間違えたな。そいつは筋金入りの地底人、今日は暇だとか時間が余ったとか関係無しに青ざめた血そっちのけで聖杯に籠る狩人の鑑よ。
よく分かってない先生は休日もちゃんと運動してて偉いなーとか思っている。確かにレバー目指して走ってはいるけど。
"そうだ、そっちに観光名所とかある?"
…危険な土地だが聖堂とか教会がある。
"いいじゃん、準備してくるから待ってて。"
善は急げと先生は3泊4日分の服を適当にかき集め、その他諸々纏めてキャリーケースに押し込む。悪いことは言わないから何か護身用の物持っといた方がいいですよ…
キヴォトスからはどう足掻いても行けないので一旦アビドスに行き、狩人の部屋から灯に手を触れ、狩人の夢へ。どうやら狩人の身体に触れておけば一緒に飛べるらしい。慣れない感覚におっかなびっくりしつつも目を開けば別世界。*3
目の前に大きな樹と建物、階段の前に大きな女性が立っている。背が高い。その右にはだんだんグロテスクになっていく墓石?左を向けば…カーブを描いて並んだ墓石と…ちっちゃい生き物が瓶とか色々持って水盆に浮かんでいる。足元にはやはり墓石があり、それを囲んでいるリボンをつけた何かが悲しんでいる。
"ここは?あの建物って入ってもいい?"
…ここは言うなれば各主要都市に行ける駅のようなもの。そこは工房、あまり荒らすんじゃないぞ。…聞いていないしもう居ない…
工房に入った先生は手当たり次第に写真を撮り、物色。やっている事が迷惑観光客。もう帰れ。おいそれは収納にしまっておいた投げナイフだ土産屋でよく見るあれ*4じゃないし売ってないから返しなさい。
このままだとヤーナムに行ったらすぐどっかいって死にかねない。修学旅行の引率の気分を味わった狩人は案内も含めて少し痛い目にあってもらおうとヤーナム市街に行くことにした。
…まずは街を案内しよう。また私に触れてくれ。
"うん。"
先生は意気揚々とパシンと叩くようにして肩を強く掴む。1ミリくらい体力が減った。*5
空は星も見えぬほど黒く、遠くから鐘の音が聞こえ、薄暗く入り組んでいる道は旅行気分の先生のテンションを上げる最高のスパイスだった。呻き声は聞こえないものとする。
興奮冷めやらぬ先生の手を取り、離れぬよう指示する狩人。
…ここからは死が付き纏う。誰かが居たとて近づくなよ。
一応忠告はしておいたと告げ、2人は歩きだす。
先生がいる手前、血しぶきはマズいと判断した狩人は、左手にガラシャの拳を握り、素早く罹患者の顎を殴り抜いて気絶させる。普段はクソの役にも立たないが、この時だけは鈍く輝くそれが頼もしい。
次々と殺さぬようなぎ倒し、狩人的名所のヤーナムキャンプファイヤーに到着。大きな炎をたくさんの人と犬が囲んでいる。
"うえ…変な臭い…"
先程までのテンションは深い深い谷底へと下落し、死臭と人肉の焼ける不快な臭いで目には涙が。
"ここやだ…"
来た道を引き返す。狩人は輸血液いっぱい手に入って良いのにな、とか考えていた。そうじゃない。
再度狩人の夢に戻り、先生は人形に泣きつく。
"旅行に来たのに開放的な火葬場に連れてこられた…"
「?…よしよし。」
さっき工房を荒らしてた奴が急にべそかきながら話しかけてきた事に戸惑った人形はとりあえず慰めた。
…まぁ、次は安全で綺麗な場所を選ぶ、多分。
どこに行こうにも大抵敵がいるので観光するにも落ち着けない。街の住人全員が余所者ぶっ殺すしか思考が無いヤバい集団だからね。
オドン教会は…嫉妬深い
はてさて、この先四日もここで過ごせそうにない。先に敵全員殺して安全にしてからゆっくり見回るか?それとももうマリアのとこ連れてくか。よし、そうしよう。なんなら面倒見て貰おう。
まだえぐえぐすすり泣いてる先生を拾い上げ、星輪樹の庭に飛ぶ。ここなら敵はいないしまぁまぁ良い感じの風景だからきっと泣き止むだろう。
"うぅ、ここどこ?おっきい花…?"
そびえ立つ星輪樹を囲む花々を見て少し癒された先生。そう感じたのも束の間、先に続く塔よりコツリコツリと誰かが階段をおりてやってくる。
慌てて狩人の後ろに逃げ込むも、狩人は武器も構えずじっと立っている。
"ちょ、ねぇ!明らかにヤバい人だよ!逃げようよ!"
「珍しいな、後ろの女が新しい協力者か?臨む所だ、来い。」
…違う、この人はただの観光者。私はその案内人。
「ほぉ?だが観光目的でこの悪夢にやって来るとは中々いい度胸をしている。」
…先生は我々の物差しでは測れないくらいに弱い。だからここしかなかった。
「何故連れてきた?」
脳筋からは想像できない正論が飛んできた。全くもってその通りです。
…少しだけ面倒見てくれないかなーって。
ジロリと先生を爪先から頭まで見るマリア。視線を受けハムスターのように縮こまる先生。
「非力だが神秘は持っていると見た。ちょうど退屈していた所だ、せいぜい私を楽しませてくれたまえよ?」
"え?わ、あ、あ!?"
いつの間にか先生の隣にいたマリアは先生をひょいと小脇に抱えて実験棟に歩いてゆく。
三日半に渡るマリアズブートキャンプ開始。
先生の日記
小さなノートに3ページと少しだけつけられた日記。
この日記の筆者はとある古狩人にごく短期間師事していたというヤーナムの外から来たという異邦人。
狩人の身に薄く染まりながらも血に飲まれなかった才を見せた。
悪夢のような地で道を違えず人のまま、狂ってしまえば楽になるというのに。
1日目
観光しに来たら鍛えられる事になったでゴザルの巻。
まずは体力を増やせとマリアに言われひたすら追いかけられながら走った。周りにやせ細ったぶよぶよ頭の人たちが居たけど見なかったことにする。足が持ち上がらないほど動き尽くした後、マリアから二刀一対の剣を渡され(後々知ったが落葉と言うようだ)、振り方やステップを教わった。実践で。もう一度言うが実践で。手加減されてたとはいえプレナパデスと対峙したあの時よりも色濃く死を予感した。
人間は追い詰められて死が隣にあると限界を超えるようで、死に物狂いで振った剣がほんの少しだけ服にかすった。一瞬だけマリアが射殺さんばかりの目で見てきたがちゃんと褒め讃えてくれた。笑みを浮かべて楽しそうにしている。こわい。それで今日は終わりにしてくれた。今これを筋肉痛で震える手でゆっくり書いているが、こうなった元凶の狩人を許しはしない。寝る。
2日目
まぁ分かっていたが筋肉痛がヤバい。バギバキとかいう次元じゃないくらい体が悲鳴を上げている。嬉しい(?)ニュースだが、今日は昨日みたいな死一歩手前の運動ではなく、神秘と血質を伸ばすと言われた。神秘はだいたいわかるけど血質ってなんだろと思ったら文字通り自身の血の質のことを指すようだ。どうやって伸ばすの?
ここからが悪いニュースで、ここの建物を散歩しつつ昨日のぶよぶよ頭と会話したり、とにかく宇宙に近い物(隕石とか?)と触れ合えばいいらしい。さらに血質は私の血を飲めとマリアからコップ一杯の血を持っていた水筒の中に注ぎ込まれた。肉体よりも精神が先にどうにかなってしまいそうだった。さようなら、お気に入りのマイ水筒…
そんな中、アデラインという女性に出会った。やはりぶよぶよ頭なのだが、彼女だけ椅子に縛り付けられており、危険人物かと思いきや意外にも礼儀正しく接してくれた。あと声がアツコに似てた。
彼女は脳液が欲しいらしくて、あの音とか海とか言ってたけど全く理解が追いつかなかった。でもそれを聞いたせいか軽い頭痛の後思考がビッグバンのようにすっきりと広がった感覚がした。神秘ってこういう事?それと結局血は飲めませんでした。申し訳ないけどそこら辺の血溜まりに捨てた。あぁ、こんな時は何でもいいからお酒が欲しい。*6
3日目
諸悪の根源である狩人が私の様子を見に来てくれた。流石に心配したのか血の入った瓶を渡してきたけど使えないしいらないからね。あ、これ書いてて今気づいたけどいつの間にか血とか見ても何も思わなくなっていた。これを喜ぶべきかどうかは微妙だけど。
話は戻るが、狩人からマリアの使っている武器と同じ物を貰った。名前は落葉。私の中で眠る中二心を刺激された。ちゃんと最大強化して物理乗算*7を3つつけてるからと言われたがよく分かんなかった。
強いて言えばコレ持ってたらいつもよりほんのちょっぴりだけ疲れやすくなったかな?ホントに誤差程度だと思うけど。嬉しいっちゃ嬉しいけどそれはそれとして一発持ち手の部分でしばいた。*8
落葉くれたのはいいけどあと今日と明日使えば出番なくなるんだよね。シャーレの自室にでも飾ることにしよう。アルとかなら喜んでくれるかな?
私が落葉を持ってると知ったマリアが実践訓練をもっと厳しくしてきた。なんでや。
4日目
ようやく地獄から帰還できた。思えば旅行しに来たのになんでこんなことしてたんだろ。良い思い出は最初に訪れた工房しか無い。ふざけるな。でも確かに強くはなれた…でも不服。今はもう早くシャーレの布団で寝たい。あぁでも仕事の準備…仕事…書類の山…ああ、楽しみだなぁ…ヒヒヒヒッ…
(ここからナメクジが這ったような走り書きで解読不可)*9
…思い残すことは無い"無い。"…そうか。
それじゃあ帰るぞと先生の手を握り、アビドス高校の教室へ。
嗚呼、青い空!清浄な空気!綺麗な建物!色彩が眼になだれ込む!いつも見てる景色がここまで美しいとは思わなかった!
すでに狂ってる?いや、そう思わせるほどヤーナムが糞だったのだろう。
「あ、先生に狩人さんじゃん。あれ?先生なんか強くなった?」
"え、わかるの?ホシノ。"
「うん。なんかね、こう、いっつもヘニャヘニャな先生が嘘だったみたいにオーラを感じる。」
「匂いも…何だろ、どう言い表せばいいかわかんないけど…狩人さんに近いかな?」
…だとすれば月の香りだな。それは良い狩人に近づいたということ。
「うへへ〜先生がお月様だって〜、カッコいい〜。」
月の匂いと言われ、袖やら襟を嗅いでみるがイマイチ感じ取れない。むしろ少し薬液の匂いがする?*10
"あ、ごめんね、シャーレで明日の用意しなきゃ。じゃあまた当番の日に。"
「は〜い。」
そうしてアビドス砂漠を移動中、先生に電話がかかってくる。
"はい、もしもし?……黒服。"
予想だにしていなかった人物から連絡が。横で聞いていた狩人も警戒度を上げる。すると遠くより黒塗りのリムジンがこちらに向かってエンジン音を景気よく鳴らしている。
…迎えも寄越すとは、用意周到だな。
"さっそく落葉の出番かな?"
右手に落葉を持つ先生。見た目はスラリと細いが先生はあの
あえて向こうの思惑に乗る形でリムジンに乗り込む。車内には狩人と先生のみ、運転手すらも居らず、ハンドルがひとりでに回転しているのを見るに自動操縦らしい。
移動すること数分、市街地の奥へ奥へと進み、アングラな雰囲気漂う場所に停まる。
「…お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
リムジンのドアを開くと黒服が恭しく礼をして出迎えた。喋る前に一瞬硬直したのは気のせいか。*11
先導して歩き出す黒服についていく。周囲には人の気配は無く、ただ足音が響くのみ。
導かれた先はパッと見どこにでもある倉庫。黒服がシャッター横のドアを開き、地下へと続く階段を降りて行く。
…この先、敵に注意しろ。
"素晴らしい警告。"
地下には簡素な円形のテーブルがあり、暗くて見にくいが数人椅子に座っている。
直接照明が点灯するとそこにはタキシードを着た頭部が2つの異形、コートを着た首無しとその周囲に浮かぶ写真、赤い身体で複眼の女、不気味な肖像画の男がじっとこちらを見ている。
「さぁ、そちらの席にお座り下さい。」
1席空いており、そこに座るよう促される。狩人の分だけ無い。歓迎されていないようだ。*12
"で、私を呼び出したのには理由があって?"
シャーレに赴任してきた頃から黒服を含め関わりがあり、どの局面でも誰かしらと邂逅は果たしている。
そして、今回はそいつらが勢揃い。キヴォトスの存亡に値する何かが起こるということなのだろうか。
「貴方を呼び出したのは、観測された色彩に変化が確認されたからです。」
「それはかくも美しく、震え上がるほどに恐ろしい。」
「まさに宙に浮かぶ紫紺色の星々。神秘の極地、その一端に近しいでしょう。」
「まあそういうこった!」
心当たりしかない。
"そ、そう。狩人は私を見てどう思う?"
…いつもと何ら変わりないが。
狩人に話しかけてもアンサーは至って普通。ここで全員の視線が先生の少し後ろに向けられていることに気付く。
"……?"
先生も後ろを振り向く。服を着たぶよぶよ。
"わぁあの時のぶよぶよだぁ。"
いつの間にか肥大化した頭部を装備した狩人。こんな緊迫した空気の中でようお巫山戯できるものですわ。
"なにしてんの?"
…この場は私の個性が埋もれている気がして。あと親近感?
"十分個性あるし親近感は誰に覚えたの…背後でちゃぷちゃぷ聞こえるのが鬱陶しいから脱いで。"
他人の怒りが分からぬ程狩人も馬鹿では無い。ここは大人しく脱いで金のアルデオを被り直す。
「ともかく、色彩のバランスが片方に揺らいでしまうと少なからず変化が出てしまいます。」
「その影響は我々でも予想できません。幾重にも重なった振り子の軌道のように未来がどう描かれるかは無限大の可能性を秘めています。一観測者としては非常にそそられますね。」
"止めたいのか暴走させたいのかどっち?"
「ふん、私としてはそのまま自滅で良いのだがな。」
…我々と同じ不死人に成りうるのでは。
死んでも蘇って仕事し放題じゃん。やったね。
「今回貴方をお呼びしたのはそれをお伝えしたかったからです。キヴォトスの為にも、後ろの彼のようにならない用お願い致します。」
"私だってなりたくてなった訳じゃないんだけどね…"
「それでは、本日はお越しいただき誠にありがとうございます。気を付けてお帰り下さいませ。」
戦闘もなく穏やかに会合は終了。これ以上ここに居座る必要も無いので退室する。
"ふぁ〜あ、疲れた。休日だった気がしなかったよ全く…"
…刺激的ではあっただろう?
"うるさい。"
ゴン、とアルデオを小突く。あぁ、拳型に凹みが!
後で新品を買うとして、狩人は確かな徴を使用してアビドス高校へ。先生は徒歩でシャーレに帰還するのであった。
そして翌日からまた激務が開始したのだが、マリアに鍛えられたお陰で幸か不幸か7徹くらいまでならぶっ通しで働けるようになった。更には筋力も上がったので力自慢の生徒に手伝って貰っていた作業も1人でこなせる様に。超人社畜の誕生である。当番に来た生徒たちは皆壁に飾られた二刀の剣を見つつ先生の突然湧いて出てきたタフネスさに唖然としていた。本日の当番である杏山カズサも例に漏れず困惑を隠しきれないでいた。
「あの、ねぇ、隈酷いけど大丈夫なの?事務処理は後でやって今は寝なよ…」
"なんだいカズサ。まだ4徹目、私はまだ働ける。あれに比べたらこんな薄っぺらな紙の山どうって事ないね。"
「いいから寝て!」
いつも通り限界を迎えた先生に休養をとらせるべく救護騎士団によって考案された一撃を放つもビクともしない。*13
"どうしたの?虫でもついてた?"
痛がる様子すら見せず打ち所が悪かったのかと思いもう一度。今度は避けられる。それどころか手を抑えられ逆に動けない。
「っ!なんか、今日の先生おかしいよ。まるで別人みたい。」
"あれ、顔赤いよ?体調崩した?"
カズサの身体まで心配する余裕も見せる。赤面してるのは単に手掴まれて距離が近いからだと思います。
「〜〜~近っっい!」
"うん、おでこ熱いし大事をとって今日はもう上がっていいよ。"
終いには額を触られカズサはノックアウト。あわよくばあんなことやこんなことを…と画策していたが強化パッチが適用された先生によって頓挫させられ、先生の貞操は守られたのであった。
一応先生にもステータスを付けるとすると
過去は特筆なし、かつ未強化として
体力 20
持久力 30
筋力 40
技術 40
血質 9
神秘 20
落葉はおろか回転ノコギリだって余裕で振り回せちゃいます。