ソードアート・オンライン~異界の三重奏《トリオ》~ 作:世界一孤独なチンパン
第2話です。今回は主人公のSAOに対する見方が明らかになります。それを知ったときコハルはどう思うのか。βテスト1日目らしからぬディープな会話をお楽しみください。
それではどうぞ。
「ヤアァァッ!!」
草原にこだまする勇ましい声。大きく一歩踏み出した彼女『コハル』は、眩い閃光を迸らせながら、目の前青いイノシシ『フレンジーボア』に向って鋭い一撃を放った。右上のHPバーがみるみるうちに減っていき、やがてはその体をポリゴン体へと変化させ散っていく。
「まじかよ…」
初期装備、しかも初めてに近いにも関わらずダメージをほとんど受けることなく、挙句の果てにVRMMOを遊んだことのない俺の適当なレクチャーで片手細剣のソードスキル『リニアー』を使い、フレンジーボアを倒して見せた。その飲み込みの速さと、疑いようのないセンスの良さに俺は思わず驚嘆する。
「や、やった!!」
「よくさっきの俺の説明でコツがつかめたな」
「そんなことないよ!すっごくわかりやすかった!!」
嘘つけよ。だって俺のレクチャーは
「スッてやって、グッてやって、パーン!…でしょ?」
「ほんとによくその擬音だらけの説明でコツつかめたなぁ!?」
自分から蒔いた種にしろ、コハルさんの言葉に声を荒げながらツッコむ。転移門前で出会った後、彼女から一緒に練習しませんかと誘われこの草原にいるのだが、彼女はVRMMOは初めてだったらしく戦闘経験はスマホゲームなどのライトな経験のみ。とはいえいきなり初陣に駆り出すのはいかがなものかと思ったので、自分が先手を切りイノシシと戦いその時つかんだ感覚を彼女に語源化しようとした結果、今コハルが言ったような擬音語ばかりの説明になってしまったというわけだ。
「コハルさん、結構論理的な人かと思ってたけど意外と感覚派なんだな…」
「えへへ…そんなことないよ~」
「別に褒めたわけじゃないんだけど…」
などと言い合っているうちに、イノシシが自身の周りに数体リポップするのが確認できた。
「よっし!次は俺の番だな…」
「え!ずるいよぉ!私だってもう一回戦いたいのにー!」
「コハルさんはさっき戦ったろ?だから一回休みな」
「むぅ…」
片手直剣を構えながら言った俺の言葉に頬をぷくっと膨らませて睨みつけてくるコハルさん。その表情がとても可愛らしいと思ったのは内緒だ。
「じゃあ…勝負するか?俺とコハルさん。どちらが多くあいつらを倒せるか」
いつの時代も、可愛さ溢れる抗議には勝てないらしい。俺は彼女の顔を見るのが少し恥ずかしくなり、目線を彼女と反対の方向へ向けながらそういった。
「ほんと!よーし!なら負けないよっ!!」
俺がそう提案するや否や声のトーンが上がったのが分かった。コハルさんが自信満々に武器を構えるのを見て、俺は思わず笑みをこぼす。それを見たコハルさんもにっこりと微笑み、2人してイノシシの大群へと駆け出して行った。
◇◇◇◇◇◇
「だあぁぁっ!つっかれたぁ…」
あれからすっかり日は落ち、オレンジ色の空がこの世界を包む中。俺はたまった疲労を吐き出しながらその場に大の字に寝転がった。
「私ももうへとへとだよ~…」
コハルさんも疲労感いっぱいの顔で俺の横に座る。俺は疲れ切って天を仰いでいるコハルさんの顔を見てみる。彼女は本当に顔立ちが整っていて美少女の部類にたやすく入れるくらいの可愛さだ。
「あ、あの~、そんなジーっとみられると、恥ずかしいっていうか…」
「え?ああ!ゴメンゴメン!!」
視線に気づき、頬を少し赤らめながら目を少し泳がせて抗議してくるコハルさん。俺はすぐに謝罪をし、すぐさま夕焼けを視界にいれる。こうして空を眺めていると、ここが本当にゲームの世界かというのを考えてしまう。雲は絶えず流れているし、俺たちがくつろいでいるこの草もそよ風でなびいている。
「それにしてもキレイだよねぇ…。この世界」
「キレイ?」
「一瞬ほんとにここが、リアルの世界なんじゃないかって思っちゃうくらいに」
「βテストのサービス初日にそんなことを思うの、多分コハルさんくらいだろ」
俺がそういうとコハルさんはそうかもねと言ってクスリと笑う。そして俺と同じように仰向けに寝っ転がった。彼女はでもねと言葉を続ける。
「きっとこの世界を作った人は、こういうことを思ってほしかったんじゃないかって思うんだ」
「こういうこと?」
「うん。このゲームが、私たちのもう一つの現実になりますようにって…。そういう願いが込められているんじゃないかなってさ」
これがコハルさんの、
「俺は…そうは思えない」
「え?」
だが、俺は違った。
「このゲームができるまでに、多くの時間と労力を費やした。その中で多くの困難や壁にぶつかっただろうな。そりゃ当然だよ。ゲームなんてもんは、生半可な気持ちじゃ作れない」
ゲーム嫌いの俺であっても、何かを作ることの難しさや苦悩があることはわかっている。わかってはいるのだ。
「でも、それを解決するためにあいつは…
コハルさんに俺が茅場明彦の息子ということは言っていない。いや、恐らくこれから先も言うことはないし、そもそももう会うこともないだろう。
「だから、大切なそれらを壊してまで作り上げられたこの世界を…。俺は現実とは思いたくない」
俺の言葉を何も言わず聞き終えたコハルさんはそっかと呟き起き上がる。気分を悪くさせてしまっただろう。無理もない。俺が今言ったことは、コハルさんの価値観を否定することと同じ。自分の価値観を否定されて悲しくならない人間などいないから。
「でも私はやっぱり、ここがもう一つの現実なんじゃないかって思ってる。だってこの世界に来てよかったって思えるから」
「え?」
「君と友達になれて、さっきみたいに一緒に戦って…。君の言う通りβテストの初日で、こんなこと言うのは早すぎるって思うけど…」
コハルさんはそう言って俺の方に目を向ける。視界に入った彼女の顔は、優しく微笑んでいた。
「私はこの世界に来れて、君と出会えてよかったって思ってるよ!」
「友達…俺と君がか?」
「うん!」
この人になら、俺の秘密を打ち明けてもいいのかもしれない。俺はそう思った。俺は起き上がり、彼女と向かい合う。
「あのさ、実は俺…」
「えっ!?嘘!もうこんな時間だ!!ご飯の時間遅れちゃうよ~!!」
覚悟を決めた俺の言葉を、コハルさんの焦った声が遮る。視界の端に目をやると、時刻は19時を回っていた。
「そっか…なら今日はお開きにするか?」
「うん…ごめんね?あ、最後にフレンド登録だけしない?」
「うん。いいよ」
この人を信じてみよう。そう思った俺は彼女からのフレンド登録の誘いにも快く乗る。彼女は慣れない手つきでフレンド申請の手順を済ませる。しばらくしないうちに、俺の目の前にフレンド申請のウィンドウが表示された。俺は迷わずOKボタンに触れる。
「明日、会えるかな?」
前にコハルさんの問いかけに俺はその手を止めた。俺はこのゲームをするのは今日限りにしようと思っていた。でも、同時に彼女のことをもっと知りたいとも思った。なにせ彼女は、数年ぶりにできた友達なのだから。
「いいよ」
「やった!じゃあ明日の11時にはじまりの街の転移門前に集合ね!」
「わかった…」
「今日はありがとう!じゃあまたね『ライ』君!」
コハルさんは満面の笑みを見せ、俺のプレイヤーネームを呼びながらこの世界か姿を消した。彼女がいなくなり、俺は一気に喪失感に襲われる。
「俺も落ちるか…」
この感情が酷くならないうちに、俺はプレイヤーメニューからログアウトを選択。俺の意識はこの世界から現実へと引き離された。
「はぁ…」
ベッドの上で覚醒した俺が第一に放ったのはため息。ナーブギアを頭に被ったまま、今日の出来事を思い出す。時刻は19時半。
「今日だけで終わりにするつもりだったのになぁ…」
俺はゲームが嫌いだ。ゲームは、俺の人生を狂わせた。でも、
「明日…早く来ねえかなぁ」
こんな俺でも、唯一好きになれるかもしれないゲームを見つけた。2022年の、俺の誕生日の出来事だった。
というわけでオリ主のプレイヤーネームはライにしました。由来は明人の明の字を安直に英語に直してライト。そこからトを削って『ライ』です。後々明かされますがライ自身自分の人生に明るさを見いだせずにいるので、明るく成り切れていないという意味合いもあります。
このライとコハルがこの先どのような未来を歩んでいくのか、ぜひお楽しみください。次回からアインクラッド編本編はじまります。
それではまた次回お会いしましょう。