▲/○■ ━━━━
名前:ヤスノリ・ヴィクトゥム 年齢:32(意味無)
身長179cm 体重796kg(確認)
あれから3ヶ月近くが経過した。備忘録も書き綴っているが、改めてこの3ヶ月の間に何が起きたのか、思い出せる限りのことを記しておく。私の記憶保持能力がどのような状態なのかを検査するために。
まず始めに、私は偽の身分が必要だと考えた。最初期にこの備忘録を書いた時には記述し忘れていたが、ホロウの外はあの時から3年以上もの月日が経っていた上、私という存在が今の赤牙組関係者の誰かに見つかりでもすれば余計なトラブルが起きかねない。そのため、ヤスノリ・ヴィクトゥムという名を捨てて新たな身分で活動するしかなかったのだ。
とはいえ、新たな身分を用意するということはその分、大金を必要とする。治安局に悟られないようにするためには、そこから更に金が必要になってくるのだ。だが幸いにも裏の界隈にはある程度精通していたこともあって、伝手の確保自体は可能だった。諸事情によりホロウ内での活動が安定している私にとって、エーテル資源の確保が容易にできるため稼ぎを得られていた。
十二分なディニーが貯まったことで、私はようやくヤスノリ・ヴィクトゥムという名ではなく『ウィクトル・アルバトリオ』という名前と身分を手に入れた。市民ナンバーを手に入れ、移動手段に必要な運転免許証も手に入れ、中古車両を買い、プリペイド携帯を購入し、新しい日記帳を買った。
ただ新たな身分を揃えてもらったとはいえ、顔はどうにもならない。というより、整形治療が恐らく意味を成さない。ある程度エーテル資源を取り込まなければ外での活動も儘ならないことに加えて、付けた傷が目に見えて再生した事を踏まえれば、この顔で生きていくしかない。この1点だけは不安要素だ。
兎にも角にも、今後の目標を定めていかなくては。このままホロウ間を彷徨って生きながらえてしまっては、私は────
▲/〇△ ━━━━
昨日はらしくもない感傷に耽ってしまっていた。今後の目標について書き記しておかなければならないのをすっかり忘れてしまっていた。
まず始めに、私はダークウォールへの侵入を最終目標とした。人間の生活圏で生きることが出来ないのなら、せめて人類の生存圏を大きく広げられるよう尽力すれば、私の存在する意味と意義は得られる。こんな死にぞこないの元人間でも、役に立てられるのだから。
しかし、ダークウォールへの入り口は現在政府及びTOPSによって封鎖されており、入ることはおろか近辺に侵入することさえ出来はしない。ただそれ以前に、ダークウォールへと入ろうとする輩も居ない。普通に行くことも、身分を偽装して侵入することも現実的ではない。いっそのことカタパルトなり何なりを使って高速でダークウォールに突入する方がまだ成功率は高いだろう。雀の涙程度の誤差でしかないが。
その最終目標を定めた後、次に私は表の世界で金を稼ぐ必要があったため仕事を探した。なるべくホロウ内での活動を必要条件と定めて探していると、エーテル適応体質65点以上の人間を募集している仕事が見つかった。会社名などを検索してもはっきりしない部分はあったが、少なくとも労働条件としてこの記述があるのなら、ホロウ内での活動を想定したものと考えてもいいだろう。
ひとまずこの仕事に応募しようと思い、エーテル適応体質検査キットを買って調べてみたが……結果は測定不能。まぁ、何だかそんな気はしていた。流石に応募条件に嘘を記載すると面倒ごとに繋がるので、この仕事を諦めて別の職を探した。
▲/〇▼ ━━━━
暫くは記憶保持の確認しか書いて無かったため、進展という進展を記述することはできなかったが、今日の昼頃に白祇重工の作業員に応募して面接を受けたところ、経理業務に就くことになった。決定が爆速過ぎたため一瞬呆けてしまっていたが、あの熊のシリオン、面接担当のベン・ビガーから来てほしいと懇願されて、あれよあれよという間に就職が決まってしまった。
就職が決まったのは別に構わない。ただホロウへの出入りが逆に困難になってしまった。丁重に断ろうとしたが、あの神様仏様でも見るような眼を向けられては、頷かざるを得なかった。ホロウへの出入り問題については、今から考えて何とかするしか無いようだ……はぁ。
まぁ、一応資金運用は赤牙組時代に任されていたので、別に拒否感も無ければ私がこんな体質で無ければ天職とも言えたのだろう。
(記載無し)
ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ
▲/●◎ ━━━━
昨日は取り乱しすぎた。だが、こんな些細なことで自分はそうなのだと理解させられると、やはり恐ろしくあった。なので出来る限り冷却用グッズを含めた諸々を買い漁り、全身にそれらを着用して仕事に臨んだ。気休めなのは分かっているし、これ自体に意味があるとは思っていない。本当に、これは私の問題なのだ。1人だけで本当に助かった。もしあそこで誰かが来ようものなら、私は間違いなく自死を選んでいたかもしれない……とっくに死人の癖に、何を今更。
▲/●◇ ━━━━
いざ新しい職場に出勤して仕事に励もうと思ったら、白祇重工の知能重機に襲われた上、技術顧問のグレース・ハワードから「子どもたちが怖がってるからダメ」と言われて入社拒否をされた。
機械からもエーテリアス認定されたか……少しばかりショックだった。
『今、新エリー都で話題となっている噂を知っているか?! 約2ヶ月程前から出没する謎のエーテリアス、通称【怪獣】についての噂だ。ん? 怪獣とは何ぞやって? おいおいマジかよ今HOTでCOOLな話題なんだぜ? それを知らないってのは、遅れてるねぇ』
『よーし、なら親切なオレ様が説明してやろう。耳の穴かっぽじってよーく聞きな!』
『【怪獣】ってのは、今から約2ヶ月前に突如として現れた謎のエーテリアスの事だ。身長はなんと約6m! クソ太くて長い腕と脚! それと尻尾もだ! バカデカい口は建物だろうと乗り物だろうと軍のテューポーン・チャレンジャーだろうと一瞬で破壊できちまう! 正に怪獣の名に相応しいエーテリアスだ!』
『これだけでも噂の種にはなってもおかしかないが、これだけじゃあそこいらのエーテリアスと何ら変わらない。何でこの怪獣がここまで噂されてるかって理由は、コイツが
『キッカケはその2ヶ月前のこと! 当時インターノットで【怪獣に助けられた】ってスレッドが建った、ご丁寧にその怪獣の写真付きでね。当初はよく出来た作り物だなんて意見ばかりだったが、他にも助けられたって奴らが現れて写真まで貼るもんだからヒートアップ! 噂じゃあ、犯罪者なんかもそのエーテリアスを見たって話だ』
『けど探そうとしても無駄だぜ! 何せあんな巨体の癖して普段は何処に隠れてるのかさっぱりな分からない! マジで何処に隠れてるんだって話だ! 噂じゃあホロウを出入りしてるなんて話もあるが、それは流石に無いな。エーテリアスはホロウの外に出たら消滅しちまうんだからさ!』
『とまぁ、ここまで散々語ったが、怪獣目当てでホロウに入ろうだなんて馬鹿な真似は止めときな。ホロウは無秩序で、混沌とした場所だ。当たり前だが、キャロット無しにホロウに入ればどんな結果が待ち受けているか分からない。運良く治安局の人間に助けられるか、ホロウレイダーやエーテリアスにやられるか、迷子になってエーテリアスになるかのどれかだ。決して、怪獣目当てにホロウに入ろうだなんて思うなよ? 良い子も悪い子も普通の子も、約束しろよ。じゃあな!』
画面の向こうで喋っていた男の動画を停止し、それを見ていた治安官の青衣はブレブレの怪獣と呼ばれたエーテリアスが映っているところまで動画を巻き戻す。それと同じくして部屋の扉がノックされたあと丁寧に入室の挨拶が行われ、治安官である朱鳶が入室してきた。
「先輩、先ほど彼らの聴取が終わりました。やはり例のエーテリアスが関わっていたと複数の証言が……先輩?」
「聞いておるよ。まぁ、そうではないかと思っておったがな」
「ええ。全員、そのエーテリアスと接触し、気が付けばホロウの外に出ていたと。今月でもう6件目です」
「怪獣が関わっている自首及び通報が6件か。このままでは、治安局の存在も御役御免となりそうだの」
「滅多な事を言わないで下さい。第一、エーテリアスに任せる治安維持なんて聞いたこともありません」
「ちょっとした冗句だ、大目に見てくれ」
しかし、と続いた青衣はそこで発言を止めて怪獣が映し出されている画面に注目すると、その様子に疑問を抱いた朱鳶が訊ねる。
「先輩?」
「なぁ朱鳶や、ここ3ヶ月程前からホロウ内からの遺失物が増えてきておったよな。我の記憶が正しければ、巨大なエーテリアスが目撃されたのも3ヶ月程前であったはず」
「────まさか先輩、その件とこのエーテリアスが関係していると仰りたいのですか? しかし、それは些か暴論が過ぎます。第一、エーテリアスが遺失物を届けていたにしても、知性も無い相手にそのような事が可能でしょうか?」
「普通であれば無理であろうな。だが、怪獣は普通のエーテリアスとは言い難い。我らでは想像も付かない相手であるが故、あり得ないとも言い切れんだろうよ」
「普通では無いとしても、相手はエーテリアスです。人間やシリオン、機械人と違い知能の無いバケモノであることに変わりありません」
「まぁ、それもそうだ。年寄りの四方山話に思うぐらいで十分な話であった、おかげで暇が潰えたよ」
「なっ、先輩! また私をダシに使いましたね!?」
「老人の暇潰しにはちょうど良かったぞ」
「せ~ん~ぱ~い~?」
そんなやり取りが、ヤヌス区治安局内で行われていたとか。