全ての可能性を内包した樹のとある枝の先、唯一無二の複製された世界。誰かにとっての理想郷。そんな世界で生きている、生きていたものたちのお話です。
暗いままの空、キラキラと輝く星達が私を照らしている。歩みを進めるたびに、赤黒く濡れた足が地面を汚していく。
ぐわんぐわんと、熱に浮かされたように視界が歪んでいた。
揺れる、コマ送りのような視界は、一つを除いてこの世界の全てを映していた。空を見上げる。私自身が生まれた理由、本来の使命で得るはずだったこの星を統べる力、たった一つだけがそこには無い。
こんな結末は嘘だと信じた。こんな真実などありはしないと思い込んだ。だが、目の前に広がる事実が真っ向からそれを否定した。本来は得る必要などなかったモノに振り回され、他者のために使うはずだった力を己の為に振りかざして、全てを自分の手で消し去った。血液が地面に染み込んでいく。手足は既に汚染されきってていて、きっともう洗い流すことなどできないだろう。
獲得した自我を殺そうとしてももう遅い。手遅れにも程がある。生存本能が機能し、すんでのところで自殺行為は止まってしまうのだから。
ぺちゃり、汚れた地面を踏みしめる音が後ろから聞こえた。本能が"見るな""振り返るな"と警笛を鳴らす。丁度いい。本能が悲鳴をあげるだなんて、なんて素晴らしいのだろう!きっとそれは私に
幻想
そこでは、わたしが嗤っていた。雨の日に子供が水溜まりで遊ぶみたいに、地面に染み込んでいない血液を蹴り飛ばして、無邪気に笑って、私を嗤っていた。違う、アレは私じゃない。私はアレではない。違う、違う、違う。笑い声が聞こえる。呼吸が乱れる。心臓が締め付けられるように痛む。アレは私とは似ても似つかない醜悪なものだ。だって、私はアレと違って無垢だったから。だって、私はアレと違って無知だったから。だって、だって、だって、違う理由を並べ立てて狂気を抑え込もうとした。
それで、終わったあと、どうしたんだっけ?……ああ、そうだ。
覚醒
そうだ、私はそんな醜悪なものを取り込んだ、アレが私にそうしろと言ったように。死なないように傷つけることを何度も何度も私が殺した人数以上に、私の怨恨を込めて、心が壊れて廃人になるまで繰り返した。そして殺して、魂を、力を取り込んだ。やってやった、復讐は成された!自然と口角が上がったことが自分でもわかる。そうだ、そうだ。全てお前のせいだ、お前が悪い、お前が───!
耳鳴りと共に、罪を自覚させようとわたしが私に言葉を投げかける。「選択したのは私なのに?」やめろ。「制止の声に耳を塞いだのは、助けようとする手を振り払ったのは誰?」やめろ。「与えられた甘い蜜が猛毒だと本当は気付いてたんじゃないの?」やめろやめろやめろやめろやめろ!内側から破裂しそうな痛みが頭に響く。
私のせいだ。
何を間違えた?手を取ってから全て。どうすればよかった?信じなければよかった。誰が原因だ?私。誰が犯人だ?私。
同じような自問自答を頭の中で繰り返す。
深夜、夕暮れ、早朝。空、大地。人、神、植物、動物。鼓動が聞こえる、声が聞こえる。誰かが泣いている、誰かが呼んでいる、誰かが笑っている、誰かがうたっている、誰かが────
聞こえる全ての音が私から出ていくことを拒み、頭の中で反響する。
願った。与えられた甘い蜜を盲目的に信じてしまった。救いを願ってしまった。他者を巻き込んだ独善的で利己的な救いの道。捏造された茨の道を救いの道だと信じ込んで、そして辿り着いた先は無だった。
これは罰だ。私が犯した罪への罰。だけど、足りない。これじゃ足りない。こんな罰じゃ私の罪を洗い流せるわけがない!赦されない赦されない赦されない赦されない赦されない。赦しを乞うことすら私には認められていない。救いなど与えられてはいけない。利己的な救いなど私には認められていない。
自罰思考と自己否定に染まりきっていない、中途半端な心が未だに救いを求めていることに嫌気が差した。全て自業自得の産物で、同情の余地は微塵も無い。
思考停止
痛覚が脳を刺激する。視界の歪みは極限に達していて、立つことすらできなくなっていた。
「はは、ははは、あはははははははは!!!」
笑いが口から溢れ出て止まらなくなる。
そうだ、そうだったんだ。簡単じゃないか!ずっとずっと私が求めていたものはコレだったんだ!
1つの可能性の根源が途絶えた