気がついたらデジタルワールド!? リ・デジタライズ 作:星乃 望夢
しかし有音のハイパーインフレを抑えるのってどうやれば良いのか悩みます。
「ちくしょーっ! なんでだってあのクワガーモンは俺たちを追い掛け回すんだ!?」
「わ、わかんないよー!!」
森の中を走り回されている所為で頭にキながら叫ぶ。
脚はパンパンだし、腹はさらに空くし、さらにこれから眠るつもりだったから眠くて仕方がない。
つまりもう、イライラして仕方がない。
アグモンは戦えそうにないし、他のデジモンとは会わないし。
他のデジモンに会えればクワガーモンを追い払うのを手伝って貰えるかもしれないが、そのデジモンすら居なくて困っている。
マジでどうしよう。
「あぅっ!」
「アグモン!?」
手を引いて走っていたアグモンが躓いて転んでしまった。
しかも後ろからはクワガーモンが追ってきている。
その頭のハサミに鋏まれたら、アグモンもひとたまりもないだろう。
「ぐっ」
「あ、アニキ!?」
転んだアグモンを抱えて横に転がり、クワガーモンの突撃を避けたのだが、避けきれずに左肩を引っ掛けて皮膚が裂け血が流れ出す。
「無事か、アグモン」
「お、オイラは。でもアニキが」
「かすっただけだ。気にすんな」
肩を抑えると手が滑る、痛みは本物で、手には血が付いていた。
「ア、アニキ……」
心配そうな声を出すアグモンに、痛みを我慢しながら笑いかける。
「それより、くるぞ」
「クカカカカカカッ!!」
俺たちが動けないと思ったのか、クワガーモンは地面に降りてきた。
お陰で良くその姿を見ることが出来る。
何故か上半身に焼け焦げのような痕が着いている。
コイツが怒っているのはこの焼け焦げの所為か?
「ア、アニキぃ……、どうしよう……」
「弱気になるなアグモン。いざって時に身体が動かなくなるぞ」
とはいえ、絶対絶命のピンチを前に俺も脚が震えてる。
クワガーモン相手に人間一人と弱気のアグモン。
どーしろと……?
「クカカカカカカカ!」
「っ…!」
威嚇というか、手負いを前に笑っているのか。
一歩一歩近付いてくるクワガーモンに、一定の距離を開けるように下がる。
「っ、しまった…!」
だがこんな森の中でいつまでも下がれるわけがなく、背中に木が当たる。
「アニキぃ……」
「くそっ!」
退路を下がろうにも、厭らしくデカい木の所為で下がるのには木を伝って回るしかない。
だが、脇目を向けた瞬間にクワガーモンは飛び掛かってきそうだ。
「アグモン、なんでも良い。アイツを攻撃しろ!」
「え、えええっ!? 戦うのぉ!? オイラじゃクワガーモンには敵わないよぉ……」
「なんでも良いから取り敢えず頼むって!」
とにかく相手の注意を逸らしてから、アグモン抱えて走ればまだ逃げられるはずだ。
「ギシャーッ!!」
「来るぞ! やれ、アグモン!!」
「うあうあわわ、べ、《ベビーフレイム》!!」
「ギ、ギシャーッ!?!?」
アグモンの口から放たれた火球がクワガーモンに直撃して一瞬怯む。
「今だ!」
アグモンを抱えて逃げようと、腕を伸ばした時だった。
「いづっ!!」
「アニキ!?」
意外と重かったアグモンを抱えようとして力を込めた肩の痛みに身体が強張って、逃げるタイミングを失ってしまった。
「がっ!!」
物凄い横殴りの衝撃を受けて身体が吹き飛ぶ。
「アニキーーー!!!!」
地面を数回バウンドして転がっていく。
ようやく止まると、身体全身が痛みを訴えてくる。
気を失いたくても、痛みの所為でそれも出来ない。
「クカカカカカカカ!!」
クワガーモンが鳴きながら此方に向かってくる。
多分、横から殴られたか何かしたんだろう。
あのハサミに捕まっていたら胴体は真っ二つだった。
「くっ…そ……」
動きたくても身体の痛みがそれを邪魔する。
あまりの痛みに身体が動くのを拒絶している。
舌舐めずりのつもりか、ご自慢のハサミを閉じたり開いたりしながら近付いてくるクワガーモン。
そんなクワガーモンの背中が小さく爆発した。
何事かとクワガーモンが振り向いた先にはアグモンが居る。
「アグ、モン…っ」
「ア、アニキに、てて、手をだすなぁぁ……!」
アグモンが注意を引き付けてくれたんだろうが、その脚はガクガクと震えていた。
敵わないと言っていたクワガーモンに攻撃して、標的を自分に向けたのだ。
ヘタレっ子の気質がありそうアグモンからすれば、恐くて堪らないだろう。
なのにどうして──。
「ギシャーッ!!」
「ひぃっ!!」
クワガーモンが怒り狂った雄叫びを上げるだけで縮こまってしまうアグモン。
「もう良い! 逃げろアグモン!!」
まだアグモンだけなら逃げられるはずだ。
一食の恩程度で命をかけて俺を守る必要もない。
アグモンは充分やってくれた。
だから──。
「や、やだ…っ!」
なのにアグモンは震えた脚を一歩踏み出した。
「バカ野郎! 早く逃げろっ、死にたいのか!?」
「ア、アニキは、オイラを助けてくれた。だから、今度はオイラがアニキを助けたい…! 《ベビーフレイム》!!」
怯えながらも、決意を込めて必殺技を放つアグモン。
だが、その攻撃をクワガーモンは腕を振るうだけで掻き消してしまう。
「だ、ダメだぁ…。効かないよぉ…」
「ギシャーッ!!」
「うわわわわわ!!」
どうやらアグモンの攻撃が余計にクワガーモンを怒らせたらしい。
「《シザーアームズ》!!」
「ヤバい、避けろアグモン!!」
「あわわわわわわ!!」
クワガーモンの必殺技であるシザーアームズは、俺の声を聞いたアグモンが伏せたことで外れた。
「ひぃぃぃっ!!!!」
だがアグモンの後ろに生えていた木をその巨大なハサミで挟んで両断してしまった。
涙目になりながら逃げ回るアグモン。
アグモンが小さいから中々クワガーモンの攻撃は当たらないが、走り回っていた所為でアグモンの動きは悪くなっていく一方だ。
「アグモンが進化できれば、クワガーモンなんて」
同じ成熟期であるグレイモンに進化出来ればクワガーモンには負けないはずだ。
でも俺は選ばれし子供じゃない。
デジヴァイスも持っていない。
アグモンを進化させてやりたいけど、俺にはなにも出来ない。
「うわああああっ!!」
「はっ、アグモン!?」
アグモンの悲鳴みたいな声が聞こえてくると、アグモンがクワガーモンのハサミに捕まっていた。
「アグモン! くそっ、アグモンを離せ!!」
身体の痛みなんて気にしていられなかった。
立ち上がった俺はクワガーモンに向かって走る。
「ア、アニキ……ぐああああっ!!」
「でりゃあああああ!!!!」
振りかぶった拳を、思いっきりクワガーモンに打ち込む。
「ぐうっ!!」
殴った感触は虫の甲殻みたいなものだったが、やたら硬い。
「ギシャーッ!!」
「ぐああああああっ!!」
「アニキーーッ!!」
でも俺のパンチが気に障ったのか、クワガーモンは振り向きながら腕を払ってくる。
殴るために近づいていた俺はクワガーモンの腕払いをモロに受けて、また吹き飛ばされた。
「ガハッ!!」
吹き飛ばされた先の木に背中を打ち付けてようやく止まった。
「アニキ!! うわっ!?」
クワガーモンはアグモンを離して此方に向かってくる。
多分アグモンより弱っているこっちに狙いを定めて来たんだろう。
このままだと嬲り殺しだ。
でもどうしたら──。
「これは……」
クワガーモンを殴った右手がオレンジ色の光に包まれていた。
光に包まれていて、何だか力強さを感じる。
この光の色、そして光り方は知っている。
「もしかして、デジソウルか…?」
デジソウル──とあるデジモンのアニメでは、デジモンを進化させる力があるものだった。
「でも、デジヴァイスが……」
デジソウルがあってもデジヴァイスが無ければ意味がないと、そう思った時だった。
鞄の中から強い光が漏れ出していた。
「コイツは…!?」
スマホが強い光を放っていた。
光に合わせて右手のデジソウルの光も強くなっていく。
「アニキ! 前、前、前ぇっ!!」
「え? うわあああ!?」
デジソウルと光るスマホに夢中過ぎた所為で、アグモンに言われるまで目の前にクワガーモンが居るのに気づかなかった。
「《シザーアームズ》!!」
「アニキーーー!!!!」
クワガーモンのハサミが迫ってくる。
避けるのには致命的過ぎる距離だ。
絶対に避けられない距離だ。
避けられないなら、殴り倒してみるだけしかないだろっ!!
「どおおおおりゃあああああーーーーっ!!!!」
デジソウルが光る拳でクワガーモンの迫る顔面を殴り付ける。
「ギシャーッ!?!?」
確かな手応えと共に、クワガーモンの巨体が後ろに浮いて倒れた。
「く、クワガーモンを殴り飛ばしちゃった……。アニキ、すっげー…」
やった俺だって驚いてる。
マジでデジソウルはスゴいんだな。
極めれば究極体デジモンも殴り倒せるようになるだけはある。
「フーッ、フーッ、フーッ、アグモーーーン!!!!」
「は、はいいいっ!!」
「今からお前を進化させてやる! お前もお返ししてやれぇぇぇ!!」
クワガーモンを殴り飛ばしてより一層輝く右手でスマホを掴むと、形が変わった。
細長く三つのボタンの付いた機械に。
これもデジソウルと同じで、デジモンのアニメに出たデジヴァイスのひとつだ。
やっぱりデジソウルとデジヴァイスとくれば、あとは熱血っぽくやるだけだろう。
デジモンの進化には、進化させるテイマーの心も大事だと言われている。
あまり得意じゃないが、やってみるさ!
「デジソウル──チャージ!!」
左手に持ったデジヴァイスに、上からデジソウルを叩きつける様に右手を添える。
オレンジの輝きを放ったデジソウルはデジヴァイスに吸い込まれていき、アグモンに向かってデジヴァイスから光が撃ち出された。
「アグモン進化──ジオグレイモン!!」
進化の輝きの中から現れたジオグレイモンは、普通のグレイモンにはない肩や腕、顎のトゲや頭の甲殻も鋭く長くなっている。
グレイモンよりも攻撃的な姿をしていた。
「スゲェ、アニキの力でオレ、進化したのか?」
「驚くのは後だ。今はクワガーモンを!」
「わかった。いくぞクワガーモン!」
クワガーモンに向き直るジオグレイモン。
成熟期に進化して同じ土俵にたった今、クワガーモンに負けないはずだ。
「《シザーアームズ》!!」
体勢を立て直したクワガーモンは俺を狙ってくる。
「アニキはやらせない!」
だがジオグレイモンが間に入って、クワガーモンのハサミを掴んで受け止めた。
「今だジオグレイモン! メガフレイムだ!!」
「わかった! 《メガフレイム》!!」
ジオグレイモンのメガフレイムをモロに受けたクワガーモンは吹き飛んだ。
至近距離で苦手そうな炎属性の技を受けたクワガーモンは、動こうとしても上手く身体が動かせないらしい。
「これでトドメだ! 《メガバースト》!!」
ジオグレイモンはクワガーモンに向けて一呼吸タメのあるメガフレイムを放ったが、着弾した瞬間の威力はメガフレイムの比じゃなかった。
メガフレイムで弱っていたクワガーモンは、メガバーストを受けてとうとう力尽きて、データの粒子となって消えた。
「やった……。やったよアニキ! オイラ、クワガーモンを倒したよ!!」
強敵を倒し、ジオグレイモンから退化したアグモンは喜びに震えて舞い上がった。
ドサッ。
「ア、アニキ? アニキぃーー!!」
アグモンは喜ぶのを止めて、倒れてしまった有音の元に駆け寄った。
デジヴァイスを握り締めながら、やりきった顔で、有音は眠っていた。
「よかったぁ。寝てるだけかぁ」
アグモンはホッと一息吐くと、戦って疲れた身体を押して有音を安全な草むらの中に連れ込むと、襲ってきた睡魔に身を任せた。
to be continued…
ジオグレイモン
有音の子分となったアグモンが、有音のデジソウルによって進化した成熟期の恐竜型デジモン。
通常のグレイモンと比べより攻撃的な姿で身体もスリム、素早さも上がっているのが見た目を持つ。
必殺技はグレイモンと同じく『メガフレイム』。そしてそのメガフレイムを口の中で溜めて放つ『メガバースト』を使い分けることが出来る。
一節ではその強さは完全体にも迫ると言われているぞ。