気がついたらデジタルワールド!? リ・デジタライズ 作:星乃 望夢
「ここは……」
目が覚めると、見知らぬ天井があった。
「知らない天井だ……」
いや、定番のネタをかましている場合ではない。
「アグモン! っ、いってえええ!!」
記憶は、ジオグレイモンがクワガーモンにトドメを刺したところで途切れている。胸騒ぎがして飛び起きた瞬間、全身に稲妻のような激痛が走った。
「オキタ……」
「んあ?」
呻いていると、アグモン以外の声が聞こえる。
「ナイトモン、ホウコク……」
部屋を出ていく後ろ姿は、黒い西洋甲冑の兵士然としたデジモン──ポーンチェスモンだった。
「つくづく不思議だよなぁ……」
このファイル島はデビモンに支配されかけた歴史を持つが、アンドロモンやもんざえモンのように完全体も存在する。
ポーンチェスモンの言ったナイトモンも完全体だ。彼らが徒党を組めば、成熟期のデビモン程度は倒せそうなものだが──それでは物語が成立しない、ということか。
「アニキぃーーっ!!」
「うわっ! ちょ、いたっ、アグモン、痛い!」
そんなことを考えていると、アグモンが勢いよく抱きついてきた。全身の痛みに思考どころではなくなる。
「アニキ、よかったぁ。目を覚ましてくれたよぉ」
涙目で頭にたんこぶを作るアグモン。……痛みに耐えかねて放った俺のゲンコツのせいだ。
「目が覚めたようだな。私の名はナイトモン」
アグモンの一方的な感動の再会が一段落したところで、甲冑の騎士──ナイトモンが声をかけてくる。その後ろには、先ほどの黒いポーンチェスモンも控えていた。
「ああ。俺は桜木有音。あなたが俺たちを助けてくれたのか?」
“ナイト”の名に恥じない紳士的な物腰に、自然と敬称が口をついて出た。
「私ではない。礼ならあのポーンチェスモンに言ってやってくれ。あの子が君たちを見つけ、私に知らせた」
「そうか。ありがとな」
「………………」
礼を言うと、黒いポーンチェスモンはナイトモンの背後に隠れてしまった。
「すまない。この子は少し恥ずかしがり屋でね」
「気にしないさ。それよりナイトモン、聞きたいことがあるんだ」
俺はナイトモンに、アグモンにしたのと同じ質問を投げかける。完全体である彼ならば、この島の事情に詳しいはずだ。
「ふむ。ダークマスターズについては聞かぬが、デビモンの件なら心当たりがある」
ナイトモンによれば、最近ムゲンマウンテンから放たれる黒い歯車によって、デジモンが凶暴化しているという。
事態を収拾すべくレオモンから協力を要請されたが、ナイトモン自身の務めがあるため、やむなく断ったらしい。
「ファイル島の危機は承知している。だが私は騎士として、主の命を違えるわけにはいかない」
「その主は?」
ナイトモンが「主」と呼ぶデジモン。少なくとも完全体以上の実力者だろう。それだけの戦力があれば、まだ幼い子供たちを危険に晒す必要もなくなる。
「我が主、ロードナイトモン様はファイル島を離れておられる。今どこにいらっしゃるかは定かではない」
まさかの究極体、しかもロイヤルナイツ。その名が出てきたことに驚きを隠せない。
同時に、デビモンの悪運の強さには舌を巻く。
ロイヤルナイツが一人でもいればデビモンなど一捻りだ。
ロードナイトモンが不在であることを見越して行動を起こしたのかもしれない。
「君の話を信じるなら力を貸したいが、私は主よりこの館の留守をお守りせよと命じられている。ゆえに、この場を動くことはできぬ。すまない」
それも想定内だ。ならば、この場を動かずとも可能な支援を頼むまでだ。
「ナイトモン。ロイヤルナイツに仕えるあなたに頼みたい。俺を鍛えてほしい」
準備もなく戦いに臨むのは危険すぎる。デジソウルの扱い方も、まだ身についていない。
「ふむ……。この場から動けぬ身なればこそ、せめてもの助力。私が引き受けよう」
提案は快諾された。完全体であり、ロードナイトモンの信頼も厚い騎士に鍛えてもらえるとは心強い。
期間は三日間。デビモンが動き出しているのなら、残された時間は少ない。選ばれし子供たちがこの世界に来ている可能性も高いのだ。
子供ばかりの彼らにとって、大人の同行はいくらかの安心材料になるはずだ。
「そういうことだ。お前はどうする、アグモン」
アグモンは俺のパートナーというわけではない。一食の恩はもう返してもらっている。これから先はデビモンだけでなく、サーバ大陸のエテモンやヴァンデモン、さらにはダークマスターズとの戦いも待ち受けているかもしれない。
「オイラ、オイラもアニキと行くよ! アニキみたいに自分を磨きたい!」
「クワガーモンなんて比較にならない連中とも戦うことになるんだぞ。それでも来るか?」
俺はアグモンの目をまっすぐ見据える。その視線に一瞬の揺らぎが見えたが──それでも、アグモンは力強く頷いた。
「アニキと一緒なら、オイラ何でもできる気がするんだ。だから連れてってよ、アニキ!」
おにぎり三つで懐かれた感は否めないが、その言葉は素直に嬉しかった。
「それじゃ、これからよろしくな、アグモン」
「うん! よろしく、アニキ」
──ぐ〜……。
固い握手を交わした直後、盛大な腹の音が場の空気を破壊した。
「すまんナイトモン。なにか食べ物はあるか?」
昨夜から何も口にしていない。空腹はとっくに限界を超えていた。
「ハハハ! よし、用意しよう。腹が減っては戦はできぬからな」
「すまん……」
俯きがちに謝る。非常に気まずいシチュエーションだ。
その後は食事をとり、一日を体力回復と療養に充てることになった。
クワガーモンに受けたダメージは深刻だったが、ナイトモンが古から伝わるという秘伝の薬を用意してくれたおかげで、全快とは言えないまでも、打撲の痛みは消え、筋肉がわずかに引きつる程度にまで回復した。
なんでも、古のデジタルワールドでロイヤルナイツが全盛だった頃、強敵との連戦を可能にするため短期回復に特化して作られた薬だという。材料は現在のファイル島でも手に入るとのことで、遠慮は不要らしい。
ナイトモンの好意に甘え、稽古が始まった。喧嘩にも不慣れな一般人が付け焼き刃の技を磨いても意味がない。まずは相手の挙動を見切るための観察眼を養うことからだ。
ナイトモンの振るう木剣が眼前を掠め、その風圧が髪を逆立てる。剣の動きに慣れてくると、速度が増し、軌道が予測不能に変化する。
さすがは完全体だ。クワガーモンのような単調な攻撃とは次元が違う。研鑽の末に磨き上げられた技の数々を目で追うだけで精一杯だった。
「うわっ!?」
「どうした、アルト。その程度では、私の間合いには踏み込めんぞ!」
俺は素手で挑む。俺の戦い方は、きっと武器に頼らないステゴロが最も性に合っている。
「うおおおおおーーー!!」
拳にデジソウルを纏わせ、ナイトモンと対峙する。
デジモンを進化させるほどの力だ。その破壊力も絶大なはず。試しに岩を殴れば、拳ではなく岩が砕けるほどの威力があった。
雄叫びと共に拳を振り、ナイトモンの木剣の腹を叩いて軌道を逸らそうとするが──。
バキンッ。
「くうっ!!」
触れた瞬間、力のベクトルが捻じ曲げられ、逆にこちらの拳が弾き返される。右腕に電撃のような衝撃が走り抜けた。
デジソウルで強化していてこの威力だ。生身で受けていれば骨が砕けていただろう。
痺れる右腕を気にしつつ構え直すと、ナイトモンが剣を下ろした。
「今日はここまでとしよう。これ以上は君の身体が壊れてしまう」
肩の状態を見抜かれたのだろう。正直、右手に力が入らない。潮時としては丁度良かった。
「ポーンチェスモン。彼を介抱してやってくれ」
黒のポーンチェスモンが救急箱を手に近づいてくる。
「カイホウ……シャガム」
「ああ。ごめんな」
身長差がある。俺が座らなければ治療しにくいだろう。あぐらをかくと、手際よく擦り傷に薬を塗ってくれた。
「中々筋が良い。大成すれば、我が騎士団に欲しいくらいだ」
「世辞でも嬉しいよ。ありがとう、ナイトモン」
ナイトモンはロードナイトモンに仕える騎士だが、彼自身も騎士団を率いているという。ポーンチェスモンやコテモンで編成されており、このポーンチェスモンも団内で一、二を争う腕利きらしい。
「マッサージ……スル。アト、キケン……」
「助かる。ありがとな」
片言ではあるが、その手つきは雄弁だ。身ぶりが言葉の意図を補っている。なかなかに愛らしいデジモンだ。
「ウルサイ、ヨケイ……」
「いでっ。ごめんて! 謝るから優しくしてくれ」
からかわれたと思ったのか、少し力が強くなる。意外なほどの力持ちだった。
──そして、晩飯の『デジタケ』の炭火焼きが驚くほど旨かったことも追記しておく。
to be continued…
ナイトモン
全身をクロンデジゾイド製の鎧に身を包む完全体の戦士型デジモンである。
必殺技はその巨大な大剣による一撃、ベルセルクソードである。
忠義に厚いデジモンであり、ファイル島のロードナイトモンの館を守護しているぞ。