気がついたらデジタルワールド!? リ・デジタライズ   作:星乃 望夢

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第7話 First SLASH!! Dアークの力

 

 グレイモンを黒い歯車から解放した後、私とギルモンはナイトモンの館でお世話になり、私はお風呂を借りて、ようやく汗や土埃を落としてさっぱりすることができた。

 

「やっぱりお前は強いよなぁ、クロ」

 

「マダマダ、ワタシダケ……ムリ」

 

「成長期で成熟期と渡り合うだけでも、相当だと思うんだけどなぁ」

 

「アニキアニキ、オイラは?」

 

「お前はもう少し腕を磨かないとな」

 

「えーっ! オイラだって進化すれば強いのにぃ~!」

 

「そりゃあ、進化して同じ土俵に立てばな。でもクロは自分よりも進化してる相手に戦って手玉に取ってただろ? それくらいやらないと強さ自慢にはならないだろ」

 

「アマリ、イワナイデ……ハズカシイ」

 

 途中から加わった私が口を挟むのもなんだが、少しばかり疎外感を感じる。まだ出会って一時間ほどしか経っていないのだから、仕方がないのかもしれない。

 

「有音君のアグモン、もう進化出来るんだ」

 

「あぁ。まぁね。死にそうな思いはしたけど」

 

 私の呟きを、有音君は拾ってくれた。ここから話を繋げていくしかない。

 

「クワガーモンと、戦ったんだっけ?」

 

「ああ。アグモンが捕まって、それを助けるのにクワガーモンに殴りかかってさ。反撃されて、もうダメだって時に、デジソウルが使える様になったんだ」

 

 このデジヴァイスも元はスマホだったのだと、彼は自慢げにそれを見せてくれた。

 

 ……デジタルワールドは不公平だ。私だってグレイモンから必死に逃げたというのに。

 

「あまり考えたくないけどさ。やっぱりデジモンを進化させる為には、ピンチに立ち向かう勇気とか、そんな心構えが必要かもしんないな」

 

 有音君は、苦虫を噛み潰したような険しい表情でそう言った。

 

 彼の言いたいことはわかる。だが、だからといって自ら危険に飛び込んでも意味がない。

 

 それは本当の勇気ではなく、仮に進化したとしても、正しい進化には繋がらないはずだ。

 

 私は嫌だ。ギルモンがメギドラモンになるのだけは。

 

「まぁ、ギルモンは順当に進化すればメギドラモンになるんだけどな」

 

「ええ!? ど、どういうこと!?」

 

 有音君の一言に、私は慌てて食いついた。ギルモンは、デュークモンになるはずだ。

 

「デュークモンはある意味での例外。ギルモンのウィルス種としての力を制御した個体がなる究極体。アニメだとパートナーが居たからギルモンはデュークモンに進化出来たみたいなもので。普通は高まったウィルス種としてのパワーを発揮出来るメギドラモンになる」

 

「そ、そんな……」

 

「まぁ、アニメのはスカルグレイモンの時と一緒だ。正しい育て方と心構えがあれば、メギドラモンに進化してもああはならないだろうし。Dアークがあるなら、マトリックス・エヴォリューションでデュークモンになれる可能性もある。焦らずにゆっくりやりゃあいいさ」

 

「でも……」

 

 デビモンとの決戦も控えている。一週間もしないうちにサーバ大陸へ渡り、エテモンと戦うことになるかもしれない。

 

 私が守られてばかりの立場になるなど、格好がつかない。

 

「テイマーズを観てたならわかるだろ? それにここはデジタルワールド。なんでもってわけでもないけど、心の想いを形にする世界でもある。02で紋章がなくても、子供たちのデジモンが完全体に進化出来るのは、子供たちの心が紋章の補助が要らないくらい強く働くからだ。ホーリーストーンとかチンロンモンの力は例外としてな」

 

「私の心次第ってこと、ね」

 

 有音君の言う通りかもしれない。

 

 テイマーズの子供たちは、カードを自らの意志で別のカードに変えることもあった。

 

 私は鞄の中から、一枚のカードを取り出す。

 

「おっ、ブルーカードだ! 懐かしいなぁ」

 

「わかるの?」

 

 私の持っているブルーカードは、アニメのものとは少しデザインが違う。正三角形がトライアングルを形成し、その中心に逆三角形が収まった絵柄だ。

 

「遊び方は今一わからなかったけど、友達とか集めてたのに便乗して一時期集めてた」

 

 そう言いながら、私の手にあるブルーカードを見つめる有音君の瞳は、子供のように輝いていた。

 

 私と同年代のはずなのに、彼はすごい。きっと私以上にデジモンが好きで、たくさん調べてきたのだろう。

 

 私は、ただアニメを繰り返し見るだけで満足していたというのに。

 

「好きこそ物の上手なれって奴さ。まさか自分もデジモンの知識をフル回転して過ごす日が来るなんて思わなかったけどね」

 

 もしこのデジタルワールドがテイマーズ次元だったなら、私も役に立てたかもしれない。

 

 初代や02は好きだったが、内容はうろ覚えだ。フロンティアやセイバーズに至っては、名前と内容を少し知っている程度。クロスウォーズはタイトルを知っているくらいだ。

 

「まぁ、おれも詳しくわかるのは初代からテイマーズまでかな。ビデオテープに録画してあってさ。擦り切れるまで見返したけど、フロンティア辺りは朝起きれなくてあまり見れなかったから」

 

 それでもデジモンの知識となると、勉強そっちのけで調べまくったけどね、と有音君は乾いた笑みを浮かべた。

 

 そういうことは、誰にでもあるものだ。勉強しなければならない時に限って、他のことに熱中してしまう。

 

「さっきからアニキたちは何を話してるんだろ?」

 

「うーーん。わかんない」

 

「ワタシモ、ワカラナイ……」

 

 うん。まぁ、デジモンたちには野暮な話だろう。

 

「ぐあああああ!!」

 

「無念っっ!!」

 

「うわあああああ!!」

 

 有音君と話していると、騎士団のデジモンたちを吹き飛ばしながら、一台の戦車のようなデジモンが現れた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 下半身は戦車、上半身は人型でありながらもグレイモンのような恐竜型に近い身体つき。両腕は機関砲で、頭部は主砲と一体化している。

 

「タンクモン!? クロ、この辺にタンクモンなんて居るのか?」

 

「イツモハ、ファクトリアルタウン……オカシイ」

 

 クロの言葉が事実なら、あのタンクモンはファクトリアルタウンにいるはずのデジモンだ。ギアサバンナエリアからミハラシ山を越え、迷わずの森を抜け、この館のあるトロピカルジャングルまで、かなりの距離を移動してきたことになる。

 

 もっとも、このファイル島の地形が俺の記憶通りであればの話だが。

 

 両腕の機関砲から放たれる銃弾を前に、訓練用の木の盾や槍で武装したポーンチェスモンたちは、ただ防戦一方だ。

 

「《サンダーコテ》!!」

 

「《ファイヤーメン》!!」

 

 コテモンたちが反撃に出るが、電気や炎を纏った斬撃は、タンクモンの装甲には全く通用しない。

 

「《ポーンスピア》!!」

 

「《ポーンバックラー》!!」

 

 果敢に木の武器で挑むポーンチェスモンたち。だが、鉄と木では勝負にならず、武器は無惨にも砕け散っていく。

 

 そんな攻撃にも満たない攻撃を受けるタンクモンは、機関砲で周囲の騎士団を牽制しながら、頭の主砲を館へと向けた。

 

「ヤバい! アイツ、館を撃つ気だ!」

 

「「「「「──!?」」」」」

 

 俺の言葉に、騎士団全体が凍りついた。

 

 この館は、ロードナイトモンのものであると同時に、彼らの家でもある。それが破壊されようとしているのだ。何も感じないはずがない。

 

「《ハイパーキャノン》!!」

 

 タンクモンの主砲から弾頭が発射される。

 

 それは一直線に館へと向かっていく。

 

 考えるよりも先に、身体が動いていた。

 

 タンクモンの放った弾頭の前に立ちはだかり、その弾頭を拳で殴りつけていた。

 

「ぐあああああ!!!!」

 

 いくらデジモンとはいえ、戦車の砲弾を素手で殴るなど無謀だ。炸裂した爆風に吹き飛ばされ、俺は館の壁を突き破って転がった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「有音君!!」

 

 タンクモンの砲弾を殴り、その爆発に巻き込まれて館の壁を突き破っていった有音君。

 

 普通の人間なら無事では済まない光景に、私はただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

 恐かったのだ。

 

 アニメで見ていた光景とは違う。本当のデジモンとの戦いは、こんなにも命懸けだなんて思ってもみなかったから。

 

「よくもアニキをやったな!! 赦さないぞタンクモン! 《ベビーフレイム》!!」

 

 アグモンが攻撃するが、タンクモンの装甲の前では無力だった。

 

「まずい、また館を狙ってるよ!」

 

 アグモンの言葉に、私はハッと顔を上げる。

 

 館の中にはまだ有音君がいる。

 

 そして、あの館はポーンチェスモンやコテモンたちの大切な家だ。

 

 それを、タンクモンは壊そうとしている。

 

 今、戦えるのは、タンクモンを止められるのは、私とギルモンしかいない。

 

 タンクモンと戦えるのは、私しかいない。

 

「ギルモン!」

 

「うん。ギルモン、セリカと戦う! アルトを傷つけたタンクモン、ギルモンゆるさない!」

 

 デジタルワールドは、心の想いを力に変えてくれる世界。

 

 タンクモンを赦せないという気持ち、そして今、タンクモンを止められるのは自分たちだけだという強い意志。

 

 その時、私のDアークから眩い光が放たれ、目の前に一枚のデジタルカードが現れた。

 

 それは、テイマーズの子供たちが幾度となくスラッシュしたであろう、一枚のカード。

 

 超進化プラグインS。

 

 その意味するところを、私は理解していた。

 

 私は心の底から願う。有音君を守りたい。タンクモンを止めたい。そして、ただ守られているだけではなく、私も戦いたい。

 

 だが、私には有音君のように自分の力で戦うことはできない。だから、私の代わりに戦ってくれるギルモンと、せめて心だけでも共に戦いたい──!!

 

 光り輝きながら回転するデジタルモンスターカードを、私は右手の人差し指と中指で掴んだ。

 

「カードスラッシュ!!」

 

 力強い波動を感じるカード。無限の可能性を秘めたカード。私が待ち望んだカード。それを、力強くスラッシュする!

 

「超進化プラグインS!!」

 

 EVOLUTION_

 

 デジヴァイスから強烈な光が放たれる。デジタルコードがギルモンを包み込み、光のデジタマを形成する。

 

「ギルモン進化──グラウモン!!」

 

 デジタルコードのデジタマが爆発し、中から現れたのは、ギルモンが進化した成熟期デジモン──グラウモンだった!

 

「いっけぇ! グラウモーーン!!」

 

「グゥゥルアアアーーー!!」

 

 雄叫びを上げ、グラウモンはタンクモンに体当たりして、館への攻撃を阻止する。

 

「カードスラッシュ──攻撃プラグインA!!」

 

 私がスラッシュしたカードは、どんな状況下でも確実に技を発動させるカードだ。

 

「《エキゾーストフレイム》!!」

 

 グラウモンは立ち止まると同時に、口から轟音と共に強力な火炎を吐き出した。

 

「《ハイパーキャノン》!!」

 

 グラウモンとタンクモンの必殺技が激突し、激しい爆発と煙が立ち込める。

 

「突っ込んでグラウモン!!」

 

「グルァァァ!!」

 

 私の指示に、グラウモンは躊躇なく煙の中へと飛び込んでいく。

 

「カードスラッシュ──高速プラグインB!!」

 

「《プラズマブレイド》!!」

 

 グラウモンの両腕の肘にあるブレイドが、プラズマを帯びていく。

 

「そのままいっちゃえええ!!」

 

「グルアアアアア!!」

 

「グウゥ!」

 

 私の声に応え、グラウモンはタンクモンを斬りつけた。

 

 伝わってくる。グラウモンの気持ちが。私や有音君、みんなを守ろうと、必死で戦っている。

 

 そうだ。これがデジモンテイマーのあるべき姿。デジモンと心を通わせ、共に戦うのがテイマーだから。

 

「やあああああああ!!!!」

 

「ゥゥアアアアアッ!!!!」

 

 私の雄叫びとグラウモンの雄叫びが重なり、力が増していく。

 

 そして、タンクモンの車体に手を掛けたグラウモンは、そのままちゃぶ台を返すようにタンクモンをひっくり返した。

 

 その背中には、黒い歯車が食い込んでいるのが見えた。

 

 さっきのグレイモンと同じだ。

 

 あの黒い歯車が、デジモンたちをおかしくしている原因。

 

「グラウモン、黒い歯車を壊して!」

 

「わかった! 《エキゾーストフレイム》!!」

 

 グラウモンが放った火炎が、タンクモンの背中の黒い歯車に直撃し、砕け散った。

 

 正気に戻ったタンクモンは、ファクトリアルタウンからこのトロピカルジャングルまで、強いデジモンを探しに来たところで記憶が途切れているという。おそらく、黒い歯車を身に受けた影響だろう。

 

 瓦礫の中から助け出された有音君が、大きな怪我をしていないことに、私は安堵のため息をついた。

 

 ギルモンを、グラウモンに進化させることができた。

 

 その事実が、私は何よりも嬉しかった。

 

 今日のこの感覚を、忘れないでおこう。

 

 そうすれば、ギルモンを完全体のメガログラウモンや、究極体のデュークモンに進化させられるかもしれない。

 

 絶対に、メギドラモンには進化させない。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 それはまだ、生まれて間もないデジタルワールド。

 

 人間がパーソナルコンピューターを創造し、PC間での情報交換──ネットワークを構築し始めた頃。

 デジモンたちは生まれたばかりの、何も知らない無垢な存在だった。

 

 だが、データの中に存在するバグが時として、デジタルモンスターであるデジモンに悪影響を及ぼし、悪意が生まれた。

 

 デジモンたちは悪に対抗するため、正義へと進化する者も現れた。

 

 悪と正義の戦いは闘争心を生み、両者は互いを打ち倒すべく、際限なく進化を続けていく。

 

 破壊と再生が繰り返され、やがて戦わずして生き抜く術を模索する者たちも現れ始めた。

 

 ウィルスに対するワクチン、ワクチンに対するデータ、データに対するウィルス──。

 

 人間の社会が発展する中で、デジタルワールドは何倍もの速度で進化を続け、いつしかそのような三竦みの関係が築かれていた。

 

 だが、その全てを破壊しようとするデジモンが現れ、デジタルワールドは崩壊の危機を迎える。

 

 それを救ったのは、ロイヤルナイツの始祖と語り継がれる一体のデジモンだった。

 

 純白の鎧を身に纏い、白い一対の翼を持つ人形のデジモン。

 

 インペリアルドラモン・パラディンモード。

 

 白き聖騎士によって救われたデジタルワールド。だが、いつまた強大な悪が生まれるとも限らない。

 

 その時のために、インペリアルドラモンはデジタルワールドを統べるイグドラシルの協力の下、自らの志を継ぐ者たち──ロイヤルナイツを組織した。

 

「俺にこれを見せてどうする気だ。マグナモン」

 

 ふと気づくと、俺はベットに横たわっていた。

 

 最後の記憶は、タンクモンの砲弾を殴り飛ばし、瓦礫の中で金色に光る塊に手を伸ばしたところまで。

 

 あの光景は、一体何だったのだろうか。

 

 胸ポケットのデジヴァイスの液晶が金色に輝き、そこにドット絵で一つのデジメンタルが表示されていた──奇跡のデジメンタル。

 

 俺はまた、とんでもない物に手を出してしまったようだ。

 

 

to be continued…




 
タンクモン

成熟期のサイボーグ型デジモン。

戦車型の見かけ通り争い事を好むデジモンであり、傭兵として各地を転々とする個体も居る。

必殺技はその頭部の主砲から強力なミサイル弾頭を放つ『ハイパーキャノン』だ。
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