気がついたらデジタルワールド!? リ・デジタライズ 作:星乃 望夢
月明かりの下。川を相変わらす遡っていくと、漸く森の終わりが見えた。
「やっと森が終わるのね……。今日はそろそろ野宿?」
「いや。まだファイル島が割れていないから先に進みたいけど」
ようやく迷わすの森を抜けられた。このしばらく先を行けば始まりの街に辿り着けるはずだ。
空を飛べるデジモンが仲間に居ないおれたちは、ファイル島が割れてしまう前に目的地に着いていた方が良い。
「アニキとセリカ、急に仲良しになったよねぇ」
「セリカもアルトも、ギルモンのともだち!」
「……ねぇ。『コレ』止めない?」
デジモンたちの話を聞きながら、俺は芹香に申し出る。
「でも、アニメの話を聞かれるわけにはいかないでしょ? デビモンの目もどこにあるかわからないし」
「だからってねぇ……」
普通に会話する分には普通にしてるけど、今の俺たちの距離はかなり近い。
腕組んで歩いてますよ。スッゴく歩き難い。
「現役女子高生と腕組んで歩けるなんて、そうそうないぞー」
「ここがリアルワールドだったら両手を上げて喜ぶけどね」
芹香の腕から離脱して、そのすぐ後ろ。最後尾を歩く。前はアグモンに任せて、中心にギルモンと芹香に居てもらっている。その方がいざという時に守りの展開がし易いからだ。
何時何処から襲われるとも限らないから、出来るだけ腕は自由にしていたかった。
「ん? ちょっとタンマ」
「どうかしたの? 有音君」
おれが立ち止まると、芹香が振り向き、デジモンたちも足を止めた。
「なんか……揺れてない?」
「え?」
「んー?」
「そっかなー?」
立ち止まって揺れを感じるか訊いたところに、揺れが激しくなって、立っていられない程の地震が襲ってきた。
「まさか!?」
「ちっ、リミットか…!」
まるでファイル島全体が揺れている様な地震。さらに川の対岸がどんどん離れていく。
「え? え? え? ウソッ!?!?」
俺の座っていた場所が悪かったのか、地面が地割れの中に落ちていく。座っていた場所が切り離される陸地の繋ぎ目なんてどんな確率だよ…。
「のわあああああ!!!!」
「有音君!! きゃあああっ!!」
「アニキぃーーー!!」
「ぎるる…、ゆれがはげしくてうごけないぃぃ」
俺は裂けた地面の縁に指を掛けて落ちない様に踏ん張る。
「うわぁ……」
下は絶海の海。落ちたら確実に死んでもおかしくない。
「くっ、揺れで、つっかえが…!」
だがまだ危機は続く。
激しい揺れで、縁に掛けた手が滑り落ちそうになっていくのである。
「カードスラッシュ!!」
すると芹香の声が聞こえた。何か手助けのカードを出してくれる様だ。
「ZEROーARMS──グラニ!!」
頭上の方で赤い輝きが放たれ、その中から一筋の白い光が俺のもとにやって来た。
「グラニ!?」
グラニとは、テイマーズに登場する人工デジモンだ。
『デジモンテイマー期』という古き時代に人間によって創られたデジタル生体兵器郡のひとつである。いくつその存在が創られたかわからないが、その内の1体がグラニである。
おれはグラニに飛び移ると、そのままゆっくりとグラニは上に昇っていった。
「ふぇぇっ、サンクス。死ぬかと思った……」
「それはこっちの台詞よ。心臓が止まるかと思った」
グラニによって無事生還した俺は地面に尻餅を着いて盛大に溜め息を吐いた。俺の言葉に芹香も胸を撫で下ろした様に力を抜いた。
「でっかいなぁ……。きみもデジモンなの?」
「グラニ、ギルモンのともだち!」
アグモンとギルモンはグラニとじゃれていた。それを見ながら俺は口を開く。
「にしても、グラニまで出せるとはね」
「咄嗟過ぎて、飛べるものって考えたらあの子しか出てこなくて。ダメだった?」
怒られた子どもの様にシュンっと肩を落として、両手の人差し指をツンツンと合わせる芹香。
「これで少しは移動も楽になる。色んな意味で助かるよ」
取り敢えずは今日はもう少し進んだ森の手前で野宿になった。
余計な手荷物はグラニに乗せてあるので、少しは身が軽くなるのはありがたいことだ。まさか戦闘中に荷物を手放して、そのあと荷物が戦闘でオジャンはイヤだったので、肩から鞄を下げながら戦っていたが、やっぱり少し邪魔だった。
あまり明るい光は目立つ為、小さな焚き火を囲って眠ることになった。ちなみに、アグモンとギルモンはグラニの上で寝そべって寝ている。
芹香は……。
「すぅ…。すぅ…。すぅ…」
……俺に寄り掛かって寝てます。めちゃくちゃ無防備です。
それだけ信用されているのか。いくらなんでも、男の隣でこんな無防備に寝ちゃマズいんじゃないかねぇ。
「ありがとう……」
デビドラモンとの戦いは、芹香が居てくれたから勝てた様なものだ。俺ひとりじゃ危ない橋を渡るしかなかったし。時間も掛かりすぎて迷わずの森でファイル島の分離を迎えていただろう。
芹香の重みを感じながら、俺も今日の疲れから自然に瞼を閉じた。
◇◇◇◇◇
グラニに乗って俺たちは始まりの街を目指した。乗ると言っても空から行くとデビモンに見つかるのが面倒だから、地面の上をホバー移動してだが。それでも歩くより段違いの速さだ。
「ここがはじまりの街か……」
地面は低反発なクッションみたいなところもあれば、トランポリンの様に跳ねられる地面。柄だけの普通の地面もあった。
「お疲れさま。グラニ」
「グラニまたあそぼうねー!」
テイマーズコンビに続いて俺たちもここまで運んでくれたグラニに礼を言うと、プログラムの粒子となって、芹香のDアークの画面に入って行った。
「さて。先ずはエレキモンを探さないとなぁ」
朝早くから動いた所為で、さらにはグラニに運んで貰ったから、タケルとパタモンより早く着いている可能性もある。
子どもの成長の為とは聞こえは良いかもしれないけど、やっぱりあまり無益な争いはしないに越したことはないだろう。
「デジタマがいっぱいある!」
「ギルモンのデジタマもあるかな?」
「探してみる?」
ダメだ。人の話を聞いちゃいない。アグモンとギルモン、芹香はデジタマがたくさんある広場の方に行ってしまった。
「まぁ。そんな直ぐ敵が来るわけじゃないし。大丈夫かな」
ひとりだけ残った俺はこれから辛い戦いが待っているのを知っている口としては、敵が来ないときくらいのんびりしててもバチは当たらないという心境だった。
はじまりの街は、赤ちゃん受けしそうな見た目をしている。巨大クッションが棟みたいに幾つも積まれている。木にはクリスマスツリーみたいに装飾がされている。ベルや鈴が風で揺れで軽やかな音を立てる。
「居ないな……」
早いとこエレキモンを見つけないとあとが面倒なんだけどなぁ。
ピコピコピコピコ♪ ピコピコピコピコ♪
「デジヴァイスが…」
突然デジヴァイスから電子音が鳴り響いた。
「もう近くに来てる…」
デジヴァイスの画面には、近づいてくる光点が表示されていた。
結局エレキモンを見つける前に、タケルとパタモンと出逢うことになりそうだ。
ともかくデジヴァイスが反応しているなら行くしかない。
デジヴァイスを片手に歩き出す。
デジヴァイスが示す光点はむちゃくちゃな動きをしながらあちこちを点在している。たぶん遊び回っているんだろう。
「こっちも跳んで移動するか?」
足元はトランポリンの様な感触で、結構歩き難かった。
トントンっと軽くジャンプしてから、一気に体重を掛けて反発を強くする。
「っと、こっちの方が速いな」
遊び回るあちらとは違って。こちらは目的が一直線だ。
反応が動かなくなった辺りで、地面に横になっている二つの影を見つけた。
パタモンと、人間の子どもだ。
着地した俺は、ふたりのもとに向かって歩く。すると、起き上がったパタモンと目が合った。
「あっ、あーーーっ!!」
「パタモン、いきなり大きな声だしてどうしたの?」
「タケル、うしろ!」
「なに? うしろになにか……──」
パタモンの言葉通りに後ろ。つまりこちらを見たタケルとも目が合った。
「えーっと。こんにちは?」
ぎこちなく挨拶の言葉を絞り出す。うん。なんだろうこの空気。
「に、にんげん!?」
「え、ああ、うん。おれは人間だよ。名前は桜木有音。よろしくね」
「え、あ。はじめまして、高石タケルです」
「パタモンです」
うんうん。確か小学校2年生だったはずのタケルは「はじめまして」がちゃんと言えるしっかりした子だ。お兄さん感激です。
「あの。あなたもぼくたちみたいにファイル島にきたの?」
「有音で良いよ。俺も気付いたらこのファイル島に居たんだ。どうやって来たのかは、俺にもわからない」
「そうなんだ…。有音さんはひとりなの?」
そう言いながらタケルが俺を見る。まぁ、人間が居れば、パートナーも居るんじゃないかと思うのも、タケルたちの事を思えばおかしくはない。
「ううん。俺のパートナーはもう一人の人間の女の子と一緒に居るんだ」
女子高生を女の子と呼んで良いのか、タケルの主観に合わせてお姉さんと言うべきか悩んだが。ここは取り敢えず俺の主観から女の子と言わせてもらった。
「人間の女の子? 空さんかミミさんかな?」
「いや。タケルくんの知らない人だ。俺と同じで、気付いたらこの世界にやって来たんだ」
「ねぇ、タケル。タケルの世界はいくつも別の世界があるの?」
「え、えーっと……」
「違うよパタモン。俺もタケルも、同じ世界から来たけど、場所が違うって事だよ」
ちょっと分かりにくい説明をしちゃった手前として、分かりやすく説明し直す。まぁ、本当は俺とタケルの住む世界はまったく別々のリアルワールドではあるけれども、それを今説明してもややこしいだけだ。
「ふーん。なるほどねー」
「今のでパタモンはわかったの?」
「わ、わかるもん! タケルこそわかってるの?」
「ぼくは大丈夫だもん」
たぶんパタモンはわかっていない。でもタケルは同じではないが同じ世界からやって来ただけに、意味は伝わったみたいだ。しかしこのふたりのやり取りは同い年の兄弟の見栄の張り合いみたいで微笑ましいな。
「さっきデジタマを見るって言ってたから、まだそこに居るかもしれない。一緒に来てくれる?」
「うん!」
俺の言葉に元気良く返事をしてくれるタケルに何故だか心が痛くなる。こう、人間が全く居ない世界だから仕方のない事かもしれないけど。タケルくんがチョロ…もとい素直すぎて、お兄さんはこの子の将来が心配です。
その時が来たらピコデビモンを取り敢えずボコすか。
タケルとパタモンを加えて、俺はデジヴァイスで近くにある反応を辿った。もちろん近さ的に芹香のDアークの反応だが。
「おいおい……」
芹香が着いてるから大丈夫かなぁって思っていたのに。
「あ、あはははは。デ、デジモンの赤ちゃんって、かわいいよねぇ」
「俺はそんな言葉で騙される程バカじゃないぞ……?」
「ぅぅ、ゴメンナサイ……」
アグモンとギルモンがてんてこまいでデジモンの赤ちゃんたちの世話を焼いている。一応人手はあるからなんとかなってるみたいだけど。
「こんだけの大量なデジタマいっぺんに孵してどうするんだよ……」
果てしない頭痛が襲う頭を押さえながら天を仰ぎ見る。
アグモンがボタモンのデジタマを見つけて喜んで、上に上げた時にギルモンがあのなでなでの手紙を読んで、気づいたらアグモンとギルモンがデジタマを片っ端から孵してしまったらしい。
これはアグモンの面倒見てなかった俺にも、責任の一端があるな。
「取り敢えずエレキモンが戻るまで赤ちゃんたちの面倒を見るしかないな」
「ホントにゴメンナサイ」
「もう良いって」
とにかく食事の用意を考えよう。まだ生まれたての赤ちゃんだから、おかゆとかの方が良いのかな? でもそもそもおかゆ作る米は手持ちにないし。
「あ、有音君、アレ」
「噂をすればってやつだな」
街の東口の方から走ってくるデジモンは間違いなく、真っ赤な身体に炎の様な青い模様が特徴的なレキモンだった。
「《スパークリングサンダー》!!」
「攻撃してきた!?」
「なんでだよ!? 赤ちゃんだって全くとは言わずもあまり泣かせてないのに!」
「それよりも危ないってば! ──カードスラッシュ!!」
芹香が叫びながらDアークを手に、デジタルモンスターカードをスラッシュした。
「ブレイブシールド!!」
「うわぁ……」
Dアークのディスプレイから光が放たれると、タケルたちの頭上に勇気の紋章が描かれた盾がリアライズし、エレキモンの攻撃を完全に遮断した。
成長期の攻撃を相手に究極体の装備って大人げないと思うの。
「だってコレしか浮かばなかったんだもの…」
いや責めてないからしょげんでも。
「やいやいやいやい! テメェら、ウチのベビーたちに何の用だ!」
完全に威嚇されながらメンチを切るエレキモン。
やっぱり無理してでも最初にエレキモンを見つけるんだった。
「なんの用って、お世話してただけだよね?」
「うんうん」
「ギルモンのデジタマなかったけど、みんなともだち!」
「赤ちゃんのお世話って大変なんだねぇ」
タケルとパタモン、ギルモンとアグモンがそれぞれ返答と感想を言う。
「……誰もテメェらに世話を頼んだ覚えはないぜ」
「待ってエレキモン。私たちは戦いに来たわけじゃないの!」
「ケッ、そんな言葉信じられるかよ! 《スパークリングサンダー》!!」
エレキモンを説得しようとした芹香に、電撃の束が放たれた。
「セリカあぶないっ!!」
ギルモンが叫び、こちらに向かって走ってくるが間に合うわけがない。
電気という最速の攻撃と、先程よりも近くで撃たれた為、カードをスラッシュする暇もない。
「ぐっ、あああああうぅぅっ!!」
「アニキぃーー!!」
「有音君!!」
芹香の前に出て、電撃を身体で受け止める。
今まで感じたことのない激痛が身体を駆け抜け、片膝を着く。身体が痺れて、当分は動けそうにもない。
「無抵抗の相手を攻撃するなんて、ひどいじゃないか!」
「ふん! よそ者はスッコんでな!!」
パタモンがエレキモンの事を批難するが、エレキモンは聞く耳を持ってくれない。完全に敵だと思われてる。
「やめて! ぼくたちはただ」
「ガキもスッコんでな! スパークリング──」
「《ベビーフレイム》!!」
「しまっ、どわっ!!」
タケルにも電撃を放とうとするエレキモンに、アグモンのベビーフレイムが炸裂した。
「ッテメェ、ヤンのか!?」
「ふざけるのもいい加減にしろよ……。オイラたち、ただ赤ちゃんたちの世話してただけだって、言っただろ」
初めて聞いたアグモンの底冷えしそうな低い声に、俺は薄ら寒い物を背筋に感じた。
「なのに無抵抗のセリカに攻撃して、アニキを傷つけて、おまけに今度はタケルにまで攻撃しようとして……」
膨れ上がる怒りと共に、アグモンの身体が徐々に光っていく。
「オイラは、お前を赦さないっ!!」
「止めろアグモン!!」
口を開けて再び攻撃を放とうとしたアグモンに向かって叫ぶ。
「こんな所でそんな攻撃したら、赤ちゃんたちも巻き添えになるだろうが……」
「っ、だって、アニキ…!」
「おれたちはエレキモンと戦う為に来たわけじゃないんだ。戻れアグモン」
「っっっ……。くぅぅぅぅっっ」
怒りを抑えきれていないが、俺の言うことに渋々と言った様に矛先を納めてくれたアグモンは俺の方に駆け寄ってきた。
「アニキぃ……」
「そんな情けない声だすなよ。おれなら大丈夫だから」
「だって、だって、オイラは、オイラはっ、うわあああああああんっっ!!」
大声を上げて泣き出してしまったアグモンを抱き締めて、あやすように頭を撫でる。
やられっぱなしなのは悔しくて仕方がないけどさ。怒りに任せて周りを見なかったら、もっと酷いことに繋がることもあるんだ。
だから時と場合によったら、どんなに悔しくても、我慢するんだ。
「あー、……その、よぉ…」
「キッ、アニキに近寄んなッ!!」
「ぐるるるる……!」
言い出し難そうに言葉を紡いだエレキモンに、哀から一気に怒の感情がぶり返すアグモンと、セリカを攻撃された為にギルモンが警戒心MAXでエレキモンを威嚇している。
「ふたりとも落ち着け。もうエレキモンに敵意はない」
「でもコイツはアニキを」!
「今回はどっちも悪い! エレキモンに許可なく此処に居た俺たちも、話を全く聞かないで攻撃してきたエレキモンも悪い!」
「うっ、耳が痛いぜ…」
「その耳、噛み千切ってやろうか……っ」
「アグモン!」
「ぅぅ、わかったよぉ……もう言わない…」
あまり上から押さえつける様なことはしたくないけど、実害を受けたのは俺だけだし、その俺が喧嘩両成敗を提案しているんだから、これ以上周りが蒸し返しても仕方がない。てか不毛だし時間の無駄すぎる。
「以上オシマイ!! 閉廷!」
そう言っておれはエレキモンに向き直る。
「そういうことだエレキモン。俺たちは偶々この街に来て、このアグモンとギルモンが勝手にデジタマを孵してしまって、その赤ちゃんの世話をしていただけなんだ」
「いや、ベビーたちが増えるのは別に良いんが……。こっちこそすまねぇ。昨日デビドラモンに襲われたばっかりでよ。それで気が立ってて、おまけにここ最近変なことは多いし、島は割れちゃうしで、疑い深くなってんだ」
「仕方がないさ。子どもを守らなきゃならない立場からすれば、不安になったり疑い深くなって当たり前だ。でももうちょい相手の言葉も聞いてくれると助かったんだけどな」
「本当にすまねぇ。罪滅ぼしにならないかもしんないが。気の済むまでこの街に居てくれて構わないぜ」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
なんか原作ぶち壊しの流れになってしまったが。取り敢えず大事に至らずに終われてよかった。
「芹香。少し寝るから、あと任せる」
「うん、わかった。おやすみなさい、有音君」
事が終った安心感からか、それとも想像以上に疲れたか、初めて感じる電気的な痺れと痛みに身体が参ったか。
目を瞑って気を抜いた俺はすぐに意識を追いやった。
◇◇◇◇◇
片膝を着いたまま寝てしまった有音君の身体を横に寝かせて、膝枕をしながら、額に光る汗をハンカチで拭いてあげる。
「寝ちゃったの?」
有音君の汗を拭う私に声をかけてくれたのはタケルくんだった。
「うん。だから静かに寝かせてあげてね」
「うん。あ、そういえばちゃんとした自己紹介してなかった。ぼく、高石タケルです」
「偉いねータケルくん。まだ小さいのに自己紹介出来るんだ。私は枢木芹香。高校3年生よ。パートナーはこの子、名前はギルモン」
私はタケルくんに自己紹介と、私の隣に座って足をフラフラさせているギルモンを紹介する。
「ギルモン、タケルとともだちになれる?」
「うん。よろしくね、ギルモン」
「わーい、わーい、タケルはギルモンのともだち!」
「わっ。ダメだよギルモン。有音さん寝てるんだから」
「んぎるむぅ……アルトごめん」
タケルくんに言われて口を慌てて塞ぐギルモンは、起こしてしまったかどうか心配しながら、有音君に謝った。でも有音君は変わらず眠ったままだった。
「私と有音君は木陰に居るから。タケルくん、ギルモンと遊んであげてくれる?」
「うん。わかった。行こうギルモン」
「んぎゅ。いってきまーす」
タケルくんに手を引かれながら、手を降るギルモンを見送って、有音君の腕を首の後ろに回して立ち上がった。
「い、意外と……結構…、重い……」
やっぱり男の子なのか。細く見えて結構身体はガッシリとしているのか。思ったよりも有音君は重かった。
「ホントに、なんで私なんかの為に軽々しく身を投げちゃうかなぁ……」
今の時代。あんな風に他人が危険でも、身を挺して何か出来る人は多くはないと思う。
みんな自分の命が大切なんだもの。私だって立場が反対だったら、有音君みたいに身を盾に出来るかなんて言われたら、多分無理だと答える。
だって死んじゃうかもしれないのに、デジモンの攻撃を代わりに受けるなんて恐くてできないと思う。
「ナイト……かぁ…」
騎士とかなる気はないって言ってたのに、やってることは騎士みたいなのはズルすぎるよ。
弱きを助け、強きを挫く。
私が弱いから、有音君は無理してるんだよね。
デビドラモンの時も、さっきのエレキモンの時も。
「私も、有音君みたいに戦えれば良いのに」
自分の右手を見つめる。
どんなに願っても、カードは出てくるのに、有音君みたいにデジソウルは出てこない。
どんなに力を込めても、なにも出てこない。
それが、私の限界なのだと、誰かに言われた気がした。
◇◇◇◇◇
「なるほど。最も厄介な障害となりそうな者は手負い。選ばれし子どもの内、一人でも欠ければ我が勝利。始末するならば今のうちか」
ムゲンマウンテンの頂上。デビモンは有音たちの行動を監視していた。
膝枕をしている芹香と、眠っている有音。ギルモンと遊んでいるタケル。エレキモンとケンカしているパタモン。
その内、芹香とタケルが拡大して映し出される。
「レオモン」
「ハッ」
「お前に任せる」
「かしこまりました」
デビモンに傅き、姿を消すレオモン。
「あ、あの。オレ…あ、いえ、わたくしはなにをすれば……」
恐る恐るデビモンに声を掛けるオーガモン。たて続く失敗に、オーガモンの命は薄皮一枚で繋がっているのだ。
「差し当たって今はなにもない。だが直に決戦だ。準備は怠るな」
「わかりました。今度こそ奴等の息の根を──」
オーガモンの言葉に耳を向けず、デビモンは嗤う。
7人の選ばれし子どもたちに、新たに増えた二人の人間とそのパートナーデジモン。
だが何人増えようとも、己の勝利を信じて疑わぬ笑みだ。
時は近づいていた。
光と闇の戦い。デジタルワールドで幾度とも繰り返されてきた戦いの一つが、小さな島で決着しようとしていた。
to be continued…
エレキモン
ツノモンから進化する成長期デジモンで、好奇心旺盛でいたずら好きなデジモンとされているが、ファイル島でははじまりの街で産まれてくるデジモンの世話をする面倒見の良いデジモンである。
その代わりにやんちゃ坊主な印象を受ける。必殺技は強力な電撃攻撃の『スパークリングサンダー』だ。
さらに身体が戦闘時は常に帯電しているため、近接戦闘は避けた方が良いだろう。