遺言 作:歪み神
「殺気の無い奴!」
アムロ・レイの強烈な思念が届いた。
奴のリガズィを見失って数瞬、いつの間にか後ろをとられていたようだ。
「全く、相変わらずお優しいことで・・・」
ランドセルのみ破壊された事に気がついた私は、姿勢制御バーニアで帰還を試みるが、
「出力が上がらない?」
ダメージの受け方が悪かったのか、私のAMS-119 ギラ・ドーガは、資源採掘用の小惑星5thルナの僅かな質量重力から逃れる術を持たなかった。
フロントパネルで、装甲が地球の重力での摩擦で溶解する時間を計算させる。
「後15分か、味方に救援要請をするのは危険だな。14年の私の闘争はここまでのようだ」
私はパイロットシートに深く沈みため息を深くつく。長かったか?そう長かった、命を簡単に諦めてしまえる位には。
先ほどアムロ・レイが私を『殺気の無い奴』と呼んでいた事を思い出す。まあ心当たりも有る。
グレミー・トトのクーデターの後、私は戦う気力も無くし、まるで機械の様に引き金を引いていた。これが彼の様な感の鋭い人間にはやっかいだったようで、おかげで彼に『殺気の無い奴』等という有りがたい二つ名をいただいたわけだ。
私の名はレイ・シュミット。奇しくも連邦のエース アムロ・レイのファミリーネームと同じくする名だ。
ルウム戦役の一年前に徴兵され、既に一年戦争でそこそこの戦果を上げ大尉となり、士官学校生卒でなければ少佐になれないので、10年以上階級はそのままだ。
死にゆくまでの時間を、どうやって取り繕うか考える。やはり思い出に浸るべきか・・・
目をつむり過去を振り返ると、やはりU.C.88年のグレミーのクーデターに行き着く。怒りの感情が呼び覚まされていく。
あれはハマーン・カーンが連邦政府に対し、サイド3をネオ・ジオンへ譲渡を認めさせ、長い戦いが報われたと喜びの絶頂のさなかの出来事だった。
クーデターの陸戦隊は的確にモビルスーツのパイロットを射殺していき、アクシズ防衛隊のMSの三割も、反乱軍に対して出撃することが出来なかった。
私はパイロットをやる前の仕事で、白兵戦に覚えがあり、乗機AMX-008 ガ・ゾウムに辿り着くことが出来た。だが混乱の中、一年戦争からの付き合の3人の部下と、小隊編成を組んで出撃することは叶わなかった。
私は感情のままに戦い、ドーベンウルフ1機、量産型キュベレイ1機を大破させ、自らの機体も自立飛行不応となり宇宙を彷徨った。戦力比で換算すれば大戦果だが、怒りの感情のままに操縦したため、どうやって撃墜したのか記憶も定かでない。
マイク・スコット、フランク・バイオーラ、そして恋人でもあったトレーシー・オースチンの3人の部下は後に死亡のみ確認された。
後にグレミーはエウーゴとの戦闘で戦死し、私は怒りをぶつける先も失い、気力も失い、まるで機械の様に戦争をしてきたのだ。
「ピピピ」
状況に似つかわしくない音で、ギラドーガの加速度計の危険信号が鳴り、私は意識を戻す。
私はお気に入りの音楽再生機とイヤホンをつなぎ、1曲だけ再生した後、銃で自らの頭を撃ち抜きその下らない人生を終わらせた。
そう、そのはずだった。
「ご気分は如何でしょうか?大尉」
ア・バオア・クーからアクシズに撤退して一週間後に受けた、ニュータイプ適正試験の脳波試験装置の中で目を覚ました。担当官の微妙な表情も良く覚えている。一年戦争で戦果を上げた私の成績が振るわなかったのを残念に思っているのだ。
『いつか人間は時間をも超越出来る』そうエルメスのパイロット、ララー・スンは言ったらしいが、こういうことか?
「大尉のニュータイプ適性はDマイナスです。強化人間の施術を受けられますか?」
ああ、この頃は強制では無く自主制だったか・・・
「ああ、よろしく頼む」
私は頬をつり上げ少し凶暴に笑いながら答えた。
担当官は驚いた顔をする。
それはそうだ。誰がこんなうさんくさい手術を受ける物か、記憶の私も受けなかった。だが、MSが第二世代と呼ばれる型式となると、私の狙撃はエネルギー反応の検出とともに行われる回避運動に阻まれ、距離を詰めると、照準の操作技量が足りず大した戦果を残せなかった。そうこれは必要な処理だ。何となく私の感がそう告げるのだ。
「よろしく頼む」
もう一度答えて私は大きく息を吸い込み、深く目を閉じた。