遺言 作:歪み神
**【 UC0079 】**
ア・バオア・クー防衛戦で、私の小隊はWフィールドを受け持っていた。
キシリア閣下傘下の部隊は新型モビルスーツの配備が早く、私はMS-14JG ゲルググJ(イエーガー)、部下はMS-14 ゲルググを使用していた。
連邦軍は要塞砲や艦隊砲に阻まれ、捨て身のMS隊が艦隊の支援も満足に受けられないまま突撃してきていた。
絶好の狙撃ポイントを押さえていた私は、守備領域の防衛を淡々とこなす。補給の心配がない防衛側ということもあり、すでに銃身を3本も焼き付かせていたが、領域の維持に苦戦は感じていなかった。時には中隊規模の突撃を受けることもあったが、部下のゲルググが巧みにいなしてくれた。
敵の制圧力が限界を迎え、勝利を確信し始めた頃──突然、ア・バオア・クーの防衛火力が急低下した。その後、約半時間にわたって戦線を維持した私は、Wフィールド全域の部隊に撤退を命令する。
『第一特別遊撃隊、レイ・シュミット大尉だ。残念だが中央管制室が機能していない。我々はサイド3へ撤退する。同調するものはクラクサを先頭に隊列を作れ。MSは船に追いつけるギリギリまで後方援護。各艦はMSの収容を諦め、牽引ワイヤーを展開しろ。MSは所属に関係なく勝手にしがみつけ!』
そこから、過酷な撤退戦が始まった。
牽引ワイヤーにしがみついた私は、SフィールドとNフィールドが崩壊していくア・バオア・クーの姿を、ただ見つめていた。
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**【 UC0083 】**
「アクシズまでは大変だったな……」
目を覚ました私は、デラーズ大隊が独断撤退さえしなければ死なわずに済んだ、何人かの戦友の顔を思い出していた。
まだ満足に操船員も揃っていない『クラクサ』の艦橋。デラーズ・フリートの本拠地『茨の園』へと続く暗闇は、記憶を掘り起こして憤っていた私の感情を、静かに霧散させていった。
◇
デラーズ艦隊へ合流した私は、エギーユ・デラーズの座艦『グワデン』の私室に招かれていた。
「正気か? 俺の前の仕事を知っているだろう。こんな密室で2人きりになるほど俺を信用などしていないだろう?」
「私に惜しむ命などあるものかね。……それで、用件は何か?」
「茨の園に私の仲間が同志を集めに行く。便宜を図ってもらいたい。決戦の地にも私が向かう。ガイドシグナルコードはα0001だ」
「シーマにはガルバルディの手土産があったと聞くが?」
「俺はキシリア機関の人間だ。それにア・バオア・クーで理不尽な撤退戦を強いられた一人でもある。あんたの印象は最悪だ。……兵の99%は、目の前に敵がいるから勝つために戦う。そこに尊厳だの名誉だのを持ち込むのは、あんたちのような偉い奴らだけだ」
デラーズは大きく息を吸い、静かに吐き出しながら目を閉じた。そして、自分の遺言にでもするかのように、重々しく語り始めた。
「……レビルを逃がしたのは、デギン公王だ。レビルはスペースノイドに同情的な将軍だった。どうしても南極条約をまとめたい公王は、彼に調停を懇願したのだ。……だが、放置しても我々に圧倒的有利な条件で締結されるはずだった協定は、最悪の事態を迎えた。とんでもない裏切り行為だ。さすがに申し訳なく感じたのだろう、公王は議決権、警察権、そしてサイド3守備隊の指揮権をギレン総帥に譲った。」
「総帥はその後の作戦を立案された。
ルナツーへ総力戦を仕掛け、地球へ落下させて息の根を止める計画。継続的なコロニー落とし。月のマスドライバーによる高質量物体の無差別落下。
……様々な作戦を提案したが、どれも承認されなかった。公王は突然臆したのだ。急に無差別な大量殺戮を良しとしなくなった。だが、今にして思えばその頃だろうな。キシリア様の機関の存在を知ったのは。
総帥は焦られた。配下にデギン公王の暗殺を命じた。しかし公王の周囲はキシリア様の治安警察が固め、命を受けた総帥の配下はシュタージに苛烈なまでに狙われた。
シュタージ……恐ろしい組織だ。何度退けようと、目的が達成されるまで何度でも命を狙い続ける若者たち……。総帥は暗殺を諦めた。
総帥の意識は戦勝ではなく、本国防衛へと向いた。マハルを緊急疎開させ、コロニーレーザーの建設を急いだ。地上攻略作戦など、コロニーレーザー完成までの時間稼ぎに過ぎなかったのだ。計画ではサイド5も牽引し、複数機のコロニーレーザーを建造されるおつもりだった。
だが、思いのほか早くジオン地上軍は撤退に追い込まれた……」
デラーズは一度言葉を切り、自嘲気味に息をつく。
「……私は何を話したいのか。私情で軍を撤退させた懺悔ではないと思いたい……。私は戦争以前からザビ家に仕える軍官だった。ダイクンが亡くなるまでは、仲の良いご家族だったのだ。スペースノイドの未来などどうでもいいと考えられれば、兄弟幸せに暮らせただろうに……」
「俺の上司と同じような職歴だな」
「名を聞いても?」
「カールトン・フィスク。名は変えていると言っていた」
「カールトン・フィスクか……。奴にお前が仕えているとは……因果だな」
「分かるのか? 最後なら聞いておこう。総帥はなぜデギンに協力した? 破滅願望があるようには見えない。キシリア閣下も理解されていなかった」
「先ほども言っただろう。……仲の良い家族だったのだよ」
彼は深く椅子に身体を預け、それ以上何も話さなくなった。
私がきびすを返し、部屋を後にしようとしたその時──
「レイ・シュミット! 私はスペースノイドの未来を潰してしまったと思うかね?」
本音か、懺悔か。呟くような問いかけだった。返答など聞こえなくても構わないといった風だった。
「安心しろ。5年後、ハマーンがサイド3の独立自治を手に入れる」
「あんな小娘がか……」
「あんたの元同僚も同じことを言っていたよ」
シーマよりは多少なりとも便宜を図ってもらえそうだと手応えを感じつつ、私は部屋を後にした。