遺言 作:歪み神
ア・バオア・クーの防衛戦で私の小隊はWフィールドを受け持っていた。
キシリア旗下の部隊は新型のモビルス―ツへの展開が早く、私はMS-14JGゲルググJ(イエーガー)、部下はMS-14ゲルググを使用していた。
連邦軍は要塞砲、艦隊砲に戦艦の進軍を阻まれ、捨て身のMS隊が艦隊支援をろくに受られない状態で突撃していた。
絶好の狙撃ポイントを手に入れていた私は、守備領域の確保を淡々とこなす。補給の心配のいらない守備側ということも有り、銃身がすでに3丁も焼き付いていたが、領域の確保に困難は感じていなかった。中隊規模の突貫が私の狙撃ポイントに行われたこともあったが、部下のMSがうまくいなしてもくれた。
敵の制圧力が限界を迎え、私が勝利を確信するころ、突然ア・バオア・クーの防衛力が低下した。その後半時を防衛したころ、私はWフィールド全体の部隊に撤退を命令する。
「第一特別遊撃隊レイ・シュミット大尉だ、残念だが中央管制室が機能していない。我々はサイド3に撤退する。同調するものはクラクサを先頭に隊列を作れ、MSは船に追いつけるぎりぎりまで援護しろ。各艦はMSの収容をあきらめ、けん引ワイヤーを展開、MSは部隊関係なく勝手にしがみつけ」
ここから厳しい撤退戦が始まった。
牽引ワイヤーにつかまった私は、Sフィールド、Nフィールドが爆散するア・バオア・クーを眺めていた。
「アクシズまでは大変だったな・・」
目を覚ました私は、テラーズ大隊の撤退が無ければ死なずに済んだ幾人かの仲の良かった戦友を思い出していた。
まだ碌に操船員の揃わないクラクサの艦橋で、デラーズ フリートの本拠地 、茨 の 園へ向かう航路の暗闇は、記憶を思い出し憤った私の怒りを霧散させていった。
デラーズ艦隊に合流した私は、エギーユ・デラーズの座艦グワデンの私室に招かれていた。
「正気か?俺の前の仕事を知っているだろう?こんな密室に2人で危険だろう?」
「私に惜しむ命などあるものかね。で、用は何かね?」
「茨の園に私の仲間が同志を集めに行く。便宜を図ってもらいたい。決戦の地にも私が向かう、ガイドシグナルコードはα0001だ」
「シーマにはガルバルの土産があったらしいではないか?」
「俺はキシリア機関の人間だ。それにア・バオア・クーで理不尽な撤退戦をした一人だ。あんたの心象は最悪だよ。兵の99%はそこに敵がいて、ただ勝つために戦っている。そこに尊厳だの名誉だの持ち込んでいるのは、あんたたち偉い人達だけだよ。」
奴は大きく息を吸って細く吐出しながら目をつむり。私の遺言になる。聞いていけと長い話を始めた。
レビルを逃がしたのは、デギン公王だ。レビルはスペースノイドに同情的な将軍だった。どうしても南極条約をまとめたいデギン公王は彼に調停を懇願したのだ。そして、何もしなくても我々に有利な状況で締結されるはずの協定は最悪の事態を迎える。とんでもない裏切り行為だよ。さすがに申し訳ないと感じたのだろう、公王は議決権、警察権、サイド3守備隊の指令権をギレン総帥に譲った。
ギレン総帥はその後の作戦を立案した、
・ルナ2に総力戦をかけルナ2を地球に落とし息の根を止める
・継続してコロニー落としを行う
・月のマスドライバーで無差別に高質量の物体を落下させる
他様々な作戦を提案したが、承認されなかった。突然臆したのだ公王は。急に無差別な大量殺人を良しとしなくなった。だが今にして思えばこのころ知ったのだろうな、キシリア様の機関の存在を。
総帥は慌てた。配下にデギン公王の暗殺を命じた。だがデギン公王の周りはキシリア様の治安警察が固め、暗殺を命令された総帥の配下はシュタージに苛烈に命を狙われた。
シュタージ・・・恐ろしい組織だ、何度退けても目的が達成されるまでいつまでもいつまでも命を狙い続ける若者たち・・・。総帥は暗殺を諦めた。
総帥の意志は戦争の勝利ではなく本国防衛に向いた。マハルを緊急疎開させ、コロニーレーザーの制作を急いだ。地上攻略作戦などコロニーレーザー制作の時間稼ぎにすぎなかった。計画ではサイド5も牽引し、数機のコロニーレーザーを作るおつもりだった。
だが思いの他早く、ジオン地上軍は撤退に追い込まれた。・・・・
「ああ 私は何を話したいのか・・・私情で軍を撤退させた懺悔ではないと思いたい・・・・・・私は戦争以前からザビ家に仕える軍官だった。ダイクンが死ぬまでは仲のいいご家族だった。スペースノイドの未来などどうとでも思わなければ、兄弟幸せに暮らせていただろうに・・・」
「俺の上司と同じような職歴だな」
「名前を聞いても?」
「カールトン・フィスク、名は変えていると言っていた」
「カールトン・フィスク・・奴にお前が仕えているのか・・・『因果だな』」
「分かるのか?最後なら聞いておこう、総帥は何故デギンに協力した?破滅願望が好きに見えないが?。キシリア閣下も理解されていなかった。」
「先ほども言っただろう?仲のいい家族だったのだよ」
彼は深く椅子に体を預け何も話さなくなった。私が踵を返し部屋を後にしようとすると。
「レイ・シュミット!私はスペースノイドの未来を潰してしまったと思うかね?」
本音か?懺悔か?呟くように訪ねてきた。まるで聞こえなくても良かったみたいだ。
「安心しろ、5年後ハマーンがサイド3の独立自治を手に入れる」
「あんな小娘がか・・・」
「あんたの元同僚も同じことを言っていたよ。」
私はシーマよりは便宜を図ってもらえそうだと手ごたえを感じ、部屋を後にした。