遺言 作:歪み神
**【 UC0073 】**
いつも強力なSPを引き連れているターゲットを狙う際、移動中の船ごと標的にすることがあった。
直径30メートルほどの小惑星(岩塊)をくり抜き、そこに生活コンテナを放り込んで、ビーコンとレーダーの反応を待ちながら襲撃のチャンスを窺う。この潜伏生活が数十日も続くと、宇宙の深い闇に呑まれて発狂し始める仲間も出た。
だが、私は岩に穴を掘る土木作業が好きだった。潜伏中の待ち時間は宝物の音楽再生機がある。広い宇宙の狭い密室での生活を、私はそれほど苦だとは思っていなかった。
我々の戦闘機は「ジッコ」と呼ばれる作業艇を強引に改修したものだったが、連邦に気兼ねして装甲も薄く武装も陳腐なスペースクルーザーを沈めるには、それで十分だった。
**【 UC0083 】**
……そろそろか。
目を開けた私は、用意したテンプテーション級連絡船の客席を見渡しながら思った。
(任務の巻き添えで、何人殺してきたんだろうな……)
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地球の衛星軌道まであと1時間という宙域で、私はレンタルしたテンプテーション級連絡船を停止させ、戦闘の行方を見守っていた。
二度目のソーラ・レイ(ソーラ・システムII)照射後、再び苛烈な戦闘が始まっていたが、生存者の救助活動を行うならこのタイミングしかない。脱出の望みが絶たれた状況は、パイロットの自決を促してしまうからだ。なにせバスクは捕虜の扱いに過激だ。そしてバスクを支持している連邦兵たちも、なんだかんだとスペースノイドへの私怨を抱えており、抑えが効かない。
私はテンプテーションを先ほどまでの激戦区へ慣性航行で滑り込ませ、ガイドシグナル『α0001』を発信した。
後部の貨物デッキからプチモビルスーツに乗り込み、暗黒の宙域へ意識を集中させる。深い闇と、太陽の影となって黒い穴のように鎮座する地球が存在感を主張していた。
目を細め、意識を宇宙へ溶かしていくと、揺らめく小さな炎のようなものが見えてくる。私はそれを「魂の揺らめき」だと思っているが、正解を教えてくれる者などいない。一度ハマーンとニュータイプ論について話してみるのもいいかもしれないな……。少ない統計だが、この揺らめきが強い者ほど大事を成し遂げたり、強烈な素質を秘めていることが多い気がする。
今の私にとって命は平等ではない。この揺らめきが強い者を優先して救出する。
まず一人目。ノーマルスーツ姿で宇宙漂流し、気を失っている女性を見つけた。シーマだ。やはり何かを成す者の魂なのだろう。普通なら広大な宇宙で見つけ出すなど奇跡だが、私には容易だった。
続いてもう一人、ドムのパイロットを牽引し、ガイドシグナルで方向を確認しながら船へ戻る。この知覚状態になると、生身の人間より船のような巨大な無機物の方が捉えにくくなるのだから不思議なものだ。
だが厄介なことに、船のすぐ近くにジム改が1機、佇んでいた。
「チッ……勘のいい奴がいたか」
ガイドシグナルを出さず、動力を切って漂流させている船を、高濃度ミノフスキー粒子下で見つけるのは困難なはずなのだが……。
私が舌打ちしながら観察すると、ジム改のコックピットハッチが開いていた。まるで「奪ってくれ」と言わんばかりだ。混戦状態だが、牽引してきたドムのパイロットは意識を取り戻している。戦闘になっても2対1ならどうにでもなると判断し、船内へ入った。
エアロックの中では、最初から両手を挙げた連邦の幼い兵士が待っていた。
「父の派閥争いに巻き込まれて、命を狙われているんです! 僕も連れて行ってくれませんか!?」
若い……まだ15歳にも達していないように見える。面倒だな、いっそ殺してしまおうかと考えかけたその時──
「お前が狙われていると言うなら、まずあのジムを別の領域へ流してこい」
ドムのパイロットが先に話を進めてしまった。私はこれだけは譲れない条件を突きつける。
「誓え。お前の父親がジャミトフ、バスク、ジャマイカンではないとな」
始末してしまいたいのは山々だが、ドムのパイロットの顔を立てることにした。
「はい! 父の敵対勢力です!」
少年は嬉しそうに頷くと、自機へ戻っていった。あの歳で最新鋭機を与えられるとは、どれほど厄介な父親なのか……私は密かにため息をつく。
◇
最初にガイドシグナルを頼って合流してきたザクのパイロットが非常に優秀で、私が6人救出する間に20人もの生存者を回収していた。パイロットを優先して救出したいと伝えるべきか迷ったが、この船には120もの座席がある。好きにやらせることにした。
最終的に、私たちは36人の救助に成功した。
作業が4時間を超え、宙域に完全な静寂が戻ったことを確認すると、私は乗員たちに向き直った。
「……すまないが、手術の後遺症で長時間の作業ができないんだ。誰かこの船の操縦を代わってくれないか?」
この土壇場で、まったく格好のつかないお願いを、怪我の少なさそうな者たちを見渡して頼んだ。
「あんた、もし一人も見つからなかったらどうするつもりだったんだ!?」
ドムのパイロットが大笑いしながら操縦席へと歩いていく。
声のデカい奴だなと思いながら、私はその後ろをついて行った。