遺言   作:歪み神

12 / 34
#12. 星の屑たち2

 

**【 UC0083 】**

 

「オーレル・ハーシュハイザー少尉。ドラッツェが無理となると、ザクII F2型しかありません。正直状態が良くなくて、あまりお勧めできませんが……」

 

「……あの機体は、私の戦い方に合わないんだ。すまない」

 

 ルウム戦役で戦果を挙げた私は、ギレン総帥の親衛隊に抜擢された。しかしア・バオア・クーの防衛戦でさえ首都防衛隊に留め置かれ、デラーズ・フリートにおけるこの戦いが、ルウム以来の本格的な戦闘となった。

 だが、私の戦いは一瞬で終わった。意識の外からの狙撃で足首から先を吹き飛ばされたF2は、整備不良により油圧チェックバルブが機能しなかった。全アクチュエーターの制御を失い、機体は完全に沈黙したのだ。

 

「確か……α0001だったか」

 

 出撃式でデラーズ閣下がおっしゃっていた、救難船のガイドシグナルを探す。あるはずがない、まだ戦闘は継続中なのだから。……いや、船がいる? こんな近くに!?

 

 私はガイドシグナルに従って姿勢制御バーニアを吹き、その船を発見した。船体には下手くそな赤十字がスプレーで殴り書きされていた。

 人だけを回収するつもりなのだろう、ただの民間客船だった。

 F2を棄て、エアロックから乗船すると──

 

「早いな。背面の貨物区画に作業用プチMSがある。あんたも手伝ってくれ。……お、いきなり大物だな」

 

船内にいた男が、気安く声をかけてきた。

 

「大物……?」

 

私は首を傾げた。まだこの船には彼と私しかいないはずだ。誰かと勘違いしているのだろうか。

 

 よく見れば私は彼を知っていた。

 彼を初めて見たのは、かつて(UC0079年)サイド3の防衛施設でのことだ。

彼はア・バオア・クーの撤退艦隊を率いてサイド3へやってきた。そして首都防衛隊の隊長に対し、艦隊への物資補給を直接要求したのだ。

 

『終戦協定により、連邦軍に敵対する勢力へ補給を行う行為は禁止されている』

 

隊長は優等生的な回答を返した。すると男は、短く言い放った。

 

『ならば、略奪させてもらう』

 

その目は完全な本気だった。ここで回答を一つ間違えれば、即座に殺し合いが始まると確信した。

 

『……略奪されたことにする。連邦艦隊が到着する前に、早急に、荒っぽく済ませろ』

 

隊長の機転で事なきを得て、ここでの流血は回避された。後で私が隊長に彼の名を聞くと、

 

『レイ・シュミットだ』

 

 とだけ短く答えた。有名だった。ジオンの軍人ならば誰もが知る名だ。私はその時初めて、名前と顔が一致した。彼は燃料や食料のほか、手持ちのザクやドム系MSをすべてその場に乗り捨てていき、ゲルググタイプの機体だけを言葉通り『略奪』していったのだった。

 

---

 

 サイド3で見た野性の猛虎のような眼光は、不気味なゴーグルで覆われていたが、間違いない。纏っている空気そのものが彼だった。

 

 私は彼の指示に従い、救助活動を開始した。

 彼の救助手順は異常だった。何も見えない暗黒の宙域へ迷わず飛び込んでいき、正確に人を拾ってくるのだ。私は戦艦の残骸から生存者がいそうなブロックを推測して動いていたが、彼は何もない虚無の空間へと迷いなく突き進んでいく。

 

 デラーズ艦隊とシーマ艦隊はこの宙域で敵対していたはずだが、彼は「何の問題が?」と言わんばかりの無関心な顔で、所属を問わず生存者を救出していった。そこに連邦軍士官が混ざっていた時だけは、さすがに少し困った顔をしていたが……。

 ガイドシグナルに導かれ、さらに4機のMSが流れてきた。搭乗していたのはいずれも歴戦の猛者らしい面構えの男たちだった。私は恥ずかしさで身が縮む思いだった。自分はこの戦いで、マシンガンの一発すら撃っていないのだから。

 

 船内に収容された女が目を覚ました。シーマ・ガラハウ──まさに大物だった。だが彼女は10年も若返ったのではないかと思えるほど、まるで少女のように泣きじゃくっていた。月に到着するまで、彼女は眠るか泣くかを繰り返していた。

レイ・シュミットは、それに興味を示す風もなく淡々としていた。

 

彼が語るところによれば、救出された我々には3つの選択肢があるという。

 

1. **アクシズへの復帰**

2. **グラナダの市民権を得て民間人になる(彼のスポンサーの企業を紹介してもらえる)**

3. **彼が結成する新組織のメンバーになる(船を2隻運用する予定らしい)**

 

 私は2つ目の選択肢を望んでいた。パイロットとしてあまりにも不甲斐なく、自信も気力も完全に失っていたからだ。

 

 

 やがて船は月に到着し、生存者たちが続々と下艦していった。

 シーマが降りようとしたのは一番最後だったが、突如として2発の銃声が響き、彼女の足元の床を撃ち抜いた。彼女の下船を阻む威嚇射撃だ。だが、今の彼女にはその行為に抗議する気概すら残っていないようだった。面倒そうに自分を睨み返す彼女に向かい、レイ・シュミットは言い放つ。

 

「あんたはまだ、その大地を踏みしめる資格はない。早く復讐の火を灯せ。バスクに裏切られた部下の無念を晴らす鬼になれ。あんたはこれから老いで急速に体力を失っていく。……だからどうした。鍛え続けろ。一流のパイロットとしての技量を維持しろ。必ず俺が4年以内に、バスクを殺すチャンスをやる。……もし俺が約束を反古にしたら、この銃で俺を撃てばいい。誓いの証だ、その銃はあんたにやる。この船は何ヶ月だってここに留めて借りておく。……魂に火が灯ったなら、降りてくるといい」

 

──ああ、敗戦側であっても成果を挙げ続ける人間とは、こういう者なのか。

胸が熱くなった。最後にこんなにも心が震える場に立ち会えたことを、誇りに思いたい。……愛銃を手放す彼の顔が、どこか寂しそうに見えたのは気のせいだろう。

 

 私が振り向き、先に降りた他の者たちの元へ向かおうとした時、レイ・シュミットに呼び止められた。

 

「オーレル・ハーシュハイザ―。すまないが、君に選択権はない。君には俺の小隊のエースパイロットとして、まだ戦ってもらう」

 

 誰かと勘違いしているのだろうか。

 私がポカンと口を開けて立っていると──

 

 背後からシーマ・ガラハウが歩いてきた。先ほどまでとは別人のように力強い、意志の宿った瞳で前を見つめている。

 

……ああ、こういう人間たちは、魂の強さの次元がまるで違うのだ。

私は理解すると同時に、また己の小ささが恥ずかしくなるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。