遺言 作:歪み神
**【 UC0079 】**
私の小隊が連邦の輸送船を鹵獲した時の話だ。
ゲルググのエネルギー・キャパシタ開発に大変参考となる物資が含まれていたらしい。報告を受けたキシリア閣下に呼び出され、こう告げられた。
「お前が少佐に上がれんのは、出自の問題だけではない。少佐ともなれば政治もこなせねばならん。ジオンはザビ家が一枚岩でないおかげで、ただでさえ派閥が複雑だ。お前には無理だろう?」
「ああ、確かに面倒そうですね」
「少佐になれば、大隊規模の作戦を任されるやもしれん。お前はその規模の作戦で、何かやりたいことはあるか?」
「そうですねー。ソロモンを衛星軌道まで引っ張っていき、南アメリカが消滅するまで隕石落としでも敢行しますかね」
閣下は私をじっと見つめた後、静かに言った。
「意外とまともだな。ギレン総帥も同じような作戦を立案された」
「ああ、じゃあ近々やるんですか?」
「やらんよ。それが政治だ」
「はあー……」
どうでもよくなり、私は差し出されたコーヒーを啜った。
「レイ・シュミット大尉、私の前で音を立ててコーヒーを啜るのはやめたまえ」
「ハッ」
形式的に敬礼し、部屋を後にした。
『……やらせてみるか』
閉じかけた扉の向こうから、不穏な呟きが聞こえた気がした。
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**【 UC0083 】**
意識が覚醒する。過去の記憶を振り払い、私は新組織の幹部会へと気持ちを切り替えた。
「──これより、エゥーゴ支援組織『ツヴァイ』の幹部会を開始する。まず幹部の順位を定める。上位者に不測の事態が生じた際、円滑に組織を引き継ぐためだ」
1位:レイ・シュミット
2位:クリス・エバート(工作艦『クラクサ』艦長)
3位:シュテフィ・グラフ(元シーマ・ガラハウ)
4位:オジー・スミス(元ドム・パイロット)
5位:オーレル・ハーシュハイザー(元親衛隊)
6位:マルチナ・コーリー(工作船2番艦『ヴァーユ』艦長)
7位:カールトン・フィスク(キシリア機関3rd)
「カールトンは重要なパトロンだが、軍人ではないからな」
「別に構わんよ」
席上のカールトンが肩をすくめる。
「幹部諸君には、これから起こる情勢の流れを把握してもらいたい」
私はこれから巻き起こる時代の趨勢を、大まかに解説した。
デラーズ・フリートが派手に暴れた結果、連邦内に過義的な治安軍事組織が結成される。ジャミトフやバスクを中核とした『ティターンズ』だ。
そして、彼らの苛烈な暴走に抗する反対勢力『エゥーゴ』が誕生する。
やがて両者は武力衝突へと発展するが、戦力規模はティターンズが圧倒している。
多面作戦を強いられるティターンズは、スポンサーの多い月面都市の防衛を最優先するため、サイド2の壊滅を許容する事態に陥る。
ティターンズはG3ガス、艦隊砲撃、そしてサイド7で建造した移動型コロニーレーザーを用い、サイド2を焦土と化す。
「我々の出資者であるカールトン・フィスクは、サイド2の崩壊を望んでいない。そこで、私が考案した大まかな作戦だ」
元々経済的に困窮しているサイド1で、ティターンズの締め付けに対抗する反連邦運動が再燃する。
これを鎮圧すべく『30番地』でティターンズが行う大規模虐殺の映像を、サイド6で生々しく流布させ、現地をパニックと恐慌状態に陥れさせる。機関の人間が煽り続ける以上、この暴動は収まらない。サイド6行政も『次は自分たちが標的になるのでは』と底知れぬ恐怖を抱くことになる。
そこで──アクシズがサイド6の防衛権を引き受ける。
これによりアクシズは正式な自治組織として認知され、テロリストの汚名をそそぐことができる。同時にサイド6から巨額の防衛予算を獲得する。
サイド6とサイド2は同じラグランジュ・ポイント(L5)に位置する。サイド6に常駐させた艦隊を、サイド2へ派遣するのは容易だ。サイド2、あるいはエゥーゴからの要請という形で、アクシズの戦力を注ぎ込みサイド2を防衛する。
「周知の通り、サイド2とジオンは不倶戴天の敵同士だ。この政治的腹芸はカールトン・フィスクに任せる。サイド6とアクシズの橋渡しも同様だ。私もアクシズ内なら多少は顔が利くが、こういう泥臭いネゴシエーションは手慣れた人間に任せるに限る」
カールトン以外の幹部全員が、狐につままれたような顔で私を見つめていた。
シュテフィ・グラフ(シーマ)が最初に沈黙を破り、私に問いかけてくる。
「ティターンズもエゥーゴも、まだ出来たばかりの組織だろう? 先を読みすぎているんじゃないかい? 戦争そのものを回避するよう誘導することだって、今なら可能なはずだ。ジャミトフもバスクも、暗殺してしまえばいい」
「だめだ。この戦争は、最終的にサイド3の独立自治へ繋がる。戦火の発端を潰すのは、ジオンの国益にならない。我々の優先順位はあくまで【アクシズ > キシリア機関 > サイド2 > エゥーゴ】だ。アクシズに益のない工作など、誰がするものか」
私は言葉を切らずに続けた。
「……組織の順位を定めたが、私には何としてでも成し遂げねばならない個人的な目的がある。《グレミー・トトの抹殺》だ。生き汚いと思われるかもしれないが、容認してほしい」
「成し遂げねばならない目的とは何だい?」
「シュテフィ。あんたを完全に信用できたら話すよ」
その後も幹部たちからの質疑応答は、何時間にもわたって続いた。