遺言   作:歪み神

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#15. 30番地の攻防2

 

**【 UC0085 】**

 

 オーレル・ハーシュハイザーのガルバルは接敵すると、シールドでハイザックを突き飛ばした。

体勢を崩したハイザックへ素早く接近し、核融合炉の誘爆を避けるようにビームランスで器用にコックピットだけを焼き貫く。やはり、見立て通りの凄腕だった。

 シュテフィ(シーマ)が対峙した敵は、すでにコロニーから離れた宙域でコックピットを撃ち抜かれ、沈黙していた。

 

(ヴァーユ小隊のMSが揃っていれば、後方で控えているアレキサンドリア級まで手が届いたか……?)私は自部隊の戦力評価を上方修正した。

 

 一方で、エディー・マレーは苦戦を強いられ、被弾まで許していた。

あいつは最初のターゲットをハイザックではなく、G3ガスのタンクに切り替えていたのだ。

 

 必死にタンクへ接近しようとするエディーのガルバルを、ハイザックがマシンガンで執拗に邪魔をする構図が十数秒続いた。射撃に自信が持てないエディーは、ハイザックと対峙しながらタンクを狙い撃つことを躊躇していたのだ。コロニーの外壁に穴を開けないために。

 

「……誰か奴に、今回の作戦の目的を話したのか?」

 

 私はスコープを覗き込みながら、思わず笑いを漏らした。

ティターンズによる暴挙を必死に食い止めようとする、ジオンのモビルスーツ。自らの被弾も顧みずに奮闘するその姿は、後日この映像を目にする大衆の心を確実に掴むに違いない。

 

だが、煩わしくもある。

 

『お前ら、何でこんな酷いことが出来る!』

 

 直接、脳内に思念が叩き込まれた。

 発見が困難な漂流船を「勘」で見つけ出した男だ。ニュータイプだろうとは思っていたが、意識を向ける方向が合致すると、この手の思念波は避けられないのだ。

 

 しばらく戦況を静観していたシュテフィのガルバルが、あっさりとG3タンクを撃ち抜いた。

 

 対象が消滅し、敵対するハイザックのみに集中できるようになったエディーが、ようやく戦闘を有利に進め始めた。

 シュテフィもオーレルも援護には動かない。殻を破って成長するには、自らの手で勝利を掴み取らせる必要がある。ましてや相手は格下で、ビーム兵器すら携行していないハイザックなのだ。

 

 彼のガルバルがようやくハイザックを撃墜すると、機体は力なく膝をつき、コロニー内部を覗き込んでその惨状を目の当たりにした。

 

「どうして、こんな酷いことが……」

 

オーレルに腕を掴まれ、エディーの機体が力なく撤退を開始する。

 

(思念波が鬱陶しかったが、極上のプロパガンダ映像が撮れたな)

 私は満足して息を吐いた。……この鬱陶しい思念波、対ニュータイプ用の兵器システムに転用できないものか? 今度アクシズに戻った時、技術部に相談してみるか。

私の思考は、眼下の惨劇からどうでもいい方向へとズレていった。

 

 

 MSの回収作業が完了し、『クラクサ』がグラナダへ向けて航路を取ると、一息ついた私の奥底から、再び笑いが込み上げてきた。

 

「ククク……ハハハハハハ!」

無重力の艦内で、私は肩を揺らした。

「どうだ、サイド6の傍観者どもめ。お前たちの天井(そら)は安全か? 安心して眠れるだけの軍備は揃っているか? 守銭奴ども。理解不能な暴挙を平然と引き起こす者が、自分たちより優位に立っている状況は……さぞ怖いだろうな。ああ、楽しみだ。お前たちが絶望に顔を歪めるのを見るのが」

 

 私がひとしきり笑い転げていると、エディー・マレーが私の胸倉を掴み、殴りかかってきた。

私は軽く足を払い、奴の背を蹴り飛ばす。無重力の空間で壁まで吹き飛ばされた奴だが、私への抗議の眼差しは諦めていなかった。

 

「あんた、あのコロニーで何をしていたんだ! あんたが狙撃したハイザックは行動不能になっていた。タンクを撃ち抜けば止められたはずだ! いったいあのコロニーに、何十万の人間が住んでいると思っているんだ!」

 

 私は冷ややかに見下ろした。

「なら、お前の父親にお願いしてみたらどうだ。『あんな酷いことはやめてくれ』とな」

 

「何だと……!」

 

 血を上らせる相手をするのが面倒になり、私はオーレルに目配せをした。

オーレルはエディーの背後から羽交い絞めにし、低い声で言い放った。

 

「連邦士官だったお前に、隊長を責める権利など無いだろう。断じてな」

 

 流石は一流のパイロットだ。言葉でも一撃で相手を黙らせる。

私はその手際に感心しながら、歩みを艦橋へと進めた。

 

 

 グラナダに帰港すると、カールトン・フィスクがその後の経過を報告してくれた。

 

 地球を迂回させるために月方面へ向けて放ったレーザー通信は、月面施設で増幅され、事件から2時間後にはサイド6周辺宙域に到達したという。その発信は今も継続している。誰かが物理的に30番地へ赴き、システムを停止させない限り、永遠に映像を垂れ流し続ける仕組みが出来上がっていた。

 

 最初の民間放送が映像を取り上げてから3時間後に、小規模な暴動が発生。それを機関の人間が巧みに反地球連邦政府運動へと誘導し、炎は留まることを知らず、わずか20時間後にはサイド6の全コロニーで大規模な反連邦暴動が巻き起こっているそうだ。

 

「アクシズへの防衛協力要請も、時間の問題だよ」

 

カールトンは満足げに語った。

 

 私はその話を聞きながら、サイド1から数日かけて帰還する間に、すでにこれほど事態が進行しているという事実に対し、

 

(サイド1って、やっぱり遠いな)

 

と、どうでもいい感想を抱いたのだった。

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