遺言 作:歪み神
「第一特別遊撃隊と第二から第四特別遊撃隊の損耗率に差がありすぎるのを知っているか?」
キシリア閣下が物々しい男たちを引き連れ、哨戒任務中のクラクサを訪ねてきた。『緊急事態か?』私は返す。
「我々の任務は嫌がらせのはずです。ヤバそうなら退却すればいいのでは?」
「危険な相手とはどういった物だ」
「そりゃー、武装が整っているとか?、輸送船単独だったら簡単でしょ?」
「レイ・シュミット少尉、お前の部隊は戦艦3隻に護衛された輸送艦の撃沈にも成功している。褒めらえた戦績だが、なぜこの時は戦闘に及んだのだ。」
「簡単そうだったからですよ」
キシリア閣下の眉間が引きつった。
「ジャイロです!。」
後ろで控えていたフランク・バイオーラ曹長が助け舟を出してくれた。
「重力を発生させるジャイロが回っていると、船はまっすぐしか進まないでしょう?ジャイロが止まっていると戦艦は軸方向にもくるくる回って,主砲も副砲も対空砲火も脅威です。隊長は接敵した相手のジャイロの状態が分かるのです。」
私はうんうんと頷いた。『戦艦の戦闘配備ってジャイロが止まるまで時間かかるんだよなー』
「ほお!お前は第一種戦闘配備が整っているか、接敵してすぐに分かるのか?後ろに控えている者は作戦立案部の者だ。彼らは頭がいい、頭の弱いお前の感覚をちゃんとした言葉に直してくれるだろう、接敵後の退却基準が出来上がるまで彼らとうまくやるといい。」
私は物々しい男たちに連れていかれ、5時間にも及ぶ尋問を受けた。
その後クラクサの食堂でキシリア閣下と再び顔を合わす。『ご苦労』と労いコーヒーを渡してくれた。私が音を立てて啜ると、左目が吊り上がった。だがそのまま話し出す。
「レイ・シュミット少尉、大尉への昇進が決まったおめでとう」
『このころ既に彼女は既にやせ細っていたな・・・』目を覚ましたわたしは、そんなどうでもいいことを考えるのだった。
いま我々の艦隊は、旗艦アーガマの後方に位置している。エゥーゴのジャブロー降下作戦を支援するためだ。まあ艦隊といっても、クラクサとヴァーユの2隻だけだが。
艦橋に人を集め、モニターでヴァーユのメンバーとも顔を合わす。
「正直カールトン・フィスクのエゥーゴでのメンツ確立の為の任務だ。こんなどうでもいい作戦で損耗するのは馬鹿らしい。手抜きでいい。損害を出さないでくれ。」
「ジャブロー攻略がどうでもいい作戦かい?」
シュテフィ・グラフ(シーマ)が呆れた様に尋ねる。
「ああ、ジオンにとっては全くどうでもいい、クラクサ隊はアーガマの護衛、ヴァーユ隊は降下するMSの護衛だ、間違っても地球に落ちるなよ」
作戦のカウントダウンが始まり、カウントがゼロになるとMS隊が各艦から出撃した。ヴァーユ隊もそれに続く。5分もすると、MSが出撃した先で光芒が瞬きだす。
「そりゃー、降下のタイミング狙うよなー」
私はボールの中で呑気に構えていた。アーガマの周りを周回するジオン臭いMSのガルバルディαの姿は中々シュールだ。
急に寒気が襲うのと同時に、艦隊の何処かの船が爆散した。強烈なプレッシャーだ。
「クリス!クラクサをアーガマ艦橋右舷に固定して緊急脱出、俺はボールで離れる。15秒でこなせ!とびっきりヤバいのが来る」
クラクサはコムサイの部分で操船するため、脱出はすぐに可能だが、貨物室の整備スタッフが移動ワイヤーでコムサイに到着、集合するのを待つと15秒という数字は厳しい。だが空間を支配するプレッシャーが、敵の強大さを伝播し脱出工程に疑問を持つ部下はいなかった。
私は息を殺し時を待つ、気配を殺す意味が有るのか?と問われれば、今の相手には意味が有ると答える。多分そういう相手だ。
「ガズン」
船が受けた衝撃と共にボールをパージし、瞬間は吹き飛ばされた砲塔を装う。ほんの少し脆い船だと思わせるだけでいい。
私は船を襲った奴の後ろを取り、距離を取りながら引き金を引く。奴はアーガマに標準していた武器を諦めビームサーベルを装備した。
「このガラクタがー!」
強烈な思念だ、
「俺は殺気が無いらしいぞ!」
届くかどうかは知らないが、敵の思念波をおちょくってみる。
ボールのタングステン弾は、一発目は奴の左肩の巨大なウイングバーニアを貫通し、二発目は外れ、三発目は胸を掠め姿勢を崩し、四発目はクラクサの左熱核エンジンを貫通した。艦橋が脱出してパージ制御できないエンジンは船を爆散させた。熱量を持たない貫通弾だが運がなかった。
奴のビームサーベルは、三発目を発射後ライフリングを切り落とし、四発目の後サイコシリンダーを真っ二つにした。
もう一振りされればボールは爆散だが、オ-レル・ハ-シュハイザ-のガルバルがシールドで奴のMSを押し返し、私のボールとの距離を作った。同時にシュテフィ・グラフ(シーマ)のビームライフルが奴の右手を掠める。ボールに振り下ろされるビームサーベルがエネルギーを失った。『これがなかったら俺は摘んでいたのか?』
私はギリギリの攻防に安堵した。
オ-レルのガルバルは左手を損傷した奴の肩に当て、まるでマグネットで引きあっている様に、奴のMSに纏わりついていた。オーレルの操縦技術は神がかってる、私の知る誰でも真似できないだろう、そう赤い彗星でもだ。そして奴に接触回線で警告する。
「投降しろ!無理なジャンプをしてきたのだろう?この損傷では帰れないはずだ!」
「殺せオ-レル!こいつは生かしておくとヤバい」
私はすぐ反応し答えた。今回は奇策が通じたが、次会ったら手に負えない。
私は唯一の攻撃手段を失っているし、オ-レル・ハ-シュハイザ-が距離を取った瞬間に部隊が全滅するイメージも消えていない。
「だが、このMS貴重そうに思えるが?」
オ-レル・ハ-シュハイザ-の冷静な言葉に頭を冷やす。『あいつ、あんな恐ろしい相手に凄いな・・・』
「私の立場は・・・・」
観念したMSの中の奴が叫び出した。私は聞きたくなかったのでオ-レルとの回線を切った。
見たことのないMSの武装解除の仕方が分からず、俺たちは奴がアーガマのスタッフに手錠をかけられるまで見続けた。投降した紫の髪の士官はずっと忌々しそうに私のボールを見ていた。オ-レル・ハ-シュハイザのガルバルではなく・・・。
『俺は似たような任務を長くやっていたから分かる。俺の船で速度を落とすと思ったよ、絶好のアーガマのブリッジへの射撃ポイントだからな・・・アーガマの勘のいい奴が気づかないといいな。』
わたしは奴の顔を忘れないようにしようと記憶した。
少し落ち着くと、シュテフィ・グラフの回線がつながった。
「あんた、ブリーフィングで言ってることと、やってることが滅茶苦茶だね」
全くその通りだと思った。