遺言 作:歪み神
「ここはグアジンの閣下の私室か?」
強化人間プログラムの最中、私は医療カプセルに100時間ほど拘束されているはずだった。
これは確かに夢だ、何度も繰り返し見た。キシリア閣下と最後の対面した情景だ。ア・バオア・クーへの最終決戦へ向かう最中の事だった。
「レイ大尉 掛けたまえ」
私は促されるまま彼女の対面に座った。
極度のストレスで食事をすべて注射に頼る彼女は、痩せ干せ、シワも深く、とても24歳とは思えないほど老けていた。シワを隠すマスクも逆に痛々しく感じる。
『哀れだな』という気持ちを表情に出さないつもりでいたが、見透かされたようで、彼女は居心地が悪そうに少し笑った。そして唐突にこう尋ねた。
「ダイクン派とは何だか分かるか?」
「ご存じの様に、私が殺した面々のことでは?」
「アレらは、ザビ家の指示に従いたく無いために、ダイクンという虚像を利用しているに過ぎん。真のダイクン派というのは、父上や兄上のような者を指すのだよ」
「ハアー」
私は、何の事だかという表情とともに、そう返した。
「長くなるが聞け、終戦後のお前の仕事の根幹になることだ。ダイクンは末期心を病んでいた。そして死期が近づくと側近である父にとんでもない遺言を残した。
『たとえ地上の人間を皆殺しにしてでも独立を勝ち取れ』と、
ダイクンを盲信していた父は、遺言をなすべく王政を敷き、議会を黙らせ独立戦争へ突き進んだ。兄もダイクンの政治運動に参加はしていたが、父のように盲信はしていなかった。だが何故か兄も父に協力した。」
彼女は一刻黙ると、私の目をのぞき問いかけた。
「シャア・アズナブル・・・落《撃墜》とせるか?」
「えらく感のいい人ですからねー、多分当たらないと思いますよ?」
「お前でもそうか・・・難儀だな。『キャスバル・レム・ダイクン』奴の本当の名前だ、第一級秘匿事項として扱われている。」
私は興味が無さそうに、目の前のコーヒーを啜った。本当に興味が無いのだ。
「政治に興味が無い人間の反応はそんな物か・・・古代中国の王は自分の死期を悟ると、悪政を敷き、その後継者にそれを正させる事によって、民忠を上げ国を安定させたという。父はそれを成そうとしている。総人口の半分以上を殺した悪逆をジオンの遺児が正し、その後新たな国の形を作る。それは真のダイクン派である父にとってこの上無い喜びなのだよ。士官学校にキャスバルが紛れ込み弟のガルマと仲が良くなった事を、父は殊の外喜んだ。共にジオンを支え合ってくれるとでも思ったのだろう。奴の早すぎる大佐への昇進の本当の理由だ。世直し人に箔を付けなけれな・・・」
心なしか寂しげな目をした後彼女は続けた。
「ギレン総帥は、恐らくシャアを殺す。総帥の描く未来絵図にキャスバルは居ない」
「私はな、私はキャスバルを抱き込むことにした。奴は軍人だ、政治はできんだろう。奴が大人しく傀儡になるなら、表向きの立場は私より上でもかまわん。先ほど奴に会い快い返事を貰った。ギレン総帥への注意も促しておいた。レイ大尉左手の甲を見せろ」
指示に従うと、銃に似た機械が押し当てられ、『カシュ』という音と共に私の左手に痛みが走った。
「今お前にマイクロチップを埋めた。お前には戦後私の機関の表の顔となって貰う。私の体調を哀れむ暇など無いほど忙しくなるから覚悟しておけ。総帥がコロニーレーザーまで用意して挑むのだ、とりあえずはア・バオア・クーでは勝利するだろう。その後私の機関がグラナダで連邦政府と終戦協定を結ぶ準備を整えている。戦後の仕事が山積みなのだ、許可なく死んでくれるなよ。下がっていい」
「ハッ」
私は立ち上がり敬礼をすると、その部屋を後にした。
私は目を覚ます、そこにはフォーカスされない真っ赤な世界が広がっていた。そして私は10秒と意識を保てずに倒れこんだ。
強化人間手術の後遺症だった。