遺言 作:歪み神
グラナダのカールトンマテリアル社長室で、私とカールトン・フィスクは今後の展開を見越して対峙していた。
「グワハハ! 大戦果じゃないか! 今うちの組織では『奴はボールに鹵獲された男』という二つ名を広めるのに大忙しだよ」
「あのヤバいやつか?」
「なんだ、知らないのか? 奴はパプテマス・シロッコ。我々実業家や政治屋の間では、要注意人物として注目されていたよ。『政治もやる野心家のアムロ・レイ』だとね。奴が連邦に戻った時、見下す敵対組織が多い方が都合がいいだろう。こんな幼稚な策でも案外効くものだぞ。組織の人間全員に奴の凄まじい素質をいちいち見せて回るわけにはいかないからな」
「オーレル・ハーシュハイザーが冷静でね。俺は殺そうと思ったんだが、オーレルがあのMSに価値を見出して、結局は奴の判断に倣ったんだ」
「リッキー・ヘンダーソンが両手を挙げて喜んでいたぞ。知っているか? あれは今後の可変機データ収集用のテスト機で、中に重火力型と簡易生産型の2つのMSの詳細図と生産工程計画まで収まっていたらしい。お前がリッキーに俺を紹介してから、アクシズから発注された工作機械の数を考慮すると、すでに2ライン以上のムーバブルフレーム集中工程型MS製造ラインが完成しているはずだ。さらに4倍の工作機械の発注を受けた。手に入ったものはとりあえず作ってみる、という方針なんだろう。アクシズはサイド6のおかげでMS開発にかけられる予算が3倍になったらしいからな。ジオンに出力の合うジェネレータがあるかは分からんが……二ヶ月もすれば一年戦争並みのスピードで新型MSが湧いてくるかもしれんぞ」
「一年戦争時とは組織の規模が違うからな。だが重火力の可変機はいいな。そいつとガザの4機小隊なら作戦範囲のバランスも良さそうだ。拠点防衛ならリゲルグで事足りるしな」
「ああ、リゲルグの腕の改造機はとても評判がいいそうだ。アクシズの68機のゲルググは全てリファインされるらしいぞ。お前、また評判が上がるな。銅像でも立つんじゃないか? ……まあいい、これが本題だ」
カールトン・フィスクは私にPDA端末を差し出した。
「せっかく連邦の高級技術士官の指紋と声紋と網膜データを入手したんだ、そりゃ盗むだろ。奴の権限で閲覧できる連邦兵器のデータを全て部下に奪わせた」
「あんたヤッパリ閣下が選任した3rd(サード)だな。アーガマにもいたんだな、機関の人間が」
「流石にこれだけ大量のデータ流出だ、セキュリティに引っかかっている。パプテマス・シロッコは連邦に戻ったら一月はMPに尋問されるだろうな。そしてシロッコが白となると、今度はエゥーゴのアーガマが疑われる。連邦とエゥーゴの間に軋轢ができるのは望むところだろ? 当然うわさも広がるぞ、『シロッコはジオンのスパイだ』とな」
「あんた、益々スゲーな。対峙した時はあんなに恐ろしかったのに、なんか怖くなくなってきたな、シロッコ」
私は上機嫌で端末を閲覧した。
「そのバウンド・ドックというMSだが、お前がボールでやっているような脳波による火器管制システムが導入されている。注目すべきは一般人による脳波火器制御にほぼ成功しているところだ。連邦はニュータイプの優位性を無くすための予算は潤沢なようだな」
(ドーベン・ウルフはこの辺の技術の集大成なのだろうな……)
「ジオンが戦争に勝つにはキルレシオ1対10が必要だ。ニュータイプの優位性も無くなれば厳しくなる。連邦は経済的損耗率が……」
私はカールトン・フィスクの話を聞き流し始めた。資料に集中し始めたからだ。
(ア・バオア・クーの詳細な資料まであるのか。この巨大なMSデッキは……ハハ、巨大モビルスーツ用か。……シャア・アズナブルが消耗戦を避けるためにアクシズを特攻させるんだよな。なんだかんだ言ってあの一族《カーンの家族》はキャスバルに甘い。できればアクシズを失いたくないな……。まあ、しかし勝ち筋も見えたな)
私は資料上は、グアダンの主砲より長射程の要塞砲を見ながら尋ねた。
「なあ、ア・バオア・クーに配備されている要塞砲、地理的にここ《月》か、サイド3で生産されているんだろ? もしここで生産されているなら、そのまま延長生産してフォン・ブラウンとグラナダに配備できないのか? 都市防衛って要塞戦と違って、敵対艦隊の撤退のために本来有利な防衛側が消耗戦に挑まなきゃならないだろ? こいつが都市周辺にあれば、攻撃側が無理なMSの突貫をして要塞砲を黙らせる必要が起こる。全然守りやすくなるんだがなー」
カールトン・フィスクはニヤリと笑い、こう続けた。
「ティターンズがフォン・ブラウン市の戦艦ドックの無制限使用許可申請と補給の打診をしてきた。お前の予想通り、フォン・ブラウンの防衛戦は近いぞ」
「ハー……これは余り勝ち筋が見えてないんだよなー」
私はガックリと肩を落とすのだった。