遺言   作:歪み神

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#21. ムーン・アタック

 

 フォン・ブラウン市防衛作戦のため、俺たちは戦艦ドックを訪れた。今後旗艦として活用するチベと、シャクルズというサブフライトシステムを確認するためだ。いつの間にかムサイが二隻無くなっていて、チベがやたらと同格にかっこよく改装されていた。

 

「リッキー・ヘンダーソンに工作機械を納めた帰りの船で、チベのアップグレード部品を融通してくれたものを運んだんだ。大戦後期の改造はこのドックで出来る物だったからな。ところで、何でもレイ・シュミットの乗艦は緑に塗装しなければならないらしいじゃないか? 塗装色も変更しておいたぞ」

 

 ガザDの塗装色で一度揉めたからだな。紫やピンクの機体色がずっと嫌だった私は、

 

「緑は、散ったジオン兵数十万人の魂や志を同じくする意味がある。なぜ変える必要がある?」

 

と、無茶を言ったのだ。連邦に対して「ジオンと志を同じくする組織ではありませんよ」という政治的アピールが必要だったらしいが、それにしても紫やピンクはないだろう。私のその言葉に、特に年をとった将兵たちが熱烈に賛同し、結果としてアクシズの部隊色が緑に決まったのだった。

 

「しまったな、戦艦の火器管制ができる人間もキープしておくべきだったな。主砲の打てない戦艦ってのはかっこ悪いよな」

 

「ああ、それならグラナダ市民の、シーマの部隊が快く搭乗を引き受けてくれたぞ」

 

 カールトン・フィスク……相変わらず仕事ができる男だ。だが、そいつらはまだ戦いたいなら何故アクシズに合流しないんだ? まさか「シーマ様命」といった連中ではないだろうな?……少しばかり合流する人員に不安を覚えた。

 

 私は部隊の名前を「ヴァーユ隊」「クラクサ隊」と呼ぶ癖がついていたので、チベ改にも新たに名を付けることにした。ツヴァイのMS運用がチベ一隻で賄えるため、船名と部隊名がややこしくなるのを解消するためだ。

 

『イメル』

 

 クリス・エバートが既に考えていたのか、名前を仲間に募集してほんの数秒で決まった。

今後はイメルを旗艦にして、ヴァーユ隊、クラクサ隊の2小隊運用となる。

 

 少し窮屈になるが10機のMSを運用可能なチベタイプが、一年戦争初期にはすでに運用されていた事実に、ジオンの先見を感じずにはいられない。だが同時に、『負けてしまえば全く意味がない』とも痛感した。

 

---

 

 我々はイメル《チベ改》をフォン・ブラウン市の上空につけた。リッキー・ヘンダーソンの立場上、「出撃しない」という選択肢は有り得ないというので、本当に渋々出撃したのだった。

 

「我々はフォン・ブラウン市に命を懸けて戦ってやる義理は無い。我々の役目はアーガマの防衛ラインを超えたMS、若しくは艦船を叩くことだ。だが、イメルで相手にできる旧式艦船でなかったら退却、若しくは距離を取り再起を伺う。最終的にはエゥーゴが勝利を収めるはずだからな。潮目を伺う作戦で行く。撤退しやすいようにMS隊は艦内待機でいい」

 

 クラクサ隊が『どの口が言っているんだ?』と言いたげな顔で見ていたが、今度こそは無理をするつもりなど毛頭ない。

 

フォン・ブラウンとティターンズの交渉が決裂し、そのままエゥーゴと戦闘状態に入った。

 

私はやたらと高い位置にある艦長席で戦況を見守った。

 

「あーあ、やっぱりエゥーゴは波状攻撃に弱いよなー。船が少ないからしょうがないけど……」

 

 アーガマと交戦している別の位相から、2隻の船が抜け出してきた。艦影を見るとアレキサンドリア級で間違いなさそうだ。(頑丈なんだよなー、あいつ。今回は縁がなかったな)

私は撤退を指示しようとした。だが、思いとどまる。

 

 フォン・ブラウンの丘陵の岩石が開き、見覚えのある要塞砲がせりあがってくるのを確認したからだ。勝ち戦で逃げ出したなんていうレッテルを貼られるのは御免だった。

 

 直後、二条の巨大な光線がアレキサンドリア級の1隻を貫き、爆散させた。もう一隻の船は慌てて急速反転し、退却を始める。要塞砲の砲兵は経験の浅い兵なのだろう。逃げる船に対する追撃の苛烈さが不足していた。

 

「MS隊全機発進! チベも全速前進! 奴らに撤退戦の難しさを思い知らせてやる!」

 

私は意気揚々と指示を出した。

 

 チベ改は前方に2つのカタパルトを装備しているため、MSの展開も早い。だが機転を利かし、シャクルズを伴って出撃したのはシーマ機だけだった。彼女だけが敵船を追う資格を持っていたのだ。

 

 アレキサンドリア級の戦艦から、迎撃のためにMS隊が出撃してきた。光芒を見るに、10機近くは射出されたはずだ。全速で撤退する艦船からの出撃は、もう帰還を諦めることを意味する。若しくは最終局面で味方が勝利するかだが……(偉い奴が乗っているのか?)私は敵MS隊の覚悟にそう思いを馳せた。

 

 戦況を見守る。

2機のマラサイがオーレル・ハーシュハイザーのガルバルディαと距離を取りつつ牽制していた。残りはハイザックのようだ。この部隊でも「厄介な相手はオーレルに擦り付けて形勢の有利を図る」という戦術が完全に固定されているらしい。シーマは船を諦めて全体遊撃に回ったか……なんだかんだと面倒見のいい性格だな、彼女は。

 

 結局、こちらの火力不足で敵船には逃げられた。殿を務めた敵MS隊は全滅だった。MSの戦力比は少し敵の方が上回っていたが、撤退戦というものは概ねこういう結果になる。私はア・バオア・クーからの長い航海を思い出していた。

 

---

 

 要塞砲があるなら、何故エゥーゴの艦艇は前に出て必死の消耗戦を強いられているんだ?

 

(フォン・ブラウン市の政治屋も胡散臭いな……)

 

 私は、水面下で繰り広げられていたであろうくだらない政治の駆け引きに、ただただウンザリするのだった。

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