遺言   作:歪み神

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#22. ジムキャノンⅡ

 

 グラナダのカールトンマテリアル社長室へ、私は勢いよく向かった。あの要塞砲の存在が私にまで秘匿されていたことが、どうにも忌々しかったのだ。

 部屋に入るやいなや、カールトン・フィスクは悪びれもせず言った。

 

「私とお前の同胞から、お前にプレゼントが届いているぞ」

 

 エゥーゴが主力MSとして運用しているネモのビームライフルとそのEパック20セット、そして俺専用のMSだそうだ。ガルバルディαのビームライフルを現在のガルバルディβのものから変更すれば火力が15%増し、コンパクトになる分取り回しも良くなるらしい。ライフルに対してパック数が少々心許ないが、カールトン・フィスクのことだ、すぐに手に入れてくるだろう。

 

(両手を挙げて喜ぶほどの事でもないな。管制プログラムのインストールなんて5分もかからないらしいし、くれるというなら使わせてもらうが……)

 

そして、私にくれるというそのMSの正体は、なんと**ジムキャノンII**だというのだ。

 

「まあ、とりあえず乗ってみたまえ」

 

そう促すカールトン・フィスクに対し、

 

「だいたい、そんな連邦臭いMSに乗っていられるか」

「キャノンなんて代物がMSに当たるわけがないだろ」

「補給はどうするんだ」

 

MSデッキに着くまでの道中、思いつく限りの文句を言い続けた。

 

「だいたいケチ臭いだろ。仲間の3rd、やっと影を見せたと思ったらライフルとジムキャノンだと? もっと他にあっただろう、ガンダムとか、ガンダムとか……やっぱりガンダムとかさ!」

 

 MSデッキにたどり着いた私は、その機体を見上げる。ジムキャノンIIをキャノンとカテゴライズするための両肩の砲架が、綺麗に外されていた。

 背面のキャノン用ジェネレーターパックからは物々しい動力ケーブルが伸び、これまた圧倒的な存在感を主張するビームスナイパーライフルへと繋がっている。見るからに動きにくそうな重装甲だ。

 

MSリフトを使ってコクピットに入り、私は渋々動力を入れた――。

 

「うわあ……!」

 

 自分でも恥ずかしいくらい、子供のような声を上げてしまった。全天周モニターの360度スクリーンに映し出される情報量が、これまでとまるで違うのだ。これはギラ・ドーガの環境さえ完全に凌駕している。

 AMBAC制御だとか、MSに人間型の挙動を求めるパイロットたちのことを私はどこか馬鹿にしていたが、今なら理解できる。感情が視界の景色と完璧にシンクロする時、MSの関節が人間と違う動きをすれば、確かに強烈な違和感が生じるのだ。

 

 私が30分ほどコクピットの中でその極上の視覚体験を楽しんでいると、カールトン・フィスクから通信が入った。彼はこういうタイミングの図り方が実に絶妙だ。もう少し早かったら、間違いなく機嫌を損ねていただろう。

 

「歴代ガンキャノンのメインカメラには、蘇摩レンズという日本のメーカーのレンズが使われていた。この会社は拡大比1:1でレンズが解像する極限である1μという限界を、なんと12倍にまで引き上げたのだ。連邦の秘密警察はこの技術を独占・整理するために創業者一族を皆殺しにし、会社を連邦系企業に統合した。……だが信じられないことに、そのレンズの最終工程は一族の手作業による研磨で仕上げられていた。連邦はこの極上レンズを二度と再現・入手する方法を永遠に失ったというわけだ」

 

「人の可能性ってのは……つくづくスゲーな」

 

「エネルギー反応検出による自動緊急回避技術が進歩したこと、そして二度と手に入らない貴重な部品を使っていることで、アナハイムの奥底で死蔵されていた試作MSだ。照準してみるといい。ボールと同じ技術が使われている。ちゃんと脳波補正ヘルメットを被れよ」

 

 私はすぐさまドックを飛び出した。今、エゥーゴ支援組織ツヴァイはグラナダの32番ドックをレンタルしている。これまでの活躍のおかげで、正式に借り受けることができるだけの信用を得ていた。

 仲間が慣熟訓練に使用しているクレーターを目指す。

とにかく動きが重い。一丁前にリニアシートが装備されているので、ノーマルスーツを着ていなくても機体の限界挙動を引き出すことができる。

 

 クレーターに着くと、まずは照準の感触を確かめた。サイコシステムで照準を補正できる角度は10度といったところか。照準の追従速度はボールの5倍速くらい出ている。3点バーストでの連射も可能で、弾速も非常に速い。3発全弾を撃ち尽くすまでわずか0.3秒程度か。ゲルググJ(イェーガー)の射撃感覚によく似ている。次の3点バーストへのディレイ(遅延時間)がないのも凄まじい。銃身を焼き切ったら自己責任、ということだろう。

太い動力ケーブルが干渉するため、射撃可能な体勢や角度をひとつずつ確認していく。

 

 動作確認にも飽きた私は、クレーターの丘陵にジムキャノンIIを仰向けに転がした。ノーマルスーツを着ていないため、圧倒的な開放感に包まれる。宇宙がどこまでも澄んでいて、広い。過去に乗ったMSの中ではガ・ゾウムが好きだったが、今はこのジムキャノンIIが文句なしの一番のお気に入りになった。現代戦を戦うには圧倒的に機動力が足りないが、同じ小隊にオーレル・ハーシュハイザーがいてくれるなら話は別だ。奴がいなかったらとても実戦では乗れないだろう……本当にオーレルという男は拾い物だった。

 

ドックに戻った私は、カールトン・フィスクにこう頼み込んだ。

 

「エギーユ・デラーズが暴れた領域に、撃破された2機のジムキャノンIIが放置されているのを見たことがある。あれをサルベージしてきてくれないか?」

 

 実はもう1機、部品取り用のジムキャノンIIが謎の3rdから支給されていたのだが、私はこの至高のメインカメラを使って「お散歩用MS」を真剣に作りたいと考えていたのだ。そのために完全な状態のMSを分解してしまうのは、流石にためらわれた。

 

---

 

 後日、会社のブリーフィングルームでは、エゥーゴの最高幹部ブレックス・フォーラが暗殺されたニュースが話題を賑わせていた。

エディー・マレーは悔しそうに拳を握りしめ、顔を真っ赤にしている。

 

(まあ、ジャミトフと敵対している派閥の偉い奴の息子だからな。そんなことだろうと思ったよ)

 

 本当の名前は「エディー・フォーラ」なのかな?、などと頭の片隅で思いつつも、ジムキャノンIIとの運命的な出会いに比べれば、そんな政治の思惑など酷く些細なことのように思えるのだった。

 

 

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