遺言 作:歪み神
私の忠告によりサイド4宙域を監視していた工作員が、廃棄コロニーに核パルスエンジンを設置している組織を捕捉した。まあ、ティターンズで間違いはない。
エゥーゴは簡易艦隊を結成し、移動を始めた廃棄コロニーへと部隊を進めた。
我々はイメル《チベ改》を旗艦に、アルカナ輸送艦改4隻を随伴させて挑む。すべてカールトンマテリアルの登録船だ。
せっかく月に向かっているのだから、上手く軌道を変えて落とし、将来の資源採掘山にでもしようという腹づもりである。
カールトンマテリアル社では数年前からこの準備が進められていた。アルカナ輸送艦改にはコロニーを制御するためのリモート制御式熱核パルスエンジンが積み込まれ、作業用MSも同乗している。作戦はコロニーの推進を止めた時点で一旦完了だ。今回のようなテロ行為は恐ろしいので、時間をかけて月に着陸させることになるだろうが、月に落とす行為そのものを承認しない政治家もまだ多いという。月の衛星軌道にコロニーが迫るだけでも目視できれば生きた心地がしないだろうに。
設置作業があるため、阻止限界時間は存在する。阻止限界時間まであと32時間。もう半時もすれば戦闘が始まるが、勝利さえすれば随分と余裕のある時間設定だ。
私はヴァーユ隊をイメル艦隊の直衛に残し、クラクサ隊を前に出すことにした。さっそく手に入れたジムキャノンIIを使って見たかったのだ。
目視でエゥーゴとティターンズの交戦が確認できる位置まで進むと、ティターンズの中に時間差を置いてイメル艦隊へ一直線に向かってくる編成を見つけた。見事な編隊だ。熟練パイロットであることは間違いない。
「味方を囮にしていい性格だな。クラクサ隊、ついてこい!」
3機の編隊が、シャクルズに乗ったジムキャノンIIに向かってくる。私はギャプランに随伴するマラサイに狙いを定めた。あのギャプランには、直感的に初手では当たらないと感じたからだ。
「ここから狙われるとは思わないだろう?」
マラサイに照準を合わせ、3点バーストを叩き込む。マラサイはエネルギー検出によるランダム回避行動をとったが、二発目、三発目が私の予測射撃により直撃し、爆散した。意識の外からの精密な射撃に、パイロットは何が直撃したかも分からなかっただろう。サイコミュによる予測射撃というのはそういう理不尽な代物なのだ。
「ラムサス!」
強い思念が空間を伝播する。ギャプランの存在感は力強く、巨大だ。相応の人間が搭乗しているのだろう。
(これで、俺たちを無視できなくなったはずだ)
ひとまずイメルの安全は確保できた。
残る2機のMSは向きを変え、クラクサ隊へと進路を取った。まだ目視すら困難な距離だというのに、つくづく勘の冴える奴らだ。
(私の**ガンキャノン**に、この距離で敵対したことを呪うがいい)
私はもう1機のマラサイに3点バーストでビームを発射し、先ほどのリプレイ映像のようにマラサイを撃破した。私にとって、このジムキャノンIIのサイコミュは最高の相棒と言える。マシンスペックが前の時間軸での戦い方の延長上にあるからだ。敵のアウトレンジから一方的に行う精密予測射撃は、戦況を根底から変える。かつてはファンネルのオールレンジ攻撃を羨ましく思っていたが、今ではその妬ましい気持ちもすっかり消え去っていた。
「ダンケル!」
感情を激しい怒りに染めて、ギャプランが真っ直ぐジムキャノンIIに向かって突進してきた。
私は交戦距離を保つベクトルを取りながら、サイコミュ補正をのせた完璧なタイミングで3連射を放つ。
――だが、ギャプランは可変機特有の異常な急加速と推力変更で、その完璧な予測線を強引にへし折って躱してみせた。
(チッ……速すぎる!こういう特別な奴いるんだよな!)
銃身を灼く勢いで矢継ぎ早に3点バーストを連射するが、ギャプランは残像を残すような猛烈なジグザグ機動でビームの隙間を潜り抜けてくる。サイコミュの照準補正が捉えるより速く、間合いが急速に詰まっていく。ジムキャノンIIの鈍重な機動性では、一度肉薄されれば終わりだ。視覚センサーいっぱいに、巨大なバインダーを広げたギャプランの凶悪な威容が迫る。
その牙がジムキャノンIIに届く直前、横合いからオーレル・ハーシュハイザーのガルバルディαが割り込んだ。
オーレルはシャクルズをギャプランへ直接ぶつける捨て身の機動を取り、敵が回避する方向を完全に読んで切りかかったのだ。シャクルズのアンカーをパージするタイミングも完璧なら、何より迷いがない。ギャプランの超高機動に恐怖を微塵も感じていない動きだ。
だが、ギャプランのパイロットも化け物じみていた。肉薄されながらも咄嗟に旋回し、オーレルのガルバルディαの影に滑り込むような軌道を取ることで、私の射線を完璧に潰してきたのだ。
2機がもつれ合うような極限の接近戦を展開されると、味方は迂闊に援護射撃ができない。ギャプランは常にオーレルの死角を死守し、優位に立ち回ろうとしていた。
「見つけた!」
ジムキャノンIIのスナイパーライフルから放たれた極太のビームは、オーレルのガルバルディαの右足を根元から吹き飛ばし、そのまま背後に潜んでいたギャプランの左アームをも貫通した。
伊達にガルバルディのライフルより遥かに巨大な重量を主張しているわけではない。6MWの圧倒的なエネルギー流は、瞬時にオーレルの足を溶かし、ギャプランの左腕にも致命的なダメージを与えた。
『頭おかしいのか!?』
思念が飛んでくる。困惑と戦慄に染まった精神の色だ。
(こんな射線でも俺は撃つのさ)
ギャプランが左腕を失い、一瞬体勢を崩した刹那、それを予期していたかのようにオーレル・ハーシュハイザーがガルバルディαのビームサーベルでギャプランの右腕を斬り飛ばした。
(次はどうする?)
集中して観察するが、接近戦を演じていた2機の動きがピタリと止まった。接触回線で相手が降伏を受諾したらしい。オーレルの精神は、最初から最後まで冷徹なまでに冷静なままだ。これなら後で誤射(狙い通りだが)を謝る必要もなさそうだな。あいつは本当にいい拾い物だった。
ギャプラン……次の作戦で使いたいところだが、手に余りそうな捕虜だ。エゥーゴに押し付けるとしよう。
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捕虜の引き渡しについて相談するため、前線が落ち着いたのを見計らってエゥーゴの艦艇に近づいた。アーガマは事態の収拾で忙しいだろうから、近くにいた緑色の艦――ラーディッシュに向けて飛ぶ。コロニーの周辺では、アルカナ改の部隊が移送用熱核エンジンの設置作業を着々と進めていた。
「エゥーゴ支援組織ツヴァイの隊長レイ・シュミットだ。敵のMSを鹵獲した。我々の船には兵士が少ない。危険なので敵兵はこちらで引き取ってもらいたい」
「ラーディッシュのヘンケンだ。顔が見たい、降りてこい!」
私はため息をついた。(面倒でもブライトのところへ行けばよかったな……)
MSを降りた私は、ラーディッシュのスタッフに案内されてブリッジに向かった。そこには、声も喋り方も顔も完璧にイメージと一致するヘンケンがいた。
「コロニーを移送できるシステムを持っているなんて、準備が出来すぎているな」
(ああ、俺たちが元ジオンだから、また良からぬ企みでもしていると思ったか? そんな知恵は回らなかったよ)
「今回協力してくれたカールトンマテリアル社には、戦争で発生したジャンク兵器をインゴットにして再販する部門があるんだ。廃棄コロニーなんて最高のジャンクだろ。移送する計画があっても別に不思議じゃないと思うが?」
「そうか、まあいい。しかしギャプランを鹵獲したとはな。あれにはうちのエースも苦戦していた」
「その言葉がすべてを表している。お前たちは高性能なMSに優秀なパイロットを乗せた力押しに頼りすぎなんだ。我々は常に、相手が自分より強いことを想定して行動している。その差だ」
まあ、うちもオーレルに面倒なMSを押し付けてばかりだが……ここは少し格好をつけさせてもらった。
「いいな、あんたらエゥーゴに入れ!」
無線の声を聴いた時点で、こう言ってくる奴だろうとは想像していた。よし、少しクワトロ(シャア)に意地悪をしてやろうと私は考えた。
「ハァ……エゥーゴは連邦軍籍がなけりゃ入れない組織だろ? だからカラバだのツヴァイだのが生まれるんだ」
「我々の仲間にも元ジオン軍人がいる。問題ない」
「なら、あの目立つMSが好きな仲間に言ってやれ。『軍籍は戦う意味であり誇りだ。工作員でもないのにフラフラしてくれるな』とな」
「なんだ、知っているのか?」
「当然だろう、彼は我々の組織では大佐だぞ? バスクを知らないティターンズ将校がいると思うか。ちなみに彼は私を苦手にしている。さっきの言葉をそのまま引用してからかってやったらどうだ? 面白い反応が見られるかもしれないぞ」
「試してみよう」
「本当にやるのか? **まあいい、君たちが落としたギャプランの母艦だが、漁っていいか? 我々が近く計画している作戦に役立ちそうなんだ**」
「我々の立ち合いのもとなら構わん。捕虜の引き渡しの見返りということにしておこう。飯でも食っていけ、ついてこい」
「ハァ……卵焼きはあるのか?」
こういった豪快な軍人はジオン軍にも大勢いた。そしてこういう奴に限って、真っ先に自己犠牲を払うものだから、アクシズではどんどん数を減らしていったのだ。私は一年戦争の頃の懐かしい仲間たちのことを思い出していた。
ヤザン・ゲーブルはここで退場です。