遺言 作:歪み神
サイド2にティターンズ艦隊が集結を始め、グリプスIIが怪しい動きを始めた頃、エゥーゴから同盟の申し出があった。
アクシズで同盟の詳細を詰めて、サイド6のホテルで調印式を行うらしい。サイド6はとにかくマスコミが大げさに騒ぐので、間接的にサイド2住民へのアピールを兼ねているのだ。
我々は、アクシズに頼んであった兵器を受領し、その足でグリプスIIへ向かう予定だった。
だが、シャア・アズナブルがアクシズに来てハマーンに頭を下げるところを見てやろうと思い、それまでは滞在する予定だ。
アクシズに到着すると、ハマーンに次のことを指摘された。
・我々が流したお涙頂戴の映像で、サイド6からの志願兵が後を絶たないらしい。エディー・マレーはお手柄だ、ジオン軍人だったら二階級特進だったな。
・私が送った可変モビルスーツのおかげで、次期量産機の量産が始められないらしい。責任を取ってアクシズ兵を説得してほしいらしい。
はて? 次期量産機はザクIIIとドーベン・ウルフがコンペしたと思うが、どのMSになってもこの時期であれば連邦に対して強烈なアドバンテージになるな。私は搭乗機のガ・ゾウムを押したが、ムーバブルフレームも採用されていない旧式扱いされ、相手にもされなかった。
(ああ、分かった、そういうことか!)
私はリッキー・ヘンダーソンの元へ向かった。
リッキー・ヘンダーソンの話では、集中工程型で制作されたシロッコのMSがとんでもない性能だったため、次期量産MSはムーバブルフレームを採用したものでなければという声が多く上がり、ガザDからの発展機に支持が集まらないらしい。
先行量産機が既に完成しており、デッキに2機あるのだとか。
「お前たち技術者は数値でMSを見すぎだ。俺がこのMSの素晴らしさを実演してやるから、ザクとガザの対決の時のようにアクシズ中でモニターするといい」
こうやって、新型量産機候補の公開デモンストレーションが始まった。前にも話したがアクシズは娯楽が少ない。これも前回の対決の時のように大きな盛り上がりを見せた。
私はパイロットスーツに着替え、MSデッキにたどり着く。
「ガザDが数年前倒しで登場したんだ。お前が早く生まれるのも当たり前だよな」
私は懐かしいガ・ゾウムのコクピットに乗り込んだ。
私の操るガ・ゾウムは、チョンとジャンプしMSデッキの中で変形して、そのままカタパルトを使わず発艦してみせた。最初から強烈な印象を与えただろう。この頃はMSデッキの中でのMAへの変形など懲罰行為である。だがガ・ゾウムの変形プロセスは非常に良くできていて、変形時の慣性モーメントの重心位置が秀逸なので、こんなことが簡単にできてしまうのだ。
一通り、テストパイロットが行う基礎動作をこなすと、ダミーバルーンを設置し、敵にまとわりつかれている味方を緊急援護するシチュエーションを演出する。私からのメッセージだが、通じる奴には通じる。
そもそも1対1のキルレシオばかりを気にする輩が多いが、こちらが攻め手でそのシチュエーションになる指揮官は無能なのだ。量産機に求められる性能とは、信頼性、環境適応性、作戦行動範囲と行動時間だ。仲間の援護を演出することで、気づく奴もいるだろう。こいつは重力下の大気の中でアッシマーの2倍の航続飛行距離がある。本当に重宝する機体なのだ。
仮想敵にビーム砲をバラまきながら螺旋機動を混ぜて最大加速で近づく。敵MSに肉薄するタイミングでMS形態に変形する。敵MSと距離を取る慣性に任せながらナックルバスターを射撃した。
複雑な軌道の中、敵機の近くで変形するのは怖い。よく敵を見失うからだ。だがこいつは姿勢制御バーニアの位置と制御が秀逸で、少し慣れれば、思っていた方向にMSが向いていないなんてことは起こらない。分かる奴には分かったはずだ。
本当は接近してMSに変形した際、ビームサーベルを用いるつもりだったが、慣れでナックルバスターを選択してしまった。仕方がない。私は一年戦争から一回もビームサーベルを使って本番をやったことがないのだ。
デッキへの着艦もMA形態で侵入し、MS形態へ変形、華麗に着地してみせた。この着艦は格好いいから、多くの若いパイロットを魅了するだろう。
「重力と大気があれば、もっと面白いものを見せてやれたが、こんなもんでどうだ?」
私はハッチを開けると、リッキー・ヘンダーソンに大声で尋ねた。デッキには多くのジオン兵が集まっており、私が声を上げた後、まるでギレン総帥の演説の後のような歓声が起こった。こいつの量産に待ったをかける声は小さくなっただろう。
おそらくハマーンはガ・ゾウムの重力下での性能と、大気摩擦を考慮した飛行性能に注目しているのだろうな。次の地球侵攻作戦は戦艦を基地として行うので、重力下で自力で帰還できないMSは足手まといだ。何よりガザDの量産ラインを使えるのだ、抜群のコストパフォーマンスじゃないか。ハマーンは地球侵攻作戦をガザCシリーズの主力量産機でやってのけたのだ、今回は随分楽をするだろう。
隊のブリーフィングルームに戻ると、クリス・エバート少尉に言われた。
「訓練場で寝てばかりいるのに、いつ練習したんですか?」
私は先ほどのデモ飛行が、少しスキルがあってガ・ゾウムに慣れれば誰でもできることを思い出し、
(大尉のやったことって、実はたいしたことなかったんですね)
と、指摘される未来を想像したのだった。