遺言 作:歪み神
グリプス2とは、サイド7宙域に建造された、本来は1,000万人の人口が快適に過ごすことができる最新のスペースコロニーだ。サイド1に作ってやれば、ほとんどの貧困や劣悪な居住環境が解決するコロニーである。
グリプス2は核パルスエンジンを用いて自走ができる。反連邦運動とエゥーゴとの親密な関係が露見したサイド2を射程に入れるため、現在移動中である。
いかにスペースコロニーが巨大でも、この広い宇宙空間で移動するコロニーを適当に見つけることは不可能だ。グリプスの防衛艦隊に潜り込んでいる機関の人間が、ガイドシグナルを乗艦しているサラミスから発信している。
もし我々の任務が失敗に終わった場合、別の工作員が核パルスエンジンに故障を起こすことになっている。その工作員は生きて帰ることはできないだろう。この工作員たちはサイド2出身の者たちで構成されているらしい。それは必死に働くだろう。まあ安心するといい、私はアトミック・バズーカを外さない。長距離をジャンプして一撃離脱する作戦を、私はそれこそ長く専門にやってきた。あの巨大な的に外すわけがないのだ。
アクシズを出て2日後、エディー・マレーが私に話しかけてきた。
「グリプスを狙う担当を変わってほしい、僕はシミュレーターでもまだ60%の成功率しかないんだ」
「4日しかないシミュレーターの時間を2日も独占して、今更仲間に責任を押し付けるのか?」
エディー・マレーは歯を食いしばり、俯いた。よし、もっとからかってやろう。
「30番地で救えなかった命がお前の活躍で多く救えるぞ。だがお前が外したらどうなるかな? サイド2宙域で交戦している味方は恐らくティターンズ艦隊と一緒に吹き飛ぶな、交戦で座標が知られるからな……バスクとはそういう男だろう? サイド2に穴を開けるために持ってきたコロニーレーザーで、一体何機コロニーに穴を開ければバスクは気が済むかな? 10機か? 全てか? お前のトリガーにはサイド2の住民数百万人、いや、数億か? それだけの命がかかっている。絶対に外すなよ。泣き言を言う暇があったら、シミュレーターで練習するといい」
エディー・マレーは千鳥足でザクII C型に向かっていった。
「いいのかい? あれは外すよ」
慣熟訓練から帰還したシュテフィ・グラフが話しかけてきた。目はギラギラと野生に満ちているが、ずいぶんやつれている。
「大いなる失敗を経験させてやろうと思ってな。ずいぶんきつい訓練をしているようだが、壊すなよ? あれはこの船で直せない」
「ずいぶん世話焼きだね、親戚かい? 訓練はガブスレイそのものが……いやいい、今入れる情報じゃない」
確かに、親戚でも何でもないガキに何をしているんだか。指摘されるまで気がつかないものだ。
出撃前、最後のブリーフィングだ。
「ガイドシグナルを長く頼るとあっという間に接敵してしまう。自信のない奴は、俺の機体に追従しろ。有視界に入ったら部隊通信も行わない。部隊無線が切れるのが見つけた合図だ。後はイメルとのランデブーポイントにたどり着けるか、つけないかそれしかない。以上だ、健闘を祈る」
「あんたシミュレーターに最初の日しか入ってないじゃないか、大丈夫なんだろうな?」
エディー・マレーが突っ込んできた。
「お前が確実に当ててくれれば何の問題もないじゃないか? そうだろう?」
分かりやすい奴だ。顔を真っ赤にして、それでも目には隈を浮かべてザクC型に向かっていった。
ザクをシャクルズのアンカーにドッキングし加速を始めると、他の4機が全て俺を頼って後ろをついてきた。こういった任務は失敗のリスクを減らすために、一人に任せるということはしないのだが、まあいい。こんなことならブリーフィングでは、『俺についてこい』と言った方が格好よかった。
ガイドシグナルにベクトルを合わせて1時間ほど飛んだだろうか、ターゲットを目視で捉えたので通信を切った。シュテフィの隊が編隊を離れていく。どうやら見つけたようだ。
ザクのバズーカを仰角15度に固定する。コロニーはコーナー部分が修理に時間がかかるらしいから、私はそこを狙うことにした。
ザクの射撃角度を固めたら、もうザクは動かさない。シャクルズの機動のみでターゲットを狙う。
この感覚は、MAを操縦した経験があれば簡単に養えるものだが、後の2人には難しいかもしれないな。
ターゲットの近くには敵MSの影も形もない、勝ち確定である。私は普段ならまだ早いタイミングで引き金を引く。ザクの機械応答が遅いので、こうしてやらないとジャストタイミングにならない。
着弾を確信しながらコロニー下部をギリギリで通り抜けると、しばらくして衝撃波がシャクルズを揺すった。衝撃波は一波しかなかった。
ランデブーポイントでイメルに拾ってもらう。ザクはここで捨てていく。サイド2の検閲で見られると良くはないからだ。まあバレバレではあるのだが。
ザク隊に数分遅れて、シュテフィの隊が合流した。ガブスレイはずいぶん被弾していた。リッキー・ヘンダーソンに怒られるかもしれないが、まあ、作戦は全て任せると言ったんだ。何も言うまい。
次はサイド2宙域を目指す。俺たちのMSはグアダンが運んでくれている。2日くらいの旅になるだろう。
その日の夜、シュテフィ・グラフがパイロットスーツで部屋を訪ねてきた。
パイロット同士で契りを結ぶと、戦闘配備時に部屋の持ち主でない人間は2回着替えなければならなくなる。そこでパイロットスーツで先方を訪ねてその不具合に対応したのだが、いつしか意味合いが変わり、パイロットスーツを着て先方を訪ねることが『今晩どうですか?』という意味を持つようになった。
「俺は艦長と既にそういう関係だ。重いことになるなら止めてほしい」
「一晩安らげるだけでいい」
「そういうことなら……俺も作戦後で高ぶっていたので正直助かるよ」
ドゴス・ギアを仕留め損なったか? いきなりのガブスレイだったからな。まあ次のグリプスを巡る艦隊戦に賭ければいいさ。