遺言 作:歪み神
僕はグリプス2の作戦の後、部屋に閉じこもった。アトミック・バズーカを外した後のバスクの凶行が恐ろしかったのもあるが、ただただ、自分が情けなくて恥ずかしかった。
グリプスへの攻撃シミュレーションで分かったことは、結局は命中率を上げるため、射撃時にコロニーへ肉薄しなければならないということだ。音速の5倍の速さで巨大な構造物をすり抜けるのは恐ろしい。接近する過程の景色が、まるで自分から衝突しに行くように見えるからだ。この怖さをどれだけ克服するかが作戦成功の鍵になるのだが、僕は克服できなかった。本当に情けない。
僕はグリプスに近づいた時、聞こえたんだ。
「私の家族をどうか守って」
という、女性の祈る言葉が。きっとガイドシグナルを出してくれた潜入工作員だ。
ああ、情けない。僕はそれまで潜入工作員のことを、人を騙す卑しい奴らだと思っていた。家族を守るために、何ヶ月も前から敵に囲まれた逃げ場のない戦艦の中でずっとこの作戦に協力してきた彼女が卑しいなんて。挙げ句、彼女が命がけで用意してくれたファイナルアタックを外す自分の愚かさが、本当に情けない。
・偉容を放つMAとの戦いでは、怖くて何もできず
・フォン・ブラウン防衛戦では、手柄を焦って敵に囲まれ、シュテフィさんに戦艦を追うのを諦めさせ
・ギャプランに肉薄するオーレルさんに碌な援護ができず
・グリプス2の発射阻止作戦では、的を外す情けなさ
僕は描いていた志とは裏腹に、この組織に合流してから何一つ役に立っていない。
レイ・シュミットが当然のようにグリプスに当てていなかったら、バスクの凶行でサイド2がいったいどうなっていたか。少し同じ部隊にいたから分かる。奴は笑いながらコロニーレーザーの発射を次々と命令する恐ろしい奴だ。
デラーズの紛争でも、同士討ちするジオン軍を見て、
「奴らは連邦に亡命したいらしい。本気かどうか確かめるために、手を貸すなよ」
と、亡命を希望する部隊を一切援護しなかった。戦闘が落ち着くと、
「あんなお遊びの戦闘しかできない奴らは、連邦にはいらない。これから奴らを殲滅する、皆殺しにしろ、降伏を許すな」
奴は笑いを交えながら非情な命令を部隊に送っていた。奴はスペースノイドに憎しみしか持っていない、本当に恐ろしい奴なのだ。
レイ・シュミット……アクシズでの階級は大尉らしい。僕は父のおかげで特別な軍の教育プログラムを経て、実は中尉だ。恥ずかしくて絶対に話すことができない。
ああ、ジャブローでクラクサを失った時、乗船したアーガマで保護してもらっていれば、父さんに僕の無事を伝えることができたのに。何か結果を残すまでは、なんていうつまらないプライドで父さんに僕を心配させたまま、二度と会えなくなってしまった。今の僕はやることのすべてがうまくいかない。
突然、部屋の扉が開いた。
「しばらくこの部隊は私があずかる。ブリーフィングするから出てきな」
シュテフィさんが突然そんなことを言いながら入ってきた。
アクシズでは空前の支援ラッシュが起こっていた。
エゥーゴとの同盟が決まってから、サイド2の商工組織からの支援で、衣料品、食料、増えた兵員の居住施設建設など、至れり尽くせりな状態となっていた。
ハマーン・カーンは、協力を申し出た会社すべての調査を命じた。当然だ。食料の毒物をいちいち確認することも、建設した施設の爆発物を確認することも、組織力の浅いアクシズでは対応が困難だからだ。
調べると、協力を申し出た会社のすべてが、サイド3やグラナダから解体を逃れた元ジオン系企業だった。サイド2の経済はとっくに彼らが牛耳っているのだ。
それなら何故このタイミングなのだ。もっと前から支援してくれてもいいではないか。ハマーン・カーンは支援会社の人間を一人一人呼びつけ尋ねた。何故今になって支援が始まったのかと。彼らは口を揃えたようにこう答えた。
「私の上司が、シャア・アズナブルが大っ嫌いなんですよ」
そうか、エゥーゴとの同盟ではなく、シャア・アズナブルを罷免したことによってこの支援が起きているということか?
ハマーンはシャアと馬の合わない一人の将校の顔が浮かんだ。彼らに「お前たちはレイ・シュミットの息がかかっているのか?」と尋ねても、すべての人間が「はて?」という顔をしていた。
サイド2の総合商社によりドックに搬入された、今ア・バオア・クーでも採用されている最新の要塞砲を眺めながら彼女は思う。
「こんなもの、一体どうやって手に入れるのだ。シャア・アズナブルはなぜ彼らにこうも嫌われている?」
マハラジャ・カーンがキシリア機関とシャアの確執を説明せずに死んだため、彼女はこの状況を全く理解できなかった。
エディー・マレーの特異な出自を利用して色々やりたかった記憶があります。