遺言 作:歪み神
ようやくすべての要塞砲を破壊した私は、安全地帯(サイコガンダムの格納庫)へ機体を戻す。
MS状態で待機し、長い滑走通路を通ってやってくるであろう敵MSに備えた。
10分と待たないうちに、ガンダムタイプを先頭にし、僚機にマラサイ3機を連れた決死隊が飛び込んできた。
私はすべてに照準し、アタックレバーを握る。わざわざMS形態で待ったのだ、高火力な武器が選択され、逃げ場のない奴らは一瞬で溶けるだろうことを期待したが、選択された武器は拡散ビーム砲であった。ガンダムタイプはシールドで容易にビームをいなすと、格闘の間合いに飛び込んできた。
愚鈍なサイコガンダムのパンチやキックが当たるはずもないので、私は腕でコクピットを守った。もうアタックレバーを握るしかやることが残されていない。
ガンダムタイプが出力の高そうなビーム・サーベルで斬りかかってきた。サイコガンダムの攻撃システムを運用するために目を瞑るわけにいかない。斬りかかってくるガンダムタイプを、アタックレバーを握りターゲティングし続けた。数瞬後、ガンダムタイプと3機のマラサイは真っ二つに胴体が割れ爆散した。
サイコミュ式ビーム・ソード……グラナダでサイコガンダムのマニュアルを見たから装備されているのは知っていたが、サイコミュは流石に私には使えないだろうと思っていた。その兵器が反応したのだ。
さっきまでの威力不足が嘘のような過剰な攻撃力と、自走する4本のビーム・サーベルの活躍に、私は無性に腹が立った。
長すぎる6時間をここで待ち、私はサイコガンダムをMA形態で出撃させた。決死隊はその後来なかったが、サイコミュ式ビーム・ソードが次も反応するか不安だった。だが6時間も外を飛び続けることもできなかったのだ。
要塞戦にしては、静かな攻防が続いていた。一方的にグアダンの長距離砲が、30秒間隔くらいで発射されていた。防衛側は何もしていない。距離のレンジが合わないのだ。
「ドゴス・ギアはどうした?」
私はティターンズの脆弱な防衛を不思議に思った。
ティターンズには、戦艦を盾にして突撃し、エゥーゴとのMS戦による乱戦を行うしか作戦がないと思われるが、この動きの無さは降伏か?
勝利が確定したと思われる状況を見てほっとした私は、地球に戻ったジャミトフが落ち目のシロッコと結託し、権力欲の強い将軍を唆して新たな組織を作ることを想像した。
(今のティターンズよりも怖いじゃないか!)
私はここでジャミトフを殺すことにした。
保全ハッチにサイコガンダムを寄せ、ロックする。
白兵戦武器庫でライフルとカートリッジを手に入れ、10番ドックへ向かう。
ゲーツ・キャパの権限ではジャミトフの所在は追えないが、この10番ドックに停泊する船は単艦で、戦艦用カタパルトまで装備している特別なドックだ。『ジャミトフが利用する旗艦はここですよ』と教えているようなものだ。
私は10番ドックの天井の梁に隠れて待つ。すぐに奴は2人の部下を連れて現れた。
(危なかった、判断が遅かったら奴に船に乗られていた)
私はすぐにジャミトフに照準し、撃ち抜いた。照準合わせを行っていないので5cmほどズレたが、ライフルが入射する角度が、人間が生き残るには厳しい角度だ。生きてはいまい。
お供のえらく勘のいい女がすぐに私を見つけたが、戦争の混乱でティターンズ兵は私を追い続けることができなかった。
本来ゲーツ・キャパの乗機であるバウンド・ドックにたどり着くと、
「キャパ、貴様いったい……」
叫びながら近づいてくる人間を、すぐに撃ち殺した。もう工作は必要ない。脱出するだけなのだ。
バウンド・ドックを飛ばしてサイコガンダムに近づくと、頭部に人が群れていた。私はビーム・ライフルでその群衆を消し飛ばした。Iフィールドを貼れないサイコガンダムに少なくないダメージを与えたが、もう鹵獲とかどうでも良くなってきた。サイコガンダムを開発した人間も含まれていただろう。胸がすっとする思いだった。
サイコガンダムのメインノズルをいくつか消し飛ばし、高機動飛行できないようにする。これで万が一サイコガンダムに人が乗っても対処は簡単だ。戦艦の主砲も当たるだろう。
グアダンに白旗を上げながら近づく。宇宙世紀になっても、戦う意思がないことを示すのは接触回線かこれしかない。すぐに私と気づいてくれたのか、MSハッチを開けてくれた。
MSデッキに数人の仲間が迎えに来てくれた。作戦指令室に案内してもらえるらしい。
指令室では、ハマーン・カーンが待っていた。
「すさまじい戦果だな、レイ・シュミット。我々の勝利は時間の問題だ」
「それなんだが、すでにジャミトフは殺した。奴らは混乱していて降伏を簡単に選択できない。面倒だが、対面している部隊から徐々に武装解除を行っていくしかない」
「エゥーゴにやらせよう。奴らはまだ何の戦果も挙げていない。喜んでやるだろう」
伝えなければならないことを最初に伝え、ずっと疑問に思っていたことを口にする。
「俺の船が来ていないようだが……それにアクシズの艦艇が少なすぎないか?」
それを聞いて、ハマーンは急に笑い出した。
「お前には数年振り回されてばかりだったが、やっと意趣を返すことができた。今回アクシズはグリプス2とゼダンの門の二面作戦をとった。グリプス2の鹵獲権利を主張したいからな。お前がカールトン・フィスクを異常に信頼しているので、シーマがドゴス・ギアの撃沈を私にだけ報告したのだ。お前の部隊とグアンバンが今グリプスを防衛している。恐らく今頃はカールトン・マテリアルにコロニーの移送の依頼が届いた頃だよ」
「そうか、シーマはやり遂げていたのか。確かに俺が知っていたらカールトン・フィスクに話してしまっていただろう。エゥーゴを出し抜けなかったかもしれないな。ア・バオア・クーは少し壊しすぎたか? サイド3の連邦艦隊が気になるだろう?」
「安心するがいい、要塞砲の復旧は3日とかからないだろう。ターンテーブルより上部は既に完成した状態でここにある。後は基礎工事しか必要ない。その作業員もサイド2の協力会社からあと6時間もすれば到着する。ア・バオア・クーが完全に機能を取り戻すのも一月かからないだろう」
ハマーンは少し鎌をかけてみた。サイド2のジオン系会社がレイ・シュミットとつながりがあるか見てみるためだ。
「本当か? それはスゲーな。やっぱり政治のできる奴は違うな。俺はこの勝利絵図しか頭になかったよ。キシリア閣下にもお前は政治ができないから大尉のままでいいと言われたんだ」
レイ・シュミットの反応はどちらともつかないが、どうやら知らないようだ。
「ア・バオア・クーのアクシズへの帰順の主張も、エゥーゴは受け入れるしかないだろう。お前の活躍には感謝しているよ」
「アレキサンドリア級の権利も主張したらどうだ? 俺の知らない造船所で製造されている、ミノフスキー・クラフトを搭載した新型量産艦は形が全然違うが、アレキサンドリアとの共通部品が多いだろう? アレキサンドリアは運用できるんじゃないのか?」
「貴様……それを聞いて私が私的にお前を殺さないと思っているのか? 思慮が足りないのではないか」
「これでも俺はあんたを尊敬してるし、信頼もしている。なんせあんたは誰も成し得なかったことを成し遂げる女だからな」
ニュータイプであるハマーンは、話し相手の言葉に込められた感情が大体分かってしまう。政治をする彼女は不愉快になることが多いが、今のレイ・シュミットの言葉は、彼女に照れくさい暖かな感情を久しぶりにもたらした。
「そうそう、お前の部隊のエディー・マレーが営倉に入っている。何でも敵のサラミスに攻撃するなと暴れたそうだ」
「ああ、サラミスにガイドシグナルを出してくれた工作員が乗っていたからな。まだガキだし被害が少なかったなら処分を甘くしてやってくれ。ああ、奴な、ブレックスの子供だ」
(何をいまさらそんな大事なことをぬけぬけと……)
ハマーン・カーンはさっきの温かい感情が一気に冷え込んだ。
勘のいい女、マウアー・ファラオ