遺言 作:歪み神
MPに連行される最中も、私は上機嫌だった。記憶の年月を考慮すれば10年近くに及ぶ積年の恨みを晴らしたのだ。
「どうだ、仕事はきついか?」
MPを気遣う余裕すらある。
「今のアクシズは事件らしい事件が起こることの方が稀でして、今回は戸惑っています」
「そうか。それは悪かったな」
私は潔くMPの指示に従ったため、手錠をはめられずに済んだ。
MPに案内されたのは会議室だった。右に一年戦争の時の部下、左にNT研の連中、正面に向かい合うハマーン、そして——いてはならない奴がいた。
「お前に話さなければ……」
ハマーン・カーンが話し始めるが、聞く必要などない。この布陣はグレミーの有用性を説明するためのものだ。私はMPの背中に回り込むように動いて拳銃を奪い、即座にグレミーの額を撃ち抜いた。
「まさか、作り物だったとはな……こいつは何匹殺せばこの世からいなくなるんだ」
私はゆっくりとハマーン・カーンへ歩みを進める。
「君だってニュータイプだろう! なぜ奴の危険性が分からない!」
叫びと同時に、私の胸に強烈な痛みと血煙が舞い散った。
(撃たれたのか? 殺気など微塵も……)
「あ……ご、ごめんなさい! だけど、いきなりこんな少年を殺すなんて……!」
一年戦争の仲間が、震える手で私に銃口を向けていた。
(トレーシー・オースチン……元の記憶ではこの当時付き合っていたが、今の時間軸では他人だものな。だが、まだ死ねない。奴の危険性を伝えなくては)
「グゥルアアアー!」
気絶を防ぐための気合が、おぞましい叫びとなって口から洩れた。かつて私が殺した男たちの何人かが、同じような声を上げていたのを思い出す。そうか、奴らは『まだ死ねない』と言っていたのか。
私は片膝をつき、祈りを捧げるような姿勢をとる。
『死間の一撃』。
シュタージで教わった技術だ。自分の死を覚悟した時、最後の射撃はこの姿勢からだと狙いをつけやすいという。死ぬ間際なんてどうやって統計をとったんだと仲間と笑い合ったものだが、私はかつて仲間がこの姿勢から最後の一撃でターゲットを屠る瞬間を目撃したことがある。そしてこの姿勢は、私につかの間の猶予を与えてくれた。
(さすがにグレミーは危険視され、クーデターは不可能になったと思いたい……)
(作り物に個体差があるならば、私の復讐は最初の仕事で完了していたと思いたい……)
(私を殺すトレーシー・オースチン……私の過剰なここでの人気が、彼女を生きにくくさせるだろう。ああ、誰か彼女を守ってやってくれ……)
「ばかった(わかった)」
声が闇に沈みかけていた私を再び覚醒させる。ハマーン・カーンと目が合う。震える唇で、彼女は「わかった」と言ったのか? 通じたのか?
(どうだダイクン、私の遺言はこんなにも素敵だ)
『俺はいつから思念を飛ばしていたんだ?、恥ずかしく思った』 などと残念な結びになっていたので消しておきました。レイ・シュミットらしいですがww