遺言 作:歪み神
「迂闊だぞ2nd《セカンド》」
「2nd《セカンド》とはどういった意味でしょうか?」
カールトン・フィスクの言葉に私は返す。
「惚けなくてもいい、私のマイクロチップが君に反応した。君もそうだろう?君はキシリア機関の人間のはずだ」
確かに私の左手にはマイクロチップが入っているが、使い方も、どう役に立つのかも知らなかった。記憶の世界でも一度もこのチップが役に立つことは無かったのだ。
「すまない、閣下はこのマイクロチップを私に撃った後、何の指示も無く亡くなられた。正直さっきまでこの存在まで忘れていた位だ。だが確かに閣下は私に機関の人間として働いてもらうと言われた。私が機関の人間という認識は間違いではない。」
「そうか、君は閣下から何も指示を受けていないのか、残念だよ。止まっていた時が動き出したのかと思った。まあいい、閣下と最後にあった様子を聞かせてくれ」
私はア・バオア・クーに向かうグアジンでの会話を彼に伝えた。
「そうか、幾分穏やかな顔をされていたか、おのれ、シャア・アズナブルめ」
「なんだ、あんたもキャスバルと馬が合わないのか?」
カマを掛けてみた。奴が持っている情報がどれほどものか知るためだ。正直私はキャスバルの情報にそれほど価値を見出していないので、どうでもいい情報なのだ、ここで使ってしまってもいいだろう。
「キシリア機関の人間で、奴を快く思う人間はいないだろう?殺すのか?手を貸すぞ」
話がそれたが、シャアとキャスバルが同一人物であることに違和感は無い様だ。
「いや、それほどのものではないだろう?ア・バオア・クーでジオンが勝っていれば、閣下の思い描くとうりにキャスバルも動いたかもしれないじゃないか?」
私のこの言葉の返しにカールトン・フィスクは私をじっと見つめていた目を逸らさずに、少し声のトーンを下げこう言った。
「何だ知らないのか?キシリア閣下を殺したのはシャア・アズナブルだ。ガルマもそうだぞ」
衝撃だった。そうか、あの時彼女は弟を殺した男を始末するか、取り込むか悩み、取り込むと決めた男にその後命を奪われたのか。
「それは・・・救われない・・・」
彼女とそれほど親しい間柄だったか?だが涙が止まらない。人の死は数十億と溢れているが、特別な死はやはりあるな。私の部隊に新型機を送るたびに彼女が言った『勲章の代わりだと思え』という言葉とか、『私にそのような態度をとるのは貴様だけだぞ』とか、たわいない会話が走馬灯のように思い出される。
私は半時ほど天井を見上げたまま涙を流した。
カールトン・フィスクはじっと私が気のすむまで時を待った。
「閣下の死を共に悲しむことができる友人を得られて嬉しいよ、2nd」
「カールトン、それでもキャスバルは殺せない。ハマーンが失敗した時の保険が必要だ」
カールトンはじっと私を見る、その表情は不思議そうでもあり、嬉しそうでもあった。
「秘密警察の殺し屋がスペースノイドの未来を憂うのか?」
測った私が愚かだった。この男の持っている情報は計り知れない。私のその出自を知っている人間など両の手で数えることなど出来ないのだ。私の恐ろしいものを見る目に気が付いたのか、それでも彼は優しい声で促した。
「話は長くなるだろう、まずそこに座り給え」
私は席につくと 何故私のキシリア機関での順位が分ったのか疑問をぶつけた。
「私は3rd。私の上には2rdと閣下しか存在しない。マイクロチップの反応の仕方で上位か下位か分かるのだよ。この上下関係は、閣下と近しいものであるかないかを示すもので、立場の優位性ではない。何しろ総帥に発覚されない組織だ、横のつながりも皆無だ。命令が新しく正しいものかどうかをこの順位で判断するのだ。閣下は散らばった3rdに口頭のみで命令を伝達するおつもりだったのだろう。組織について私が知る限りを教えてあげよう」
カールトンは葉巻に火をつけて、長くなる話を切り出すタイミングを計った。