遺言   作:歪み神

8 / 34
#8. ジオンの遺産

「おめでとう、クリス・エバート少尉! 君はエゥーゴ支援組織『ツヴァイ』の幹部に任命された!」

 

 半ば強引に、私はクリス少尉を勧誘した。今の私では彼女がいないとできることが著しく制限される。これから裏で工作活動を行うにあたり、絶対に欠かせないピースなのだ。

 

「えっ……! ええっ!?」

 

 未だに何が起きたのか飲み込めていない顔をしている彼女を連れ、移動用ランチに乗り込む。月面高度100メートルほどを維持して巡航し、しばらくして一年戦争の廃材が山のように積まれたクレーターへと差し掛かった。

 

「あそこが我が社の所有するクレーターだ。……説明が必要か? 月では太陽光を遮ることができるクレーターそのものに莫大な価値がある。深ければなおいい。灼熱に晒されるより極寒の陰にある方が、精密機器や資材は壊れないからな。ああした戦争の残り物を鋳つぶしてインゴットにするのも、我が社の事業の一つなのだよ」

 

 カールトン・フィスクが説明を始める。

 いま私たちは「カールトン・マテリアル」の施設を見て回っていた。もちろん、表向きの資金調達の本業ではなく、彼が3rdとしての本懐を全うするために隠し持っている「ジオンの遺産」を確認するためだ。

 

 ランチがクレーターの底部へと下りていくと、岩壁の側面がスライドし、巨大な宇宙船ドックが開口した。

 

「キシリア閣下はこのような秘密ドックを月に6基作らせた。閣下の治安警察が力をつけ、軍と遜色ない規模に達した際に使用する予定だったのだ。グラナダは連邦の占領下に置かれたが、フォン・ブラウンもいずれ手中に収めるおつもりだったのだろう。月は当時、重要な工業部品供給地域だったため、戦火に巻き込むわけにはいかなかった。いわば戦後を見据えた準備だな。

……そのドックのうち3つは連邦に見つかり爆破処理された。私が管理しているのは2つだが、核融合発電機が今も稼働し、設備が完全に生きているのはこのドックだけだ」

 

ドックの闇の奥には、チベ級とムサイ級の艦影が縦並びに鎮座していた。

 

「ジオンの艦艇は船籍登録が許可されない。この船でそのまま宇宙に出れば、連邦に問答無用で撃墜されるぞ」

 

ランチが大型艦の脇を抜け、さらに奥の隔壁を潜り抜けると、そこには2機のモビルスーツが静かに佇んでいた。

 

「ガルバルディか?」

 

私はジオンカラーに塗装されたMS-17 ガルバルディαを見上げて呟いた。

 

「そうだ。ここで生産された。終戦間近、小惑星ペズンへ軍需物資を輸送する命令を改ざんし、さっきの船でここに運ばせたのだよ。この奥には集中工程型のMS生産ラインがある。汎用性は高いが、1機の生産に2.5ヶ月ほどかかるのがネックだ。作業スタッフさえ揃えばもっと早くなるがね」

 

 今でこそ最新鋭だが、数年後のグリプス戦役の時期には少し型遅れになるな……。βと同等には動くだろうし、稼働時間の短さに足を引っ張られそうだが……裏で運用するには十分な性能だ。

 

「なるほど。じゃああんたへの宿題だ。機体はガルバルディで問題ない。ただし、今連邦でリニアシートと360度モニターを採用した『ガルバルディβ』が計画されているはずだ。そのリニアシート技術を転用してもらいたい。リニアシートが無ければ、いずれジムⅡ相手に機動力で後れを取ることになる。これは必須だ。

 あとは、出来れば装甲の一部をチタン合金に変更したい。可動部は溶接があるから無理は言わないが、軽量化できた分の重量をビームコーティングの膜厚に回したい。コックピットとジェネレーター周辺だけでもいい。4年後に予備機を含めて10機用意してもらえるか?」

 

「……ガルバルディβなど、まだ試作機すらロールアウトしていないはずだ。なぜそれを知っている?」

 

「いい加減、俺との会話に慣れてくれ。それとコックピットシステムをβのものにするなら、火器管制も連邦規格になるはずだ。β用のビームライフルは入手できるか?」

 

「今は無理だが……3年後なら可能だろう」

 

「よし。あとは船だな。MSを複数積める輸送船はないのか? クレーター内に転がっていた、飛べそうなムサイが3隻ほど見えたが」

 

「先も言った通り、メガ粒子砲を装備——あるいは装備可能な規格の艦船は、民間船として船籍登録ができないのだよ」

 

「そうか。じゃあ、あのムサイを改造して行こう!」

 

「……話を聞いていたのかね?」

 

 私はドックの壁にサラサラと構造図を描き始めた。

主砲などの火器と、上部の火器管制艦橋を綺麗に削ぎ落とし、ムサイの前部胴体にそのまま強力な熱核エンジンを直結させたような異形のシルエットだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「操船は上部に直結させたコムサイですべて行う。俺は戦艦のメガ粒子砲に直接撃ち抜かれたMSなんて見たことがない。護衛のMSを撒かれたら、主砲があろうが船なんておしまいなんだよ。ならコムサイで操船し、いざとなればコムサイごと脱出できた方が生存率は高そうだろう? MSも4機運用できるし、自重が軽くなったぶん足もかなり速いはずだ」

 

「……ずいぶんぶっ飛んだ構造だが、たしかに既存のムサイのパーツを流用すれば安価に作れるな。火器を完全にオミットすれば『大型作業用輸送船』として船籍登録も通るかもしれん」

 

「形式登録が通るなら、どんどん作って売りさばいてくれ。民間市場にこの工作船が溢れれば、俺たちの動きも目立たなくなる。100隻くらい作れないか?」

 

「バカをお言え。ジオン軍ですらムサイを100隻も作ってはいないぞ?……まあ、商売になるなら作れる分は作って売るとしよう。問題は搭乗員だな、あてはあるのか?」

 

「終戦で居場所を無くした『死にたがり』なら、今宇宙にいくらでも転がっているさ」

 

ああ、忘れるところだった。もう一つ重要なパーツの製作も頼んでおかなければならない。

 

「……そういえば、もう一つ頼みがあるんだ。……あるんだろ? サイコミュのシステムが」

 

私は不敵に笑って尋ねた。

 

 クリス・エバート少尉は終始何のことだかさっぱり分からないといった様子で、めまぐるしく進む二人の危険な会話に入ることもできず、ただ壁に描かれたレイ大尉の奇妙な艦船の落書きを呆然と見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。