遺言 作:歪み神
私の初任務は13歳の時だった。殺さなければならない目的など知らされす。ただターゲットの名前と写真のみ伝えられるのだ。ターゲットのおじいさんは、呑気に縁側でロッキングチェアーに揺られ微睡んでいた。
私は89式レーザーハンドガンを手に駆け出した。幼少期に栄養が足りなかった私は体が小さく反動の大きな銃が苦手だった。だが人を殺すには十分な性能を持っているそれを手に老人に近寄ると、眉間と心臓にレーザーを打ち込んだ。その時老人が手にしていたのが私が使用している音楽の再生機だ。私は貴重な情報端末と勘違いし、上司に任務成功の報告と同時にそれを渡した。
「これは重要な物ではない」
私にそれは投げ返された。私はその時唯一の宝物を手に入れた。
意識が覚醒していく。隣にはずいぶん不機嫌なクリス・エバート少尉が処女航海を迎えたアルカナ型輸送艦改 クラクサの操船を一人でしていた。一年戦争での母艦と同じ名前にした。別に俺たちは身元を隠す必要もないし、ジオン臭い船がエゥーゴを助けた方がカールトン・フィスクの駆け引きもやりやすいだろう。
「いいご身分ですね、操船室にシートが6席あるのが何のためかご存じですか?」
クラクサの操船を一人任せてた彼女は愚痴る。
「そう言ってくれるな、睡眠は私の状態異常のリハビリでもあるのだよ、知っているだろ?」
そう、夢で過去の事を思い出したりすると、私にいたずらを及ぼす意志との融合が進む感じがするのだ。3時間しか睡眠を取らない私だったがが、今はできる限り睡眠に時間を当てている。
「目標の目視が可能になりました。先方の指示に従って左舷に寄せます」
目標への距離が十分に近寄ると、ザンジバル型巡洋艦リリー・マルレーンから固定アンカーワイヤーと接続パイプが伸びる。こういう時同じジオン規格の船同士だと便利だ。
「クリス、今回の交渉は危険かもしれない。君は船を降りずにここで待機、パイプのハッチは私を確認するまで開けないように」
私は彼女を残し、一人リリー・マルレーンへ乗り込んだ。
乗り込んだ私はそのまま艦橋に案内せれた。そこにはシーマ・ガラハウ少佐が待っていた。
「一年戦争の英雄が、ずいぶんかっこよくなったじゃないか?素敵な眼鏡だな!それに何だい?あの船は?、戦うことを諦めて媚びているように見えるね、私は少し不愉快だよ」
「メガ粒子砲など飾りだよ、操船も少人数でできるし俺は気に入っている。」
「ふん!そうかい、ガルバル2機、ビームライフル15丁、ライフル用エネルギーキャパシタ30個か。ずいぶん豪勢じゃないか、何が目的だい?」
幾分機嫌がよさそうになった彼女は聞いた。
「ガルバルはそちらのゲルググとの部品共有率が低い、使い捨てにするんだな。使ってやった方が奴らも喜ぶだろう?」
「パイロットらしい物言いだ、私は忙しい、要件をすぐに言え」
「君たちに別の道を示すために来た。同じマハル出身の好だ。亡命は失敗する ッ!」
私がここまで口にすると、彼女は腰の銃を抜き、私の眉間に発砲しようとした。私は素早く彼女の手首を取り、トリガーに指を入れる。生死与奪の判断が早い。さすがここまでこの軍を支えた人間だ。
「船が壊れるよ」
ブリッジの人間が全員私に銃口を向けるので、仕方なく彼女を盾にする。
「機関はどこまで知っている?」
彼女はキシリア機関の存在を知っているようだ。そして機関と私の関係の紐付けも出来ているようだ。
「機関は関係ないよ。これを口にして君が諦めてくれれば、ジオンにとって有益だ。だから伝えたに過ぎない。一旦落ち着け。君に渡したいものも渡せない。」
場が落ち着くまで数分の時間を要し、私は彼女と向かい合った状態を作る。
「私は戦場に君たちを回収に行く。ガイドシグナルコードはα0001だ。パイロットに伝えてくれ。
そして、今回の作戦そのものを諦めてくれるなら、パラオへの移動手段だ。パラオは移動型隕石だ、このディスクに座標計算プログラムが入っている。パラオで身元を洗浄してアクシズに合流しろ」
彼女は瞳に少し恐怖を浮かべて叫ぶ。
「パラオだと!お前はシュタージか?、冗談じゃない、私は部下に普通に食事し、普通に睡眠を取る環境を整えたいだけだ、誰がお前の様な闇に染まった人間の言う事など聞くものか。パラオで私の部下を集めてどうするつもりだ、諜報員や殺し屋にでも教育するのか?もういい、生かして返してやる。二度と我々と接触しないことだ。」
「そうか、あんたは少佐だったな、幹部ならパラオはそのままシュタージに結びつくのか?信じないだろうがもうその組織は存在しない。しないが・・・。交渉とは難しいな。」
これからアクシズは急速に勢力を拡大し、パイロット不足に陥る。彼らがそのまま合流してくれればベテランパイロットの底上げにもなったが、私の過去の仕事が、この交渉の信頼を勝ち取れなかった様だ。
興奮覚めならない艦橋を後にして、接続パイプの中で私は困ったことになる。クラクサのハッチが開かないのだ。私はバツが悪そうにリリー・マルレーンの艦橋に戻ることになった。
「すまない、通信機を貸してもらえないか」
一人で操船をしていたクリス・エバート少尉は、疲れて寝てしまっていたのだ。