崩壊3rd前文明編小話   作:零落花

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ヘケ(断末魔)
できるだけ詰め込んだ小ネタ、というか妄想。


「ムー大陸学術集会」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、開始時間までは……まだ少しあるな」

 

男は扉を抜けると会場を見渡した。余裕をもって入場したためかまだ席に座っている人は疎らだ。近くで科学雑誌を読みながら軽食をとることを優先する人の方が多い。だが男は迷わず歩を進めて自身の席についた。

 

ムー大陸。首都ヒラニプラ。中央第三国際会議場。

 

光量の絞られたライトが複雑かつ藝術的な骨組みの隙間を縫って会場を照らしている。今座っている座席はムー大陸産の空革が使われた一級品だ。加えて今回は場所が良かった。前すぎず後ろすぎず、そして端っこでもない。男は何度か学術集会に参加したことがあったが、特別な会場に足を踏み入れるときに感じる高揚感を忘れたことがなかった。もっとも、そんなことを考えてこの集会に参加する人間は少ないだろう。

 

「それにしても行きの便で見つかって良かった。首都近くは流石に品揃えが良いな」

 

『月刊ムー』。その科学分野雑誌を開いた。大陸最大手かつ世界トレンドの最先端をいくそれの紙媒体は男のいる国では手に入るまでに多少時間がかかる。電子書籍を好まない性分は非常に珍しい。

 

「……Unidentified Flying Object、Sea Gate、Quantum Paradox、Living Form…」

 

適当にページをめくり気になる記事があるか目を通す。そうしていると隣に男が座った。上等な革服を着た背の低い男だ。

 

「隣、失礼するよ」

「……ああ、あなたでしたか」

「奇遇だね」

 

顔見知りの研究分野が近しい大学の教授…偶然にも指定座席が隣合ったようだった。帽子をとって座ると足を組み顎に手をやる。

 

「相変わらず君は物好きだ。ムーの記事は先進的ではあるが…少し奇を衒いすぎている」

「お嫌いですか?…高名な研究者は皆そうだと思いますが」

「ははっ、否定できないね。加えて連中のほとんどが秘密主義で隠居生活が好みだ」

 

教授は『月刊ムー』について否定的だ。だが何度も繰り返された会話である。男はすぐに話題を変えた。

 

「そういえば、どうやって首都入りを?ハイエアラインは混雑していたでしょう」

「ああ、軌道エレベーターからの眺めを見たかったが…スカイモービルも同様だ。時期的にアトラ経由は厳しかったからね。環状線で前乗りしたよ。君は?……いや、いつも通り同日にチャーター便か」

「ええ。…流石に私専用じゃありませんよ。同輩も学術集会と重なる用事がありましてね」

「なるほど。とすると、数日前カデラにサイクロンが直撃したのは聞いてるか?」

「カデラに?ニュースにはありませんでしたよ。都市空調システムと天幕は?」

「さぁ。だが被害があったのは確かだ。少し逸れていたら私も危なかったかもしれないな。………最近は異常気象が多いが…しかし…」

「?」

「いや、なんでもない」

 

教授は電子煙草を取り出そうとしたが、途中で全席禁煙であることを思い出したように手を引いた。代わりにコーヒーを啜る。

 

「もしかしたら歌姫の声を聞けるかもと思ったまでさ」

「歌姫…ああ、あの。慰安公演には積極的らしいですね。今はムーに?」

「少し前にアジアツアーを終えて帰国しているはずだが…知らなかったのか?首都の大劇場でも出演が決まっているよ」

「生憎そういう系統の音楽には疎くて…代わりに愛聴しているものがあるんですが、聴きますか?」

「いや、いや、遠慮する。君の好みはヘヴィハードコア…メタルパンク、だろう?私とは真反対の感性だ」

「案外聞いてみたら気に入るかもしれませんよ。"Ice Swords&Cherry's Berries"や"Killer of Puppets"とかはどうです?」

「君が"ミューズの庭"と"カボチャ王国"を聞いて感想を述べてから、だな」

 

そこから両者の音楽性の主張が繰り広げられた。討論は白熱し、会話は長引いた。その点に関してだけは絶対に分かり合えないからだ。しかしこのやり取りも何度か繰り返されたものである。一段落しコーヒーを口に含んだところで教授はやっと本題を切り出した。

 

「それで、今日の演目で気になる人物はいるかな?」

「リストはざっと見ただけなのでなんとも。選出基準は例年通りでしたね」

「ああ」

「しかし、やはり彼女の名前はありません。残念ながら」

「Ms.メビウス、だろう?君は随分とご執心だったな」

「ご執心というほどでは。ですがあれほどの論文を見せられたら感銘を受けるのは道理でしょう」

「ははっ、否定できないね。彼女こそ月刊ムーの表紙を飾るに相応しい人物だ。それでいて理論に隙はなく視野も広い」

「形而上生物学、虚数遺伝子学、量子生物学……眉唾物だとしても下手に真似る学生が増えましたよ」

「当の本人は姿を消して久しいが…君も苦労しているな」

「あなたもそうでしょう?確か……Ms.シュレーディンガーとMrs.アインシュタイン」

「おや、知っていたのか。だが君ほどじゃないし、彼女ほどでもないよ」

「あの中枢制御技術と自律型汎用マルチコアの反響は凄まじい。既に首都の一部の自律AIで実用化されていますし…噂によると最終倫理テストと立体思考実験をクリアした個体もいるようで」

「生体機能面も順調らしい。三原則の定義と遵守も時間の問題だろう。彼女がまだ研究開発に携わっていたらの話だが」

 

教授が視線を戻した。それと同時に辺りを見回すと既に会場の席のほとんどが埋まっていた。腕時計の針は開始時間の少し前を指している。

 

《…■■年度…■■■における…学術集会を……致します。ご着席ください》

「そろそろ始まるな」

 

アナウンスが鳴り止むと照明が絞られ壇上に視線が集まる。女性がいくつか説明した後、学会の代表が長い祝辞を述べた。そして一人目の発表者が壇上に上がり学術集会の講演が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

学術集会は恙無く進行し終盤に差し掛かった。男は凝り固まった肩や首を解しため息を漏らす。講演のレベルは総じて高く聞いているだけでも体力を使う。そこに不意打ちするようにアナウンスが耳に響いた。

 

《_____NO.13:発表者、メイ》

「No.13?」

 

例年通りなら12人で全部のはずだ。それをそのまま口に出した。

 

「12人じゃありませんでしたか?」

「いや、今年は13人だ。リストにも書いてある」

「見逃しただけ…?NO.13……メイ。聞いたことはありますか?」

「聞いたことは…いや待て、確か論文をいくつか出していたはずだ」

「専攻は?」

「論文を見た限り物理学、天文学、宇宙工学…だったが、大学の関係者や研究者ではないようだ」

「…なるほど」

 

現れたのは紫髪の女性、白衣によって大人びた印象を受けるが……まだ少女と呼ばれる年齢に見える。所作は初々しいものの瞳の中にある理性と知性は常人のそれとは比べものにならなかった。

 

「テーマは『QUANTUM MECHANIC:A way of describing every forse and all matter』…では、発表を始めます」

 

 

約1時間後、その場にいた研究者は席を立ち壇上の少女に惜しまない賞賛を送ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きっとたくさんの人があなたの頭のよさを褒めてきたから、そういう褒め言葉は割愛させてもらうわ」

 

彼女はコーヒーを手に、自然にメイの横に移動する。

 

女性の胸元にある名札を書いてある名前は___メビウス。

メイは当然相手のことを知っている。ムー大陸の学術集会は誰もが知っている。そこに招待された人は、その名前を耳にしないはずがない。

ただ解せないのだ。遺伝子学でトップクラスの学者が自分に話しかけていたことが。それに、外部の話によると彼女はもう……。

 

「お褒めいただき、ありがとうございます。博士」

 

いくら頭がよくても、今のメイはただの女子高生。我に返ったとき、彼女の頬は少し赤くなっていた。

 

「ふふっ、緊張しないで。ちょっとお話をしてみたいと思ってただけだから」

 

「あなたの論文を読ませてもらった。よくできてる、研究を続ける価値があるわ。それで、少し質問してもいいかしら?」

 

そう言いながら持ち歩いている手帳からページを引き裂き、素早く数字を書き込んだ後、少女に渡した。少女はページを受け取り、微かに頷く。

 

「まず、一つ目……」

 

緑色の髪をかき上げ、少し照れている少女の顔を見ながら質問した。

 

「彼氏はいる?」

「………はい?」

 

まさかそんな質問をされると予想していなかった少女ではあったが、相手がメビウス博士だと考えるとその質問の合理性を疑うことはなかった。

 

「い……いません」

「うーん…いいリアクションね。好きな子でもいるのかしら。はぁ、若者はいいわね……」

 

正確な年齢は分からないが、若々しい容姿をしていながらもその時だけは強い哀愁が感じられた。

 

「では二つ目。わたしの論文や研究報告を読んだことはある?何か感想とか、わたしに言いたいことでもいいわ」

 

突拍子もない発想は少女の想像を遥かに超えていたが、それでも彼女のそのテンポに追いつこうとした。

 

「論文は全部読みました。しかしまだ理解できてない部分があって…それと……」

 

少女は声を低くして、質問をしていいか迷っている。

 

「それと、博士はこういう講演会に長い間出席していなかったので、少し疑問に思って……」

「………あっ、講演会……どうして長い間顔を見せなかったって聞きたいのよね?仕方ない、やることがたくさんだもの」

 

メビウスは少女の話を中断させ、爽やかな笑顔で答える。

 

「分からないことがあったら、いつでも電話して。さっき渡したのはわたしの電話番号だから。…時間がないから本題に入るわね。もたもたするとまた彼らに文句を言われるから」

「彼ら……?」

 

メビウスは目を少し細めた。他者からは気づかれないほどの小さな変化だ。

 

「あっ、なんでもない。仕事のことよ、気にしないで。次の質問、あなたは人類のより美しい未来のために、人類の敵になることを選ぶ?」

「えっ……えーっ?」

 

その質問はあまりにも唐突で、彼女の頭の中はまだメビウス博士の論文で一杯だった。

 

「私は……」

 

彼女は迷った。そういうことを今まで一度も考えたことがないからだ。しかし、顔を上げ蛇のような奥深いメビウス博士の目を見つめると、その迷いは少し消えたようだ。

なぜなら、答えは目の前にあるからだ。

 

「もし…それが本当に人類により美しい未来をもたらすのなら」

 

彼女は言う。

 

 

 

「そうします」

「………」

 

 

 

「よろしい。では次の質問…」

 

電話の音が彼女の質問を止めた。彼女はイライラした表情で電話をチラッと見ると、更に嫌そうな顔になった___彼女は電話の相手が嫌いだが、電話に出ないとならないからだ。

 

「急な用事があるなら、また後で話しませんか」

 

少女はもらった紙を指差し、電話のポーズを取り、空気を読んでその場に離れた。

少女の後ろ姿を見ながら、メビウスは電話を取った。

 

《メビウス、火を追う蛾の管理区域を勝手に離れるなと警告したはずだ…》

「そんな話より、いいお知らせがあるんだけど。聞いてみる?」

《君の言ういいお知らせが、我々の思ういいお知らせだと願っているよ》

 

「わたしたちが必要としてる人………もう見つけたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ムー大陸で一つの国だったらしい。
第4次より後にヴィルヴィもムーでマジックショーツアーしてたらしい。
描写にある学術集会の会場はそんなに豪華じゃなくて無機質で地味なホール的な場所。らしい。

原文が読みやすすぎて自文との落差が酷い…
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