記憶喪失のTS娘が頑張ったり頑張らなかったりするお話 作:祈るね☆
メインストーリーばっかり読んでたせいで、最終章でネタバレを先に見てしまった感覚に陥ってます。
ちゃんと調べてイベストも読んでおけば良かった……!
シャーレなる場所に向かうと言うのでオレは先生とユウカの後ろをホイホイとついて行った。
知らない場所というのもあり街並みに興味津々。割と栄えてる所だったので何があるのかとキョロキョロとしていたらお上りさんと思われたらしく、2人からは微笑ましそうな顔で見られてしまった。知らない場所なんだから仕方ないじゃん?
二人は色々な説明をしてくれた。ここがキヴォトスという名称で様々な学園が連なっている学園都市である事や改めて先生がどういう仕事をしている人なのかとか。あ、あとはユウカが所属しているミレニアムサイエンススクールという学校の事など、色々と分かりやすく教えてくれた。
ちなみに先生はオシャレの先生でもダジャレの先生でもなかった。悲しいね。
そういえば歩いてて気付いたけど、背が縮んだせいで歩幅も小さくなってしまい、足がなかなか前に進まなくなってしまった。後はなんか妙にバランスが取り辛いし、歩くだけでもだいぶ疲れる。
幸い、二人がオレに合わせて歩いてくれるのでなんとか付いていくことが出来ているが、だいぶペースが遅れてしまったかもしれない。ちょっと申し訳ない。
やがて来客用の部屋まで案内されると先生は茶を淹れてくると席を外した。その際ユウカが自分がすると抗議する場面もあったが、先生にその申し出を断られたので、今は大人しくオレの対面に座っている。
……やることが無い。なので、何故か落ち着かない様子を見せるユウカをじっと見つめていると、無言に耐えかねたのか向こうから口を開いた。
「ところで貴女、一人称をオレとか言ってるから一応聞いておくけれど、女の子よね?」
「……分からんぜ?」
「いや、なんで勿体ぶるのよ。さっさと教えなさいよ」
「まぁ待て。見た感じ確かにオレはカワイイ。けど、カワイイ男の子がいても……いいんじゃないか?」
「自分で言うのね……。それは別に否定はしないけど……え、ちょっと待って。もしかして本当に男の子なの?」
「フッフッフッ」
ユウカに言われるまで気が付かなかったが、もしかしたらカワイイだけで実は男な可能性もあったりなかったりする訳だ。
にやりとワルそうな笑みを浮かべつつこっそり股を弄る。……うん。
「……オンナノコでした」
「でしょうね。私、ヘイローのある男の子なんて見たことないし」
「ヘイローってなんだ?」
「何って……そんなことまで忘れちゃったの?話してる限り意味記憶は残ってそうなんだけど、完全にって訳ではないのね。ほら、頭の上に輪っかがあるでしょ?これがヘイローよ」
ユウカは自分の頭の上を指さした。なるほど、天使の輪っかの事を言っていたのか。改めてみると、マジでなんだあれ?先生にはついてなかったし、ユウカの言い分だと男には輪っかが無いってことなのか?
「ふーん」
「貴女にもあるのよ?」
「え?本当に?」
そう問うとユウカは手鏡をオレに渡してきた。
……ホントだ。なんかあるわ。
気になったので触ってみようとすると……手が貫通した。まるでARのように触れることが出来ない。なんやこれ。
「触れないんだけど、ユウカのもそうなのか?」
「そうね、触れるものではないわ。後は翼もあるわよ。トリニティ辺りの生徒に多い有翼種ね」
「うおっ、本当だ!ちっさ!いらね〜!」
全く気付かなかった!なんとか首を回して背中あたりを見てみると、確かに翼がある。めっちゃちっちぇえなおい。こんなんじゃ飛べねぇだろ。なんのためにあるんだよ。というか服の上から見えてるけど、オレの服の構造どうなってるんだ?
「ユウカにもあるのか?」
顔を左右に揺らしながらユウカの背中を見ようとすると、ユウカは苦笑しながら否定した。
「私にはないわ。こういうのは人によるのよ。中には角や尻尾が生えてる人だっているし」
「へぇ〜」
ユウカの言葉に頭や臀部辺りを触ってみるが、流石に角と尻尾はなかった。とはいえ、翼があるだけでもすごい変な違和感だ。もしかしてオレが歩き辛かったのって、これのせいか?これのせいでバランス取るのに苦労してたのか?……早急に馴染ませる必要があるなこれは。ちょっと動かしてみるか。
オレは自身の翼の部分を意識して動かそうとしてみる。けど……。
「……動かない。これ飾りか?」
自分で触ってみるが、感覚があるような、ないような……?記憶を失う前には持ち合わせていなかった筈の部位なので、頭の理解が追い付いていないのかもしれないな。知らんけど。
「自分で触れても分からないの?……す、少し触ってみてもいいかしら……?」
「いいぞ……うひゃんっ!?お、おい、やめろ!ちょっとビンカンっぽいから優しい手つきで触るのをヤメロ!触るならもっとガッシリ持て!」
「ご、ごめんなさい……!
顔を赤らめながら否定するユウカ。言い訳はいいわけ(激ウマギャグ)
「と、というかやっぱり貴女の翼なんじゃないこれ!……真っ白できめ細やかで、すごく綺麗だわ」
オレの翼は真っ白で綺麗らしい。それはとてもいい事ではあるが、現状は歩くのに不便する部位ってだけの存在だ。こんなに小さいのにオレの邪魔しやがってよぉ。
ユウカが触れた事で翼が動く感覚を理解したので後でちょっと試してみるとするか。
そのまま自由に翼をイジらせながら取り留めのない会話を続けていると先生がお盆を持って応接室へと入って来た。
「お待たせ。アイスティーしか無かったけど、いいかな?」
「あれ、本当ですか?珈琲もまだ在庫があった筈なんですが……」
先生はお茶をオレ達に分配すると対面に腰掛けた。ユウカもオレの翼をイジるのを止めるといそいそと先生の隣へと移動した。なんか面接でも始まりそうな雰囲気だが、この場を包む空気は柔らかい。
「どうやら仲良く過ごしてたみたいだね」
「はい、ユウカが好意的に接してくれたので、オレも話しやすかったです」
「それは良かった。ユウカもありがとう」
「いえ、当然の事をしたまでです」
なるほど、妙に戻ってくるのが遅いと思いきや、どうやら先生は年の近いオレ達を2人きりにして会話させることでオレの緊張を解いてくれたようだ。たしかに来る前よりかはリラックス出来ている気がする。気配りの達人か?
それからユウカとどんな会話をしていたとかシャーレ内部がどうとか軽く雑談をしていると、やがて先生は少し真剣な顔つきになり、ゴホンと一つ咳払いをした。
「ユウカ、悪いけど……」
「分かりました。また後で教えてくださいね。……貴女も、またね?」
ひらひらと手を振ってきたのでオレも手を振り返した。ユウカは微笑みを浮かべると扉の外へと出ていった。ここからが本題という訳だ。
「それで、改めて詳しい話を聞かせてほしいんだけど、大丈夫?」
「はい、今はある程度現実を受け入れたので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「あの様子を見たらね、ちょっと心配になっちゃって。ところで、もっと砕けた口調でもいいんだよ?敬語とかそんなの気にしないから」
「い、いえ、流石に……これからお世話になる方に対して」
「そう?まぁ、慣れたらでいいよ」
オレは改めて現状を語った。最初の記憶が銃撃戦に巻き込まれた時で、それ以前の記憶が靄がかかったように思い出せないこと。分かっているのは以前はここではない何処かに住んでいた事と、自分の容姿に違和感を覚えていること。
どれも確証のないものだ。本当は元からこの容姿で、キヴォトスという土地に住んでいた可能性だってあるのだ。
信じてもらえないかもしれない。気狂いだと思われるかもしれない。先程は受け入れてくれたが、先生の気が変わってしまうかもしれない。
そう思うと、口を開けば開くほど震えが大きくなっていく。受け入れたとは言ったが、改めて口にすると現実が浮き彫りになっていく。オレはこの先どう生きていけばよいのだろうか。
「落ち着いて。大丈夫、大丈夫だから」
先生の言葉にハッと我に返る。先生は変わらず真剣な、しかし人を落ち着かせるような優しい表情でオレに向き合ってくれていた。ネガティブな思考は全て、オレの思い込みだ。
落ち着いたオレは、いつの間にか俯いていた顔を改めて先生の方へと向き直した。
「……君の容姿を元に連邦生徒会が管理しているキヴォトスの住民票で該当、もしくは類似する人物を探していたんだけど、君のデータは何処にも存在しなかった。それはつまり、君は私と出会う以前にはキヴォトスに存在していなかったという事だね」
「それは……」
「だから、記憶を失う前の君が、仮にその身体でなかったとしても、それが君以外の誰かの身体を借りている事にはならないよ。正真正銘、君自身の身体だ」
オレは愕然とした。先生に言われてようやく気が付いた。オレは誰かの身体を奪って生きている可能性だってあったのだ。
悍ましい。憑依と呼ばれるそれ。可能かどうかは別として人道的に考えても許されざる行為だ。もしもそうだった場合オレは悪霊と呼ばれてもおかしくはない。
しかし、先生はオレがその考えに至る前に否定してくれた。わずかな吐き気を飲み下し、何度か深呼吸をした。……ふぅ、よし!
「……でも、キヴォトス以外の場所に居たかまでは分からないんですよね?」
「うん。流石にキヴォトスの外までは確認できない。でも、外にはヘイローを持つ人はいないからね。そこは確信が持てるよ」
「どうしてか、聞いてもいいですか?」
「それは、私がキヴォトスの外から来た人間だから」
そうだったのか。だったらやっぱりこっちに来る時に身体が性転換した上に幼くなったって訳か?いや、記憶がないから性転換も幼児化も本当に信じて良いのか自分自身でも疑わしいんだよな。多分合ってるとは思うんだけど……。
……ん?というか、先生もキヴォトスの外から来たって言ってたな。ということはもしかして……。
「先生は、オレと同じ場所からここまで来たんですか?」
「厳密には分からないけど、そういう可能性もあるよね」
「……と、ということは、外の世界の先生は──女だったりしませんか……!?」
「ええっ!?ど、どうしてそう思ったの……?」
「その反応……やっぱりそうなんだ!」
思ったとおりだ!オレは、この抜けまくりの記憶が正しければキヴォトスに来る前は男だったはずなのだ。それがこっちに来て女に性転換している……つまり、逆に女は男に変わるって寸法だ!男は女に、女は男に、なんともバランスの良い話じゃあないか。何故先生にヘイローが無いかは不明だが、オレの推理は概ね合っているはずだ。
腕を組んで一人でウンウンと頷いていると先生は慌てた様子で口を開いた。
「待って待って!違うから!私は産まれてからずっと男だよ!」
「慌てて否定してる……怪しい」
「怪しくないよ!?本当のことだから!そもそも私が嘘を付く理由がないよね!?」
「……そうですか」
「そんな事で落ち込まないで……!」
どうやらこの理論はオレの記憶の如く穴だらけだったようだ。
先生はゴホンと一つ咳払いをすると場を仕切り直した。オレも少し佇まいを正す。
「それで、今後の君の今後についてなんだけど、まず君のことはシャーレ所属の生徒として住民登録しようと思う。生活するにあたって衣食住はシャーレが保証するし、私の仕事を手伝うことでお給金も出るよ。ざっくり言うと住み込みのバイトみたいなものだね」
「住民登録って、シャーレはそんな権限まであるんですか?」
「うん、何せ超法規機関だからね」
「シャーレすご!」
至れり尽くせりだな。ここまで来ると好意を通り越して何か裏があるのかと疑ってしまいそうだ。たがもうそこについては疑ってない。気絶していたオレを保護してくれたのは先生だし、オレの事を思って行動してくれているのはなんとなく分かる。悪い人だったら、その時はオレの見る目がなかっただけだ。
そもそも、オレには何も無い。わざわざ騙してまで得られるメリットがないのだ。
「でもまずは医者に診てもらおう。あ、君のことを疑ってる訳じゃないよ?診断書があれば何かあったときに役に立つかもしれないし、専門家の目から診てもらった方が正しい処置を受けられるかもしれない。私は先生だけど、医者ではないからね」
「分かりました」
オレの今後の流れについては先生に一任することにしよう。少なくとも、先生の話を聞く限りオレが何をしないといけないのかは、オレより先生の方が知ってそうだしな。
ユウカのところに戻ろうという先生の言葉に、オレは素直に従い、後をついて行った。