人間になりたくて!   作:苦鳴

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顕現

「シドがアレクシア王女と付き合い始めたという噂を耳にしたのだけど、どういうことかしら。」

 

「どうもこうもないよ。噂通りだね。」

 

 なんかシドの姉のクレアに現在図書館で詰められている。なお、視線の先にはシドとアレクシアが共に本を読んでいる様子がある。このブラコンは弟が誰かと付き合うことが許せないらしい。

 

「そんなわけないじゃない。シドが王女と付き合おうとするはずがないじゃない。あなたなら何か知ってるでしょ。」

 

 まあ知ってるけどね。だけどそれを他人に教えるのはいくらクレアだろうと好ましいことじゃない。シドが悪いとはいえゼノンとの婚約話をなくしたいがために利用されていると知ればたとえ王族相手であろうと噛み付くだろう。つまり私が取るべき行動は沈黙のみ。

 

「二人が付き合っているってことぐらいしか知らないかな。」

 

「そんな嘘ついてないでさっさと吐きなさい。でないと直接聞きに行くわよ。」

 

 そんなことされたら私がアレクシアに睨まれるに決まってるじゃないか。何でそう的確に私の嫌がることをしてくるかな。

 

「はいはい説明しますよ。」

 

 すまないね二人とも。多分こっちの方が話が都合よく進む。

 

 というわけで他の人にこの話を聞かれないように細心の注意を払ってことのあらましをクレアに説明した。事実をそのまま話したら拗れること間違いなしだがら一部嘘を交えながら。

 

「なるほどね。つまりシドは望んでアレクシア王女と付き合っているわけじゃないのね。」

 

「そういうことだね。」

 

「ツクラならまだしも他の女がシドと付き合うなんて私の許可なしには許されないもの。」

 

「何で私は許されてるのかなあ……?」

 

「本当は誰にも渡したくないけどあなたなら何とか許せるってだけよ。」

 

 だから何で? そこまでクレアの好感度を稼ぐようなことをした覚えはないんだけど。たしかにクレアとは去年からの付き合いだけどブラコンのクレアが許せるだけの好感度は稼いだ覚えない。

 

「まあ私は誰かとそういう関係になるつもりがないからあまり意味がないけどね。」

 

「そんなに可愛いんだからもったいないわよ。」

 

 そもそも人間じゃないのに人間とそういう関係になったら大変だろうからね。やっぱり結婚とかは同種族とかある程度近い種族の間でするべきだと思う。つまり色々と混じったよくわからない存在の私はそういうことはありえないってわけだ。

 

「それは自覚してるけどやっぱり私はそういうのはいいかな。家は兄さんが継ぐから私はあんまり気にしなくていいしね。」

 

 だって養子だし。

 

「まあ、聞きたいことも聞けたし私は帰るわ。」

 

「経過報告はするから安心してねー。」

 

 というわけで、なんとかクレア襲来は無事に乗り切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれからしばらくした後、アレクシアが誘拐された。

 

 あれから二人が付き合っていることを証明するように街でデートを繰り返しているのを監視しつつゼノンの動きにも注意を払っていた。そろそろゼノンが動くだろうという予想からアレクシアを影から見守っていたのだけど、たまたま用事があった日にことは起きた。

 

 ナイツオブラウンズがこの近辺に来ているという情報をキャッチしたから調査に行った日のことだった。あと、大本命の目的として悪魔憑きになってエルフの村から追い出されたあの子の捜索。もっとも、その情報は誤っていたらしく十二人の騎士は現れなかった上に、あの子らしき悪魔憑きがいたというのも誤りだった。とはいえ、一人悪魔憑きの子を助けることができたから良かったが。

 

 だけどアレクシアが攫われた。

 

 全く動きが変わらないということから油断していた。一日ぐらい空けていても大丈夫だろうとたかを括っていた。自分のバカさ加減に腹が立つ。私のそんな予想は何の役にも立たず、こうしてアレクシアが攫われる事態を招いたのだから。

 

 一人で何でもできると驕って行動していたが、シャドウガーデンにでも頼めばいい話だった。それをしなかったのは彼女たちを信用できていなかったから。自分の正体が露見するリスクを増やすことになるからそう簡単に信用はできない。ただ今となってはその判断は間違いだったと言わざるをえない。

 

 ただまあ、居場所が分かっているのが幸いなことだ。地下の水路のある場所にいるらしいが今すぐに助けに行けない事情がある。

 

「さっさと吐け!!」

 

 それがこれだ。騎士団とは名ばかりの荒くれ者どもにアレクシア王女誘拐の事件に関わっているとみなされて尋問を受けている。一応最低限の配慮として女性が担当しているが、実質的には大差ないだろう。

 

 最近頻繁にアレクシア王女と行動を共にしていたから怪しまれたのだろうが、それだけで私を拘束するとか流石に横暴がすぎるんじゃないか? とは言っても今私を担当している騎士はディアボロス教団の息がかかった者たちだから都合のいい人間として私を犯人一味にしたのだろう。

 

 騎士団の予想はシドと私が協力してことを起こしたというものだ。最後にアレクシアと接触したのがシドで、一番の容疑者だったのだが、一人で攫うには実力が足りないとか何とかで私が共犯者ということになった。

 

「お前がやったんだろ!」

 

 そう声を荒げながら拳を振り上げる。この程度の威力では大した痛みなんて感じることはないのだが、今の私は実力平凡な魔剣士。これに痛がらないなんて不自然以外の何ものでもない。だからできるだけ情けない声を上げてやろう。

 

「うああああ!! やめてくださいぃぃ! 私は何も知らないんです! お願いしますやめてください!!!」

 

「お前らしか犯人はいないんだよ!!」

 

「ひっ! や、やだやだやだやだ!! や、やめ、あああぁぁぁぁ!!!」

 

 まあこんなものだろう。

 

 多分私と同じようなことやられているだろうけど、シドの方は大丈夫かな。ある程度離れた部屋に隔離されているらしいからこのままじゃ音も聞こえない。ちょっと耳を澄ませて様子を伺ってみようかな。

 

 痛がる演技をしながら耳を澄ますとシドの悲鳴が飛び込んできた。やめてくれと言っているのに痛ぶることを楽しむようにげひゃげひゃと下品に笑っている。

 

 へえ、いい度胸じゃないか。私の友人をそんな目に合わせてタダで済むと思うなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 私とシドが解放されたのは何日か経った後。同じタイミングでゴミのように叩き出されたから目があった。

 

「お互いボロボロだね。」

 

 久しぶりに会ったシドの姿は酷いものだった。あざだらけで足とかに何かを執拗に刺されたような傷跡がある。どうやら私とほぼ同じような尋問メニューだったらしく、私情は持ち込んでいないらしい。

 

「僕たち何もやってないのにね。」

 

「まあ、きっと何とかなるでしょ。」

 

 友人共々こんな目に遭わされて黙っていられるわけがない。私たちに罪を押し付けられて死刑になる前にケリをつける。決行は今夜。シャドウガーデンに連絡をとりつつ叩きのめすとしよう。

 

「じゃあ私は女子寮だから。じゃあまた明日ね。」

 

「まだ明日ー。」

 

 尾行はシドの方に二人、私に三人、全員男。私をつけて来ている奴らは私の方に下卑な視線を向けてくる。そんな熱心に気持ち悪い視線を向けられて気づかないほど私は鈍いと思われているのだろうか。下手したら路地裏で性的に襲われるかもしれないが、流石にそんなヘマはやらかさない。

 

 ディアボロス教団に関わりのある者に慈悲なんて与えない。せいぜいそれまで楽しい夢を見てるがいいさ。

 

 

 

 

 

 コツ、コツと音を鳴らしながら夜の街を歩く。私の部屋の前に置かれていた差出人不明の呼び出し状。どう考えたって罠だが、こちらとしても都合がいい。

 

 指定の場所には私を尾行していた三人。前に二人、後ろに一人と一本道のこの場所では挟み込まれて逃げ場がない。私が逃げられないように挟み討ちというわけだ。もっとも、その包囲がなんの意味もないことだとは露にも思っていないようだが。

 

「よぉー、姉ちゃん。こんなところで何してんだ?」

 

 その汚らしい欲望を隠そうともせず、私に声をかけると同時に何かを私に投げつけられた。反射的にそれを掴むと、それはアレクシアの靴だった。

 

「あーあー、魔力痕跡バッチリ残っちゃってるよ。こりゃあお前が犯人で決まりだなあ。」

 

「ま、そういうことだよね。」

 

 何ともまあ下らない考えだ。証拠がないから作ってしまおうという犯人を探す騎士団としてあるまじき行為。子爵家の子供、それも養子なんて適当な犯人として晒しあげるには都合がいい。

 

「ツクラ・レーター、お前をアレクシア王女誘拐の容疑で逮捕する。」

 

「へへへ、まあその前に俺たちだけで少し楽しませてもらうけどな。よく見りゃあいいツラしてるじゃねえか。」

 

「や、やめてください……!」

 

 

 

 騎士が下衆な笑みを浮かべながら拳を振り上げた。動けないように痛めつけた後はどう楽しんでやろうかと考えを巡らせる。怯えた表情でか弱い声を絞り出した女の顔を不慈悲に打ち据えるというのは気分が良いものだった。

 

 魔力で全身を強化してのパンチ。現役の騎士のそれを学園の生徒に防げるはずもなく、その場にいた全員がツクラが殴り飛ばされる光景を幻視した。

 

「まあ、分かってはいたけどこんなものだよね。」

 

「あん?」

 

 ツクラが何事かを呟いた。先程までの震えはどこへ行ったのかと思うようなしっかりとした言葉。それと同時に魔力を走らせた。

 

 騎士の動きが止まる。

 

「おいおいどうした? いざ襲うってなって怖気付いたのかよ。」

 

 仲間の騎士から揶揄うような言葉がかけられるが、それでもツクラの眼前に立ち尽くしたまま動かない。それには流石におかしいと感じた騎士たちが声を荒げる。

 

「おいどうした!?」

 

「あ、あぅぁ。」

 

 それに彼が答えることはなく、小さな呻き声をあげて後ろに倒れ込んだ。

 

 騎士が退いたことで彼らの目に飛び込んできたのは真っ赤な剣を構えたツクラと心臓を突かれて流血し、絶命した仲間の姿だった。

 

「な!? お前何のつもりだ!?」

 

「悪党の最後なんてこんなものだよね。」

 

「こ、こんなことをしてただで済むと思っているのか!!??」

 

「何の問題もないよ。」

 

 そこにはもう自身の危機に怯えていた少女の姿はなく、騎士たちを冷徹な瞳で見つめる残酷な表情をした一人の剣士の姿があった。

 

 薄紫色の瞳に魔力が灯る。静かな魔力の発露とともにツクラの装いが変化していく。地味な学園服から燻んだような灰色のコートに。かけていたメガネはいつのまにか消えてその美しい容貌が静かな夜に浮かび上がる。

 

 その変化に一瞬見惚れた騎士二人はツクラより放たれた真っ赤な槍に貫かれ、あっさりと命を落とす。

 

「今夜のうちに全て終わるから。」

 

 遠くから建物が倒壊するような音が響く。それをシャドウガーデンが行ったものだと判断したツクラは顔を顰め、苦言を呈した。

 

「もう少し静かにしてくれればいいのに……。」

 

 とはいえ、すでに開戦の合図は告げられた。ならば自身のやるべきことをなすべきだと判断し、後でしっかり文句は言わせてもらおうと思いながらその場を後にした。

 

 そして彼女が立ち去った場所には争いなどなかったかのように静けさで包まれていた。倒れていた騎士たちもいつのまにか消えて。

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