人間になりたくて!   作:苦鳴

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決死

 先程までの戦い方とは一変。変幻自在、自由自在の血槍が四方八方からシャドウに襲いかかる。

 

 幾十にも重ねられるような軌道を描いて走る赤色の線は人が通れる隙間など全く作らない。回避はできず、防御も全方位をカバーすることは叶わない。少なくとも一撃は入れられるだろうというのがツーレの考えだった。

 

 シャドウが魔力を充実させ、剣へと込めた。

 

 そして一振り。

 

 それだけで周囲を取り囲んでいた槍は細切れにされた。だが、そんなことは想定の内だと言わんばかりに即座にツーレが飛び込んだ。後ろに振りかぶり剣を体で隠すようにして吶喊。

 

 当然と言わんばかりにシャドウは反応する。だが剣を隠したのは剣の形状を悟られないようにするため。脇から姿を見せたのは剣ではなく巨大な鎌であった。

 

 腰の捻りを加えて強大な遠心力の力を最大限に乗せ、死神がもたげるが如く鎌を引いた。取り回しが難しく相応の技量を必要とされる鎌は使える者が使えば化ける。その見た目に相応しいだけの威力を見せ、敵を膾切りにしてみせるだろう。

 

 シャドウは軽く後ろに下がることで大振りな攻撃を避けるが、避けた先には先程細切れにされた血を再び集めて瞬時に形成された槍があった。

 

「ほう。」

 

 背後からの攻撃とはいえ手元から離れた魔力の制御。シャドウにとってそれを受けることなど、何ということはなかった。

 

 カンカンカンと鉄と鉄がぶつかり合うような音が接触時に発生した。身に纏うスライムスーツに魔力を流し込むことで強度を上げて槍を弾いた。だが間髪入れず次の一手が迫る。

 

 血液を鞭のようにしならせて左右から挟み撃ちの形で攻撃。倒れ伏すような挙動で思い切り下に避ける。シャドウの目前に鋭く尖った突起物が迫っていた。それを首を軽く傾げることで最小の動きで回避し、トン、と軽く敵の懐に飛び込んだ。

 

 武器を振るのには近すぎる間合い。先程まで手にしていた剣はスーツの一部と化して無手となっている。この間合いは格闘技の間合い。シャドウの最も得意とするのは剣ではなく格闘。

 

 思わず見惚れてしまうような流麗な動きでツーレを掴み地面に叩きつけた。カハっと肺から空気を漏らす。地に伏したツーレにシャドウの追撃の蹴りが迫る。だが、それをツーレは人間とは思えないような動きで回避した。

 

 宙に跳び、人体の構造を無視したかのような挙動で回し蹴りが放たれる。流石のシャドウもありえない反撃に僅かに反応が遅れる。胴の脇に蹴りが直撃。シャドウはそれに合わせて跳ぶことで威力を低減する。

 

 無数のナイフが投擲される。人外の膂力で放たれた投擲物は感覚の鋭い獣人であろうとも回避は不可能な速度。それをシャドウは投擲の際の体の動きから軌道を完璧に見切っていた。自分に当たる軌道のものは剣で弾き、そうでないものは無視する。

 

 だが当然このナイフも操作されて飛び回る。弾かれた後も追尾するようにシャドウに襲いかかる。ナイフの後ろには目を凝らさなければ見えないほど細い糸が繋がれている。シャドウに当たらない軌道だったナイフがグルリと一周して縛ろうとする。

 

「無駄だ。」

 

 一閃。それだけで全ての糸が断ち切られる。切られた箇所から糸が解れるかのようにナイフが糸状になっていく。大量の鋼糸による飽和攻撃。回転しながら殺到するそれは、殆どが黒衣に阻まれたが、一部はその守りを破り、微かな傷をつけた。

 

「これだけやってそれだけとか自信を失いそうになるね。」

 

「なに、我が今まで戦った中では最も強い。恥じることはないとも。」

 

「そうは言われてもショックなものはショックだね。」

 

 ツーレの魔力が高まった。空中に波紋が現れる。膨大な魔力を空中で圧縮しているために起こった現象。これはかつて異形の天使が使っていた技の模倣である。

 

 圧縮した魔力をただ放つだけの単純な攻撃。だがそれは体外に放出された魔力の制御の難易度を考えるとあまりにおかしいことだ。魔力を体外で留め、圧縮する。文字に起こすと簡単だが、それを実際に行うのは卓越した魔力操作の技術がないと不可能だ。

 

 ツーレはこの技を魔砲と名付けた。魔力を砲撃のようにして攻撃するから魔砲。些か単純ではあるが、技の名前などわかりやすい方がいい。

 

 この魔砲は込められた魔力がどれだけ圧縮されたかによって威力が変わる。多ければ多いほど齎す破壊の規模は拡大する。

 

 この一つ一つの魔砲に込められた魔力はいかほどか。それは膨大な魔力をもつツーレが自身を遥かに上回る相手に対して選んだ技だということで想像は容易いだろう。

 

 当たればそこらの魔剣士がどれだけ厚く防御を固めていても消し飛ばし、その余波で周囲の地形をも変える。シャドウガーデンに所属している者たちが受けたとしても致命傷を負うことは間違いない。

 

 砲門が一斉に火を吹いた。赤紫色の光がシャドウに殺到する。美しく幻想的な光景だが、その実態は人間一人など容易く破壊する絶死の魔砲。

 

 先程までの血槍とは異なり、剣で防ぐことは不可能。回避する隙間もない。つまりシャドウはその身で受けるかなんらかの方法で迎撃しなければならない。そしてシャドウは後者の方法をとった。

 

 スライムスーツからスライムを極小でいくつも切り離し、圧縮した魔力を流し込む。そして発射。一発一発を全て魔砲に正面からぶつける。だが、込められた魔力量は魔砲の方が上であり、相殺することは不可能。

 

 しかしシャドウの狙いは威力の相殺ではなく、分散させて逸らすことだった。散弾となった魔砲がシャドウを避けるように通り過ぎる。何か不思議な守りに守られているかのようなシャドウの前には魔力による光でカーテンができていた。

 

「まあ、これぐらいはやるよね。」

 

 ここまでの戦いで空中に拡散された魔力。それらを利用してシャドウの周囲を囲うように魔力の波紋が生み出される。

 

「少しばかり制御がキツイけど、これぐらいやらないとね。」

 

 そして一斉砲火。至近距離から破壊の力を秘めた魔砲がシャドウに向けて放たれた。

 

「少し、力押しが過ぎるな。」

 

 魔砲が溶けるように霧散する。

 

「は?」

 

 歴戦の戦士であるとはいえ、この異常な事態にはツーレも動きを止めてしまう。

 

 瞬きの間にシャドウがツーレの間合いに潜り込む。ツーレの反応速度であれば対処は可能。ツーレが迎撃に選んだのは蹴り。剣を作っていては間に合わないと判断したが故に。

 

 自分が一撃を喰らうことは覚悟して、相手にもダメージを与える肉斬骨断の構え。例えどれだけ強力な技を繰り出してこようとツーレの肉体であれば耐えられる。しかしそれはシャドウとて分かっていること。単純な攻撃など選択しない。

 

 シャドウの掌に魔力が集う。それはツーレが行っていた絶技の模倣。体内で絶えず圧縮と爆発を繰り返している魔力を突き出した腕から放出する。ツーレを超える魔力制御技術を持つシャドウであれば魔砲の使用は容易いことだ。

 

「少し甘いね。」

 

 魔砲はツーレにとって自身が得意とする技であり自身を最も追い詰めた技である。それが予想外の攻撃だったとしても対処することなど容易いことだ。

 

 シャドウから放たれた魔砲に真正面からぶつけるようにして瞬時に魔砲を放った。魔砲と魔砲が衝突したことで風が巻き起こり、土煙が立ち込める。そして当然のように蹴りは不発。回避されたようだ。

 

 土煙を目眩しにシャドウの直上より魔力の線が降り注ぐ。最初の魔砲砲火の際に天へと打ち上げていた。それが時間をおいて降り注いできたのだ。

 

「魔力が隠しきれていないな。」

 

 シャドウは踊るようなステップで目視することなく躱していく。それを見たツーレは顔を顰めながら、分かっていましたよとでも言いたげに血槍を形成、シャドウに差し向け自身も吶喊する。

 

 薄紫色の光の雨が降り注ぐ中、立合の最初に戻るかのように剣を交わす。絶えず降り注ぐ光はシャドウにのみ作用する柵。その動きを制限することでツーレは剣での戦いを成立させていた。そして死角からここぞというタイミングで襲う血槍。純粋な手数の差でツーレはシャドウを僅かにではあるが押しているように見えた。

 

「なるほど、確かに強い。だが、いくら死角から攻撃を仕掛けようと、察知されては無意味だ。」

 

 意識の外側から攻撃しているはずなのにシャドウは全ての方向に目があるかのようにあらゆる攻撃を凌ぐ。

 

 血槍を防ぐ。

 

 魔砲を躱す。

 

 雨を避ける。

 

「魔力感知による回避かな?」

 

「その通りだ。中々に上手く隠しているようだが、完全ではない。ならばそれを感知するなど容易い。」

 

「それをできる人なんてほぼいないんだけどね。」

 

 

 シャドウは魔力感知すらも卓越していた。常人であれば感知が不可能な程に隠蔽されたツーレの魔力でさえも感じ取ることが可能だ。

 

 死角からの死の突きを避け、降り注ぐ破壊の雨を避け、剣を交わす。

 

 その只中でシャドウの剣がツーレの腕の腱を断ち切った。均衡した戦闘の中で生まれた僅かな隙。それは隙とはいえないようなほんの小さなものではあったが、シャドウにはそれで十分だった。

 

 ダラリ、と剣を握っていた腕が垂れ下がる。つまり攻め手が緩んだ。ということは、シャドウの攻撃を無防備に近い形で許すことになる。

 

「終わりだ。」

 

 ツーレの体が肩から袈裟斬りに斬り捨てられた。傷口から致命傷に届くだろう鮮血が飛び散る。体勢を崩し、体が前面に倒れ始める。この勝負はシャドウの勝利に終わった。

 

 そうシャドウも確信した。

 

 

 

 

 

 

 その攻撃をかろうじて躱せたのはシャドウがツーレを高く評価し、これで終わりではないかもしれないと考えていたが故である。

 

 

 

 

 

 足元より真っ赤に染まった針が尋常ではない速度で飛び出し、シャドウの足を貫いた。

 

 シャドウの直下、つまり地中よりシャドウを突き破る時をずっと待っていた血槍どもが完全消音でシャドウにすら直前まで察知されることなく潜んでいた。見た目からしても分かりやすい魔砲を使ったのも、血槍の魔力を自分に出来うる最大で隠蔽を施さなかったのも、全てはこのため。ツーレの攻撃は全て察知することができるとシャドウに植え付けるためだった。全ては敵が勝利を確信した時に仕留めるために。

 

 ツーレはここまでやればシャドウにも深手を負わせられるという見積りだった。だが、その予想に反してシャドウは直前で避けに動いた。それにより体の中心を貫くはずだった血槍は右足の太腿と左足の脹脛を貫くに留まった。

 

「ようやく……当たったね。」

 

 シャドウに斬られた傷口より流れ出る血液を剣へと転じさせる。だが致命傷に近い傷を負わされた直後の者が振るう剣など、手傷を負った直後であろうとシャドウに防げぬはずがない。

 

 体が言うことを聞けば、だが。

 

 シャドウの体が突然麻痺したかのように動かなくなった。手のひらが痺れるように震え剣を取り落としそうになるが、そこは剣士としての意地かしっかりと握りしめて離さなかった。

 

 だが、致命的な隙であることには変わりない。一瞬の硬直、その瞬間にツーレがシャドウの体を逆袈裟に斬り裂いた。

 

 お互いに体の正面に深い傷を負っている。魔力を使えば治療することなど可能だが、この勝負でそのようなことをするのはあまりに不粋。しかしこのまま放置をしているのも不味い。ならば次の一撃で決めようと二人は目で語り合っていた。

 

「次で終いにしよう。」

 

「そうだね。これ以上は邪魔が入るかもしれないからね。」

 

 シャドウが魔力を高め、突きの構えをとる。

 

 ツーレが腰元の剣に軽く手を添え、抜刀の構え。

 

 両者共に魔力を全開で放ち、周囲の生物は軒並み逃げ出している。達人と呼ばれる剣士であろうとも今この空間に入っていくことは自殺行為だと分かるだろう。

 

 だから、ここに飛び込んで行ける者は勇者と呼ばれるのだろう。

 

「シャドウ様ー!!」

 

「……イプシロンか。」

 

「あらら。」

 

 二人とも近くに来ていることは分かっていたが、なんだかんだで静観してくれるだろうと思っていた。だが敬愛する主がバッサリと斬られて重傷を負って黙っていられるような人間がはたしてどれだけいるだろうか。この二人はすぐに治せるから軽傷という考えだが、常人から見ればどう見ても致命傷である。

 

「お下がりください! ここは私が!」

 

「……ん?」

 

 ツーレ、ここで気づく。今の自分は 完全にシャドウの命を狙う刺客に見られているのではないかと。自分たちにとってはただの戯れのようなものだったが、どう考えても他の人たちからしたらガチの命の取り合いをしているようなものだ。

 

「あー、ちょっと待って。多分多大な誤解を抱いているね。」

 

「黙りなさい。あなたは危険よ。ここで始末させてらうわ。」

 

「待てイプシロン、彼女は敵ではない。」

 

 やはり誤解されていたようだが、残念ではなく当然である。どこに殺し合いをする友人がいるというのか。そんなことするのは敵とだけだ。ここにはいるが。

 

「普通に手合わせをしていただけだよ。」

 

「そういうことだ。」

 

「あれが、ですか?」

 

 イプシロンから見て、あれはただの殺し合いだった。あれを手合わせと言うなど、どう考えてもおかしいが、敬愛する主の言うことなのでイプシロンはすんなりと受け入れた。

 

「それであなたは誰なのかしら。」

 

 とはいえ、警戒をなくすことはできない。それが声に乗ったのかツーレは苦笑する。

 

「一応君たちの協力者だよ。ゼータから話は聞いてないかな?」

 

「ああ、あなたが。とはいえ、詳しい事情は説明してもらうわ。」

 

「それは僕が話すよ。でもどうせアルファにも報告するだろうし向こうで詳しい説明はするよ。」

 

 やれやれ、といった様子で平凡な少年へと戻ったシドが肩をすくめながらイプシロンへと大雑把な説明をしていく。そのお陰でイプシロンの警戒は薄れた。

 

「それで! 主様の学園での普段での様子はどのようなものですか!?」

 

「割と普通の学生してるね。」

 

「流石主様! 擬態も完璧というわけですね!」

 

 それどころか当事者のシドをそっちのけで打ち解けて会話を弾ませていた。これには思わずシドも微妙な表情。

 

「作曲ってやっぱり大変なんだよね?」

 

「そうね。その時のニーズに合わせる必要もあるし中々難しいわね。」

 

「私が収入の一つとしてる絵画は好きに書けるからそっちよりは楽なんだろうね。」

 

「あら、ツクラも芸術に関わっているのね。今度その絵を見せてもらえるかしら。」

 

「なんなら一つあげようか?」

 

「いいの?」

 

「もちろん。」

 

 いや、仲良くなりすぎじゃない? シドは思った。さっきまで警戒心丸出しだったイプシロンは完全にその警戒心を無くし笑顔を浮かべながら談笑している。これはツクラがフードをとって顔を晒したことが信頼を勝ち取る要因にもなったのだろう。

 

 それにしても異常ではあるが。

 

「さあ、ここが私たちの王都での拠点よ。歓迎するわ。」

 

 招かれた先は今王都で話題のミツゴシ商会の巨大な建物だった。感覚が庶民に寄っているシドとツクラの二人はその威容に気圧されたが、イプシロンが何でもないように中に入っていくのを見てその後を追いかけた。




主人公割と善戦してたように見えるけどお互い制限しまくりで初見殺しを大量に使ってアレだから次戦ったらかなり苦しい。あと最後の攻撃してたら普通に負けてた。
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