人間になりたくて!   作:苦鳴

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とりあえず書けている話までは投稿します。


目覚め

 天から降り注ぐ魔力の砲弾に呑み込まれた私だが、なんとか生き延びていた。

 

 あの後前方に展開していた盾さえも破壊されて、下と上から挟まれる形で魔力砲を食らった。あの攻撃を喰らえば私の命はないと言ったが、今こうして生きているのには理由がある。とは言っても大したことのない話ではあるけれど。

 

 まあ、単純な話だ。ただ血液を体内に戻し、全力で防御に徹しただけ。魔力で体を強化して、肉体の変形を行なった。

 

 魔力はただ肉体に流すのではなく血液の流れに沿って隅々まで行き渡るように。ただ強化するだけといった雑な操作ではなくこうすることでより強化の効率が上がる。本当なら細胞の一つ一つを意識して強化したかったのだが、流石にそこまでの余裕はなかった。

 

 それに比べて肉体の変形は殆ど理想通りにできたと言っていいだろう。私は龍の肉体に変化させることを好んでいるが、別にそれが1番優れているわけではない。魔力に強い性質の生物だったり、物理的な攻撃に強い性質の生物だっている。今回の場合で言えば前者だが、その中でも数えきれないほどの生物がおり、私はそれらを取り込んでいる。

 

 私は取り込んだ生物を頭の中である程度分類分けしている。空を飛べるだとか、再生力が高いだとか、そんな風に大雑把な分け方ではあるが、今回はそれが役に立った。完全に全ての生物の性質を把握しているわけではないが、それだけの情報があれば魔力の攻撃に対する高い耐性を持つ生物の特徴を発現させればいい話だ。

 

 龍の鱗を主体としてそこにありとあらゆる生物の特徴を発現させた。そんなことをしてしまってはどんな反応が起こるか心配ではあったが、このままではどのみち死ぬだけだったのでやらざるをえなかった。ただ、魔力への耐性を持つという性質のみを切り離して発現させたので対策はしていた。それでも不安は拭えなかったというわけだ。多分ではあるが、その時の私の見た目はあの子よりも圧倒的に酷いものではあったのだろうが、私にとってはどうでもいいことだ。

 

 だが、それらを行なってもあの攻撃を完全に防ぐことは出来なかった。むしろかなりの深手を負っている。四肢は全て千切れ飛び、両目は潰れた。頭蓋骨にも大きなヒビが入り、恐らく脳にも甚大なダメージが入っている。それら一つであっても重傷とは言えるだろうが、一番酷いのは胴体だ。胴の右半分が殆ど消し飛んでいる。左半分も内臓が飛び出し、悲惨なものだ。これほどの怪我を負っているのならば普通の人間はほぼ間違いなく即死だ。それでも私がまだ生きているのはやはり私が今まで取り込んできた生物のお陰だ。念の為生命力に特化していると言ってもいい生物の特徴を発現させていた。そのお陰で私は今も生きている。

 

 とはいえ、限界はある。生命力がいくら高かろうと私の力はあくまで劣化コピーみたいなものだ。厳密には違うが、本物よりは劣っているという点では同じようなものだろう。実際にこれは私の力なのだから理論上は100%の力を引き出せるはずなのだけど、私が未熟なのか半分も引き出せない。なので私に刻一刻と死が近づいて来ている。だからその前に全力で治さなくてはいけない。今、魔力で肉体の修復行い、再生能力を持つ生物の特徴を発現させているが、それでもかなりの時間がかかるだろう。

 

 ズン、ズンと音が響く。複数ある強靭な足で大地を踏みしめ私にとっての死神が迫る。結局私はあの子に触れることすら叶わずこうして倒れている。今の私であれば子供ですら殺すのは容易いだろう。だが、私が野垂れ死ぬのを待つのではなく確実に私を仕留めるために死神が鎌を掲げて近づいてくる。恐怖はない、と言えば嘘になるだろう。今までどれだけ酷い生を送ってきたとしても死を経験したことなどないのだから。死を経験するのは生涯の最後の一瞬だけだ。

 

 誰にも死ぬところを見届けられない者だっている。その者たちと比べるならば私は幸運だと言えるのだろう。私と同じ境遇でありお互いのこれまでの生を知り合った者に殺されて生涯を終えるのだから。しかもその相手は天使のような羽を持っているときた。見た目が醜かろうと、それが天使の羽であるかと問われれば十人中九人はそうであると答えるであろう。神聖さの欠片もないが、ただの生き物に殺されるよりかはこちらの方がいいだろう。

 

 そして、殺された後はきっとあの子に食われるのだ。私という自身がさらなる力を得るためには最適の糧なのだから、そうしない理由がない。私はそこらに転がっている人間たちを食らうのとは比べるまでもないほど力を溜め込んでいる。様々な生物を取り込み私のものとしてきたことで私の魔力と肉体はあの子にとってはご馳走なのだ。他を食らうよりも圧倒的に効率よく力を得られる餌。それが私だ。

 

 だけど、悪いことばかりではない。あの子に食われるのであれば私はあの子の中で永遠に生き続ける。あの子の力として振るわれ続けるのだ。きっとあの子は私の分も自由な世界を見てくれる。たとえ全てを憎んでいたとしても私と共鳴をしたあの時間はあの子の心にも刻まれたはずだ。私を食らったのなら私の代わりに世界を見てくれるという確信がある。

 

 

 

 なら、これでいいじゃないか。私はここで死に、あの子に私の全てを託す。私が背負っているすべてのものをあの子に任せて私は楽になれる。この残酷で救いようにない世界から自由になれる。あの辛い日々を思い出さなくていいんだ。もう苦しい思いをしなくてもいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――いやだ。

 

 それなのに、私の心はそれを否定している。生きていたいと、そう思ってしまう。あの囚われた檻から飛び出して自分の目で世界を見てみたいと思ってしまう。楽しい日々を夢見てしまう。

 

 

 治りかけのかすれた目で死神の方を見ると、死神は緑色に光っていた。先程見たよりもひときわ強い光。その光は高緯度地域で見られる極光――つまりオーロラのような眩く美しい光だった。醜い見た目からは想像もできない美しい光。それはあの子自身の心の投影。どこまでも澄んだ穢れなき魔力。それは私の命を確実に奪うための絶死の閃光。小突くだけでも死んでしまうような私にそれほどの力を使うのは私に対する警戒の現れなのか、それとも私という生命の終わりに対してのせめてもの情けなのか。

 

 あの光が放たれれば私は今度こそ為す術もなく死ぬことだろう。本当なら、それでいいのかもしれない。人の手で作られた何者でもない私がここで死ぬというのは世界にとっては最も望ましい形なのではなかろうか。

 

 

 

 それでも、それでも、私の心が再び叫ぶ。

 

 生きていたいと。

 

 ああ、もう認めるしかないだろう。私はどれだけ自分がこの世界の異物で存在すること自体が世界にとっては良くないことだと分かっていても、自分の生を諦めたくないのだ。たとえ何があっても私はこの世にしがみつきたいのだ。

 

 それが分かった途端、私の心はかつてないほど晴れ晴れとしていた。心の靄が晴れたかのように私の視界は開けていた。今まで以上に青空が美しく見えたのもきっと気の所為ではないだろう。

 

 

 

 私の本音は分かった。なら、やることは一つだろう。

 

 

 

 私の体から赤紫色の魔力が放出される。これまでは開放できていなかった全てが解き放たれたような感覚だ。もしくは、ようやく私の中の何かが目覚めたのかもしれない。それが何なのかは分からないが、今は気にするべきではない。私の心の変化で今まで私が無意識に抑え込んでいたものが出てきたのだろう。ならば大歓迎だ。この窮地を乗り越えるために発現した、今まで眠っていた力。それがこの瞬間に目覚めたというのならば私の中に眠る全ての者たちが私に生きろと言っているのも同然。罪を一生背負うと決めたのならば彼らの想いも私が未来に運ぼう。私はそれをする義務がある。

 

 

 

 今までと明らかに変わった魔力の質。それは本人は知る由もないが、彼女に眠る魔人ディアボロスの血が目覚めたことに他ならない。強烈な自我を持った魔人の力はこれまで押さえ込まれていた。彼女の体に入り込んでくる異物たちに対処し続けてその力の大半を使ってしまっていた。彼女が今まで崩壊しなかったのは魔人の力がその身を守っていたお陰だと言っていいだろう。

 

 本来であれば魔人の力はすぐにでも発現するはずだった。だが、彼女の肉体は自らにとっての毒を摂取し続けていた。あらゆる能力を低下させるほどの毒を。故に目覚めなかった。これまでであれば肉体が耐えきれずに壊れてしまっていたから。

 

 しかし今の彼女は全ての意思を統一した。生きたいというあらゆる生物が持つ欲求の元に自分の中の全ての意思を捻じ伏せた。対処する必要のあるものがなくなり、彼女の精神が、肉体が、その力に耐えられるようになった。そして、彼女の中にに最も色濃くある魔人の血が覚醒する。

 

 それと同時に外見にも変化が起こる。彼女の真っ白な頭髪が徐々に徐々に薄紫色へと染まっていく。真っ白な紙に絵の具が滲んでいくかのようにゆっくりと、ジワジワと。

 

 

 異形の天使がついに魔力を解き放つ。眩い閃光、轟音。爆心地ではモクモクと煙が上がり、仮にそこに生命体がいたのならば例外なく消し飛ぶであろうほどのクレーターが出来上がっていた。

 

 その光景に異形の天使は満足げに叫び声を上げた。これから自由になれることへの歓喜の声か、それとも己の理解者を失ったことへの慟哭か。いずれにせよ、この場における勝者は天使であり、生き残ったことは事実である。天使は自分の生まれた場所を滅ぼした。しかしそれで満足することはなく、自分を生み出した世界を憎み、滅ぼそうとするだろう。

 

 世界を滅ぼすのならばもうこの場には用はないと言わんばかりに、羽を羽ばたかせた。だがその羽は堕ちた天使の醜いもの。空を飛ぶことは叶わなかった。ならば自らの足で駆けるのみだと歩き出すが、そこで天使に待ったをかける者がいた。

 

 

 

 

 ああ、死んだかと思った。あの魔力に飲み込まれて、吹き飛んでしまうかと思った。だけどギリギリで修復が間に合って、既に体外へと流れ出ていた血液も利用して全力のガード。今回は全方向からの衝撃に耐えるために球状で周囲に展開したが、それでもあの攻撃を防ぎ切った。私の魔力が思うように動く。一瞬の淀みすらなく、流れるようにスムーズに。それと直撃の寸前に私が勘で適当に選んだ生物の特徴を顕現させ、血液を通して外部に展開した。

 

 展開したものは殆ど消し飛んでボロボロだった。でも、私は生き残った。耐えてみせた。

 

 今私はあの子の真上にいる。あの子が視認も魔力による感知も不可能なほど上空。薄紫色に染まった翼を広げ、滞空する。もはや翼を羽ばたかせる必要はない。魔力の操作一つで浮くことなど容易い。

 

 だが、高揚感で勘違いするな。私は弱い。先程まであっさりとあの子に殺されかけたのだ。少し力を得たからといってあの子に勝てるなどと驕ってはならない。どんな手を使ってでも確実に仕留める。

 

 自身の周囲に血液を球状にして留まらせる。五十、百、百五十。人間一人の体に含まれる血液の量を遥かに凌駕するほどの血液の球を生み出した。その一つ一つに丁寧に魔力を流し込んでいく。血液は自分の肉体なのだから、魔力伝導率は100%だ。スライムはこの世で魔力の伝導率がもっとも高いのだが、それでも99%で1%の無駄があるわけだ。

 

 当然私はスライムも取り込んでいるわけだが、その特徴を発現させなくてもそもそも自分の体が一番効率がいいのだからスライムを使う必要はない。別にこの龍の翼を千切ったって結果は同じだ。だけど、血液という変幻自在のものがあるのならば、それが一番適しているというだけの話。

 

「行け。」

 

 私の意思に従い血の雨が降り注ぐ。私を殺したと確信しているであろうあの子に直上からの不意打ち。思うことがないでもないが、これは戦いなのだ、甘い考えは捨てる。

 

 天より降り注ぐ赤の流星。こう表すとどこか神秘的に思うかもしれないが、実態はそんな美しいものではない。体を弄くり回されたことで猛毒となった私の血液だ。そしてその中心に他の生物の肉体に接触した瞬間発芽し魔力を吸い取り成長する肉の種子がある。あの子の肉体を貫くことは出来ないだろうという想定の元で肉の種子を選んだ。少なくとも初撃は当たる。これだけで死ぬなどという甘い希望は持っていないが、精々削らせてもらおう。

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