人間になりたくて!   作:苦鳴

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別れ

 私が師匠に出会ってからもう何年が経っただろうか。

 

 あれから色々な場所を訪れた。師匠の故郷のエルフの里だったり、東方の島国だったりだ。そこでは多くの人との出会いがあって、別れがあった。

 

 エルフの里では師匠の妹だっていう人とその子ども――つまりは師匠の姪と仲良くなった。その子は四歳だったので、一緒にいる間に剣の修行をするわけにもいかず、お花摘みをしたり摘んだ花で冠を作ったりした。夜には師匠に修行をつけてもらって、私は自分の体を活かして遅くまで自主練をした。こういう時は疲れ知らずで睡眠も必要としないこの体は便利だと思う。でも眠らないのはおかしいからちゃんと少しは寝た。その子と遊ぶのは厳しい修行で疲れていたから、ちょうどいい休息にもなった。

 

 旅立つ頃にはもう随分懐かれていて、出発の前日には私にピッタリと引っ付いて離れなかった。ずっとここにいてほしいとも言われたんだけど、私にはやりたいことがあるから行かなくちゃいけないんだ、ごめんね、と謝った。泣きそうな顔をされてしまって、とても心苦しかった。ただ、その代わりに前日は修行も休んで一日中遊んだ。

 

 そして旅立ちの日、朝早くだったけど多くの人たちが私と師匠を見送りに来てくれた。まあ、殆どが師匠の見送りで私はついでだろうけど、それでも嬉しかった。

 

 私はここに滞在している間に仲良くなったあの子も見送りに来てくれているだろうと思って探してみたのだけど、彼女はいなかった。今は早朝だし、子どもはまだ寝ていてもおかしくはない時間ではあるから納得はしたけれど、やっぱり寂しいものは寂しい。

 

 それから師匠は見送りにきた一人一人と一言二言交わしていた。私もある程度親しくなった人とお別れの挨拶をしていた。私の方は割と早く終わったけど、師匠の方は全員だから少し時間が掛かっていた。

 

 私はそれを見ながらここで過ごした日々のことを思い出していた。色々な光景が頭に浮かんでくるけど、やっぱり一番はあの子のことだった。

 

 ああ、やっぱり最後にもう一度会いたいなあ。

 

 

 

「じゃあ、ツクラ行くよ。」

 

「はい。」

 

 結局あの子は来ることはなく、出発の時が来た。いくらあの子に会いたいからといって、予定を変えてもらうのはどうかと思うし、仕方ないだろう。また今度ここに来たときにいっぱい遊ぼう。

 

 そう思って、歩き出した師匠に続いて私も歩き始めようとした時、あの子の声が聞こえた。バッと振り返って声が聞こえた方を見ると、あの子が走りながらこちらに来ているところだった。師匠に一言言ってから彼女の下にいくと、頑張って作ったという栞を渡された。ついさっきまで作っていたらしい。そしてまた来てねと嬉しい言葉をもらった。

 

 

 

 そうしてエルフの里を旅立った。

 

 

 

 それからも旅と修行の日々は続いた。ある程度私に実力がつくと師匠を相手に剣を打ち込むことが増えた。私も師匠も使うのは木刀で、魔力の使用はだいたいなし。技術を高めることを一番としているから魔力を使うと力押しになるらしい。ただ、魔力なしで魔剣士と呼ばれる人たちや魔物に戦うことは厳しいし、限界もあるので魔力を使った修行もした。

 

 でも、魔力の扱いに関して言えば師匠よりも私の方が上だったので魔力操作や魔力制御は私が教えることもあった。師匠は最近伸び悩んでいたらしいから新しい刺激がもらえてこれはかなりよかったらしい。そのせいか、師匠の腕前が更にグングンと伸びているが、私としても嬉しいことだ。師匠の技量が上がれば上がるほど私が吸収できるものも増えるし、万々歳。

 

 だけど師匠の修行では私を殺す気なのかと思うような内容がいくつもあった。

 

 例えば、魔力なしで魔物群れと戦えとか、海のど真ん中で船から突き落とされてそこから自力で陸まで戻ってこいとかだ。

 

 魔力なしで魔物の群れと戦うとかもはや自殺行為に等しいことで、当然私は心配になった。魔力が使えなければ今の人間状態の私はいとも容易く殺される。いやまあ、その時は力を少し開放すればいいだけなんだけど。とにかく、魔力を使わずに戦うというのはそれだけのリスクが有るのだ。どんなに優れた魔剣士であっても魔力が切れているときに銃で撃たれたら死ぬ、そんなものだ。

 

 それだというのに師匠は私に魔力を使わずに剣だけでなんとかしてみろと言ってきたのだ。魔物の群れは統率されていて、魔力があったとしても普通の魔剣士一人で戦うのは厳しいだろう。それが分かっていたので躊躇していたのだが、師匠に投げられて群れの中心に投下された。

 

 当然、そんな奴を無視するわけもなく、狼のような見た目をした魔物の群れは哀れな私を獲物だと認識して襲いかかってきた。私は師匠に言われた通りに魔力を使わずに戦っていたのだけど、全然刃が立たなかった。魔物の攻撃を避けることは以外にも簡単にできたのだけど、刃が全く入っていかなかった。首を狙っても足を狙っても、魔力で強化された体に全て弾かれるだけだった。

 

 このままただ闇雲に剣を振っていても埒が明かないと思ったのでどうするべきかを敵の素早い攻撃を避けながら考える。これまでの修行のお陰で目で見れば相手の次の動きは分かるし、背後にいる敵も魔力の動きと音で察知はできるので攻撃を捌くのは容易かった。そのまま攻撃を捌きながらどうすればいいか思案を巡らせる。

 

 私は魔力が使えず、頼れるのは剣のみ。その一方で敵の魔物は全ての個体が魔力で肉体の強化をしているため攻撃が通らない。どうすれば刃を入れることができるのか……。考えろ、考えろ。この修行の意図は何なのか。師匠がただ何の意味もなくこんなことをさせるわけがない。

 

 そして、気付いた。

 

 私に求められていたのは純粋な技量だけだった。自身の技量のみで敵の魔力による防御を突破する。それが私にできることなのだ。

 

 とはいえ、それは簡単なことではない。敵の動きに合わせて剣を完璧に振るわなければいけないのだ。その難易度は想像を絶するものだ。師匠ならできるのだろうが、まだまだ未熟な私では難しいと言わざるをえない。それでも、やるしかなかった。

 

 

 

 ――集中。

 

 

 

 魔物が私に飛びかかる。それを私は紙一重で避ける。大げさに避ける必要はない。敵の動きを見切り最小限の動きで躱せばいいのだ。そうする中で私はタイミングを図る。

 

 そして、その時が来た。

 

 自分の中で何かがカチリと嵌まるような感覚がした。

 

 

 

 一閃

 

 

 

 私が振るった剣は、確かに魔物の首を断っていた。

 

 それと同時に、自分の中で壁を超えていくつもステージが上がったような気がした。自画自賛にはなるが、今の剣は素晴らしいものだったのではないかと思う。師匠には遠く及ばないが、美しい剣筋だった。

 

 

 その後も仲間を殺された魔物の群れは怒り狂って私を襲うが、一度感覚を掴んだ私にはもう大した脅威ではなかった。五分もかからずに群れは全滅した。

 

 魔物の群れを倒し終わった後に師匠が褒めてくれたんだけど、師匠はどんな風に倒すのか気になったから次に魔物を見かけたら師匠に戦ってほしいって頼んだ。そして再び魔物の群れを見つけたのだけど、師匠はあっさりと全滅させてしまった。無駄を全て削いだ動きで回避、接近し、一太刀で斬り倒した。師匠の剣閃は私のものとは比べ物にならないくらい洗練されていて、薄紙でも斬るかごとく刃が入っていった。

 

 私はあらためて師匠の凄さを認識し、この人に師事できている幸運を噛み締めた。

 

 

 

 そんな風に修行を続けながら旅をしているある日のことだった。

 

 貴族のものらしき馬車が魔物に襲われているところに遭遇した。今私たちがいるところからは三百メートルほど離れているが、はっきりと見ることができる。まあもっとも、貴族らしき馬車だとは言っても、公爵だとかそこまで位の高い貴族ではなさそうだ。子爵家か男爵家ってところだろう。

 

 馬車の護衛は軒並みやられてしまっていて殆どが戦闘不能なようだった。残った護衛が懸命に主を守っているようだけどこのままでは残りの護衛が倒されるのも時間の問題だろう。その守っている主も魔剣士らしく、戦ってはいるけれどあまり腕は良くないから後ろに下がらされていた。

 

 それを認識した私と師匠は急いでそちらに駆け出した。私と師匠はほぼ同時に走り出したのだけど師匠の方が圧倒的に速く、私はすぐに置いていかれていしまった。

 

 私が現場についた頃にはもう師匠が全て終わらせていた。どれだけ数が集まろうとも師匠にとっては大した敵ではなかったらしい。そして師匠に命を助けられた貴族の人たちはペコペコと頭を下げてお礼をしていた。貴族がそんなに軽く頭を下げていいのかと疑問に思ったが命の恩人ならそれぐらいはするのかなと納得することにした。

 

 私は護衛の人に確認をしてまだ息のある護衛の人たちを魔力で治療していった。あくまで応急処置に過ぎないけれどこれで街まではもつだろう。でも、私が駆けつける前に死んでしまっている人はどうすることもできなかった。そのことで私もお礼を言われたのだが、そんなことより死んでしまった人たちを弔いましょうと言って、死体を丁寧に埋葬した。このまま死体を放置していても魔物の餌になるだけだし、遺体を運ぶ余裕もないので身につけている装飾品や剣だけを回収した。

 

 それから私と師匠は護衛を頼まれた。師匠の腕を見込んでのことらしい。あと、命を救ってもらったお礼も家に帰ったらしてくれるらしい。師匠も私もお礼は断ったのだけど命を救ってもらっておいて何もお礼をしないのは貴族としてもマズイというので渋々受け入れた。別にお礼がほしかったわけではないのだけど、確かに助けられた側としてはお礼もなにもしないのは心苦しいよね。

 

 馬車を護衛しながら貴族様の邸宅に向かっていたのだけど、予想に反して魔物はもう出てこなかった。なので何の問題もなく――いや、死人が出てしまっているのだからそうは言えないか。でも、それ以上の犠牲はなく街にたどり着くことができた。

 

 その流れで邸宅まで一緒について行って、色々とやることがあるからと応接室に通された。もてなす準備も必要だし、しばらくここで待っていてほしいとのことだ。今まで飲んできたどの紅茶よりも高級そうな紅茶も出されたので飲んでみると香り高く、とても美味しかった。

 

 ちなみに、師匠が助けた領主様はレーター子爵と呼ばれているらしく、領民からも慕われていた。きっといい人なのだろう。

 

 それから一時間ほどが経ったぐらいに、レーター子爵が姿を表した。かなり疲れている様子だったのであれから亡くなった人のご家族への説明とか書類仕事とかがあったのだろう。お疲れ様です。

 

 

 

 改めて、私と師匠に感謝を伝えてきた。私も師匠も大したことはしていないと謙遜したのだけど、レーター子爵は大袈裟なまでに何度も感謝をしてきた。そのあまりの勢いに私はちょっと引いた。

 

 それでお礼の話になったのだけど、子爵は何でも言ってくれて構わないと言ってくれた。だけど私は特にほしいものもなかったので師匠に任せることにしたのだけど、そこで師匠が思いも寄らないことを言い出した。

 

「なら、ツクラを預かってほしい。」

 

「ふむ?」

 

「師匠!?」

 

 驚いた、なんて言葉では言い表せないほどの衝撃を受けた。なぜ、今更そんなことをするというのか。私は何か師匠を怒らせてしまうことでもしてしまったのだろうか。

 

「落ち着いてツクラ。別に貴方が何かしたわけではない。」

 

「じゃあ…………!」

 

「その方が貴方のためになる。」

 

「え……?」

 

 私の、ため? 師匠と離れてここで過ごすことが私のため?

 

「使用人でも何でもいいからここに置いてあげてほしい。」

 

「……当人が納得していないようですが?」

 

 当たり前じゃないか。私はまだ師匠の技術をものにできていないし、未熟者だ。師匠に教わることなど山のようにある。それなのに師匠と離れるなんて絶対にしたくない。これには一緒にいたいという私の個人的な思いもある。

 

「ツクラ、貴方はもっと人を知ったほうがいい。」

 

「……旅の中で色々な人と出会いました。人ならもう知っています。」

 

「本当に? 私はそうは思わない。だって貴方は友人もいないでしょ。」

 

 それは……そう、だけど。わざわざそんなことをする意味がない。

 

「それに、貴方は知識がない。貴方は剣のことだけでなく他のことも学ぶ必要がある。違う?」

 

 ……確かにその通りかもしれない。ディアボロス教団は世界中に広がって国の権力の中枢に潜り込んでいる。それを崩すためには私も政治の手法を学んだり貴族との繋がりを得ることが必要だろう。そう考えると師匠のこの考えは案外いいのかもしれない。

 

「……分かりました。レーター子爵さえ良いのであればお願いします。」

 

「ええ、勿論ですとも。私も妻も息子も、ちょうど娘がほしいと思っていたところですから。」

 

 

 

 ………ん?

 

 

 

「あの、子爵様?」

 

「なんですかな?」

 

「今、娘と聞こえたのですが。」

 

 あの言い方だと私を養子として迎え入れて娘にするという意味に聞こえたのだけど。いくらなんでもそれはないよね。命の恩人とはいえ身元のしれない平民を自分の家族に迎え入れるなんてこと。

 

「そうだよ? 新しい家族として迎え入れるつもりだ。」

 

「そう、じゃあよろしく。」

 

「ええ、お任せくださいベアト殿。」

 

 そんな感じで私が錯乱しているうちに先程まで沈黙していた師匠が口を開き、話を進めてしまった。そして私はレーター子爵家に養子として迎え入れられることに決まった。………何で?

 

 あ、ちなみにベアトというのは師匠が最近名乗っている名前だ。なんでも、それなりに名前が知られているから本名を言うのは辞めることにしたらしい。子爵――いやお父様にもそう名乗っていたし師匠はとても有名なのだろう。本人はそこまでじゃないと謙遜していたけど絶対にそんなことはないな。

 

 

 

 まあ、というわけで私はこれからツクラではなくレーター家の一人娘のツクラ・レーターになる。師匠と別れるのは寂しいけど、生きている限りまた会えるし、師匠もたまに様子を見に来ると言ってくれた。

 

 それに、選別として一振りの刀をもらった。今の私にはかなり大きく、師匠の刀と同じぐらいの大きさだ。私用の刀を用意していたらしく、結構前から荷物に入っていたらしいのだが全然気が付かなかった。それを私が言うと師匠はサプライズ成功、などと言って笑った。

 

 そして修行はちゃんと続けるようにと言い残し、師匠は旅立っていった。きっとこれからも技術を高め続けるのだろう。

 

 私も師匠に負けないように頑張ろう。そう決意した。




作られた→ツクラ・レーター

ひっでえ名前だ……。
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