師匠と別れてから五年が経った。私はスクスクと健康に成長してもう十五歳。まあ、自分の歳が分からないからこれぐらいかなって年齢を自分の歳にしただけだ。多分だけどもう少し歳取ってる。
レーター子爵家の人たちはみんな優しくて私のことを快く受け入れてくれた。当主であり私の父となったナグラ・レーター子爵も母となったホレラ・レーター夫人も私を本当の家族のように扱ってくれた。一人息子がいると聞いていたので、大人二人とは違ってそう簡単には受け入れられないだろうなと思っていたのだけど、予想に反して私を溺愛してきた。
だから私は家族の一員として立派になれるように家族としての礼儀作法や勉強には全力で取り組んだ。慣れないことも多くて大変なことも多かったけど新しいことを学ぶというのは思いのほか楽しかった。
貴族として過ごす中でも当然剣の修行は欠かしていない。私は殆ど、というかまったく眠らなくてもよい体質を活かして夜に家をこっそり抜け出して魔物や盗賊を狩ったりしていた。ただ剣を振るだけでも修行にはなるけど、実践経験というのはやはり重要だ。その成果が出たのか、七年前とは比べものにならない程剣の腕は高まった。
だけど、あまり目立ちすぎないようにするために普段はかなり力を落として家の訓練に参加している。この家は代々魔剣士を排出している家系らしく、兄はかなり有望だそうだ。
何故目立たないようにするかというと、ディアボロス教団に目をつけられないようにするためだ。修行と勉強と並行してディアボロス教団の調査も行なったのだけど、思っていた以上にこの国の深くに潜り込んでいた。
有望な魔剣士だとディアボロス教団の奴らに目をつけられる恐れがあり、そうすると動きづらくなる。奴らのことを調べるのにもアジトを襲撃をするにも目をつけられていると動くことが出来ない上に私に疑いをかけられる可能性がある。
そのため、私はできるだけ目立たないようにそれなりの実力ということで通しておく必要があるのだ。ベストは別に弱くはないけど強くもない中の上ポジション。立ち振る舞いも目立たないようにするために演技も身につけるべきだと思ったので、一人で演技の練習もしていた。
ディアボロス教団について調べていると、聖教との関係が発覚したので、聖教関連は慎重に調べることにした。ただでさえ宗教というのはめんどくさいのに、ディアボロス教団まで関わっているとなると下手に手を出すと痛い目をみる。
だから地道にバレないように刺激しないよう聖教について調べてみたりもしたのだけど、黒も黒、真っ黒だった。高い地位にいる人間はほぼ全てが教団と関わりを持っていた。それだけでなく悪魔憑きと呼ばれる人たちを回収し、殺しているそうだ。
これはきな臭いぞと思った私は悪魔憑きについて調べてみることにしたのだけど、なんと悪魔憑きはかつての英雄の子孫なんだそうな。つまり教団は悪魔憑きで実験をしたり脅威が生まれないように神の呪いを受けた穢れた人間として始末しているというわけだ。
それを知って私が何もしないはずもなく、悪魔憑きを発見して保護することにした。保護した悪魔憑きを見ると、魔力が暴走していることがわかったのだ。魔力の暴走に耐えられず、体が醜い姿になっているだけなのだ。
そうと分かれば対処は簡単だ。魔力の暴走を抑えてあげればいいだけなのだから。そうして悪魔憑きを元の姿に戻したのだけど、身寄りがないらしかったので人が隠れられそうな場所を探してそこに案内した。元に戻った悪魔憑きはみんな十歳ぐらいの女の子だった。一度に保護した悪魔憑きは一人だけではなかったので私はこれぐらいすれば自分たちで生活できるだろうというところまで世話をして、あとは彼女たちに任せた。
その後も度々悪魔憑きを保護してはそこに連れていっていたけど、私が面倒を見るわけにもいかないので既にそこで暮らしている子たちに対応を任せることにしていた。
悪魔憑きを助ける活動をする中で、同じような活動をしている集団にあった。彼らはシャドウガーデンという組織らしく、私と同じくディアボロス教団を壊滅させようとしているらしい。それで色々と話を聞いたのだけど、人員を必要としているらしいから私が保護した元悪魔憑きがいるところに連れて行くことにした。
あくまで本人が希望すればという話をしたのだかど、何故か全員がシャドウガーデンについていくことを希望した。なんでも、少しでも助けてくれた私の役に立ちたいらしい。私は別に気にしなくてもいいと言ったのだけど、どうしてもとのことで、そこまで言われてしまったら私に止める理由はないわけで、心よく送り出した。
それと話の流れでシャドウガーデンと協力関係を結ぶことを提案された。私一人では限界を感じていたところだったし、その提案は渡りに船だった。もちろん私はその提案を承諾した。
彼女たちと会えたことで奴らと戦っているのが自分だけではないということを知って、少しだけ救われた気がした。一人ではないと教えてくれて、ありがたかった。
その後もずっと活動を続けていたのだけど、貴族の娘として絶対に通らなければいけない道がきた。
十五歳になると貴族の子供は全員王都の魔剣士学園か学術学園に通うことになる。養子とはいえ子爵家の娘である私もその例に漏れなく入学する。ちなみに私が入学するのは魔剣士学園の方だ。
学術学園の方には一つ上の友人もいるし興味のある内容も多かったのだけど、やっぱり私は剣士だからという理由で魔剣士学園にした。
王都で生活するにあたって、学園に入学する前にある程度地理を把握しておきたいと家族に無理を言って一年前からここで過ごしている。
ディアボロス教団は古くから歴史の闇で蠢いたことが調査の中で分かったので、それからは遺跡や古代の文献、アーティファクトも調べることにした。古代の文献を調べるのにも古代語を学ぶことは必須だし、アーティファクトについて調べるにも必要だと感じた。だから無理を言って学術学園に出入りする許可をいただいた。授業がない時間のみという条件ではあったが、なんとか許可をもぎ取った。
まあ、そんなことをしているくせに入学するのは魔剣士学園の方だから知り合いには色々と言われた。何でそっちなんだーとか、裏切り者ーとか。どれも冗談めかした言い方だったから本気じゃないし、応援してくれていたのは分かったけど。
入学の一年前に王都に来るような人は当然おらず、私が親しくなったのは一つ上の先輩と二つ上の先輩だ。来年魔剣士学園に入学しても仲良くしようねと約束したので、入学して友達ができなくても何も問題ないのである。
……保険をかけているわけじゃないよ?
なんて、入学前には友人ができるか不安に思っていたのだけど、ちゃんと友人はできた。私が一人で寂しく過ごしていたらそちらから声をかけてきてくれたのだ。
結局ボッチだったんじゃないかって? うるさいよ、今いるからボッチじゃない。例え勇気が出なくてなかなか声をかけられずにいて、そのままだったら永遠にボッチだったとしても今友人がいるから何の問題もないのだ。
まあ、人間やエルフですらない半端な混じりものの私がこんな風に人と交流を持っているのは事情を知っている者が見たらお笑いものだろう。人間ごっこは楽しいか?ってね
新しくできた友人は三人。同じクラスの男子で、みんな男爵家の人間らしい。その中で私だけ子爵家の者なわけだけど、元は平民だしあまり大したことではない。というかこの三人は大して気にもしないし公爵ぐらい離れているならまだしも一つしか変わらないから変に畏まる必要もないのでとても気が楽だ。
まずは一人目、ジャガ・イモ。坊主頭の少年だ。友達に対する評価ではないけど、頭の悪そうな見た目だし、実際に悪い。
二人目はヒョロ・ガリ。金髪長身の少年で、体格も名前の通りガリガリだ。もっと筋肉つけた方がいいと思う。
この二人は恋愛に憧れているらしく、女性側の意見として私の考えをよく聞いてくる。二人ともなぜかいつも自信満々で、女の子にアプローチを仕掛けるのだけど、私からしたら無理だろうという感想しかない。大口たたいているくせに女子の前に立つと緊張して碌に話せなくなっている。
二人に私も女子だけど何かないの? と聞いたことがあったのだけど、お前はないわーとか、ツクラちゃんはないですねーとか失礼極まりないことを言ってきたので二人とも一発ずつ殴った。
そして最後はシド・カゲノー。黒髪黒目の地味な印象を受ける少年。私に声をかけて来たのはシドだ。シドがいなければ私はずっとボッチだっただろう。
シドについて説明するなら、“地味”だろう。剣の腕前も下の方、座学もあまりいいとは言えない。言動も記憶に残るようなものではないし、とにかく地味なのだ。
ただ、私はそんなシドに対して不思議な感想を抱いた。
私よりも強くない?という感想だ。普段の立ち振る舞いも弱者のそれで、剣の腕も中の上を維持している私よりも下なのに、私は彼には敵わないと思ってしまったのだ。それから私はシドを観察することにしたのだけど、全然強者の立ち振舞をしなかった。これは私の勘違いだったのかなと思うこともあったのだけど、シドから時折私を観察するような視線を感じたので疑念は消えなかった。
ディアボロス教団の手の者かどうかも調べ直してみたが、その線もなし。あらかじめ入学前に調べた教団の関係者の中にその名前が加わることはなかった。
じゃあ一体何だというのかという事になったのだが、シドの精神は善性だし正体が何であろうと構わないかという結論に至った。本当に力を隠していたとしても敵対することは万が一にもなさそうだし考えるだけ無駄というわけだ。
とまあ、話は長くなったが、私はこの三人と仲良く学生生活を楽しんでいる。
学生寮から学園に行くため、王都を走っている列車に乗っていたのだけど、ヒョロが話を始めた。私たちの中で何かをする時は大体ヒョロの発案だ。
「それより、昨日の魔力量テストでビリだった奴の罰ゲーム、覚えてるだろうなあ??」
「約束は守ってもらいますよ?」
「わかってるけどぉ。」
ヒョロが電車に乗ってすぐにそんなことを言い出した。約束、というのは罰ゲームで学園のアイドルに告白してこっぴどく振られるという悪趣味極まりないものだ。相手の人に対して何の恋愛感情も抱いていないのにそんな理由で告白するとか相手に失礼だ。
「たしかアレクシア王女に告白するんだっけ? 私はやめたほうがいいと思うけどね。」
「なに言ってんだよ! これはちゃんと俺達の間で交わした約束なんだぜ? それを破るなんて駄目に決まってんだろ!」
「そーですよ。約束は約束。ちゃんと守ってもらわないと。」
私は一応反対するのだけど、ヒョロとジャガはそんな気はないみたいだ。冷静になって考えてみようよ。相手は王族だよ? 王族相手に無礼を働いたーとか心を弄ぼうとしたーとか言われたらどうするのさ。それで何かバツを与えられたりしてさ、そんなことになったら私達下級貴族にできることはないじゃん。
「一応女として意見を言わせてもらうけど、最悪だよそれ。」
「あはは……僕も賛成してたことだし今更逃げるつもりはないよ。」
「本当か? 今になって怖気付いたとか言うなよ?」
「大丈夫。告白の仕方は、夜なべして考えてきたんだ。」
「はあー、シドが良いならそれでいいけど一応私は反対したよ? もうどうなっても私は知らないからね?」
心配しすぎだって、とヒョロは言ってきたが、私は不安で不安でしかたがない。あの王女は表では優しくクールな様子だけど、それは仮面を被った姿。猫を何十にも被っている。彼女の本性はかなりの腹黒かつ性悪。そんな彼女にこれが罰ゲームだったと知られてしまったら………。
これをネタに脅されるかもしれない。私の考えすぎかもしれないけど、その危険性は十分にある。警戒するに越したことはない。……うん、いざって時はヒョロとジャガに押し付けて私は逃げよう。
そうして放課後、決戦の時がやってきた。シドはアレクシア王女を呼び出し、罰ゲーム告白をする用意を万全にしてある。………やっぱり酷いなこれ。まあそんなことはともかく、これからシドは王女に男爵家の息子という立場でありながら告白するのだ。嘘だろうがなんだろうが緊張しないわけがない。一応応援はしておこう、頑張れ。私達は近くの草むらの影から見守っておくから。
そして、アレクシア王女が現れた。白銀の髪に見るものを惹き込むような赤い瞳。いかにも美人って感じのクールな顔立ちだ。ただ私は女だし美人は元悪魔憑きの子たちで見飽きているからなんとも思わない。ていうか師匠の方が私的には美人だと思うし。え、身内びいき? いいじゃんべつに。
そしてついにシドが動く!
「……アッ。ア、ア、ア……アレクシアおうにょ。」
うっわあ。顔も紅潮しているし言葉が振るえている。それに名前を呼ぶときに噛んじゃったよ。
「……す……す、好きですぅっ……! ぼ、ぼ、僕と……。つ、つきっ、つき、つつき……付き合ってくぁさぃ?」
………駄目だこれは。何が夜なべして告白の仕方は考えてきただ。罰ゲームにそれだけ力を入れるのもおかしいけど、これはそれ以前の問題だ。こんな告白をされてどこの女の子がときめくというのだ。あの腹黒王女が少しでもこの告白に対して何か感じたとしたらもはや奇跡だよ。多分石ころみたいな目で見られてフラレるんだろうなあ。
そしてアレクシア王女が口を開き、お断りの言葉を―――
「わかりました。」
「え?」
「よろしくお願いします。」
「あ……えっと……。君、今なんて?」
「あなたのような方を、待っていたの。よろしくね。」
「あ、はい……。」
………
………
……は?
「「あああああああああああ!?!!???」」
両隣から絶叫が響く。
どうやら私の平穏な学園生活は終わりを迎えるようだ。だってアレクシア王女とは顔見知りだし間違いなく私も巻き込まれる。これは終わったみたいだなあ。
主人公の年齢は19歳か20歳。それで15歳の中に混じって平然と授業を受けているという事実。